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秋物語
ヒーロー②
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「早く逢いたいな」
心の中で呟いたと思っていたその言葉は、おもわず口に出てしまっていたらしく
「あと少しだよ。葵葉ちゃん、この一年間本当に頑張って来たもんね。病気の事もそうだし、この髪も」
そう言って尚美さんが私の髪を優しく撫でてくれる。
一年前は、男の子にも負けないくらい短かった後ろ髪を、私はこの一年、一度も切る事無く伸ばし続けて来た。
そして一年経った今、やっと肩に付くくらいの長さになった。
「神耶君のため、でしょ?」
尚美さんに言われてはにかむ。
次、神耶君に会う時に、去年より女の子らしく成長した姿を見せて、びっくりさせてやろう。
そんなイタズラ心から私は始めた事だったけど
「女の子は恋をすると綺麗になるって言うからね~」
“恋”
その言葉に、私の心は高鳴っていた。
「待て待て待て! こ、こここっ恋なんて、俺は絶対ゆるさないぞ葵葉! 尚美さんも変な事言わないでください!」
“ピシャン”と勢いよく開け放たれたカーテンの向こうから、お兄ちゃんが顔を真っ赤にして叫んだ。
「はいはい、だからシスコンお兄さんは黙っててね~」
そんなお兄ちゃんを、再びカーテンの向こうに追い出そうとする尚美さん。
「いや、俺は黙らない! なぁ葵葉、今からでも遅くない。退院した後に父さんの田舎へ引っ越すのは止めて、今までみたいに東京で暮らそう! 向こうの学校の編入手続きも取り止めて、こっちの学校に」
「だから、シスコンはうるさい! あんた、葵葉ちゃんの未来を邪魔する気?」
「邪魔じゃない! 俺は葵葉を魔の手から守ろうと」
「知ってる? 人の恋路を邪魔する奴は、馬にけられてなんとやら」
「なっ!? 人を邪魔者扱いするのはやめてください。俺は兄としてただ葵葉が心配なだけで……」
お兄ちゃんを病室の外へと追い出そうと、必死にお兄ちゃんの背中を押す尚美さんと、追い出されまいと、必死に抵抗するお兄ちゃん。
二人の攻防戦が目の前で繰り広られる中、拉致があかないと思ったのか、尚美さんは新たな作戦へと打って出る。
「ダメだこれは。お兄さんのシスコンっぷりは立派な病気だね。病気の人には治療しないと。さぁ手を出して 」
「……へ?」
「このぶっとい注射で治療してあげるから!」
尚美さんは、薬を乗せて運んできていたワゴンから注射器を取り出すと、お兄ちゃんの腕を掴んで針を刺すスタンバイをする。
「ちょちょちょ、看護師さん! 何するんですか?! 俺病気じゃないですって! そんな太い針が刺さるわけないじゃないですか?!! それこそ失神して病院行きに……」
「大丈夫!私、注射だけは得意だから 」
「注射だけってなんですか?! そんなんで今まで葵葉の看護をしてたんですか?! いや、待て。今はそう言う問題じゃなくて……」
お兄ちゃんの本気で焦る姿に、私はついつい声を上げて笑ってしまう。
「こら葵葉、兄のピンチに何を笑っているんだ。笑ってないで助けてくれ~~~!」
「コラ! 大人しくしてないと失敗しちゃうでしょ?大人しくしてって!」
「嫌だ~~~っっっ!! 」
お兄ちゃんの情けない叫び声が病室中に響き渡った、その時
「うるさ~~~~~いっっ!!あなた達、一体何やっているの! ここは病院ですよ! 他の患者さんの迷惑になるような大声は慎みなさい!」
年配の偉い看護師さんが、物凄い剣幕で病室に駆け込んで来て、結果私達3人はこっぴどく叱られる羽目に。
◆◆◆
それから数週間後――
私は約一年間お世話になった病院を退院した。
心の中で呟いたと思っていたその言葉は、おもわず口に出てしまっていたらしく
「あと少しだよ。葵葉ちゃん、この一年間本当に頑張って来たもんね。病気の事もそうだし、この髪も」
そう言って尚美さんが私の髪を優しく撫でてくれる。
一年前は、男の子にも負けないくらい短かった後ろ髪を、私はこの一年、一度も切る事無く伸ばし続けて来た。
そして一年経った今、やっと肩に付くくらいの長さになった。
「神耶君のため、でしょ?」
尚美さんに言われてはにかむ。
次、神耶君に会う時に、去年より女の子らしく成長した姿を見せて、びっくりさせてやろう。
そんなイタズラ心から私は始めた事だったけど
「女の子は恋をすると綺麗になるって言うからね~」
“恋”
その言葉に、私の心は高鳴っていた。
「待て待て待て! こ、こここっ恋なんて、俺は絶対ゆるさないぞ葵葉! 尚美さんも変な事言わないでください!」
“ピシャン”と勢いよく開け放たれたカーテンの向こうから、お兄ちゃんが顔を真っ赤にして叫んだ。
「はいはい、だからシスコンお兄さんは黙っててね~」
そんなお兄ちゃんを、再びカーテンの向こうに追い出そうとする尚美さん。
「いや、俺は黙らない! なぁ葵葉、今からでも遅くない。退院した後に父さんの田舎へ引っ越すのは止めて、今までみたいに東京で暮らそう! 向こうの学校の編入手続きも取り止めて、こっちの学校に」
「だから、シスコンはうるさい! あんた、葵葉ちゃんの未来を邪魔する気?」
「邪魔じゃない! 俺は葵葉を魔の手から守ろうと」
「知ってる? 人の恋路を邪魔する奴は、馬にけられてなんとやら」
「なっ!? 人を邪魔者扱いするのはやめてください。俺は兄としてただ葵葉が心配なだけで……」
お兄ちゃんを病室の外へと追い出そうと、必死にお兄ちゃんの背中を押す尚美さんと、追い出されまいと、必死に抵抗するお兄ちゃん。
二人の攻防戦が目の前で繰り広られる中、拉致があかないと思ったのか、尚美さんは新たな作戦へと打って出る。
「ダメだこれは。お兄さんのシスコンっぷりは立派な病気だね。病気の人には治療しないと。さぁ手を出して 」
「……へ?」
「このぶっとい注射で治療してあげるから!」
尚美さんは、薬を乗せて運んできていたワゴンから注射器を取り出すと、お兄ちゃんの腕を掴んで針を刺すスタンバイをする。
「ちょちょちょ、看護師さん! 何するんですか?! 俺病気じゃないですって! そんな太い針が刺さるわけないじゃないですか?!! それこそ失神して病院行きに……」
「大丈夫!私、注射だけは得意だから 」
「注射だけってなんですか?! そんなんで今まで葵葉の看護をしてたんですか?! いや、待て。今はそう言う問題じゃなくて……」
お兄ちゃんの本気で焦る姿に、私はついつい声を上げて笑ってしまう。
「こら葵葉、兄のピンチに何を笑っているんだ。笑ってないで助けてくれ~~~!」
「コラ! 大人しくしてないと失敗しちゃうでしょ?大人しくしてって!」
「嫌だ~~~っっっ!! 」
お兄ちゃんの情けない叫び声が病室中に響き渡った、その時
「うるさ~~~~~いっっ!!あなた達、一体何やっているの! ここは病院ですよ! 他の患者さんの迷惑になるような大声は慎みなさい!」
年配の偉い看護師さんが、物凄い剣幕で病室に駆け込んで来て、結果私達3人はこっぴどく叱られる羽目に。
◆◆◆
それから数週間後――
私は約一年間お世話になった病院を退院した。
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