私を支配するあの子

葛原そしお

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第十話⑤

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 次の日も私は呼び出された。
 私は胸と股の間に穴の空いたあの下着を着させられた。
 それからダリアちゃんの部屋のベッドの上で、両手と両足首をそれぞれに拘束され、大の字になって寝かされていた。六月も末になり、部屋には冷房が効いていて、股や胸の先だけでなくお腹も冷えた。
 拘束具は内側にクッションのついた、ピンク色のベルトのような形をしていた。それを両手足首に取りつけられた。そのベルトの留め具には紐がつながれていて、それはマットレスの下を通して四隅から伸びている。
 クロキさんに拘束された時よりも緩く、肘や膝を曲げたりすることはできるけれど、拘束を解こうと、もう一方の手に触れることはできなかった。
「それじゃお姉ちゃん。私たち、少し出かけてくるから。待っててね。マリーちゃん、留守番よろしく。お姉ちゃんと遊んでてもいいよ」
「わかった。あと、炭酸とポテトチップス。炭酸は炭酸強いやつ」
 マリーちゃんの注文に、ダリアちゃんが顔をしかめる。
「映画を見るんじゃないんだから……」
 それをエリザちゃんが取りなす。
「まあ同じようなものだから。買ってくるね」
「よろしく」
 エリザちゃんとダリアちゃんは、私とマリーちゃんを残して出て行った。
 私はどうすることもできず、部屋の中を見回すか、天井を見ているしかなかった。
 マリーちゃんはソファに座って、テレビを見ていた。何かアニメを見ているようだった。首をあげれば少しは見ることができたけれど、斜めになっていて何を見ているのか分からなかった。
 エリザちゃんはマリーちゃんに、私と遊んでていいと言ったけれど、マリーちゃんは私に興味がないようで、私の方を見向きもせず、ずっとテレビを見ていた。
 ダリアちゃんやマリーちゃんは、エリザちゃんの命令がなければ、私に対して何かすることはない。
 ただ私はマリーちゃんのことも怖かった。ダリアちゃんはエリザちゃんに嫌々従っている感じがした。私のように何か弱みを握られているのかもしれない。しかしマリーちゃんは、エリザちゃんに怯えている様子はなく、むしろ気が合っているようだった。
 それでもこの状況をどうにかするには、彼女たちの関係や、エリザちゃんの目的を知る必要があった。私に姉になるように、エリザちゃんは求めてきたけれど、それが本当の目的とは思えなかった。
 ただ私のことをもてあそび、その様子を楽しんでいるだけだったら、どうしようもない。その場合は、子供の手に捕まった羽虫のように、その羽と手足をもがれて、息絶えるまで凌辱されるかもしれない。
 何にせよ、このままいいようにされていたら、私はどうなってしまうのか分からない。
 私はマリーちゃんから、少しでも情報を聞き出すことにした。
「あの、マリーちゃん……」
「何ですか? エリザちゃんのお姉さん」
 エリザちゃんは姉妹ごっこを、彼女の友達にも徹底しているようだった。
「その、お姉さんっていうのだけど……」
 マリーちゃんはソファに座ってテレビを見たままで、ベッドに拘束された私の方を見向きもしなかった。
「エリザちゃんは、どうしてこんなことをするの……?」
「家族がほしいから」
 それがどういう意味なのか、どうしてなのか分からない。
「どうしてエリザちゃんは、家族がほしいの?」
「家族がいないから」
「え? でも、エリザちゃんにも家族がいるでしょ?」
「あれは家族じゃない」
 やはりエリザちゃんの家庭は複雑なようだった。それでこんなことをする子供になってしまったのか。
「エリザちゃんは、家族と仲が悪いの?」
 それにマリーちゃんは答えてくれなかった。
 しばらく黙って待っていたけれど、答えてくれそうにないので、話題を変えることにした。
「マリーちゃんは、どうしてエリザちゃんの言うことを聞くの?」
 もしも彼女も何か弱みを握られているのなら。その弱みが分かれば、私たちは助け合うことができるのではないだろうか。
「別に。友達だから」
 マリーちゃんは相変わらず感情をうかがわせない声音だった。
 ふと、以前エリザちゃんが言っていたことを思い出した。
『ダリアちゃんとは、私がこっちに引っ越してきてからの、小学校からの友達なんです。マリーちゃんとは小学校が別だったけど、三人でよく遊んでました』
 それならマリーちゃんは、エリザちゃんたちとどこで接点をもったのだろうか。
「マリーちゃんはエリザちゃんと、いつから友達なの? 小学校は違ったんだよね? 中学校から?」
 それにマリーちゃんは無言だった。
 私は少し待ってから、もう一度、踏み込んで聞いてみた。
「マリーちゃんもエリザちゃんに弱みを握られているの?」
「別に」
 そう短く返された。
 わざわざ私に話してくれることとも思えなかった。下手なことを聞いて、エリザちゃんに告げ口されても怖いので、これ以上は聞かないことにした。
 ただ意外なことにマリーちゃんから話し始めた。
「エリザちゃんとダリアちゃんは私を助けてくれた。私は二人のためなら、なんだってする」
「それは、どういうこと? 助けてくれたって?」
 マリーちゃんが立ち上がり、私の方に歩み寄ってくる。テレビから、何かが爆発するような戦闘の音と、少女たちの悲鳴が聞こえてきた。
「私は小学校の時、ずっといじめられていた」
「そう、だったんだ……」
 マリーちゃんが私の足元の方に立った。無表情に、暗い瞳で私を見ていた。
 私は体を起こして彼女の方を向こうとしたけれど、手足首を拘束されて、肘と膝を曲げることで、わずかに上体を起こせた。肘を支えにして、背中と首の筋肉に力を入れて、なんとか彼女を見る。慣れない姿勢に、ふるふると体が震えて痛かった。
「殴られたり、蹴られたり、階段から突き落とされて、骨が折れたこともある。死にそうな目に何度も遭った」
 マリーちゃんがベッドに乗り、私の股の間に進む。閉じようとしても、膝の頭を合わせることもできなかった。
「そのせいで私は、痛みも何も感じない体になった」
 マリーちゃんの指が、私の股の間に触れた。
 私は腰を引こうとしたけれど、ベッドに縛られて逃れることができない。
「もう痛みがどんなだったか、思い出すこともできない。大好きなダリアちゃんに触れられても、私は痛みも何も感じることができなかった。ねぇ、人に触れられるってどんな感じなの?」
 マリーちゃんの指が私の中に入ってくる。
「う……くっ……」
 もう何度も、指以外のものも入れられたけれど、いきなり指を入れられるのは痛かった。
「お願い、もう少し……優しく……」
 エリザちゃんやクロキさんが時間をかけて、私を凌辱するのに対して、マリーちゃんの指は強引で乱暴だった。
「痛い? 苦しい? 怖い? それがどんなものか、私に教えてよ」
「やめて……痛い……」
「それってどんな感じなの? どうやったら感じられるの?」
 マリーちゃんは、いつもの無表情とは違って、どこか焦っているような、怒りにも似た表情を浮かべていた。目が吊り上がり、その暗い瞳で私を睨んでいた。
 不意にドアが開く。私は驚いて心臓が止まりそうになった。
「ただいま」
 エリザちゃんの声だった。
「ふふ。マリーちゃん、遊んであげてたんだ」
「うん」
 マリーちゃんが指を抜く。
 私は解放されたけれど、このあと三人にされることを思うと、暗い気持ちになった。
「おねえ、ちゃん……?」
 その時、三人とは違う、聞き覚えのある声がした。それに私は背筋が凍りついた。
 彼女たちの方を見ると、エリザちゃんとダリアちゃんの後ろに、私の妹のハナちゃんがいた。
 ハナちゃんは目を見開いて、青ざめた顔で私を見ていた。
 私はエリザちゃんを見た。
「ハナちゃんには、言わないって……」
 そんな約束を守ってくれるような子でないことは、分かっていたはずなのに。それでもこんな裏切りはあんまりだった。
「言ってないよ。一緒に遊ぼうって誘っただけ」
 私と目があっても、エリザちゃんはその琥珀色の瞳を細めて、いつものように微笑んでいた。
「なんで、どうして……? ひどい、こんなの……」
 こんな姿をハナちゃんに見られてしまった。私は必死に拘束を解こうと、拘束具を引っ張ったけれど、少しも緩むことはなかった。
「お姉ちゃん、なんで……?」
「違うの! ハナちゃん、これは……!」
 ハナちゃんは唇を震わせていた。小刻みに手や肩も震えていた。
 エリザちゃんがハナちゃんの肩に手を置いて、私の方に押しやる。
「お姉ちゃんは今、バイト中なの」
「どういう、こと……?」
「これがお姉ちゃんのしているアルバイトだよ」
「え……?」
「お姉ちゃんはね、ハナちゃんやママのために、体を売ってお金を稼いでいるの」
「そんな……」
「ハナちゃんもお姉ちゃんのお手伝いをしてあげて」
 ベッドに拘束された私の足元の方から、ハナちゃんは怯えたような顔で私を見ていた。その隣でエリザちゃんは微笑んでいる。
 私はエリザちゃんを睨んだ。それに彼女は表情ひとつ変えなかった。
「ハナちゃん、お姉ちゃんのこと、気持ちよくしてあげて」
「え……?」
「お姉ちゃんのあそこ、濡れているでしょ? 自分で慰めることもできなくて、かわいそう。ハナちゃんが慰めてあげて」
 マリーちゃんに痛ぶられたせいで、私のあそこは濡れていた。恥ずかしくて隠そうとしたけれど、股を閉じることはできず、惨めにすり合わせることしかできなかった。
「できない……そんなこと……」
「ハナちゃんがしないのなら、私がするけど? ただその場合、お姉ちゃんにひどいこと、痛いことをするかもね」
「だ、ダメ!」
 ハナちゃんの悲鳴のような大きな声に、あのエリザちゃんも怯んだようだった。一瞬、あの微笑みが消えて、戸惑ったような顔をした。
 ハナちゃんがこんなに大きな声を出したのは、ずっと子供の頃に、お母さんが仕事に行くのがさびしくて、駄々をこねた時ぐらいだった。
「そう。なら、ハナちゃんが、口でしてあげて」
「わかった……」
 ハナちゃんが私に向き直ると、ベッドに乗り、私の股の間に座る。
「お姉ちゃん、ごめんなさい……ごめんなさい……」
「ハナちゃん、どうして……?」
 どうしてハナちゃんがエリザちゃんの言うことを聞くのか分からない。
 私が人質にとられているからか、それとも何か弱みを握られているのか。
 ハナちゃんは私の股の間に顔を近づける。
「ダメ! ハナちゃん、そんなことしちゃダメ!」
 ハナちゃんの息が、私のあそこに触れた。
 マリーちゃんに乱暴にされて、私のそこはもう濡れていた。ハナちゃんが私の割れ目に舌を這わせると、ぴちゃぴちゃと音が鳴った。ハナちゃんの舌はおぼつかない様子で、私の割れ目をなぞって、突起に触れた。そのむず痒い、たどたどしい感触に、私は身悶えた。
「ああっ……!」
 ハナちゃんの唾液で私のそこは生温かく濡れた。それに私のおしっこの穴はふやけて、今にも漏らしてしまいそうだった。
「ハナちゃん、こんなことダメ! 私たち、姉妹なんだよ⁉︎」
 私はハナちゃんのことが大好きだ。私の可愛い妹。けれどこんなことを、姉妹でするなんて間違っている。
 クロキさんの指でも、舌でも、エリザちゃんでも、私は感じたことはなかった。けれどハナちゃんに触れられて、私はむず痒く、切ない気持ちになってしまった。
 それなのに誰に何かをされるよりも、胸が痛くて、苦しかった。
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