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セスティーナは家から侍女やメイドを連れてこなかった事もあり、王宮に使える人間が代わりに彼女に付くことになった。
その事件は王宮のメイド達にとってお見合い行事最大の目玉だったと言って過言ではない。
この行事期間残ったメイド達は、優秀な平民、既に婚約者が決まった令嬢や、既婚者が多い。
そのため、殿下に恋心を抱く御令嬢達を温かい気持ちで迎え入れようと、始まる前までは意気込んでいたものだ。
その状況が変わったのはセスティーナが到着した直後である。
「あの、すみません」
「はい……!な、何か御用でしょうか?」
突然女神ほど美しい女性に話しかけられたメイドが始まりだった。
女神は、家から供を連れてこなかったから、荷物運びを手伝って欲しいと告げてきたのだ。
メイドは慌てて近くにいた手伝える者たちを呼び集め、女神の荷物を運び込んだ。
「お嬢様。こ、この度はこちら側でメイドの手配をさせていただきますので。私からお名前をお聞きする事をお許しください」
「あら、メイドは必要ありませんよ?わたくし全部自分でやりますもの」
メイドは頭を下げながら女神に名前を聞こうとすると、女神は名前の前に必要は無いのだと、柔らかく断りを入れてくる。
そんな令嬢と会ったことがないメイドは、どうにかして彼女を説得させようかと頭を悩ませた。
「色々な行事がある中で全てを1人で行うのはとても大変なことですから!」
彼女の言葉にようやく納得した女神は、「では1人だけ……」と言って去って行く。メイドはその姿を見届けた後、走り出した。
プロのメイドは足音を立てる事なく真剣な顔でメイド長の元へと駆け戻り、口頭一番に告げる。
「セスティーナ・ハイトランデ様のメイドは私がやります」
「……」
ゆらりと立ち上がったメイド長はかけていた眼鏡を掛け直しながら目をきらりと光らせる。
「ハイトランデ家は公爵家、メイド歴10年の貴女が対応できるお相手ではありませんよ」
「メイド長、もしや、ハイトランデ様のお姿をご覧になりましたね?」
「何を言うのです、あの神々しいお姿はまだ目にしてはいません」
「……」
「……」
「絶対に見ていますよね」という言葉をプロのメイドは飲み込んだ。
周りにいたメイド達は2人の様子をハラハラと見つめながら『ハイトランデ家の御令嬢は美しいらしい』という事実を早く確認したくて仕方がない。
すると、もう1人のメイドが駆け込んできた。
「せ、聖女様が……聖女様がいました!!」
そのメイドはメイド歴5年のアマチュアメイドだ。ただ彼女はメイドの中では筆頭に素直で、美しい方に目がない事で有名だった。
ザワリ、と空気が揺れた。
この、アマチュアなメイドが今まで最も美しいと言ったのは『麗しの青い薔薇』と謳われ、肖像画などが市場で最も売れていた御令嬢だが、その方に対してもここまで興奮した様子は見られなかった。
彼女もアマチュアなメイドである。叫ぶことはせずに頬を真っ赤に染めて、「美しい方は目の保養です」と言葉を漏らしただけである。
それが、全身を赤く染め、鼻息を荒くさせた状態で飛び込んでくるなど、異様なことだ。
「こほん、ここはメイド長の私が」
「メイド長は全体の管理がありますのにそんな下っ端の仕事は任せられません」
「そうですよ!それに雑用のみの場合歴数年のメイドでも担当しております」
「……」
「……」
「……」
それぞれが主張を述べ、バチバチとした睨み合いが始まった。
そんな時だ。
コンコンという軽やかな音が扉から聞こえてきた。
全員が一時休戦であると目を合わせ1人のメイドが扉を開けると、そのメイドは固まった。
「どうしました?」
「はっ!な、何か御用でしょうか!」
その声に聞き覚えのあるプロのメイドはすぐさま駆けつけると、ドアのメイドの横に立つ。
ドアが大きく開き、今訪ねてきた人物の姿が部屋にいるメイド達の目に入った。
「あら、貴女は……先ほどはありがとうございました、本当に助かりましたわ」
「いえ、当たり前のことをしただけでございます」
「まぁ、王宮のメイドの方々は本当に素敵な人が多いのですね」
セスティーナが言葉を漏らしながら微笑むと、それを目にしたメイド達は頬を染めて ほう とため息をついていた。
たしかに、これ程まで美しいお方に仕える機会など滅多に来ない。今まで睨み合いを傍観していたメイド達も、この後の戦争に参戦すべく気合を入れていた。
「そうでした。先ほど、メイドを手配いただけると言われていて、」
「申し訳ありません。すぐに手配を」
「いいえ、違いますわ。こんな機会滅多にないから、色々な方に来ていただきたいなと思って伝えにきたのです」
もちろん、ご迷惑にならなければ……と付け加えて頬を掻く彼女の姿に、メイド達は無意識に首を横に振っていた。
了承をもらえたと嬉しそうなセスティーナは、笑顔を振りまきながら去っていく。
部屋までの見送りも、近くの騎士が飛んできて名乗りを上げた事を見届けてパタンと扉が閉まった。
その直後。
開始された正当な順番決めは、数日間に渡って行われたらしい。
その事件は王宮のメイド達にとってお見合い行事最大の目玉だったと言って過言ではない。
この行事期間残ったメイド達は、優秀な平民、既に婚約者が決まった令嬢や、既婚者が多い。
そのため、殿下に恋心を抱く御令嬢達を温かい気持ちで迎え入れようと、始まる前までは意気込んでいたものだ。
その状況が変わったのはセスティーナが到着した直後である。
「あの、すみません」
「はい……!な、何か御用でしょうか?」
突然女神ほど美しい女性に話しかけられたメイドが始まりだった。
女神は、家から供を連れてこなかったから、荷物運びを手伝って欲しいと告げてきたのだ。
メイドは慌てて近くにいた手伝える者たちを呼び集め、女神の荷物を運び込んだ。
「お嬢様。こ、この度はこちら側でメイドの手配をさせていただきますので。私からお名前をお聞きする事をお許しください」
「あら、メイドは必要ありませんよ?わたくし全部自分でやりますもの」
メイドは頭を下げながら女神に名前を聞こうとすると、女神は名前の前に必要は無いのだと、柔らかく断りを入れてくる。
そんな令嬢と会ったことがないメイドは、どうにかして彼女を説得させようかと頭を悩ませた。
「色々な行事がある中で全てを1人で行うのはとても大変なことですから!」
彼女の言葉にようやく納得した女神は、「では1人だけ……」と言って去って行く。メイドはその姿を見届けた後、走り出した。
プロのメイドは足音を立てる事なく真剣な顔でメイド長の元へと駆け戻り、口頭一番に告げる。
「セスティーナ・ハイトランデ様のメイドは私がやります」
「……」
ゆらりと立ち上がったメイド長はかけていた眼鏡を掛け直しながら目をきらりと光らせる。
「ハイトランデ家は公爵家、メイド歴10年の貴女が対応できるお相手ではありませんよ」
「メイド長、もしや、ハイトランデ様のお姿をご覧になりましたね?」
「何を言うのです、あの神々しいお姿はまだ目にしてはいません」
「……」
「……」
「絶対に見ていますよね」という言葉をプロのメイドは飲み込んだ。
周りにいたメイド達は2人の様子をハラハラと見つめながら『ハイトランデ家の御令嬢は美しいらしい』という事実を早く確認したくて仕方がない。
すると、もう1人のメイドが駆け込んできた。
「せ、聖女様が……聖女様がいました!!」
そのメイドはメイド歴5年のアマチュアメイドだ。ただ彼女はメイドの中では筆頭に素直で、美しい方に目がない事で有名だった。
ザワリ、と空気が揺れた。
この、アマチュアなメイドが今まで最も美しいと言ったのは『麗しの青い薔薇』と謳われ、肖像画などが市場で最も売れていた御令嬢だが、その方に対してもここまで興奮した様子は見られなかった。
彼女もアマチュアなメイドである。叫ぶことはせずに頬を真っ赤に染めて、「美しい方は目の保養です」と言葉を漏らしただけである。
それが、全身を赤く染め、鼻息を荒くさせた状態で飛び込んでくるなど、異様なことだ。
「こほん、ここはメイド長の私が」
「メイド長は全体の管理がありますのにそんな下っ端の仕事は任せられません」
「そうですよ!それに雑用のみの場合歴数年のメイドでも担当しております」
「……」
「……」
「……」
それぞれが主張を述べ、バチバチとした睨み合いが始まった。
そんな時だ。
コンコンという軽やかな音が扉から聞こえてきた。
全員が一時休戦であると目を合わせ1人のメイドが扉を開けると、そのメイドは固まった。
「どうしました?」
「はっ!な、何か御用でしょうか!」
その声に聞き覚えのあるプロのメイドはすぐさま駆けつけると、ドアのメイドの横に立つ。
ドアが大きく開き、今訪ねてきた人物の姿が部屋にいるメイド達の目に入った。
「あら、貴女は……先ほどはありがとうございました、本当に助かりましたわ」
「いえ、当たり前のことをしただけでございます」
「まぁ、王宮のメイドの方々は本当に素敵な人が多いのですね」
セスティーナが言葉を漏らしながら微笑むと、それを目にしたメイド達は頬を染めて ほう とため息をついていた。
たしかに、これ程まで美しいお方に仕える機会など滅多に来ない。今まで睨み合いを傍観していたメイド達も、この後の戦争に参戦すべく気合を入れていた。
「そうでした。先ほど、メイドを手配いただけると言われていて、」
「申し訳ありません。すぐに手配を」
「いいえ、違いますわ。こんな機会滅多にないから、色々な方に来ていただきたいなと思って伝えにきたのです」
もちろん、ご迷惑にならなければ……と付け加えて頬を掻く彼女の姿に、メイド達は無意識に首を横に振っていた。
了承をもらえたと嬉しそうなセスティーナは、笑顔を振りまきながら去っていく。
部屋までの見送りも、近くの騎士が飛んできて名乗りを上げた事を見届けてパタンと扉が閉まった。
その直後。
開始された正当な順番決めは、数日間に渡って行われたらしい。
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