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武蔵の道場
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村上と試合をした武蔵が玄信とまで名乗ったのであるなら、以前待ち合わせに現れたあの偽者ではないかと主水は思った。
たしかあの者もを名乗った…
「武蔵の道場に行ってみるとするか」
「武蔵の道場ですか?」
桑田を小倉城に帰し、主水は武蔵の道場を訪ねることにした。
道場の場所は知っていたが、自ら訪ねたことはなかった。
確かここだと当たりをつけた屋敷があるが道場看板が出ていない。
当時は「新免流十手術」という看板が掲げてあった。
武蔵の父、新免無二斎の道場だった。
「たしかこのあたりだったはず…」
しばらく一帯を歩いてみたが、やはり見覚えのあるのは最初に見た屋敷だけだ。
主水は、そこで道場のことを聞いてみることにした。
すると門から出てきたのはいつぞや待ち合わせに現れ、士官試験を受けた宮本武蔵玄信と名乗った男だった。
こやつ、やはり以前現れた偽武蔵…
玄信も、見覚えのある老人だと目を細めた。
「宮本武蔵殿でござるか?」
そう聞かれ、玄信は顎を引いて眉間にしわを寄せ低い声で言った。
「いかにも」
「少し話がしたい」
「話とは?」
玄信なりに、武蔵らしく振舞っている。
「わしは、かつて宮本武蔵の弟弟子だった者だ」
玄信は言葉に詰まった。
これ以上武蔵として主水に視線を向ける気にならなかった。
「では…こちらへ…」
玄信は客室に案内しようとしたが、主水は立ち止まった。
「道場を見せてもらえないか」
「武蔵が剣を振っていた道場を見てみたい」
かつての弟弟子らしい要求に玄信もうなずいて道場に案内した。
主水は道場の空気を感じたかった。
道場の床や壁は、道場生が稽古をした分だけ呼吸する。
修行の汗や体温、衝撃、呼吸がそのまま空気となって残るものだ。
しかし道場に入ると、主水は空気が乾いているのを感じた。
この道場はもう息をしていない…
主水は、道場の中央で立ち止まった。
「やはり、武蔵は死んだのかね?」
玄信は武蔵の弟子として必死で真実を隠してきた。
だがもうこの弟弟子という男にゆだねようと思った。
「はい」
「どうやって…」
「結核にございます」
主水が思わず振り返った。
「病か!」
玄信は、視線を落としたまま頷いた。
主水にはせめてもの救いを感じた。
あの善鬼が、武蔵が誰ぞに斬られたなど考えたくもなかった。
「だが武蔵が試合をしたという噂を諸国で耳にしたが…おぬしではないのか?」
玄信はため息をついた。
「それは、某と同じく先生の弟子達でございます。先生が亡くなり、みな悲しみましたが、宮本武蔵の死を知られまいと先生になりすまし名を広めようする者、先生の名を利用してただ飯にありつこうとする者、それぞれの思惑を胸に諸国に散ってゆきました」
そう話ている宮本武蔵玄信と名乗った男は、井上兵之助と言った。
「おぬしも、士官試験を受けたと聞いたが」
「恥ずかしながら、受けました。やはり先生のようにはいきませんでした」
「なにゆえに、士官試験など受けたのだ?」
「じつは…」
それを話す前に、井上は主水のことが気になった。
「そういえばあなた様は、弟弟子であったと申されましたが…」
たしかあの者もを名乗った…
「武蔵の道場に行ってみるとするか」
「武蔵の道場ですか?」
桑田を小倉城に帰し、主水は武蔵の道場を訪ねることにした。
道場の場所は知っていたが、自ら訪ねたことはなかった。
確かここだと当たりをつけた屋敷があるが道場看板が出ていない。
当時は「新免流十手術」という看板が掲げてあった。
武蔵の父、新免無二斎の道場だった。
「たしかこのあたりだったはず…」
しばらく一帯を歩いてみたが、やはり見覚えのあるのは最初に見た屋敷だけだ。
主水は、そこで道場のことを聞いてみることにした。
すると門から出てきたのはいつぞや待ち合わせに現れ、士官試験を受けた宮本武蔵玄信と名乗った男だった。
こやつ、やはり以前現れた偽武蔵…
玄信も、見覚えのある老人だと目を細めた。
「宮本武蔵殿でござるか?」
そう聞かれ、玄信は顎を引いて眉間にしわを寄せ低い声で言った。
「いかにも」
「少し話がしたい」
「話とは?」
玄信なりに、武蔵らしく振舞っている。
「わしは、かつて宮本武蔵の弟弟子だった者だ」
玄信は言葉に詰まった。
これ以上武蔵として主水に視線を向ける気にならなかった。
「では…こちらへ…」
玄信は客室に案内しようとしたが、主水は立ち止まった。
「道場を見せてもらえないか」
「武蔵が剣を振っていた道場を見てみたい」
かつての弟弟子らしい要求に玄信もうなずいて道場に案内した。
主水は道場の空気を感じたかった。
道場の床や壁は、道場生が稽古をした分だけ呼吸する。
修行の汗や体温、衝撃、呼吸がそのまま空気となって残るものだ。
しかし道場に入ると、主水は空気が乾いているのを感じた。
この道場はもう息をしていない…
主水は、道場の中央で立ち止まった。
「やはり、武蔵は死んだのかね?」
玄信は武蔵の弟子として必死で真実を隠してきた。
だがもうこの弟弟子という男にゆだねようと思った。
「はい」
「どうやって…」
「結核にございます」
主水が思わず振り返った。
「病か!」
玄信は、視線を落としたまま頷いた。
主水にはせめてもの救いを感じた。
あの善鬼が、武蔵が誰ぞに斬られたなど考えたくもなかった。
「だが武蔵が試合をしたという噂を諸国で耳にしたが…おぬしではないのか?」
玄信はため息をついた。
「それは、某と同じく先生の弟子達でございます。先生が亡くなり、みな悲しみましたが、宮本武蔵の死を知られまいと先生になりすまし名を広めようする者、先生の名を利用してただ飯にありつこうとする者、それぞれの思惑を胸に諸国に散ってゆきました」
そう話ている宮本武蔵玄信と名乗った男は、井上兵之助と言った。
「おぬしも、士官試験を受けたと聞いたが」
「恥ずかしながら、受けました。やはり先生のようにはいきませんでした」
「なにゆえに、士官試験など受けたのだ?」
「じつは…」
それを話す前に、井上は主水のことが気になった。
「そういえばあなた様は、弟弟子であったと申されましたが…」
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