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大々的なお見合い行事がついに始まった。
それは、参加する令嬢達が集まり、殿下へ自己紹介を行う為に開かれたパーティーを初日として3ヶ月ほど行われる。
つまり、昨夜のパーティーに出る事が出来ずとも、参加している令嬢は数名存在していたのである。
「は?あの『忘れられた公爵家』の娘が有力?」
金色の髪を縦に巻き、フリルのたくさんついた若葉色のドレスを着た娘は手にしている扇をパシリと叩きながら怒り口調でそう言った。
「は、はい……その娘は大層美しく、殿下はその娘にファーストダンスを誘った後に何か約束を取り付けていたとか」
「何ですって!?だから間に合わせてって言ったのに。どういう事ですの!」
彼女の側には気弱そうな侍従がパーティーについて報告している所だった。
パシリパシリと壊れそうなほど叩かれる扇の動きに毎度ビクビク肩を揺らし、彼は冷や汗を拭きながら彼女からの質問に答えていく。
どうやら彼女は、馬車で王都へ来る途中大雨に見舞われて到着が遅れてしまったらしい。
馬車はぬかるみに負けて立ち往生し、2日間ほど動かなかった。
ただ、本来は5日間ほど余裕を持って馬車を走らせたにもかかわらず、馬車をゆっくり走らせていたのはこの令嬢自身だったのだが、本人はそんな事全く覚えていないようだ。
「ちょっとお前!その公爵令嬢とやらを調べてきなさいな!美しいって噂もきっと嘘に違いないわ」
「はぁ、かしこまりました。お嬢様」
意気揚々と公爵令嬢を倒そうとする令嬢に、その侍従は胃をキリキリと言わせながら頷くしかなかったのだった。
◇◇◇
「あ、終わった……噂は本物だ、むしろ本物以上か。だめだ、俺の女神は背を向けた、いや目の前に女神いるけど」
ボソボソと呟いているのは令嬢に命令されて公爵令嬢を調査しに来たあの侍従だった。
たまたま見かけた公爵令嬢の姿を見た瞬間に全てを理解したのは良いものの、この事実を自らの主人に正直に伝えても良いものか考えあぐねていた。
なにせ、自分が見ているのは、噂の殿下と楽しそうにお茶をする公爵令嬢だからである。
「いやでも、すぐバレるしなぁ」
「何がバレるのでしょう」
「公爵令嬢が女神であることと、有力候補の噂がマジもんとい……どちら様で?」
「貴方は誰なのかしら?」
「お、私は、ヒストリア家の侍従でございます」
平民生まれの彼は当たり前のように謙った。ニコニコと笑う令嬢は侍従の前へずいと顔を近づけると、見透かすようなその瞳で彼の目を見つめた。
「ああ、メレディ様のところの」
「公爵令嬢様が、た、大層お美しいと聞いて、真か確認するように申しつけられました」
「なるほど、それが真実だと知ってメレディ様に言わないといけないって焦っていたのですね」
「は、はいぃ」
侍従は思い出していた。
彼女はアルハイデ侯爵家の娘、ナナリィ様だ。
伯爵家であるヒストリア家よりも断然位の高いナナリィ様は、とても朗らかな性格をしており、令嬢達の中でも群を抜いて慕われていると聞く。
そんなお方に冷めた目で見つめられるなど、生きた心地はしない。
「うふ、早めのうちに教えて差し上げた方が宜しいですわ。だって、セスティーナ様のお姿に敵う方などおりませんもの」
「……た、たしかに?」
「では、わたくしも参加いたしますので。これで」
従者も付けずに歩いてきたらしいナナリィ様は、少しだけ身なりを整えた後、深呼吸をしてお茶会の席に近づいた。
楽しそうに笑う笑顔からは、先程感じた底冷えするような冷たさは感じない。
侍従はもう、今後の事を全く考えたくないと思いながらも重い足を主人の待つ部屋へと進めたのだった。
それは、参加する令嬢達が集まり、殿下へ自己紹介を行う為に開かれたパーティーを初日として3ヶ月ほど行われる。
つまり、昨夜のパーティーに出る事が出来ずとも、参加している令嬢は数名存在していたのである。
「は?あの『忘れられた公爵家』の娘が有力?」
金色の髪を縦に巻き、フリルのたくさんついた若葉色のドレスを着た娘は手にしている扇をパシリと叩きながら怒り口調でそう言った。
「は、はい……その娘は大層美しく、殿下はその娘にファーストダンスを誘った後に何か約束を取り付けていたとか」
「何ですって!?だから間に合わせてって言ったのに。どういう事ですの!」
彼女の側には気弱そうな侍従がパーティーについて報告している所だった。
パシリパシリと壊れそうなほど叩かれる扇の動きに毎度ビクビク肩を揺らし、彼は冷や汗を拭きながら彼女からの質問に答えていく。
どうやら彼女は、馬車で王都へ来る途中大雨に見舞われて到着が遅れてしまったらしい。
馬車はぬかるみに負けて立ち往生し、2日間ほど動かなかった。
ただ、本来は5日間ほど余裕を持って馬車を走らせたにもかかわらず、馬車をゆっくり走らせていたのはこの令嬢自身だったのだが、本人はそんな事全く覚えていないようだ。
「ちょっとお前!その公爵令嬢とやらを調べてきなさいな!美しいって噂もきっと嘘に違いないわ」
「はぁ、かしこまりました。お嬢様」
意気揚々と公爵令嬢を倒そうとする令嬢に、その侍従は胃をキリキリと言わせながら頷くしかなかったのだった。
◇◇◇
「あ、終わった……噂は本物だ、むしろ本物以上か。だめだ、俺の女神は背を向けた、いや目の前に女神いるけど」
ボソボソと呟いているのは令嬢に命令されて公爵令嬢を調査しに来たあの侍従だった。
たまたま見かけた公爵令嬢の姿を見た瞬間に全てを理解したのは良いものの、この事実を自らの主人に正直に伝えても良いものか考えあぐねていた。
なにせ、自分が見ているのは、噂の殿下と楽しそうにお茶をする公爵令嬢だからである。
「いやでも、すぐバレるしなぁ」
「何がバレるのでしょう」
「公爵令嬢が女神であることと、有力候補の噂がマジもんとい……どちら様で?」
「貴方は誰なのかしら?」
「お、私は、ヒストリア家の侍従でございます」
平民生まれの彼は当たり前のように謙った。ニコニコと笑う令嬢は侍従の前へずいと顔を近づけると、見透かすようなその瞳で彼の目を見つめた。
「ああ、メレディ様のところの」
「公爵令嬢様が、た、大層お美しいと聞いて、真か確認するように申しつけられました」
「なるほど、それが真実だと知ってメレディ様に言わないといけないって焦っていたのですね」
「は、はいぃ」
侍従は思い出していた。
彼女はアルハイデ侯爵家の娘、ナナリィ様だ。
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そんなお方に冷めた目で見つめられるなど、生きた心地はしない。
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「……た、たしかに?」
「では、わたくしも参加いたしますので。これで」
従者も付けずに歩いてきたらしいナナリィ様は、少しだけ身なりを整えた後、深呼吸をしてお茶会の席に近づいた。
楽しそうに笑う笑顔からは、先程感じた底冷えするような冷たさは感じない。
侍従はもう、今後の事を全く考えたくないと思いながらも重い足を主人の待つ部屋へと進めたのだった。
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