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●本編●

80.一言物申す!① 〜まず手始めに、先日ぶり+はじめましてな騎士たちとご対面〜

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 短時間で急激に蓄積された疲れと、適度以上の運動によって体内で多量に発生した熱が保温効果のある魔石の相乗効果で体を温め過ぎてのぼせてしまった、このダブルパンチを受け、グロッキーになりかけてしまったのがつい先程のこと。

更に悪いことに注意が疎かになった足を泥濘んだ地面に引っ掛けて、踏ん張りが効かずにもつれた足が幼女の身体のバランスを崩し、顔面から地面にダイブをかます寸前でちょうど近くにいたというヴァルバトスきょ、…んんっ、ヴァルバトス…に、助けて、頂けたのは本当に運が良かった。
拝んでも拝み足りないくらいには、感謝してもしきれない多大な恩義を感じていた。

それはそれとして、今現在、また新たに発生した超個人的な問題に悩まされている真っ最中なのだった。

まず1つ目は…。
さっきもちょっとつっかえて不自然になってしまったけれど、名前を自然に呼び捨てることができない事だ。

 ーー駄目だわっ! 凄く違和感しかないっ!! サミュエルやオズワルド、メリッサは平気なのに、何っか、ヴァルバトスぅ……は、言葉にできない抵抗感が邪魔してくる!! 名前を呼び捨てるのに、すんごく気合を入れないとできない!! 何でなのっ?!ーー

ヴァルバトス卿…じゃなくて、ヴァルバトス…の名前を呼び捨てる事に、謎の違和感と抵抗感に襲われてしまい、先に上げた3人のように気軽に呼び捨てられないのだ。

 ーー何でなのかしら…? 言い慣れていない、は今回の理由として正しくないわよねぇ…。 だって、サミュエルも昨日紹介されたばかりなのに、違和感も抵抗感もなく最初から普通に呼び捨て出来ているもの。 何が違うのかしら、サミュエルとヴァルバトス…ぅ~、オズワルドとヴァル…バト、ス、うぅ…! 言い比べてみても、違和感の正体がわからない。ーー

このまま考え続けても、この問題の答えには今直ぐたどり着ける気がしない。

 ーーふぅ~む、人の名前を呼ぶこと自体、そもそもの経験値が乏しいから判断材料が不足しまくりなのよねぇ…。 こればっかりは、他の方々の名前も呼ばってみて、検証を重ねていく他にない感じ…かしら?ーー

もやもやを抱え続けるのはあまり良い気分ではないけれど、この場合は仕方ないと無理やり自分を納得させる。
わからないものはわからない、といい具合で見切りをつけるのも大事だ。
これについて考えることを全く放棄して諦めるわけではないのだし、根を詰めて考えすぎない方が、ぱっと答えにたどり着ける場合もままある。
この問題の場合、その可能性のほうが高そうだった。


 そうと心が決まれば善は急げ、頭を切り替えてもう1つの問題を解決するべく、議題をチェンジする。
 
その問題2つ目は、①回尊死した現在の尊すぎる自分の現状だった。
けれどこちらはとても幸福な悩みの為、そこまで切羽詰まった悩みではないのだけれど、それでもある意味でおもいっきり頭を悩まされているも紛れもない事実なのだ、こう見えても。

他人の目に今のわたくしの表情がどのように映るか、それは勿論私には見ることは出来ないので皆目見当もつかないけれど、恐らく私が感じとれる表情筋の具合からして、口元が大変だらしない状態になっているだろうことは、先ず間違いなさそうだ。

自分の置かれた状況を考えなくてもによによ笑いが込み上げてきて、口元が勝手にふよふよしてしまう。
気を一瞬でも抜いたなら、きっともっと悲惨な状態になってしまうことだろう…。
それだけはなんとしても避けないと、ここには私の何でもない失態を易易とトラウマへと進化させる黒歴史製造機なる無情な侍女も居るのだから、気を引き締めてかからないと、命取りだ。

今一度理性を総動員して表情を引き締めにかかる。
そしてこの問題を円満に解消する方法をできるだけ真剣に、大真面目に思案する。

 ーーう~~ん…、こちらも難問だわ! どうやってこの多幸感が半端なく押し寄せてくる美味し過ぎる状態を自分も納得できる理由付をして解消してもらおうかしら? 『降ろして』と言い出すベストなタイミングをすっかり失ってしまったわ…。ーー

昨日お父様にも同じ様に抱っこされた。
このくらいの年齢の幼女に対しては、誰も彼も同じような運び方を選ぶ傾向にあるようだ。
本物のお姫様抱っこをするには、些か身長がみじか…、んんっ、足りない・・・・為、こちらの方が安定して持てる、とかが大きな理由になるだろうか。

 ーーそれにしても、あんな方法でこの体勢に移行されるとは、夢にも思ってなかったわ! ヴァルバトスき……っ、に会うと、不思議な体験が目白押しに発生して襲いかかってきてる、そんな気分にさせられてしまうわね。 でも心臓に凄く悪いから、可能ならあまり頻繁に顔を合わせたくないわね。ーー

転倒を未然に防がれたあと、宙に放り投げる、というすごく独特な方法で助け起こされてから、先日は獰猛な獣ないしヤクザにしか見えなかった強面の美丈夫の片腕に腰掛けるようにして抱きかかえられている。
ぶっちゃけもうこのままでいたい、色んな意味で。

 ーー何にしても、生命活動を円滑に維持する過程に危険が伴わないと云うのなら、この際何でもない事と思いこんでこの状況に至った過程も受け入れましょう。 だって今すんごく幸せだし♡ 何より自分で歩かなくて良いし、結果的にはオールオッケーなのよねぇ~♡♡ーー

話がしやすいように抱き抱えただけかと思いきや、その状態のまま、この御仁はわたくしたちが目指していた場所へとスタスタと歩き始めたのだった。

ことの成り行きを見守るに徹していた侍女のメリッサは、私をその逞しい腕に乗せたまま何の説明もなく歩き出したヴァルバトスを見て、制止の言葉を発そうとしていたけれど、私がヴァルバトスの肩口からひょこりと顔を出してブンブン手を振りたくって止めた為、何事か言いたげな冷ややかな視線を寄越しながらも、結局は何も言わずに静静と付き従うことになった。

 ーーうん、後が怖いけど、今が幸せならそれで良い。 今はそう思い込んでおきましょうっと!ーー

侍女からどんなお小言説教タイムが設けられるか、若干の不安要素が頭をチラついていながらも、この問題は先送りする事を即決して、別の事柄に焦点を逸す。

体力の限界を感じつつ、のぼせかけながらも必死に頑張って歩き通してきた。
私があれだけ必死こいて歩いてきた時間、その1/5くらいの時間で、あっという間に目的にしていた場所まで難なく運ばれきってしまいそうになっている。

 ーー大人と子供で、コンパスの長さからして違うからって、こんなに所要時間の差が顕著に示されてしまうなんて…、私がここまで来るのに費やした労力と直向きな努力は一体何だったの?! ホント世の中不公平だわ!!ーー

今までの私の頑張りを嘲笑うかのように、普段からそうであるように自然と大股で歩く御仁は果たして、私が解消を願い出る前に、私を抱えたまま目的地までしっかり運び終えてしまわれた。

それからちょうど良さそうな場所を探し、泥濘みが少なくなんならもう乾き始めた地面の上を選んで、抱えられたときとは対照的にゆっくり静かにそっと降ろされた。

「しっかしよぉ~~おっ!! 一昨日ぶりだなぁ~嬢ちゃん!! あれから元気してたかよぉお!?」

 ーー……一瞬で誰だか分からなくなってしまった……。 凄い、やっぱり服装って役割重大なのね! だって騎士服に身を包んでいるだけなのに、何処の素敵な騎士様かと見惚れてしまったくらいだもの!! 口さえ開かなければきっと、もっと素直に憧憬の眼差しのみを惜しみなく送れただろうけど、それじゃこの方らしくないものね!!!ーー

今までは顔面の造形の秀逸さにのみ気を取られ、全体像を全く把握しようともしていなかった。
だからだろうか余計に堪える、その全貌をしかと見てしまった今、その服装が付加した破壊力が半端ない。
騎士服に身を包んだヴァルバトスは、ヤクザな雰囲気は鳴りを潜め、勇猛果敢で屈強そうな騎士にしか見えなかったのだ。

予想外な格好良さに惚けてしまい、ちょっと失礼な事まで考えてしまった事を気取られないよう、すかさず挨拶の言葉を返す。

「遅くなりましたが、おはようございますヴァルバトス…ぅ、んんっ! 先日はきちんと挨拶せずに私事を優先してしまってごめんなさい。 先程も助けて頂けておかげさまでこの通り、元気に過ごせています。」

「がーーっはっはぁ!! 相っ変わらず面白ぇ~なぁ~~、嬢ちゃんは!! しっかしょぉ、アレだ、アレ!! 挨拶なんつー堅っっ苦しぃもんなんざぁ~よぉ~~?! 俺様には必要ねぇーーって話よぉっ!! んでもって、コイツラにもする必要ねぇ~からな!! 気ぃ~にすんなって!!」

『コイツラ』とサムズアップした親指の先で雑に示したのは、今日明日で必要となる最低限の物資をえっちらおっちらと運搬している同じ騎士服を身に纏った幾人かの人物がいるヴァルバトス、うぅ…の後方だった。

「えっ、ちょっとぉ?! もしもーーしっ!? 嘘でしょ、今の聞きましたぁ~~?? オレたち存在から無視ってことぉ~?? 何言ってくれちゃってんの、親父ってば!!」

ぴょんぴょこぴょ~~んっ、と四方八方にはね散らかした特徴的過ぎる癖っ毛が目立つ、ヴァルバトスのそれよりも1段薄めな色味のシルバーアッシュの髪を後ろ頭の付け根で緩く1つに纏め、それを尻尾のように振り乱しながら、ヴァルバトスの先の発言を受けて元気溌剌と声高に非難する。

 ーー…何だか、言動から身振り手振りまでを合わせた全体の雰囲気からして、元気な子犬を彷彿とさせる方ね…。 10代後半くらい、かしら? 年上だけど、何か可愛い!ーー

かしらはホント…しょーがねぇなぁ~~…。 んまぁ、これもいつものことっちゃぁそれまでだわな! なははははっ!!」

重たそうな荷物を軽々と持ち上げて運びながら、陽気に笑ってヴァルバトスの発言を受け流す。
彫りの深い目元、楽しげに細められた秘色ひそくの目は目尻にかけて垂れ下がり、陽気な表情と相まってより一層の穏やかさを見ているこちらに印象的に与えてくる。
肩口でキレイに切り揃えられた、毛先に向かって緩く波打つフォーンの髪が、視線を誘うように動きに合わせてゆらゆらと揺れ動いている。

 ーーこちらはヴァルバトスき…と歳が近そうな方ね。 凄くがっしりした肩幅に似合いのガチムキマッチョな鍛え抜かれた身体…、服のサイズ、それで合ってるの?って心配になるくらい、パッツパツなんですけど、大丈夫かしら?? 不意に動いた拍子に弾けて破れてしまわないかしら???ーー

「でも今の団長の発言が意図することって、絶対しょーもないですよね? 結局挨拶させたくない1番の理由は、僕らのことを一々紹介するのがメンドーだからってだけですよねぇ??」

アップルグリーンの瞳を怪訝そうに眇めて、癖の無さそうなオーキッドの髪を三つ編みにして背に垂らした青年が訝しげにしながらも、どこか確信を持って発言の意図を言い当てにかかる。

 ーーお次は20代中頃の好青年、爽やかそうな外見なのに、何でだろう? 何だかとっても、親近感が持てる。 そこはかとなぁ~く、前世のわたしに通じる同じ感じが漂い伝わってくる、気がする! でも待って、今団長って言った?ーー

「皆まで言うなジーク。 団長には団長なりの正当な理由があって行動しているんだ。 そう自分に言い聞かせて、深く考えることは放棄するんだな。 それがこの場で取れる1番被害の少ない賢明な行動だろう、そもそも真剣に考えるだけ無駄だしな。」

スン…と無感情に、全くの他人事のように平坦に言い放ったのはヴァルバトスの次にタッパがあろうか、という人物。
目元にコーヒーブラウンの前髪が若干被っているが、全体的にスッキリと短く切り揃えられた短髪に、深みのある群青色の瞳が言動の与える無感情さを増幅させて、冷たい人物像を印象付けてくる。

 ーーこれでこの場にいる人物は全員、何かしらの発言をなさったことになるわね。 この方も…20代後半くらい? 発言が辛辣過ぎて、聞いているこっちが居た堪れない心地になるのだけど? っていうか、やっぱり団長って言ってた!! でも待って、メリッサからの説明ではヴァルバトスきょ……、は先月雇い入れられたはずじゃなかったかしら?!ーー

「えぇ~、ヨアヒムさん、それって完全に諦めてるだけじゃないですかぁ~! 若ももっとちゃんと団長に注意してくださいよぉ!! アルノーさんが居てくれたらビシッと物申してくれるのに、出発前からこれじゃぁ~、先が思いやられるなぁ~~…。 何で僕選ばれちゃったんだろう…、こんなことなら素直に里帰りしてれば良かった……。 はぁ~~~憂鬱。 鬱になる、引き篭もりたい、やっぱり外怖い、部屋が恋しい…今すぐ部屋に帰って布団被って孤独を噛み締めて静かに過ごしたい…。」

ジークと呼ばれた青年は、最初の勢いはどこへやら、急激に失速し、それに伴って彼の発する言葉からも段々と溢れ漲っていた覇気が削ぎ落とされていき、終いにはボソボソと口の中で呟くに至ってしまった。
拳を握って力強く前のめりに訴えていた姿勢は、今や見る影もなく、木陰のある茂みにのそのそとにじり寄り、体育座りとなって木の幹に凭れ、ジメジメし始めてしまった。

「ぅわぁ~~~っ!? ちょっとちょっと、ジークさぁ~~んっ!! ダメですよぉ、こんなところでジメジメウジウジしたら!! しっかりして、気をしっかり持って下さいよ?! 鬱になっちゃダメですって、引き篭もるのもナシな方向で!! 怖くないですから、大丈夫ですからっ、お外は全然怖くないですよぉーー?!!」

何とかして先程までの健常な状態に引き戻そうと果敢に試みたのは、この小ぢんまりとした集団の中で1番年若い、『若』と呼ばれた青年だった。

「なんかすっげぇー打たれ弱いのな、ジークの奴。 いつもこーなった時って、どーしてたんだ? あの優男隊長かビュレトが何とかしてたんだっけか??」

何の気無しにしげしげと眺めて、顎を擦りながら傍観の構えを取る最年長と思しきガチムキマッチョな初老男性が記憶を探りながらぼやく。

「優男って…、禁句じゃないですか。 また怒られますよそんなこと言ってると、絶対に巻き込まないでくださいね? ミルコさん副団長なのに、ホントそういうトコはからっきしですよね。 フリートヘルム副団長を見習って、少しは部下の心の機微に敏くなって下さいよ、回り回って迷惑と被害を被るのは周囲の人間なんで。」

それに言葉を返したのは、同じ様に傍観の構え一択な毒舌っぽいタッパのある、確かヨアヒムと呼ばれていた青年だった。

「うるっせぇーやい、ヨアヒムこの野郎っ!! オメェは1言も2言も、余計なんだっつーの!! 弟に向ける愛嬌を少しわオレ等にも向けやがれってぇーーーの!!!」

「嫌です。 弟は可愛いですけど、ミルコさんはじめ騎士団のヤロー共は可愛くないんで、無理です。」

「真顔で何抜かしてんだ、おめーは馬鹿か? 当ったりめぇーだろーがっ?! 可愛いとまで思えなんて言ってねぇ~よ!! 望んでもねぇ、1ミリもっ!!!」

ジメジメしている一角と、ギャーギャー言い合っている一角の落差が激し過ぎて、なんかもう遠目に見ていているこっちとしては面白おかしい光景に映ってしまっている。
なのでうっかり、思ったそのままが自然と口をついて出てしまった。

「…皆さん、とっても仲が良さそうね! 賑やかしくて楽しそう、いつもこんな感じなのかしら?」

「おうっ、だろぉっ!? 似たりよったりなバカの集まりだかんなぁ、当然騒がしくもなるってもんよぉ~!! けどまぁ、あれだ、とんと不思議なんだがよぉ~、これが中々どぉーして、しっくりくるっつーーかよ、案外居心地が良ーーんだよなぁ~~?? まぁよぉっ、だから長くつるめてるっつー話なんだがなぁ?! がっはっはっはっはーー!!」 

私の発言を聞き漏らさず、とってもいい笑顔とともに嬉しそうに言葉を返された。
浮かべる表情も然ることながら、その言葉のそこかしこに、ヴァルバトスが彼らに向ける揺らぎない信頼の度合いが透けて見え、絆の深さが伺い知れた。

屈託なく向けられた明るい表情につられて、何だか私まで嬉しくなってしまう。

 ーーここにいらっしゃる方たちはヴァルバトス…の古くから付き合いのある騎士たちなのね。 それにしても、やたらめったら人数が…少なくないかしら?ーー

辺り周辺を隈なく、キョロキョロと頭から動かして確認して騎士の人数を今一度確認する。

 ーー今現在ここに居る人数わぁ~、…1、2、3、…4、……5、他には……、えーっとぉ? え、5人しか騎士らしき人が見当たらないのだけど、これで全員?? 子豚氏とサミュエル以外で他に行かれる方は…いないの、ホントに?! これって一般的に考えて護衛として事足りる十分な人数なの???ーー

「まさか…同行する騎士団の方々は、ここにいらっしゃる5名様のみ…なぁ~~んて、そんなはずないですよ」

「おうっ、こんだけだ!! たかがおめぇ、ガキンチョ1匹の為に、これ以上の人数いるかよ?! 5人でも多すぎるくらいだっつー話でよぉ~、ぶっちゃけ俺様的にはついでの用事のほうが重要っつーーな!! そっち見越してのこの人数と人選っつーーー訳よぉっ!!!」

食い気味で力強く肯定されてしまった。
しかも今回の主目的と見定めている事柄は、子豚…じゃなくて、子爵令息の護送ではなく、その他に向けられているようだ。
そちらをこなす為に今回のメンバーが選出され、即席の少数精鋭部隊が編成されたらしい。

 ーー…そんなついで目的をメイン理由にしたメンバーで、護送とかして大丈夫なのかしら? 道中何も問題が起こらないと良いのだけど…。 でもそっか! サミュエルが一緒に行くのだし、きっと大丈夫よね!!ーー

根拠の謎な無責任で身勝手過ぎる信頼を寄せて、領地家令アンタンダンのサミュエルに今回の道中に起こるだろう全ての事柄への対処を丸投げする。

心の中でうんうんっ、と機嫌良く頷いてから、そう云えば他にも気にかかった大事なことがあった、と思い出したので話のついでに聞いてみる事にした。

「そう云えば、先程騎士の方々が交わされている会話の中で聞き知ったのですが、ヴァルバトスき…は、騎士団の団長なのですね…? 私の事前に聞き知っていた話では先月当家に雇い入れられたばかり、と聞いていたのですが…はじめからその職位が決まってのお話だったのですか?」

「んーーなわけっ!! あの人間不信の塊みてぇーな死神が、俺様みてぇーなゴロツキを、んな簡単に信じるわけねーーーじゃねぇのぉ!! 偶々よぉ、たまたま!! 流れでそーなっちまっただけっつーー、よくある話ってやつよぉ~~~っ!! がっははははは!!!」

「流れ、ですか? 騎士の皆様で話合いでもされたのですか?」

 ーー意外と平和的な方法で決められたようね、身構える必要なかったかも…。ーー

「それこそあるわけねぇーー!! 俺様がおめぇ、話の流れっつったらよぉ、拳っから何から、使えるもん全部使った喧嘩ないし、乱闘が欠かせねぇやつの類ってもんだぜぇっ?! 全員手当たり次第、ブチのめして、最後まで立ってたのが俺様だったっつーーな!! 単純明快、わっかりやすくていーーだろっ?? がぁーーーっはっはっはっはっは!!!」

 ーー全然平和的じゃなかった!! 血気盛ん過ぎやしませんかねぇ?! 見かけからした予想通りの血の気の多さに、こっちの血の気が引いてしまうわ!! 弱肉強食の世界を地で行く感じが似合い過ぎてて、なんかもう……今回の道中不安しかないっ!! サミュエル、大変だろうけど…頑張ってねぇ~~~(泣)ーー

何時までも続きそうな豪快な笑い声をききながら、この場に未だ姿を表さない領地家令アンタンダンに向けて、心の中で涙ながらの盛大なエールを惜しみなく送った。
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