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隼人の者
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「先生。ここは拙者におまかせを!」
と、言うが早いか小幡が前に出た。
相手は四人、しかも遊郭を出てきたところを狙ってきた。
確実に仕留めに来ている…
阿国の芝居が通用する相手ではない。
一人目の男が剣を抜きざまに下から斬りつけようとする腕を、小幡は斬りつけた。
忠明の薬丸道場での戦い方を聞いていたのだ。
そして小幡もまた忠明に鍛えられた剣士である。
もう一人は、置きトンボで普通の示現流の袈裟で斬ってきた。
小幡、渾身の斬り落としで薬丸示現流の袈裟斬りを弾きその腕を斬りつけた。
だが浅かった。
相手の腕を切断するまでにはいたらなかった。
忠明なら一振りで腕はもちろん腹まで斬っていただろう。
三人目の忠明に腕を折られた男は民族衣装をまとった男をけしかけた。
「おい、出番じゃ!ちぇすといけ!」
この民族衣装の男、伊集院の言っていた隼人の者である。
忠明を倒すための切り札だったが、阿国の扮する小次郎の前に現れてしまった。
こうなると阿国にとって今は小幡だけが頼りであるが心の中で叫んだ。
忠明さま…
小幡が正眼に構えると、隼人の者は身幅二寸はある大型の鉈のような鍔のない刀を取り出した。
鉈の峰に手を当て、刃を小幡に向ける。
しかしなんの構えなのか小幡にはそれこそ見当もつかない。
忠明から敵の構えから繰り出される技を予測することを教わっていたが、この者の構えはまったく想像もつかなかった。
峰に手を当てるのは切っ先で突き刺すためという流派がある。
しかし切っ先は斜め上を向き、刃を相手に向けている。
反転させて最初から受けをとるつもりなのか?
ならば攻めてみればわかる。
小幡はじりじりと間合いを詰めた。
いざ斬り込もうとした瞬間、小幡の身体が固まった。
「な…」
「どうした小幡!」
動かなくなった小幡を見て、阿国が思わず叫んだ。
うごけん!
その言葉すら発することができない。
これは、まさか金縛り…?
これが隼人の者の呪術であり、伊集院の最後の切り札なのだ。
隼人の者はおもむろに近づき、鉈を振り上げた。
その目には殺意などない、ただただ目の前の獲物を屠るために鉈を使うだけに見えた。
腕を折られた男は小幡を見て嘲笑った。
「どうだ。動けまい!」
しかし、目には恐怖が映っている。
金縛りにかけて相手を斬るなど武士にとっては恐怖でしかない。
「なんで…?小幡、動け!どうした?」
阿国も小幡が動けない理由がわからない。
「斬ってしまえ!」
腕を折られた男が叫んだ。
隼人の者が鉈を振り下ろそうとした瞬間、もう阿国もなりふり構わず物干竿を抜き出した。
一通り動きを忠明から学んでいる。
「剣を振り上げる暇がなかったら突け!」
阿国は忠明の言葉通りに隼人の者に物干竿で突いた。
隼人の者は小幡を斬るのをやめ、物干竿をなんなくかわした。
おなごの長剣突きだ。
薬丸道場の者もさすがにこの小次郎がおかしいと気づいた。
なんだあのぬるい突きは?
道場で見せた天狗のような動きはどうした?
これなら俺でも斬れる…
腕を折られた男は片腕でまず鍔元の鯉口を切って剣を抜いた。
阿国が気づいてない角度から斬りかかった。
はっと阿国が気づいたときはすでに剣が振り落とされる瞬間だった。
そのとき阿国の目には忠明の笑顔が映った。
忠明さま…最後にひと目会いたかった…
阿国は己の人生が終わることを覚悟した。
しかしその瞬間、どこぞから数珠が飛んできて薬丸道場の者の顔面に当たり、剣が阿国の真横をすり抜けた。
横から傘をかぶった僧が薬丸道場の者を押しのけた。
顔は重い数珠を当てられ横から押しのけられ、薬丸道場の者は地面に転倒した。
僧は素早く小幡の腹に当身を入れた。
「ぐっ」
小幡の身体がくの字になったところで、僧は背中をばんっと叩いた。
「うっ」
そして、肩を掴んで揺すると小幡は金縛りから解放された。
「…か、かたじけない…」
阿国は死の覚悟から解放され、目の前の僧が己と小幡を救ってくれたらしいことが視界で起こっていることを呆然と見ていた。
僧は薬丸道場の者と隼人の者に向き直った。
「おぬし。今、呪術を使ったな。わしに通じるかかけてみよ」
突然現れた僧に薬丸道場の者もあっけにとられ、なにも言えない。
うむを言わせない声、がその僧にはあった。
「かけてみよ!」
いい声だ。と、阿国は思った。
一喝され隼人の者は、鉈の峰に手を当て術を僧にかけた。
僧は首を回してた。
「かからんのう。おぬしの呪術は坊主には効かぬか」
隼人の者は興味もないように無表情に鉈を鞘に収め、薬丸道場の者に目を向けた。
薬丸道場の者も引けと顔で合図していそいそと逃げ去った。
隼人の者は僧を一瞥すると悠々と立ち去って行った。
僧は小幡と阿国を見て言った。
「大丈夫かね」
「かたじけない。助かりもうした」
小幡は当身をくらった腹を抑えながら言った。
と、言うが早いか小幡が前に出た。
相手は四人、しかも遊郭を出てきたところを狙ってきた。
確実に仕留めに来ている…
阿国の芝居が通用する相手ではない。
一人目の男が剣を抜きざまに下から斬りつけようとする腕を、小幡は斬りつけた。
忠明の薬丸道場での戦い方を聞いていたのだ。
そして小幡もまた忠明に鍛えられた剣士である。
もう一人は、置きトンボで普通の示現流の袈裟で斬ってきた。
小幡、渾身の斬り落としで薬丸示現流の袈裟斬りを弾きその腕を斬りつけた。
だが浅かった。
相手の腕を切断するまでにはいたらなかった。
忠明なら一振りで腕はもちろん腹まで斬っていただろう。
三人目の忠明に腕を折られた男は民族衣装をまとった男をけしかけた。
「おい、出番じゃ!ちぇすといけ!」
この民族衣装の男、伊集院の言っていた隼人の者である。
忠明を倒すための切り札だったが、阿国の扮する小次郎の前に現れてしまった。
こうなると阿国にとって今は小幡だけが頼りであるが心の中で叫んだ。
忠明さま…
小幡が正眼に構えると、隼人の者は身幅二寸はある大型の鉈のような鍔のない刀を取り出した。
鉈の峰に手を当て、刃を小幡に向ける。
しかしなんの構えなのか小幡にはそれこそ見当もつかない。
忠明から敵の構えから繰り出される技を予測することを教わっていたが、この者の構えはまったく想像もつかなかった。
峰に手を当てるのは切っ先で突き刺すためという流派がある。
しかし切っ先は斜め上を向き、刃を相手に向けている。
反転させて最初から受けをとるつもりなのか?
ならば攻めてみればわかる。
小幡はじりじりと間合いを詰めた。
いざ斬り込もうとした瞬間、小幡の身体が固まった。
「な…」
「どうした小幡!」
動かなくなった小幡を見て、阿国が思わず叫んだ。
うごけん!
その言葉すら発することができない。
これは、まさか金縛り…?
これが隼人の者の呪術であり、伊集院の最後の切り札なのだ。
隼人の者はおもむろに近づき、鉈を振り上げた。
その目には殺意などない、ただただ目の前の獲物を屠るために鉈を使うだけに見えた。
腕を折られた男は小幡を見て嘲笑った。
「どうだ。動けまい!」
しかし、目には恐怖が映っている。
金縛りにかけて相手を斬るなど武士にとっては恐怖でしかない。
「なんで…?小幡、動け!どうした?」
阿国も小幡が動けない理由がわからない。
「斬ってしまえ!」
腕を折られた男が叫んだ。
隼人の者が鉈を振り下ろそうとした瞬間、もう阿国もなりふり構わず物干竿を抜き出した。
一通り動きを忠明から学んでいる。
「剣を振り上げる暇がなかったら突け!」
阿国は忠明の言葉通りに隼人の者に物干竿で突いた。
隼人の者は小幡を斬るのをやめ、物干竿をなんなくかわした。
おなごの長剣突きだ。
薬丸道場の者もさすがにこの小次郎がおかしいと気づいた。
なんだあのぬるい突きは?
道場で見せた天狗のような動きはどうした?
これなら俺でも斬れる…
腕を折られた男は片腕でまず鍔元の鯉口を切って剣を抜いた。
阿国が気づいてない角度から斬りかかった。
はっと阿国が気づいたときはすでに剣が振り落とされる瞬間だった。
そのとき阿国の目には忠明の笑顔が映った。
忠明さま…最後にひと目会いたかった…
阿国は己の人生が終わることを覚悟した。
しかしその瞬間、どこぞから数珠が飛んできて薬丸道場の者の顔面に当たり、剣が阿国の真横をすり抜けた。
横から傘をかぶった僧が薬丸道場の者を押しのけた。
顔は重い数珠を当てられ横から押しのけられ、薬丸道場の者は地面に転倒した。
僧は素早く小幡の腹に当身を入れた。
「ぐっ」
小幡の身体がくの字になったところで、僧は背中をばんっと叩いた。
「うっ」
そして、肩を掴んで揺すると小幡は金縛りから解放された。
「…か、かたじけない…」
阿国は死の覚悟から解放され、目の前の僧が己と小幡を救ってくれたらしいことが視界で起こっていることを呆然と見ていた。
僧は薬丸道場の者と隼人の者に向き直った。
「おぬし。今、呪術を使ったな。わしに通じるかかけてみよ」
突然現れた僧に薬丸道場の者もあっけにとられ、なにも言えない。
うむを言わせない声、がその僧にはあった。
「かけてみよ!」
いい声だ。と、阿国は思った。
一喝され隼人の者は、鉈の峰に手を当て術を僧にかけた。
僧は首を回してた。
「かからんのう。おぬしの呪術は坊主には効かぬか」
隼人の者は興味もないように無表情に鉈を鞘に収め、薬丸道場の者に目を向けた。
薬丸道場の者も引けと顔で合図していそいそと逃げ去った。
隼人の者は僧を一瞥すると悠々と立ち去って行った。
僧は小幡と阿国を見て言った。
「大丈夫かね」
「かたじけない。助かりもうした」
小幡は当身をくらった腹を抑えながら言った。
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