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【40】食堂で出会った男子

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 目を覚ますともうすでに辺りは薄暗くなっており、枕元で本を読んでいたリーシェもいつの間にか寝ていたようで、すーすーと寝息を立てている。

「……何時だ?」

 サイドテーブルの方に目をやると、時計の針が18時7分を指している。

「しっかりしなさいよ~……むにゃむにゃ……」

 寝言を呟きながら気持ちよさそうに寝ているリーシェを起こさないようにゆっくりベッドから降りて、静かに部屋を出た。

 寮の廊下では数人の生徒たちが何かを話しているようであったが、リック以外の知り合いはいないため特に気にすることもなく食堂へと向かう。

 食堂では夕食にしては少し早いこともあって、生徒が十数人いるだけであった。

「……どれにしようかな」

 夕飯を食べるために食堂に来たのはいいのだが、どれを食べようか悩ましい所であった。

(肉か魚か……。それとも、最近食べてないし野菜メインにするか……)

 悩んだ結果、直感で肉料理を選んだ。料理を受け取った後は適当に空いてる席に座る。誰かと話すこともなく黙々と1人で食べるのは寂しいものであった。それに、何もせずに食べているのも手持ち無沙汰なので、行儀が悪いとは思いつつも持ってきていたスキル指南書を読みながら食事を取る。

「……ふーん。なるほどなぁ……」

 スキルについての説明を見ているだけでも楽しいもので、このスキルを使うとどんな風なんだろうなぁと妄想が広がる。

「お隣よろしいですか?」

 突然声を掛けられて、驚きのあまりフォークを落としそうになりながらも声のした方を向いた。

「え……」

 声を掛けてきた人物の顔を見た瞬間、思わず声が漏れてしまう。

「お久しぶりです。同じ学校に通えましたね」

 にこやかに微笑みながらそう言う人物は、筆記試験の時に隣に座っていた謎の男子であった。

「失礼しますね」

「え、ちょ、ちょっと!!」

 その男子は俺の制止を聞かずに隣の席に座って食事を食べ始めた。その様子にあっけにとられていると、その男子は思い出したかのようにこちらを向いて話しかけてくる。

「そういえば、お久しぶりです。同じ学校に通えましたね」

 そう言って再びその男子は食事に戻ったが、

「いやいや!! ちょっと待ってくれ!!」

 状況が飲み込めなかった俺は詰め寄った。結構強めの口調で静止させたのだが、その男は特に表情を変えることなく飄々ひょうひょうとしている。

「あぁ、そういえば名乗っていませんでしたね。フェン・ネンバーと申します。よろしくお願いしますね」

 フェン・ネンバー……。もちろん試験会場以前に会ったことも無ければ、聞いたことの無い名前だった。

「……どうしてあの時、一緒の学校に通えるといいですねって言ってきたんだ?」

 この男の存在はもちろんのこと、あの時に何故そんなことを言ったのかということが一番気になっていた。試験の時は変な奴だなと思っただけで特に気にはしていなかったのだが、実際に同じ学校に通っているという事実に恐怖を覚える。

「あー、別に特別な理由なんてありませんよ。あの時たまたま隣に座っていたのが君だっただけで」

 その言葉が本当なのか、それとも何かを隠しているのかは表情からは読み取れなかった。

「ところで、君の名前をお教えいただけますか?」

「……シェイド・シュヴァイス」

「シェイド君ですね。これからよろしくお願いします」

 そう言いながらフェンは手を差し出してくる。この手を握り返していいものかと思いつつも、俺の思い過ごしだった場合、この手を握り返さないのはかなりの失礼になってしまうため、恐る恐る握り返した。

 その後は特に何かを話すわけでもなくお互いに黙々と夕食を食べていたのだが、やっぱりどうしても気になってしまい、食事の手を止めてフェンの方に体を向ける。

「さっきたまたま隣に座ったのが俺だったって言ってたけど、本当にそれだけなのか?」

 そう尋ねつつ、コッソリ眼帯に魔力を流し込んだ。

「えぇ、本当にたまたまですよ。だって、あの時はシェイド君の名前すら知らなかったんですよ? それに――――」

 話を聞きながら、フェンのステータスボードを確認する。

――――――――――――――――――――――――――――――
名前:フェン・ネンバー Lv.4 特性:機械技師

HP:50/50 MP:50/50 力:8 素早さ:10 器用さ:19

水球ウォーターボール 魔力操作 隠蔽術 ……
――――――――――――――――――――――――――――――

(これは……)

 ステータスボード上の『隠蔽術』という文字に目が止まった。何とも怪しいその文字に不信感を覚えるも、これだけで判断するのは良くないと考え、フェンの話を聞くことにした。

 話してみると意外と普通の奴だなという印象だった。だけど、やっぱり詐称術という文字が頭にちらつく。そんなことで人を判断してはいけないとは思うが、これまでの行動が怪しかったためどうしても信用しきれない部分があった。

「それにしても、シェイド君は勉強熱心なんですね」

 フェンが指さす方を見ると、そこにはスキル指南書があった。

「あー、まぁ……ね。スキルとか魔法とかを習得するのが面白くて時間があれば勉強してるんだよ」

「努力家ですね。シェイド君の特性は何だったんですか?」

 その言葉を聞いた瞬間、ついにこの質問が来たかと頭の中で様々な思考が駆け巡る。誤魔化すべきか、正直に話すべきか、正直に話したとしてどう思われるんだろう。

 色々考えた結果、

「俺は……。特性が貰えなかったんだ」

 正直に話すことにした。

「え……」

 その言葉を聞いたフェンは初めてその表情を崩した。俺のことを見下しているのか、哀れに思っているのかはその表情からは読むことができなかったが、驚いているというのは分かる。

「それは……、すごいですね!! それじゃあ――――」

 先ほどのまででは考えられないほど饒舌じょうぜつになったフェンは次々と質問をしてくる。その様子に戸惑いながらも答えていると、いつの間にか食堂が閉まる時間になってしまい、食堂の職員がそのことを伝えに来た。

「あぁ……。まだまだ聞きたいことがあったのですが、仕方ありませんね」

 フェンは立ち上がると、空いた食器を乗せたトレイを手に持った。

「今日はありがとうございました。とても楽しい時間を過ごさせていただきました。また会いましょう」

 そう言って、フェンは去っていく。その後ろ姿を眺めながら、俺も帰る準備をする。

(変な奴だったなぁ……)

 そんなことを考えながら、トレイを職員に渡すと食堂を後にした。
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