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第三章 ヒッキーじゃなくてインドア派
3-5 主人公は爆発に巻き込まれても平気な法則
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* * * * * * * *
「……あいつ」
オレはぼやきながら長身の優男の背中を見送る。細い体格のためか、あいつの背中は凛々しくは見えなかった。
その反面、余裕と自信を兼ね備えている。なんてタノモシイ奴。
「っと!」
不意にずり落ちそうになった千真ちゃんを抱え直す。
彼女の軽くて小さな体は、ぴくりとも動かない。恐らく、術で眠らされているのだろう。
千真ちゃんが眠っている間に片付けようって魂胆か?
ふと、千真ちゃんを見る珀弥の優しい目を思い出す。
オレが観察したことのないあいつの表情を、この少女は引き出したってワケか。
ふーん、なるほど。興味深い。女には……いや、他人には無関心な珀弥がねぇ。よほど惹かれるものがあるのだろう。
つーか、大事な女を俺なんかに預けていいのかよ。ちょっと信用し過ぎなんじゃねーの?
まだ死にたくはないんで、手を出すつもりはさらさらないけどよ。
「はてさて……」
それにしても、何をやらかすつもりだ? あいつは此処からどんどん離れていくし、蛾さんたちは近づいてくるし。
あと、この結界。防御壁が必要な程、危険な術を使うつもりなのか? あいつ、弱ってるクセによく無茶をしやがりますねぇ。
商店街の方向から一気に押し迫ってくる蛾の大群と、オレたちから少し離れたところの田んぼ道でぽつんと立っている珀弥。
あいつは札を取り出すわけでもなく、ただじっと立っていた。
蛾は珀弥目がけて飛んできている。おーい、すぐ近くまで来てるぞ。なにボーッとつっ立ってるんだよ。
蛾の群は珀弥の上で一旦旋回し、急降下する。そして珀弥は、ほぼ全ての蛾に覆われ、姿が見えなくなってしまった。
あいつはあっさりと、蟲の大群に飲まれてしまったのだ。
「おいおいマジかよ~」
……なんて心配する必要は無かった。
次の瞬間、凄まじい爆発音と共に、焦げた蛾が四方八方へ一気に飛び散ったからだ。
爆風は百メートル以上は離れた場所にいるオレたちのところまで及び、結界に叩きつけられた蟲たちは粒子となって消え失せる。
ああ、空が青い。
本当に、あっさり終わったな。再び一人佇む男は、あの数の蟲を一瞬で片付けてしまった。
振り返った珀弥は、何事も無かったかのようにこちらへ向かってくる。近づくにつれて、あいつの表情や身なりがよく見えてきた。
済ました顔でいるが、さりげなく火傷はしてるし、服もボロボロになってる。
お前も爆発に巻き込まれてんじゃねーか!
「無傷だったら格好がついたのにな」
「そんな、少年漫画じゃあるまいし。リアリティーに欠ける」
珀弥は引き締めた表情を緩め、ふっと笑った。
もし少年漫画だったら、まず爆発に巻き込まれてないか、巻き込まれても無傷で肩に埃さえ付いていなかっただろう。
あの爆発の中、軽い火傷程度で済む珀弥も普通に考えてリアリティー皆無である。
「無ぇから」
「えー」
珀弥は不満げに口を尖らせた。
そして、オレは見た。あいつの顔にある火傷が、少しずつではあるが目視出来るスピードで治っていくところを。
「……」
ふーん。陽の光に極端に弱くなったり、人間の姿でも異常に頑丈なのは……。
「僕はまだ、人間だよ」
視線に気付いた珀弥は、独り言のようにぽつりと言い、結界を形成する札を剥がした。結界は存在が保てなくなり、瞬時に消滅する。
「お前」
「うーん、本当はいつまでも翼なんかに預けたままってのは、嫌なんだけどなぁ」
その視線の先には、今だに眠っている千真ちゃんの姿があった。
あぁ。また、この目だ。
「何だ? 今度は返せとか言うのか?」
「言わないよ。千真さんに穢れが付いちゃうからね」
冗談混じりで返すと、珀弥は自分の血が付いている手をギュッと握り自嘲する。
あいつが千真ちゃんに向ける視線には、慈愛と悲哀が入り交じっていた。
「だから、家までは彼女を頼むよ」
「バーカ」
「あぁ、わかってる」
珀弥は反論もせず、珍しく笑いながら受け入れた。あとで倍にして返ってきそうで怖いのだが。
「お前何で一人で戦ったんだよ。オレも行けば怪我もしなくて済んだだろ?」
少なくとも珀弥はあんな術を使わなくて済んだはずだ。
オレだってこんな開けたところなら、広範囲まで攻撃するのはお茶の子さいさいだ。
「え、心配してるの? 気持ち悪っ」
「オレが野郎の安否を気にするとでも?」
「あ、うん。君はそういう奴だ」
珀弥は『はいはい』と息をついた。
「……千真さんを地べたに寝かせたく無かったからだよ」
それに続くセリフを待っていたが、どうやら締め切ったらしい。これ以上の言葉は無かった。
「それだけ?」
「それだけって何だよそれだけって。立派な理由じゃないか」
全く、こいつは思考が極端だ。だからこそ面白い。
「はははははは! 立派、ご立派だぜ!」
「何で笑うんだよ」
「べっつにぃ?」
「あっ、おい待て!」
オレは千真ちゃんを抱えて走りだし、珀弥はそれを追い掛けた。さっきと逆だな、この状況。
*
「いててて」
千真ちゃんを降ろした瞬間にエルボーは無ェだろバカが。くたばれ。
ってなわけで、オレは眠っている千真ちゃんと共に、客間で待機している。
珀弥の馬鹿は着替えてくるらしい。あの身なりで千真ちゃんの前には出れないだとよ。当たり前だが。
「のー、帰ってきたか、翼とやら」
障子から金髪のガキがひょっこりと姿を現した。あれはこの神社に棲み憑いている妖狐だ。
わざわざガキの姿に変化しているが、実際はオレの十倍以上は生きてるジジイらしい。
「お、狐珱じゃねーか。久しぶりの登場だな」
「のぅ……。ってじゃかましい! 余計なお世話じゃ!」
奴は耳をピンッと立て、尻尾を床に何回も叩きつけた。
登場人物の中では早いうちに登場したのに、出番が少ないことに不満を抱えているのだろう。
「まぁ落ち着けよ、油揚げあげるから。な?」
「わーい!」
油揚げをあげると、ただの子供のように喜び、さっさとどこかへ行ってしまった。何しに来たんだあいつは。
「お待たせ。狐珱が来てたの?」
入れ替わりで珀弥が部屋に入ってきた。いつもの着物姿だ。血が洗い流された白い肌には、傷ひとつ残っていなかった。
「あぁ。何しに来たのか知らねぇけど」
「とりあえず登場しておきたかったんじゃないの?」
「なるほど」
珀弥はゆっくりとオレの正面に腰を下ろし、息をついた。
「その、悪かったな」
「え……どうしたの。翼が謝るとか気持ち悪い。今日は六割増しで気持ち悪い」
「お前ほんっと失礼だよな」
「で、何に謝ったの?」
不思議そうに、珀弥は首を傾げた。こいつホント良い性格してるわ。
「いや、無理矢理外に連れ出してさ。お前、キツかったんじゃねーの?」
「別に平気だよ。これからまた学校に通うんだし、今日出ようが明日出ようが、変わらないよ」
「ま、そうだな」
珀弥は意に介さない、という様子だった。そういう奴だよな、知ってた。
「だけどよ、出掛けなければあんな面倒な駆除とかせずに済んだだろ」
「そりゃあね」
「ほら」
「だけど——」
と、意味深な笑みを浮かべた。
「これも、今日出ようが明日出ようが、大して変わらないんだよ」
「ナ、ナンダッテー」
「おい、棒になってんぞ」
言い換えれば『いつでも襲われる』ってことで、更に言い換えれば、
「まーさか、狙われてるとか言うつもりか?」
「話が早いね」
マジかよ。
「どーゆーこった?」
「僕は今日を含めて昼間に外で二回、宵に境内で一回、妖怪を滅したんだよ。それが、ここ数日の話」
「ハァン?」
それは異常であった。
妖怪は基本的に人目を避けて生きる者であり、昼間に出てくることは殆ど無い。
それに、神社というものは神聖なる土地であり、本来はそこら辺の妖怪などがおいそれと侵入出来る場所ではないのだ。
ただし例外もある。人に近い形をした妖怪は人間社会に馴染んで昼でも活動してることもあるし、力の強い奴は神社に入れることもある。
だが、例外は例外。普通はそんなこたぁない。何より短期間で頻繁に襲われることが、一番の異常であるのだ。
「お前、まさか15にでも……」
「誰が殺し屋に狙われてるっつったよ?」
珀弥は凄味のある笑顔でオレを制した。
コイツほど素敵な笑顔をする奴は見たことが無い。
「それに、狙われてるのは僕じゃなくて……」
珀弥は目の前に横たわっている小さな女の子に視線を移した。
「千真ちゃん?」
「うん。皆、彼女を狙ってきたんだよ。不自然な程にさ」
奴はスっと目を細めた。
「霊媒体質だからじゃないのか?」
霊媒体質とは、幽霊やら妖やらを引き付ける体質のことだ。オレが千真ちゃんを見て最初に思ったことは、霊力が強過ぎるということだった。
霊力を糧にする化け物共には、さぞや美味そうな餌に見えたことだろう。
「微妙に違うと思う。確かに、千真さんはトップクラスの霊媒体質だよ。だけどね、霊力自体はまだ弱いんだよ」
「何でだ? 普通に強いと思うけど」
「それは僕が近くに居るからだよ」
「あぁ、そうか」
霊力の強い奴が近くにいると、それに影響されて自分も霊力が強くなる。霊媒体質特有の能力だ。
「……日に日に力が強くなってきてるけどね」
珀弥と一緒に暮らしてるもんな、当たり前か。このスピードということは……。
「ふーん、霊力の型が一緒なんだな。カラダの相性は抜群ってか?」
「誤解を招く言い方は本当にやめて」
霊力なんて不思議パワーは目に見えないものだが、その中でも性質が色々とわかれていて、型ってモンがある。
型が近い人間同士は霊力の受け渡しが容易らしい。
「じゃあさ、他に原因は心当たりあんの?」
「さぁ?」
オレは盛大にずっこけた。
「……あいつ」
オレはぼやきながら長身の優男の背中を見送る。細い体格のためか、あいつの背中は凛々しくは見えなかった。
その反面、余裕と自信を兼ね備えている。なんてタノモシイ奴。
「っと!」
不意にずり落ちそうになった千真ちゃんを抱え直す。
彼女の軽くて小さな体は、ぴくりとも動かない。恐らく、術で眠らされているのだろう。
千真ちゃんが眠っている間に片付けようって魂胆か?
ふと、千真ちゃんを見る珀弥の優しい目を思い出す。
オレが観察したことのないあいつの表情を、この少女は引き出したってワケか。
ふーん、なるほど。興味深い。女には……いや、他人には無関心な珀弥がねぇ。よほど惹かれるものがあるのだろう。
つーか、大事な女を俺なんかに預けていいのかよ。ちょっと信用し過ぎなんじゃねーの?
まだ死にたくはないんで、手を出すつもりはさらさらないけどよ。
「はてさて……」
それにしても、何をやらかすつもりだ? あいつは此処からどんどん離れていくし、蛾さんたちは近づいてくるし。
あと、この結界。防御壁が必要な程、危険な術を使うつもりなのか? あいつ、弱ってるクセによく無茶をしやがりますねぇ。
商店街の方向から一気に押し迫ってくる蛾の大群と、オレたちから少し離れたところの田んぼ道でぽつんと立っている珀弥。
あいつは札を取り出すわけでもなく、ただじっと立っていた。
蛾は珀弥目がけて飛んできている。おーい、すぐ近くまで来てるぞ。なにボーッとつっ立ってるんだよ。
蛾の群は珀弥の上で一旦旋回し、急降下する。そして珀弥は、ほぼ全ての蛾に覆われ、姿が見えなくなってしまった。
あいつはあっさりと、蟲の大群に飲まれてしまったのだ。
「おいおいマジかよ~」
……なんて心配する必要は無かった。
次の瞬間、凄まじい爆発音と共に、焦げた蛾が四方八方へ一気に飛び散ったからだ。
爆風は百メートル以上は離れた場所にいるオレたちのところまで及び、結界に叩きつけられた蟲たちは粒子となって消え失せる。
ああ、空が青い。
本当に、あっさり終わったな。再び一人佇む男は、あの数の蟲を一瞬で片付けてしまった。
振り返った珀弥は、何事も無かったかのようにこちらへ向かってくる。近づくにつれて、あいつの表情や身なりがよく見えてきた。
済ました顔でいるが、さりげなく火傷はしてるし、服もボロボロになってる。
お前も爆発に巻き込まれてんじゃねーか!
「無傷だったら格好がついたのにな」
「そんな、少年漫画じゃあるまいし。リアリティーに欠ける」
珀弥は引き締めた表情を緩め、ふっと笑った。
もし少年漫画だったら、まず爆発に巻き込まれてないか、巻き込まれても無傷で肩に埃さえ付いていなかっただろう。
あの爆発の中、軽い火傷程度で済む珀弥も普通に考えてリアリティー皆無である。
「無ぇから」
「えー」
珀弥は不満げに口を尖らせた。
そして、オレは見た。あいつの顔にある火傷が、少しずつではあるが目視出来るスピードで治っていくところを。
「……」
ふーん。陽の光に極端に弱くなったり、人間の姿でも異常に頑丈なのは……。
「僕はまだ、人間だよ」
視線に気付いた珀弥は、独り言のようにぽつりと言い、結界を形成する札を剥がした。結界は存在が保てなくなり、瞬時に消滅する。
「お前」
「うーん、本当はいつまでも翼なんかに預けたままってのは、嫌なんだけどなぁ」
その視線の先には、今だに眠っている千真ちゃんの姿があった。
あぁ。また、この目だ。
「何だ? 今度は返せとか言うのか?」
「言わないよ。千真さんに穢れが付いちゃうからね」
冗談混じりで返すと、珀弥は自分の血が付いている手をギュッと握り自嘲する。
あいつが千真ちゃんに向ける視線には、慈愛と悲哀が入り交じっていた。
「だから、家までは彼女を頼むよ」
「バーカ」
「あぁ、わかってる」
珀弥は反論もせず、珍しく笑いながら受け入れた。あとで倍にして返ってきそうで怖いのだが。
「お前何で一人で戦ったんだよ。オレも行けば怪我もしなくて済んだだろ?」
少なくとも珀弥はあんな術を使わなくて済んだはずだ。
オレだってこんな開けたところなら、広範囲まで攻撃するのはお茶の子さいさいだ。
「え、心配してるの? 気持ち悪っ」
「オレが野郎の安否を気にするとでも?」
「あ、うん。君はそういう奴だ」
珀弥は『はいはい』と息をついた。
「……千真さんを地べたに寝かせたく無かったからだよ」
それに続くセリフを待っていたが、どうやら締め切ったらしい。これ以上の言葉は無かった。
「それだけ?」
「それだけって何だよそれだけって。立派な理由じゃないか」
全く、こいつは思考が極端だ。だからこそ面白い。
「はははははは! 立派、ご立派だぜ!」
「何で笑うんだよ」
「べっつにぃ?」
「あっ、おい待て!」
オレは千真ちゃんを抱えて走りだし、珀弥はそれを追い掛けた。さっきと逆だな、この状況。
*
「いててて」
千真ちゃんを降ろした瞬間にエルボーは無ェだろバカが。くたばれ。
ってなわけで、オレは眠っている千真ちゃんと共に、客間で待機している。
珀弥の馬鹿は着替えてくるらしい。あの身なりで千真ちゃんの前には出れないだとよ。当たり前だが。
「のー、帰ってきたか、翼とやら」
障子から金髪のガキがひょっこりと姿を現した。あれはこの神社に棲み憑いている妖狐だ。
わざわざガキの姿に変化しているが、実際はオレの十倍以上は生きてるジジイらしい。
「お、狐珱じゃねーか。久しぶりの登場だな」
「のぅ……。ってじゃかましい! 余計なお世話じゃ!」
奴は耳をピンッと立て、尻尾を床に何回も叩きつけた。
登場人物の中では早いうちに登場したのに、出番が少ないことに不満を抱えているのだろう。
「まぁ落ち着けよ、油揚げあげるから。な?」
「わーい!」
油揚げをあげると、ただの子供のように喜び、さっさとどこかへ行ってしまった。何しに来たんだあいつは。
「お待たせ。狐珱が来てたの?」
入れ替わりで珀弥が部屋に入ってきた。いつもの着物姿だ。血が洗い流された白い肌には、傷ひとつ残っていなかった。
「あぁ。何しに来たのか知らねぇけど」
「とりあえず登場しておきたかったんじゃないの?」
「なるほど」
珀弥はゆっくりとオレの正面に腰を下ろし、息をついた。
「その、悪かったな」
「え……どうしたの。翼が謝るとか気持ち悪い。今日は六割増しで気持ち悪い」
「お前ほんっと失礼だよな」
「で、何に謝ったの?」
不思議そうに、珀弥は首を傾げた。こいつホント良い性格してるわ。
「いや、無理矢理外に連れ出してさ。お前、キツかったんじゃねーの?」
「別に平気だよ。これからまた学校に通うんだし、今日出ようが明日出ようが、変わらないよ」
「ま、そうだな」
珀弥は意に介さない、という様子だった。そういう奴だよな、知ってた。
「だけどよ、出掛けなければあんな面倒な駆除とかせずに済んだだろ」
「そりゃあね」
「ほら」
「だけど——」
と、意味深な笑みを浮かべた。
「これも、今日出ようが明日出ようが、大して変わらないんだよ」
「ナ、ナンダッテー」
「おい、棒になってんぞ」
言い換えれば『いつでも襲われる』ってことで、更に言い換えれば、
「まーさか、狙われてるとか言うつもりか?」
「話が早いね」
マジかよ。
「どーゆーこった?」
「僕は今日を含めて昼間に外で二回、宵に境内で一回、妖怪を滅したんだよ。それが、ここ数日の話」
「ハァン?」
それは異常であった。
妖怪は基本的に人目を避けて生きる者であり、昼間に出てくることは殆ど無い。
それに、神社というものは神聖なる土地であり、本来はそこら辺の妖怪などがおいそれと侵入出来る場所ではないのだ。
ただし例外もある。人に近い形をした妖怪は人間社会に馴染んで昼でも活動してることもあるし、力の強い奴は神社に入れることもある。
だが、例外は例外。普通はそんなこたぁない。何より短期間で頻繁に襲われることが、一番の異常であるのだ。
「お前、まさか15にでも……」
「誰が殺し屋に狙われてるっつったよ?」
珀弥は凄味のある笑顔でオレを制した。
コイツほど素敵な笑顔をする奴は見たことが無い。
「それに、狙われてるのは僕じゃなくて……」
珀弥は目の前に横たわっている小さな女の子に視線を移した。
「千真ちゃん?」
「うん。皆、彼女を狙ってきたんだよ。不自然な程にさ」
奴はスっと目を細めた。
「霊媒体質だからじゃないのか?」
霊媒体質とは、幽霊やら妖やらを引き付ける体質のことだ。オレが千真ちゃんを見て最初に思ったことは、霊力が強過ぎるということだった。
霊力を糧にする化け物共には、さぞや美味そうな餌に見えたことだろう。
「微妙に違うと思う。確かに、千真さんはトップクラスの霊媒体質だよ。だけどね、霊力自体はまだ弱いんだよ」
「何でだ? 普通に強いと思うけど」
「それは僕が近くに居るからだよ」
「あぁ、そうか」
霊力の強い奴が近くにいると、それに影響されて自分も霊力が強くなる。霊媒体質特有の能力だ。
「……日に日に力が強くなってきてるけどね」
珀弥と一緒に暮らしてるもんな、当たり前か。このスピードということは……。
「ふーん、霊力の型が一緒なんだな。カラダの相性は抜群ってか?」
「誤解を招く言い方は本当にやめて」
霊力なんて不思議パワーは目に見えないものだが、その中でも性質が色々とわかれていて、型ってモンがある。
型が近い人間同士は霊力の受け渡しが容易らしい。
「じゃあさ、他に原因は心当たりあんの?」
「さぁ?」
オレは盛大にずっこけた。
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