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宮本武蔵 対 村上吉之丞
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「どうしたのだ?」
「いえ、先ほど宮本武蔵が士官の試験を受けに来たのです」
桑田慎之介の言葉に主水は目を見開いた。
「武蔵が?」
武蔵は死んだのではないのか?
いや、生きていたとしても今になって士官などするだろうか?
しかし秀頼の捜索をしているときも宮本武蔵が試合をしたという噂を時々耳にした。
もしかすると、武蔵が生きているのではないかと主水はどこかで期待していた。
「して、どうなったのだ?」
「村上吉之丞様が相手を致しました」
その時の様子を桑田は詳しく話し始めた。
主水が暇をもらったくらいから小倉城では、浪人達が仕官の試験が行われていた。
桑田は主水が妻の葬儀から暇をもらっているので士官試験の手伝いをしていた。
腕を見るため浪人達の相手をしていたのは、二階堂流平法師範代、村上吉之丞だった。
襷に鉢巻をした村上が士官志望した浪人達を容赦なく打倒す。
「まいった!」
浪人が木刀を置いて立ち去るたびに桑田が名簿に×をつけていった。
毎日朝から浪人達の相手をしているが村上は一向に疲れる様子がない。
「村上様が本気で相手をしてたら合格者など出ませんよ」
「本気?何をいう。細川家を守るに足りる最低限の腕を試しているだけだ。どいつもこいつもその最低限の腕すらない」
桑田は、ため息をつくと浪人達の方へ声を張った。
「次!仕官を望む者、前へ」
次の者が出て来た。
白い召し物に、赤い肩衣、髭に髷のない頭。
浪人としても異様な姿に見えた。
男は名乗った。
「宮本武蔵玄信。流派は二天一流…」
村上と桑田は、はっと武蔵と名乗った者を見つめた。
「宮本武蔵だと?」
その名を聞いた村上は全身の血が一気に逆流し、その燃え滾りが目に表れた。
桑田はこれがうわさに聞いたあの武蔵かとまじまじと見つめた。
「あの佐々木小次郎を、巌流島で倒した宮本武蔵でござるか?」
「さよう」
村上は生涯待ち望んでいた相手が目の前に現れゆっくりと前へ出た。
「宮本武蔵…ゆくぞ」
宮本武蔵玄信は、仰々しく大小の木刀を構えると村上を見据えて言った。
「参れ」
村上が上段から袈裟に斬りおろし玄信がそれを大小の木刀を交差させ十字に受けた。
それは村上が長年武蔵の二刀流とどう戦うかを研究した受け方のひとつだった。
ここぞとばかり村上は得意の動きを見せた。
木刀がするッとすり抜け、下から玄信の十字に作った構えごと玄信の顎をまっすぐに打ちぬいた。
主水に見せたとおりの一連の動きだった。
ごんっという鈍い音と共に玄信は天を仰いだ。
やはり俺の研究は正しかったのだ…
玄信は足をふらつかせ、目をぱちくりさせた。
切っ先の先端が顎を打ちぬいただけなので、意識を失うほどの威力にはいたらなかったが、真剣だったら縦真っ二つに拝み打ちになっていた。
獲った!俺は宮本武蔵を討ち取った!
村上は興奮し声を震わせ言った。
「これは…佐々木小次郎の…燕返しだ!」
玄信はまさかという顔をして村上を見た。
そして体勢を整え二本の木刀を再び構えをとった。
「うぬっ!まだまだ!」
小太刀を村上に向け、大刀を上段に構えた。
主水が以前見せた構えだが主水のような迫力は感じない。
横一文字に、小太刀の手を打ち、手を返してすかさず大刀の手を打った。
「うっ!」玄信は、大刀の木剣を落とした。
二階堂流平法十文字の応用だ。
そして、打ち下ろした木刀をまた下からまっすぐに打ち上げた。
鮮やかな十文字からの燕返しだ。
またしても顎を打ちぬかれた玄信は片膝をついた。
村上は二度も燕返しが通用したことにさすがに違和感を感じ始めた。
「燕返しを知らぬのか?拙者の技が見切れぬようでは、小次郎の燕返しなど到底敗れまい…」
玄信はふらつきながら立ち上がると一礼し、逃げるように立ち去っていった。
宮本武蔵が簡単に討ち取れてしまい、しかもさっさと立ち去る後ろ姿を見て村上は唖然とした。
桑田が冷めた目で静かに言った。
「あれは…本当に宮本武蔵なんでしょうか?」
「なに?」
「だって巌流島の決闘は二十年も前のことですよ。今の武蔵はあまりにも若いかと」
村上は、ここで初めてはっとした。
武蔵といえば、ちょうど主水先生と同じくらいの歳のはず。
「そういえば、そうだな…」
「どう見ても偽者かと思います」
先ほどまでの興奮が一気に覚め、村上の目は沈んだ。
偽者を相手に本気を出した自分が愚かに思えた。
「チッ偽者か!」
実際、記録によればこのとき仕官を志した宮本武蔵が村上吉之丞の強さに恐れをなして逃げたとされているが、別人であったとも言われている。
「いえ、先ほど宮本武蔵が士官の試験を受けに来たのです」
桑田慎之介の言葉に主水は目を見開いた。
「武蔵が?」
武蔵は死んだのではないのか?
いや、生きていたとしても今になって士官などするだろうか?
しかし秀頼の捜索をしているときも宮本武蔵が試合をしたという噂を時々耳にした。
もしかすると、武蔵が生きているのではないかと主水はどこかで期待していた。
「して、どうなったのだ?」
「村上吉之丞様が相手を致しました」
その時の様子を桑田は詳しく話し始めた。
主水が暇をもらったくらいから小倉城では、浪人達が仕官の試験が行われていた。
桑田は主水が妻の葬儀から暇をもらっているので士官試験の手伝いをしていた。
腕を見るため浪人達の相手をしていたのは、二階堂流平法師範代、村上吉之丞だった。
襷に鉢巻をした村上が士官志望した浪人達を容赦なく打倒す。
「まいった!」
浪人が木刀を置いて立ち去るたびに桑田が名簿に×をつけていった。
毎日朝から浪人達の相手をしているが村上は一向に疲れる様子がない。
「村上様が本気で相手をしてたら合格者など出ませんよ」
「本気?何をいう。細川家を守るに足りる最低限の腕を試しているだけだ。どいつもこいつもその最低限の腕すらない」
桑田は、ため息をつくと浪人達の方へ声を張った。
「次!仕官を望む者、前へ」
次の者が出て来た。
白い召し物に、赤い肩衣、髭に髷のない頭。
浪人としても異様な姿に見えた。
男は名乗った。
「宮本武蔵玄信。流派は二天一流…」
村上と桑田は、はっと武蔵と名乗った者を見つめた。
「宮本武蔵だと?」
その名を聞いた村上は全身の血が一気に逆流し、その燃え滾りが目に表れた。
桑田はこれがうわさに聞いたあの武蔵かとまじまじと見つめた。
「あの佐々木小次郎を、巌流島で倒した宮本武蔵でござるか?」
「さよう」
村上は生涯待ち望んでいた相手が目の前に現れゆっくりと前へ出た。
「宮本武蔵…ゆくぞ」
宮本武蔵玄信は、仰々しく大小の木刀を構えると村上を見据えて言った。
「参れ」
村上が上段から袈裟に斬りおろし玄信がそれを大小の木刀を交差させ十字に受けた。
それは村上が長年武蔵の二刀流とどう戦うかを研究した受け方のひとつだった。
ここぞとばかり村上は得意の動きを見せた。
木刀がするッとすり抜け、下から玄信の十字に作った構えごと玄信の顎をまっすぐに打ちぬいた。
主水に見せたとおりの一連の動きだった。
ごんっという鈍い音と共に玄信は天を仰いだ。
やはり俺の研究は正しかったのだ…
玄信は足をふらつかせ、目をぱちくりさせた。
切っ先の先端が顎を打ちぬいただけなので、意識を失うほどの威力にはいたらなかったが、真剣だったら縦真っ二つに拝み打ちになっていた。
獲った!俺は宮本武蔵を討ち取った!
村上は興奮し声を震わせ言った。
「これは…佐々木小次郎の…燕返しだ!」
玄信はまさかという顔をして村上を見た。
そして体勢を整え二本の木刀を再び構えをとった。
「うぬっ!まだまだ!」
小太刀を村上に向け、大刀を上段に構えた。
主水が以前見せた構えだが主水のような迫力は感じない。
横一文字に、小太刀の手を打ち、手を返してすかさず大刀の手を打った。
「うっ!」玄信は、大刀の木剣を落とした。
二階堂流平法十文字の応用だ。
そして、打ち下ろした木刀をまた下からまっすぐに打ち上げた。
鮮やかな十文字からの燕返しだ。
またしても顎を打ちぬかれた玄信は片膝をついた。
村上は二度も燕返しが通用したことにさすがに違和感を感じ始めた。
「燕返しを知らぬのか?拙者の技が見切れぬようでは、小次郎の燕返しなど到底敗れまい…」
玄信はふらつきながら立ち上がると一礼し、逃げるように立ち去っていった。
宮本武蔵が簡単に討ち取れてしまい、しかもさっさと立ち去る後ろ姿を見て村上は唖然とした。
桑田が冷めた目で静かに言った。
「あれは…本当に宮本武蔵なんでしょうか?」
「なに?」
「だって巌流島の決闘は二十年も前のことですよ。今の武蔵はあまりにも若いかと」
村上は、ここで初めてはっとした。
武蔵といえば、ちょうど主水先生と同じくらいの歳のはず。
「そういえば、そうだな…」
「どう見ても偽者かと思います」
先ほどまでの興奮が一気に覚め、村上の目は沈んだ。
偽者を相手に本気を出した自分が愚かに思えた。
「チッ偽者か!」
実際、記録によればこのとき仕官を志した宮本武蔵が村上吉之丞の強さに恐れをなして逃げたとされているが、別人であったとも言われている。
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