白鬼

藤田 秋

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第九章 マスコットが増えるとそれなりに困る

9-6 白君ウォッチング!

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* * * * * * * *

 ハロー、わたし呉羽ちゃん。おにいに白君を取られて暇を持て余してるの。

「つーまーんーなーいーっ!」
 部屋にいてもつまらない。
 というわけで廊下に出ると、二人が道場に入って行くのが見えた。

 この呉羽ちゃんを差し置いて、面白いことをしようってのね。ほほーん、許さんぞ?
 すかさず後を追ってみたけど、扉が閉められてしまった。

 あのクソ兄貴だけずるいので、侵入を試みるが開かない。大天狗様の力を以てしても開かないってどういうこと!?
 くそ~あのおにい、何か結界とか仕込みやがったなぁ……。千里眼を使っても中が見えないし!

「もぉーっ、ちょっと見てて!」
 仕方ないので出入口付近を鴉に見張らせ、学校の宿題をする為に部屋に戻りましたとさ。

 呉羽もおにいと同じように、人間に混じって学校に行ってるんだよ。

 数学の関数ってものを習ったけど、百年くらい生きてても使ったことなかったなぁ。でも、答えを求める為の論理的思考力を身に付けるのが、教養ってヤツだよね。
 人間はそういう練習をしてるんだ、ふむふむ。

 話が逸れちゃった。これもみんな、おにいの所為だ!
 宿題なんかすぐに終わらせちゃった有能な呉羽ちゃんは、また道場に行ったのです!

「おおっ」
 そしたら、超高速で金属がぶつかり合う音がしたんだ。しゃらんって錫杖の音もしなかったし、多分おにいも刀を使ってる。

 おにいは『キャラ被りするから』って理由で主武装を錫杖にしてるけど、刀もイケるクチだ。
 もちろん、他の武器もマスタークラスで……いやいや、何で呉羽がおにい自慢しなきゃいけないんだしっ。

 それにしても、白君vsおにいかぁ。面白そう! 見~た~い~っ!

「カァ!」
「芳江ー、暇だからしりとりしよ?」
「カァ!」
 どうしようもない呉羽ちゃんは、剣戟の音をBGMに鴉としりとりを始めました。芳江、なかなかやりおる。

「カァ」
「『い』かぁ。えっと……」
 千巡目が回ってきたとき、急に剣の音が止んだ。おっ、これは! と思って影に隠れてみる。
 けれど、なかなか出てこない。あれれ?

『お、おおぉっ、そろそろ服ヤバイ! 服マジヤバイ!』
『迅速に服貸せや』
『それ、人にモノを頼む態度じゃねーよな?』
 白君の声が少し低くなっていた。
 低いって言っても、ソプラノからアルトになったくらいで、女声の域を越えていない。

 会話からして、白君の体格が急成長したってこと?

『こんなことがあろうかと、こちらを用意しておきました!』
 おにい、口で『デデン』って効果音つけてる。恥ずかしいからやめてほしい。

『天狗の衣装と被るな』
『お揃いだネっ!』
『死ッね』

『オレだって野郎とペアルックなんざ嫌だね。女の子がイイ』
『じゃあ何故これを用意した?』
 おにい、アホだなぁ。それに対して、白君のツッコミはキレッキレで痺れる!

 会話から察するに、お兄が用意したのは山伏装束かな。
 白君の山伏装束見たい。めっちゃ見たい! この扉は何で開かないの?

『髪紐あるぜー? ポニテにする?』
『断る。っつーかそれ、呉羽のだろ?』
『あはっ、バレた?』
 おにいてめえ、また呉羽のアクセ持っていくなんて。いい加減にしろっつーのほんと。
 でも、白君の髪を結うのに使うんだったらオッケー。

『たまにはポニテもいーだろぉ? 需要だよ需要。オレはいらないけど』
 おっ、空気読んだ。あのダメ兄貴もたまには役に立つね!

『俺もいらねーよ』
 つれないなぁ、白君。

『えーっ、こういうギャップはいいかもよー? 千真ちゃんもドキッとしちゃうぜ!』
『あいつは関係ねーだろ』
 ……ちさな? ちさなって誰だちさなって! まさか、白君の彼女……?

「くーちゃん、何してるの?」
「なっちゃん!」
 偶然通りかかったのは、イトコのなっちゃん。
 呉羽に負けず劣らずな美人で、誰もが振り返る完璧なプロポーションの持ち主。でも心はイケメンだよ! 今日は本家に来てたんだぁ。

「ちさなって誰か知ってる!?」
「ちさな? あー、チマのことね!」
 なっちゃんは少し考えた後、心当たりがあるのか、にやりと笑った。知ってたのか!

「あたしのオアシスよ!」
 デデン! ……はっ、おにいのが移っちゃった……やだ、キモ。

「お、オアシス?」
 なっちゃん。キャラ、どうしたの?

「チマはね、とっても可愛くて、お人形さんみたいなの」
「へ、へぇ……」
 やばい。恍惚の表情を見せたかと思いきや、真顔で言ってる。
 何か怖い。なっちゃん本気でどうしたの? キャラ迷走した?

「そ、そうだ! 白君との関係は!?」
 呉羽が聞きたかったのはそこだった。

「あ?」
 なっちゃんはギロリと目を剥き、般若のような顔をした。こわっ。鬼の白君より鬼っぽい顔してる。

黎藤あいつはねぇ、変態なのよ」
「まじで!?」
 ヘンタイ? 白君って硬派キャラじゃなかったっけ? おにいと比べると、雲泥の差じゃない?

「チマに抱き付かれたり、チマにバックドロップされたり、チマに頭突きされたり、チマに正拳突きされたり、チマをお姫様抱っこしてるのよ、ムキーッ!」
 なっちゃん、それ変態やない、ドMや。

 ……にしても、あの白君が好き勝手やられるなんて。最初と最後に関しては何? ヒロインみたいじゃん!

 それに、悉くボディタッチを拒否る彼が、ここまでスキンシップを許すなんて……なんて馴れ馴れしい女なの!

「ゆ、許すまじ……!」
「誰が許せねぇんだ?」
「ほんっ!?」
 いつの間にか扉が開いており、白君が顔を覗かせていた。
 最後に見たときより、大分大人びている。
 丸みを帯びていた目が切れ長になっていた。可愛いとカッコいいの両立ね。

「あんたに決まってるじゃない」
 と、なっちゃん。

「あっそ。それより、会話聞こえてんぞ」
 白君はそう残すと、扉を静かに閉めてしまった。全く意に介していないようだった。

 『邪魔だうるさい』と言われているようで。ストレートに言わない辺り、優しいのか意地悪なのかわからない。
 どっちもおいしいからオッケーでっす。

「相変わらず無愛想ね、あいつ」
「だがそれがいいっ!」
「えっ」
 なっちゃん、何で引くの?



 しょうがないから適当に暇を潰してると、あっという間に陽が傾いていた。
 人間の作る動画って面白いね。これが文化ってやつか。
 そうだ、お風呂入っちゃお!

 風呂場に行くと、扉には鍵が掛かっており、既に誰かが入っていた。
 呉羽より先に入るなんて良い度胸じゃない! 覗いてやるもん! 千里眼、発動!

 扉を凝視すると……おっ、見えてきた見えてきた。あれは……。

「白君だっ」
 自分の頬が弛むのを感じた。
 脱衣場に白君とおにいがいる。白君は更に成長しており、おにいと同じ位の背丈までになってる。あと十センチくらいかなぁ。

「これは……ウォッチングするしかない……!」
 というわけで、白君のスケベボディを舐め回すようにウォッチングします。
 男二人で何話すんだろ? 身も心も赤裸々トーク? 恋バナ? まさか、エグい下ネタトークか!?

『あー、沁み渡るわ~。女の子がいればサイコーだったんだけど』
『同意しかねる。それより俺たちの風呂シーンとか誰得だ』
 呉羽得だよ!
 ゴリラまでは行かないムキムキ感、モテ体型ですよあんた! 脱いだらすごいヒトですよ! 抱いていいですか!

 でもこれ以上成長したらゴリラ突入しそう。いや大丈夫、いけます。

『つーか、お前だけその姿ズルい』
『オレはいーの!』
 おにいはいつの間にか人間の姿になっていた。翼が無い分、楽なんだろうね。一方、白君は髪が長くて、洗うの大変そう。

『お前、肌白過ぎて引くんだけど』
『うるせぇな、生まれつきこういう色なんだよ』
 白君が白くなかったら白君じゃないよ、設定が破綻するよ。

『思い切って焼かね?』
『殺す気かてめぇ』
『うそぴょん』
 うわ兄貴きめぇ。風呂でも通常運転だなぁ、このコンビ。

『色白のフツメンなんてモテねぇよな』
『黙れ。可もなく不可もなくの何が悪い』
 気にしてる。白君超気にしてる……可愛い!
 大丈夫、白君はかっこいいよ。世間の女が魅力に気付いてないだけなんだよ。呉羽はわかってるもん!

『大丈夫、千真ちゃんは顔で選ばねぇよ!』
『何であいつが出てくるんだ』
 そうよそうよ! 白君ファンの第一人者は呉羽だもん! 何で、ちさなが……!

『べっつにー?』
 クソ兄貴のわざとらしい顔が腹立つッ!

『あ! じゃあ、もし千真ちゃんに彼氏できたらどーすんの?』
『潰す』
 即答した! 光の速さで答えた! 口以外の顔のパーツが微動だにしないのが怖い。

『こっわ! お父さんかお前!』
『相手がまともな男だったら命は取らん』
 お父さんは否定しないんだ。
 ってゆーか、あんたらは全国のお父さんを殺し屋か何かと勘違いしてるんじゃないの?
 うちのお父さんはまぁ……物騒だけど。

『まともな奴じゃないなら殺すって思考がどうにかしてるぜ、お父さん』
 だから、おにいはお父さんを何だと思ってるの?

 でも、いつも冷静沈着なのに狂気に満ちてる白君……良いぞコレ、おいしいぞ!
 ただ、今のところ『ちさな』に関してだけ、なのがちょっとなぁ。

『あ? 覚悟がなってねぇ彼氏に娘をやる父親はいねぇだろ。彼氏とか生きる価値ねぇだろ。死ね』
『お父さん、ちょっと私怨入ってね?』
 白君、いつもより饒舌じゃね? 何なの? 一人娘を猫可愛がりしてたお父さんなの? 結婚式のスピーチで泣くの?

『冗談だが』
『マジ顔で言っといてそれはねーだろ』
 呉羽も冗談には聞こえなかったよ。眼力だけで殺戮兵器になりそうだったもん。

『……ただ、俺はいつまでもあいつの傍には居られない』
 その声は少しだけ寂しそうだった。
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