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第十九章 手折られた彼岸花
19-2 巡る縁
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「チマちゃんは大怪我したのよね? 後は横になって、ゆっくり休んでね」
ケーキをご馳走になった後、なっちゃんは後片付け、なっちゃんママは部屋を案内してくれた。
「ありがとうございます……お医者さんには一応大丈夫だって言われましたけど……」
「そのお医者さんって河爺でしょう? あのお爺さんのメインの患者さんとチマちゃんは、回復力が段違いだから……ちゃんと回復経過を見た方が良いわ」
「えっ、やっぱりヤブ医者だったんですか!」
一体あのお爺さんは普段どんな患者を診てるんだろう。聞く限りではとてもタフそうだけど。
とりあえず正規の医者ではないんだろうなぁ。怖いな、大丈夫か私。
「ううん、腕はとても良いのよ? 相手にしてるお客さんの層がズレてるだけなの。お薬を飲んで、ちゃんと休めばすぐ良くなるわ」
やっぱり何か胡散臭いな!? なっちゃんママもこう言うなら、腕は信用出来そうなんだけど……。
「そ、そうですか。あの、なっちゃんのお母さん——」
「だーめ、ママって呼んでちょーだい」
私の言葉を遮り、なっちゃんママは腰に手を当てた。
「はいっ!?」
「この家では私がチマちゃんのママなんだから、そんな他人行儀はダメよ? さぁ、ママって」
少し強引な気がするけれど、あまり悪い気はしない。
フレンドリーに暖かく接してくれるから、心地良いんだ。お母さんって、やっぱり良いな。
「ま、ママ……」
「そうそう、よく出来ました! それで、聞きたい事は?」
と、自分で逸れた話題を修正してくれた。ありがたい。
「本当にお世話になって良いんですか?」
既に一室用意してもらってるし、居候なのに至れり尽くせりだ。
「もちろんよ! どうしてそんなことを聞くのかしら?」
「その……怪しいとは思わないんですか? 大怪我をして、身寄りもない娘なんて……」
なっちゃんからどの程度説明が行ったのかはわからないけれど、どう見たって私は訳アリな娘にしか思えないだろう。
普通なら、厄介事なんか受けない方が賢明だ。
「ふふ、良いのよ。訳アリは大歓迎」
ママはそんなことお構いなしといわんばかりに、ウインクをする。
「こう見えてバリバリのキャリアウーマンなの。娘っコ一人増えたところで問題ないわ」
ビシッと決めた姿が出来る女って感じでカッコ良い、とても輝いている。
こういう部分もなっちゃんに受け継がれたんだなぁ。
「あ、ありがとうございます……!」
「んもぅ! 謙虚で可愛いんだからっ」
「おぶっ!」
残念な美人ってところもよく似ているね、うん。ふかふかだぁ。
「そこら辺にある服は適当に着ちゃって良いわ~。家のものは勝手に使っちゃって大丈夫よ。自分の家だと思って気楽にね」
「わかりました、ありがとうございます」
改めて部屋を見回す。シンプルに纏まっていて、女の子の部屋という雰囲気じゃない。
使われていなさそうだけれども、掃除はキチンとしてあった。シックなデザインの机の上には、写真立てが一つ。
「どうかしら?」
私の視線に気づき、ママは写真立てを取って見せてくれた。
小さいなっちゃんを中心に、今とあまり見た目が変わらないママと……翼君にそっくりの男の人。
「こ、この人」
見たことがある。あの花火大会の日、山の麓で出会ったおじさんだ。
おじさんとは言ったけれど、本当は若々しくて大学生くらいの年齢に見える。
「ふふ、イケメンでしょ? 私の旦那様」
「え! 旦那様!?」
ってことは、この人がなっちゃんのお父さん?
「あら、見覚えがあるの?」
「小さい頃、会ったことがあります。その日は花火大会があるから、オレ似の可愛い娘っコを見たらよろしくなって言ってました」
あの時会えなかった娘っコは、なっちゃんのことだったんだ。まさか本当に友達になれるなんて、不思議なこともあるものだ。
「そう……あの人、チマちゃんに……」
ママは一瞬だけ切なげな目をした後、取り繕うように明るく笑った。
「あっ……」
なっちゃんは二人暮らしって言ってたっけ。つまり、お父さんは既に……。
「ご、ごめんなさい、余計なことを……」
「良いのよ、謝らないで? ママはね、特別な縁を感じられて嬉しいの」
と、ママは大きな胸に手を当てた。
「特別な縁?」
「そうよ。もしかしたら、なっちゃんとチマちゃんは出会う運命じゃなかったかもしれない。けれど、あの人が縁を繋いでくれたのかもしれないって思うと、素敵じゃない?」
ママは夢見る乙女の顔をして、キラキラしていた。
出会うはずのない人間を引き合わせた縁、奇跡、必然の偶然。そういうものがあるのだとしたら……。
「とても、素敵だと思います」
「でしょ? これからもなっちゃんと仲良くしてあげてね」
「はい!」
数年越しに巡り会えたこの縁、大切にしたい。
「よしよし、良い顔してるわ」
「うおおおおお」
ママはにっこりして、私の頭をくしゃくしゃに撫でる。私はもみくちゃにされて、変な声しか出ない。
「大切な人とは、必ず特別な縁が結ばれているのよ。きっといつか、巡り会える。たとえ離れていても、ね?」
と、含みのある笑顔。
「……っ!」
きっといつか、巡り会える。一度離れても、また会えたのだから。
「それじゃあ、そろそろ行くわ。長話しちゃってごめんなさいね~」
「い、いえ! 本当にありがとうございました!」
ママは軽やかに去っていった。
もしかしたら事情を深く知っていたのかもしれないし、そうでないかもしれない。
けれど、やんわりとした助言は私に勇気をくれた。
ケーキをご馳走になった後、なっちゃんは後片付け、なっちゃんママは部屋を案内してくれた。
「ありがとうございます……お医者さんには一応大丈夫だって言われましたけど……」
「そのお医者さんって河爺でしょう? あのお爺さんのメインの患者さんとチマちゃんは、回復力が段違いだから……ちゃんと回復経過を見た方が良いわ」
「えっ、やっぱりヤブ医者だったんですか!」
一体あのお爺さんは普段どんな患者を診てるんだろう。聞く限りではとてもタフそうだけど。
とりあえず正規の医者ではないんだろうなぁ。怖いな、大丈夫か私。
「ううん、腕はとても良いのよ? 相手にしてるお客さんの層がズレてるだけなの。お薬を飲んで、ちゃんと休めばすぐ良くなるわ」
やっぱり何か胡散臭いな!? なっちゃんママもこう言うなら、腕は信用出来そうなんだけど……。
「そ、そうですか。あの、なっちゃんのお母さん——」
「だーめ、ママって呼んでちょーだい」
私の言葉を遮り、なっちゃんママは腰に手を当てた。
「はいっ!?」
「この家では私がチマちゃんのママなんだから、そんな他人行儀はダメよ? さぁ、ママって」
少し強引な気がするけれど、あまり悪い気はしない。
フレンドリーに暖かく接してくれるから、心地良いんだ。お母さんって、やっぱり良いな。
「ま、ママ……」
「そうそう、よく出来ました! それで、聞きたい事は?」
と、自分で逸れた話題を修正してくれた。ありがたい。
「本当にお世話になって良いんですか?」
既に一室用意してもらってるし、居候なのに至れり尽くせりだ。
「もちろんよ! どうしてそんなことを聞くのかしら?」
「その……怪しいとは思わないんですか? 大怪我をして、身寄りもない娘なんて……」
なっちゃんからどの程度説明が行ったのかはわからないけれど、どう見たって私は訳アリな娘にしか思えないだろう。
普通なら、厄介事なんか受けない方が賢明だ。
「ふふ、良いのよ。訳アリは大歓迎」
ママはそんなことお構いなしといわんばかりに、ウインクをする。
「こう見えてバリバリのキャリアウーマンなの。娘っコ一人増えたところで問題ないわ」
ビシッと決めた姿が出来る女って感じでカッコ良い、とても輝いている。
こういう部分もなっちゃんに受け継がれたんだなぁ。
「あ、ありがとうございます……!」
「んもぅ! 謙虚で可愛いんだからっ」
「おぶっ!」
残念な美人ってところもよく似ているね、うん。ふかふかだぁ。
「そこら辺にある服は適当に着ちゃって良いわ~。家のものは勝手に使っちゃって大丈夫よ。自分の家だと思って気楽にね」
「わかりました、ありがとうございます」
改めて部屋を見回す。シンプルに纏まっていて、女の子の部屋という雰囲気じゃない。
使われていなさそうだけれども、掃除はキチンとしてあった。シックなデザインの机の上には、写真立てが一つ。
「どうかしら?」
私の視線に気づき、ママは写真立てを取って見せてくれた。
小さいなっちゃんを中心に、今とあまり見た目が変わらないママと……翼君にそっくりの男の人。
「こ、この人」
見たことがある。あの花火大会の日、山の麓で出会ったおじさんだ。
おじさんとは言ったけれど、本当は若々しくて大学生くらいの年齢に見える。
「ふふ、イケメンでしょ? 私の旦那様」
「え! 旦那様!?」
ってことは、この人がなっちゃんのお父さん?
「あら、見覚えがあるの?」
「小さい頃、会ったことがあります。その日は花火大会があるから、オレ似の可愛い娘っコを見たらよろしくなって言ってました」
あの時会えなかった娘っコは、なっちゃんのことだったんだ。まさか本当に友達になれるなんて、不思議なこともあるものだ。
「そう……あの人、チマちゃんに……」
ママは一瞬だけ切なげな目をした後、取り繕うように明るく笑った。
「あっ……」
なっちゃんは二人暮らしって言ってたっけ。つまり、お父さんは既に……。
「ご、ごめんなさい、余計なことを……」
「良いのよ、謝らないで? ママはね、特別な縁を感じられて嬉しいの」
と、ママは大きな胸に手を当てた。
「特別な縁?」
「そうよ。もしかしたら、なっちゃんとチマちゃんは出会う運命じゃなかったかもしれない。けれど、あの人が縁を繋いでくれたのかもしれないって思うと、素敵じゃない?」
ママは夢見る乙女の顔をして、キラキラしていた。
出会うはずのない人間を引き合わせた縁、奇跡、必然の偶然。そういうものがあるのだとしたら……。
「とても、素敵だと思います」
「でしょ? これからもなっちゃんと仲良くしてあげてね」
「はい!」
数年越しに巡り会えたこの縁、大切にしたい。
「よしよし、良い顔してるわ」
「うおおおおお」
ママはにっこりして、私の頭をくしゃくしゃに撫でる。私はもみくちゃにされて、変な声しか出ない。
「大切な人とは、必ず特別な縁が結ばれているのよ。きっといつか、巡り会える。たとえ離れていても、ね?」
と、含みのある笑顔。
「……っ!」
きっといつか、巡り会える。一度離れても、また会えたのだから。
「それじゃあ、そろそろ行くわ。長話しちゃってごめんなさいね~」
「い、いえ! 本当にありがとうございました!」
ママは軽やかに去っていった。
もしかしたら事情を深く知っていたのかもしれないし、そうでないかもしれない。
けれど、やんわりとした助言は私に勇気をくれた。
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