仁川路朱鳥詩集

仁川路朱鳥

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高3前半

饅頭

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求めていたのは饅頭という存在だった。
だが母に値するような人物は饅頭そのものを買ってしまった。
挙げ句の果てに饅頭をお食べと押し付ける。
饅頭がこの世界にあるというだけで良かったのに。
一口目は我慢して食べるが、
二口目はどうしても手をつけられなかった。
甘い餡子が入っていたからだ。

皮は母性でできていた。
餡子は自己愛でできていた。
吐きそうになって、食べかけの饅頭を皿の上に置く。

そそくさと立ち去って、机を見ると、
母のような人物は
私を見つめ返している。
目には快楽が浮かんでいた。
ゆっくりと瞬きして、
長い睫毛を伏せて、
和かに笑いかける。

「餡子も、美味しいのよ」

言い聞かせるように母のような人物が話した。

逃げるかのように部屋の隅へ走る。
かの人物は、
ずっと私の方を向いて、
微動だにせず
笑っていた。
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