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奴ら

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沙織はカーブでガードレールの向こうの森林がすっぽん抜けた箇所で右を指した。
富士山がキレイに見える。

「わあ…」

前回はまったく気づかなかった。
沙織についてくだけでせいいっぱいだった。
たしかもうすぐ山道を登り切る頃だ。
するとすぐに前回街と富士山を見たスポットで沙織は止まった。
ここからの富士山は周囲の森林であまりスッキリ見た気がしない。
先ほどのスポットのほうがよほどよく見える。

「さっき指差した場所のほうが富士山よく見えるね」

バイクを降りるとすぐに香織は言った。

「そうそう。さっきのとこはたまに三脚立てて写真撮ってる人を見るよ」

「へえ。プロが撮りにくるスポットなんだ」

「プロかどうか知らないけど」

「この周辺で鹿が走っているの見たことあるよ」

「鹿?ほんと?」

「マジマジ。スゴい迫力だったよ」

「迫力があるの?」

「デカかったから。それがさカーブ曲がったら目の前走ってて、こっちが追っかけてるみたいになったの」

「でどうしたの?」

「少し走ったらガードレール飛び越えて逃げてった」

「ガードレール?」

香織はガードレールの下を見た。
とても人間が降りれるような斜面ではない。
木々はしっかりと根を張ってるが地面はほぼ垂直に近い。

「こんなとこ降りれるんだ。鹿ってスゴいね」

「ほんと。思わず止まって覗き込んだけど。一瞬で消えた」

「スゴッ」

「森は奴らの住み家だからね」

「奴らときたよね」

「さてそんな奴らの秘密の場所、今日は行くから」

「え?奴らのって鹿の?」

沙織は口角を少し上げた笑みで頷いた。

「ウッソ、鹿見れるの?」

「まあそれはわからないけどね。奴らの警戒心もあるし」

「え。もう奴ら対私達みたいになってない?」

「まぁまぁ。ついてきて」

沙織はズーマーに乗ると拳を突き上げ「イエー!」と、走り出した。
香織も「イエー!」と無邪気に走り出した。
前回は右の道を下って行ったが、沙織は目の前の道を左に曲がった。

「え?左?」

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