上 下
8 / 15

処刑の危機

しおりを挟む
夕食の前にお父様も帰ってきた。
珍しく自分から王宮に行っていたみたい。普段は何かと理由を付けて足を運ぼうともしないのに。
食事を摂りながら王宮に行った理由を聞いてみた。

「我が家はこれから、第二王子を支持する派閥に入る。その挨拶だ」

歓迎はしてくれるだろう。
リードハルム家は他貴族からの信頼も厚く、もしも王族が失脚するなんて最悪の事態になったら貴族も平民も間違いなく、次の王にはお父様を選ぶ。

「あの方は中々に見所がある」
「何かありましたか」
「ほとんど顔を合わせていないアンのことを心配してくれていた。政略結婚とはいえ、一方的に婚約破棄を大勢の前で突き付けられて周りから笑い者にされていないかと。謝罪もしてくれた。兄の身勝手さは許されるものではないが、弟として謝らせて欲しいと頭まで下げてくれた」
「おお!あのバカとは違う誠実の塊だな」
「アナタ。まさか今度はリカルド殿下と婚約した、なんて言いませんよね?」
「陛下からその話は上がったが、丁重にお断りした。既に第一王子がやらかしたのに、また王命でアンを縛るのかと」

それは丁重なのかな?ほとんど脅迫な気がする。

「何を言っても不敬にならないよう、部屋には陛下夫妻とリカルド殿下しかいなかった」

私の不安を読み取ったお父様はすぐに情報を付け足した。

「まぁ最も、誰がいようが、不敬と言われようが、その場にいた全員を黙らせることぐらい容易ではあるがな」

顔。顔が怖いです。お父様。それでは悪人です。
冗談ではなく本気なところが怖いのだ。
相手が誰でも家族のためなら容赦しないのはお父様の長所であり短所。
それら全てを含めて私はお父様を愛している。もちろん、お母様とお兄様も。
私を愛してくれる家族に今日の出来事を話せば、鎮まった怒りがまた燃える。
どうするか悩んでも意味はない。どうせギルが報告するのだから。
事後報告より、先に言ったほうが断然いい。

「実は殿下のことでご報告が。復縁を申し込まれました」
「は?」

さっきよりも眉間に皺が。
お母様の笑顔に影が見える。
お兄様はお肉にナイフを突き刺す。誰の顔を思い浮かべたのかしら。
部屋の温度が一気に下がった気がした。温かいスープが飲みたいな。

「詳しく説明しなさい」

声だけで人が殺せてしまいそうなほどドスが効いている。
先だろうが後だろうが、怒りの頂点を超えることは絶対だった。
詳しくと言われても、上から目線で復縁を迫られ、断っただけ。
復縁といっても私は側室で、王妃の座はクラッサム嬢。
一応、伝えると危機を察知したフランクが即座に食事を下げた。
拳を握り締めたお兄様がテーブルをダンと叩く。
咄嗟のナイス判断により料理が無駄にならずに済む。お父様直々にスカウトをされ、若くしてリードハルム家の執事長を務めるだけはある。

「晒し首にしましょう。あのクソ王子」

今すぐにでも王宮に乗り込み、首をはねそうな勢い。
その間にお母様はクラッサム家に行き、クラッサム嬢を連れて来るのかな。
使用人達は二人の愚行を国中に知らせ、死刑を煽らせる。
未来が確定する前にどうにか止めなくては。
私としては正直、殿下がどうなろうが興味はない。ただ、殿下如きのために貴重な時間を費やすことも、ましてや首謀者になるなんて嫌なだけ。
当の本人達の中で二人は極悪人になっているから処刑することに罪悪感はこれっぽっちも抱いてないだろうけど。
それに世論を味方につけるなんてリードハルム家からしたら朝飯前。
裁いた私達が正義となるのは目に見えている。

「私は気にしていないから、何もしないであげて」

可哀想だから。
王太子から外され、幼くして玉座に座ることを当たり前に思っていた未来が失われた。その上、死ぬなんて。可哀想すぎる。

「こんなにも優しいアンを侮辱したクソ王子が生きてる意味なんてあるのかよ」
「ないな」
「ないわね」

両親共に口を揃えて即答した。
大勢の前で身勝手にも婚約破棄を宣言した翌日に、復縁を望むなんて常識がなくても非常識だとわかりそうなものだけど。
何が何でも処刑しようとする三人の意志は固い。

「殿下のことは無視しましょう。復縁なんて絶対にありえないんだから」
「しかしだな」
「お父様。殿下のせいで時間を無駄にするなんてもったいないです」
「アンはてっきり、クソ王子に情が湧いたのかと思っていたけど違うのか」
「情はあったわ。これっっっぽちも好きになる要素はなかったけど。むしろ結婚せずにすんで良かったぐらいよ」

強がりではなく本心。
私がいかに殿下に興味がないか伝わり、ついでに処刑の件も改めてくれることに。
いくら頭の出来が酷くても、婚約破棄から復縁を望んだだけで処刑なんて、国王夫妻が黙っていない。
議論する暇があるなら仕事を片付けたほうがマシであると気付いた。

「こんなことなら一ヵ月前に殺しておけば良かったな」

物騒な独り言。ここは何も聞こえていないふりが妥当。
瞳から殺意の色が消えると、フランクが素早く料理を並べ直してくれる。
フランクが優秀すぎて怖い。
お父様達を観察してもう大丈夫と確信したのか、家族団欒の邪魔をしないよう音を立てずに退室した。
あんな優秀な執事、どこで見つけてくるのか。お父様の人を見る目がありすぎる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

結婚式後に「爵位を継いだら直ぐに離婚する。お前とは寝室は共にしない!」と宣言されました

山葵
恋愛
結婚式が終わり、披露宴が始まる前に夫になったブランドから「これで父上の命令は守った。だが、これからは俺の好きにさせて貰う。お前とは寝室を共にする事はない。俺には愛する女がいるんだ。父上から早く爵位を譲って貰い、お前とは離婚する。お前もそのつもりでいてくれ」 確かに私達の結婚は政略結婚。 2人の間に恋愛感情は無いけれど、ブランド様に嫁ぐいじょう夫婦として寄り添い共に頑張って行ければと思っていたが…その必要も無い様だ。 ならば私も好きにさせて貰おう!!

殿下はご存じないのでしょうか?

7
恋愛
「お前との婚約を破棄する!」 学園の卒業パーティーに、突如婚約破棄を言い渡されてしまった公爵令嬢、イディア・ディエンバラ。 婚約破棄の理由を聞くと、他に愛する女性ができたという。 その女性がどなたか尋ねると、第二殿下はある女性に愛の告白をする。 殿下はご存じないのでしょうか? その方は――。

亡くなった王太子妃

沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。 侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。 王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。 なぜなら彼女は死んでしまったのだから。

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

英雄になった夫が妻子と帰還するそうです

白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。 愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。 好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。 今、目の前にいる人は誰なのだろう? ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。 珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥) ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。

今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。

王太子殿下の子を授かりましたが隠していました

しゃーりん
恋愛
夫を亡くしたディアンヌは王太子殿下の閨指導係に選ばれ、関係を持った結果、妊娠した。 しかし、それを隠したまますぐに次の結婚をしたため、再婚夫の子供だと認識されていた。 それから10年、王太子殿下は隣国王女と結婚して娘が一人いた。 その王女殿下の8歳の誕生日パーティーで誰もが驚いた。 ディアンヌの息子が王太子殿下にそっくりだったから。 王女しかいない状況で見つかった王太子殿下の隠し子が後継者に望まれるというお話です。

気絶した婚約者を置き去りにする男の踏み台になんてならない!

ひづき
恋愛
ヒロインにタックルされて気絶した。しかも婚約者は気絶した私を放置してヒロインと共に去りやがった。 え、コイツらを幸せにする為に私が悪役令嬢!?やってられるか!! それより気絶した私を運んでくれた恩人は誰だろう?

処理中です...