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第七話①
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図書委員の当番の日は、エリザちゃんが図書室で私の帰りを待っている時もあれば、用事があって先に帰っている時もあった。今日は図書室にエリザちゃんはいない。
放課後、当番に向かう直前、エリザちゃんは私の腕を取って、階段の防火戸の裏に隠れた。
「ハナちゃん、私、今日は用事あるから、先に帰るね」
「うん……」
「キスは?」
勝手に自分からすればいいのに。わざわざ要求してくる。私は仕方なくエリザちゃんの小さな唇にキスをした。エリザちゃんみたいに長い時間したり、舌を入れたりしない。触れたらすぐに私は唇を離した。
それに不満を漏らして、もっとしつこく求められるかと思ったけれど、エリザちゃんは嬉しそうに微笑み、笑顔で去っていった。
私はようやく彼女から解放されて、安心したけれど、このあとのことを思うとまだ気が休まらなかった。
私は加藤さんと同じ日に図書委員の当番だった。
加藤さんとは、私がブタになった日から、普通の会話や、挨拶さえもしなくなった。私自身、彼女の目を見るのが怖い。それにあの時、私が階段から転落した時も、加藤さんはエリザちゃんか砂村さんに言われて、私を誘導したのではないだろうか。
それが全部、エリザちゃんのせいだとしても、私は加藤さんのことが怖いし、人として信じられなかった。
私は少しでも彼女と一緒にいたくなくて、返却された本がなくても、書架の本を整理しているふりをして距離をとっていた。
「咲良さん……」
不意に加藤さんに呼びかけられた。
私は彼女の顔を見ることができなくて、彼女の首から下を見る。
「な、なに……」
加藤さんはつま先を合わせて、震える手を前で組んでいた。
「私、このままだと殺される……この前、砂村さんに遺書を書かされたの……」
「え……」
エリザちゃんが加藤さんを私から引き離すことは、もう十分に成功したと思う。砂村さんが加藤さんをブタにし続ける理由はもうないと思っていた。それに砂村さんは自分の意思でやっているわけではない。だからそこまでするとは思えなかった。また私を何かの罠にハメようとしているのかもしれない。
「私、もうやめてって言ったの……そしたら、遺書を書かされて……」
「そうなんだ……」
私は相手にしないことにした。
「お願い、助けて……」
「なんで……?」
「だって私、咲良さんのせいで……」
どうして私が加藤さんを助けないといけないのか。私のせいで加藤さんがブタになったことは知っている。それでも私は加藤さんのことが信じられなくて、助ける気になれなかった。
「警察に行けば……?」
そうだ、加藤さんが大ごとにして、エリザちゃんたちが警察に捕まれば私も助かる。もしも失敗しても恨まれるのは私じゃない。
「そんなことしたら本当に殺される……もしも大人にバレたら、一本ずつ指を切って、少しずつ殺すって……」
「そんなこと、あるわけないよ……」
私は砂村さんの言葉を思い出した。
あの子、何人か人殺してるから──
もし加藤さんが警察に行ったとして、最初に捕まるのは砂村さん。砂村さんがエリザちゃんのことを話さなければ、エリザちゃんまで捕まらない。そして逆らった者に対して、エリザちゃんが復讐するかもしれない。
突然、加藤さんに両肩を掴まれた。私は驚いて彼女の顔を見てしまった。可愛かった顔をくしゃくしゃにして、怯える小動物のような顔で、涙を次々にこぼしていた。
「お願いします……助けてください……私たち、友達だったでしょ……? こんなことにならなければ、私、咲良さんと、親友になりかたった……」
私は彼女を見て、どうしたらいいのか、何も分からなくなって、どうしようもない気持ちになった。真っ暗な穴の底に落ちて、登ることも、進むことも、どこにも行けないような気分になった。
加藤さんは、友達だったかは分からない──そう思っていたのは私だけだったのかもしれない。
少なくとも加藤さんは、ひとりぼっちの私を気にかけて、同じ図書委員になったり、勉強の分からないところを教えてくれた。小学生の時は何度か遊んだこともあった。「私は本当に咲良さんのこと、友達だと思っていたし、もっと仲良くなりたいと思っていた」、そう言ったのは、そう思っていたのは嘘だと思えなかった。
もしもこんなことにならなければ、私たちは友達のままでいられたのかな。きっとそのうち愛想を尽かされそうだけれど、少なくとも、こんな傷つけあうことはなかったはず。
「わかった……砂村さんに、お願いしてみる……」
「ありがとう、咲良さん……!」
加藤さんが気が抜けたように、安心したように、顔をゆるませて笑った。
そんなに感謝されても、私ができることは砂村さんにお願いすることだけだ。
砂村さんに加藤さんを、まだいじめをさせているのはエリザちゃんだと思う。エリザちゃんにやめるようにお願いすべきなのかもしれないけれど。ただこれが加藤さんを使った罠である可能性がある。
私は砂村さんのことがまだ怖いけれど、エリザちゃんよりも話が通じるような気がした。まず砂村さんにお願いして、彼女からエリザちゃんにもうやめるよう説得してもらう。
砂村さんなら、お願いすれば分かってくれるのではないだろうか。
放課後、当番に向かう直前、エリザちゃんは私の腕を取って、階段の防火戸の裏に隠れた。
「ハナちゃん、私、今日は用事あるから、先に帰るね」
「うん……」
「キスは?」
勝手に自分からすればいいのに。わざわざ要求してくる。私は仕方なくエリザちゃんの小さな唇にキスをした。エリザちゃんみたいに長い時間したり、舌を入れたりしない。触れたらすぐに私は唇を離した。
それに不満を漏らして、もっとしつこく求められるかと思ったけれど、エリザちゃんは嬉しそうに微笑み、笑顔で去っていった。
私はようやく彼女から解放されて、安心したけれど、このあとのことを思うとまだ気が休まらなかった。
私は加藤さんと同じ日に図書委員の当番だった。
加藤さんとは、私がブタになった日から、普通の会話や、挨拶さえもしなくなった。私自身、彼女の目を見るのが怖い。それにあの時、私が階段から転落した時も、加藤さんはエリザちゃんか砂村さんに言われて、私を誘導したのではないだろうか。
それが全部、エリザちゃんのせいだとしても、私は加藤さんのことが怖いし、人として信じられなかった。
私は少しでも彼女と一緒にいたくなくて、返却された本がなくても、書架の本を整理しているふりをして距離をとっていた。
「咲良さん……」
不意に加藤さんに呼びかけられた。
私は彼女の顔を見ることができなくて、彼女の首から下を見る。
「な、なに……」
加藤さんはつま先を合わせて、震える手を前で組んでいた。
「私、このままだと殺される……この前、砂村さんに遺書を書かされたの……」
「え……」
エリザちゃんが加藤さんを私から引き離すことは、もう十分に成功したと思う。砂村さんが加藤さんをブタにし続ける理由はもうないと思っていた。それに砂村さんは自分の意思でやっているわけではない。だからそこまでするとは思えなかった。また私を何かの罠にハメようとしているのかもしれない。
「私、もうやめてって言ったの……そしたら、遺書を書かされて……」
「そうなんだ……」
私は相手にしないことにした。
「お願い、助けて……」
「なんで……?」
「だって私、咲良さんのせいで……」
どうして私が加藤さんを助けないといけないのか。私のせいで加藤さんがブタになったことは知っている。それでも私は加藤さんのことが信じられなくて、助ける気になれなかった。
「警察に行けば……?」
そうだ、加藤さんが大ごとにして、エリザちゃんたちが警察に捕まれば私も助かる。もしも失敗しても恨まれるのは私じゃない。
「そんなことしたら本当に殺される……もしも大人にバレたら、一本ずつ指を切って、少しずつ殺すって……」
「そんなこと、あるわけないよ……」
私は砂村さんの言葉を思い出した。
あの子、何人か人殺してるから──
もし加藤さんが警察に行ったとして、最初に捕まるのは砂村さん。砂村さんがエリザちゃんのことを話さなければ、エリザちゃんまで捕まらない。そして逆らった者に対して、エリザちゃんが復讐するかもしれない。
突然、加藤さんに両肩を掴まれた。私は驚いて彼女の顔を見てしまった。可愛かった顔をくしゃくしゃにして、怯える小動物のような顔で、涙を次々にこぼしていた。
「お願いします……助けてください……私たち、友達だったでしょ……? こんなことにならなければ、私、咲良さんと、親友になりかたった……」
私は彼女を見て、どうしたらいいのか、何も分からなくなって、どうしようもない気持ちになった。真っ暗な穴の底に落ちて、登ることも、進むことも、どこにも行けないような気分になった。
加藤さんは、友達だったかは分からない──そう思っていたのは私だけだったのかもしれない。
少なくとも加藤さんは、ひとりぼっちの私を気にかけて、同じ図書委員になったり、勉強の分からないところを教えてくれた。小学生の時は何度か遊んだこともあった。「私は本当に咲良さんのこと、友達だと思っていたし、もっと仲良くなりたいと思っていた」、そう言ったのは、そう思っていたのは嘘だと思えなかった。
もしもこんなことにならなければ、私たちは友達のままでいられたのかな。きっとそのうち愛想を尽かされそうだけれど、少なくとも、こんな傷つけあうことはなかったはず。
「わかった……砂村さんに、お願いしてみる……」
「ありがとう、咲良さん……!」
加藤さんが気が抜けたように、安心したように、顔をゆるませて笑った。
そんなに感謝されても、私ができることは砂村さんにお願いすることだけだ。
砂村さんに加藤さんを、まだいじめをさせているのはエリザちゃんだと思う。エリザちゃんにやめるようにお願いすべきなのかもしれないけれど。ただこれが加藤さんを使った罠である可能性がある。
私は砂村さんのことがまだ怖いけれど、エリザちゃんよりも話が通じるような気がした。まず砂村さんにお願いして、彼女からエリザちゃんにもうやめるよう説得してもらう。
砂村さんなら、お願いすれば分かってくれるのではないだろうか。
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