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第四話④
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私はエリザちゃんのキスを拒むことができなかった。
彼女の柔らかい唇、生温い吐息。いつまでも彼女は唇を離さない。しっかりと頭を押さえられて、私は顔を背けることもできなかった。
「んっ……ん……」
彼女の鼻から甘い音が漏れ聞こえた。
私はキスがどんな感じか、考えたこともなかった。誰かとすることも想像したことがなかった。
それでもこんなに空っぽで、何も感じないとは思わなかった。
どこかで初めてのキスを特別なものと思っていたのかもしれない。私の中には、お母さんにねだって買ってもらったお菓子についていたシールが、好きだったキャラクターのものでなかった時のような失望があった。
エリザちゃんにとっては特別な行為でも、私にとっては何の意味も価値もない空っぽな行為だった。これで彼女が満足するのなら、私は我慢できると思った。
不意に、私の唇を割って、何か弾力のあるものが差し入れられてきた。それが彼女の舌だと気づいて、私は彼女の体を押しのけようとした。
「んんんっ……!」
必死に私は彼女から逃れようとした。それでも強引に舌をねじ込まれていく。私の歯を、歯茎を、彼女の舌先がなぞる感触がした。
気持ち悪い、嫌だ──
私は歯を食いしばって耐える。
どうしてこんなことをするのか分からなかった。この行為が何なのかも。彼女の舌先が私の歯を割って、その奥へ入ろうとしていることは分かった。
彼女の舌先を感じるたび、寒気のようなものが背中や腕に、ぞわぞわと這い上がってきた。
エリザちゃんの手首を掴んで、力一杯押し開く。わずかに私の頭を押さえていた力がゆるんで、なんとか抜け出すことができた。そのまま腕を押しやり、体一つ分離れる。まだエリザちゃんの腕には力がこもっていて、私は怖くて手を離せなかった。
「ハナちゃん、初めてのキスだったんだよね。どうだった?」
エリザちゃんの唇や口元は、私の唾液か彼女のものか、濡れて光っていた。
「もうやめて……」
「ハナちゃんとのキス、すごく気持ちよかった。もっとしたいな」
エリザちゃんは腕を広げると、私たちの間にあった突っ張りがなくなって、彼女は一歩踏み出して私の目の前に立った。再び彼女の顔が間近に迫った。
「やだ……もうやだ……」
「ダリアちゃん、ハナちゃんを押さえてて。マリーちゃん、誰か来ないか廊下を見張ってて」
砂村さんは無言で、後ろから私の両脇の下から腕を通して、持ち上げようとする。それによって私の肩は固められて、腕は左右に広がった。それによって私は砂村さんを振り解くことも、エリザちゃんを拒むこともできなくなった。
姫山さんが教室を出て、ドアを閉める音がした。
エリザちゃんはいつもと変わらない、微笑みを浮かべながら私を見ていた。
あと何回かキスをすれば彼女は満足してくれるのだろうか。あとどれだけの時間キスをすれば。
エリザちゃんがおもむろに私に向けて手を伸ばしてくる。またキスを──キスならまだいい、キスだけでなくあれをされる。そう思うと怖くて、私は目をつぶった。
頬に触れた感触に、私は唇を固く結ぶ。しかしその手が、私の首へ、肩へ、胸をなぞって、腰に当てられた。そのたびに私は身震いした。
「怖がらないで。安心して。あなたが私のものであること、私の恋人であることを、あなたの体に、心に、記憶に刻むの。これはとても素敵なことなんだよ」
私の腰に回された彼女の手は、スカートの上から太ももの側面を撫で、裾をまくりあげて、中に入ってくる。
何か違う。またあれをされると思っていたのに、エリザちゃんは別のことをしようとしている。
私は目を開けた。エリザちゃんの顔が再び目の前にあった。生温かい息が顔にかかる。少しだけ彼女の目に、いつもと違う色があった。細めた目は微かに潤んでいて、私の怯える様子を楽しんでいるようにも感じられた。
「やだ、やだ……怖い……」
変な感覚がした。痺れるような、むずがゆいような。全身に寒気が這い上がってくる。心臓が痛い。指先が緊張に引きつる。足場のない、崖の縁に立たされているような気がして、足がすくんだ。
彼女の指がショーツのゴムにかけられた。
「なんで? どうして?」
エリザちゃんの指が、ショーツの中に入ってきた。
「ねぇ、ハナちゃん。恋人同士ですることに、何があるか知っている?」
「キス……?」
「キスのあとは何をするの?」
「え? 一緒に、寝る?」
「そうだね」
エリザちゃんがおかしそうに笑った。
「キスをして、一緒に寝て、何をするのかな?」
それ以外にどんなことをするのだろう。
「わかんない……」
「ここを触るんだよ」
エリザちゃんの指がショーツの中に滑り込んで、私の股の間にある、しこりのような、豆粒ほどの大きさの突起に触れた。
「ひゃっ……⁉︎」
静電気が走った時のような刺激、その何倍も強い痛みが私を打った。膝から力が抜けて倒れそうになったが、砂村さんがそれを許してくれなかった。
「もしかしてこれも初めて?」
「お姉ちゃんが、そこは触っちゃダメって……」
「嬉しい。ハナちゃんのたくさんの初めて、全部私がもらうね」
エリザちゃんはうっとりと笑った。
またエリザちゃんの指が、私のそこに触れてくる。
「痛い、やめて……痛いよぉ……」
何度も何度も擦られて、ひりつくような、焼けつくような痛みが走った。
どうしてこんなひどいことができるのだろう。エリザちゃんは本当は、私のことが嫌いでこんなことをするのかもしれない。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
「どうして謝るの?」
「ごめんなさい……許してください……」
「何も怒ってないよ。ハナちゃんのことが大好きなだけ。これは恋人同士だけがする特別なことなんだよ」
エリザちゃんが私の頬を舐める。寒気がした。
「怖いよね。不安だよね。だけど安心して。私のことを信じて任せて」
「痛い痛い痛い……」
私が泣いても、痛がっても、エリザちゃんはやめてくれなかった。
ずっと終わることなくこの痛みが続くと思っていたけれど、不意にエリザちゃんは指を止め、私のショーツから指を引き抜く。その指を私に見せて、うっとりと微笑んで舐めた。
「濡れてきたね」
夕日で黄金色に染まる教室の中で、彼女の指がてらてらと、いやらしく光って見えた。
「ダリアちゃん、もういいよ」
私はようやく砂村さんから解放されたけれど、立っていることができず、その場にへたり込んだ。ようやくおわった。
エリザちゃんにいじられたところも痛いけれど、階段から落ちて打ちつけた腕や体、捻った右の足首もいたかった。けれどこれでようやくおわったのだ。そう思った。私はそう願った。
しかし私はエリザちゃんに押し倒される。黒い影となって、彼女が私に覆い被さった。彼女の黒髪、柔らかく波打つ長い髪が、何か得体の知れない、私を深海に引きずり込む怪物のように思えた。エリザちゃんの色素の薄い褐色の瞳が、今は琥珀色ではなく、沈んだ血の色のように見えた。
私は彼女に押し倒されて、床にぶつけた背中が、その衝撃が怪我にも響いて、痛くて怖くてたまらなかった。
「これで私たち、本当の恋人同士だね」
影の中でエリザちゃんが微笑む。
片手で両手首を押さえられ、私の両足は彼女の体に割られて大きく開かされる。押し込められるように体を曲げられて、息が苦しかった。
そして私のスカートの中へ、彼女の手が再び入ってくる。
「やだ、やだ……」
何が起きているのか分からない。これから何が起こるのかも分からない。ただ何かよくないことが起こる。それだけは分かった。
「あなたのことは気の毒に思うわ」
砂村さんの声だった。彼女は私たちから離れて、教室のドアの前にいた。彼女は哀れむように、呆れたように、私たちのことを見ていた。
「お願い、助けて……」
私は砂村さんにさえ助けを求めるしかなかった。それは当然のことだけれど、彼女は私から目を背けた。
「ハナちゃんの初めて、もらうね」
どういうことなの──そう聞く間もなく、エリザちゃんの指が私のショーツの股の部分をずらし、割れ目に触れたのが分かった。
思わず息を呑んだ。
「こわい、こわいよ、エリザちゃん……」
彼女が何をしようとしているのか、どうしてそんなことをするのか分からない。お姉ちゃんは、そこは大事な場所だから、あまり自分で触ったり、人に触らせては駄目だと言っていた。それなのにどうしてエリザちゃんはこんなことをするのか。
エリザちゃんの指が、私の割れ目をなぞって、何かを探しているようだった。そのたびに痛みが走り、芋虫が股の間を這って、何か入り口を探しているような恐怖と不快感が込み上げてきた。
「ここかな」
「うっ──」
彼女の指が止まる。何かを探り当てたようだった。それに異質な感じがした。私の中に何かが、彼女の指が、割って入ってくるような。
「入れるよ」
「えっ──」
彼女の指が、ぐっと押し込まれるのが分かった。何が起きているのか理解する間もなく、焼けるような鋭い痛みが、私を刺し貫いた。
どうして、なんで、私の中に彼女が入ってくるの──
「ああっ──」
あまりの痛みに息ができなかった。指なんかではなくて、ナイフか何かで私は刺されたのではないだろうか。そしてそのナイフは爪のような形をしていて、私の中をえぐり、内臓を掻き出すように思えた。
「いたい、いたいっ、いたい……」
「ハナちゃんの中、温かくて、ヌルヌルしてる」
エリザちゃんは痛みに苦しみ悶える私の様子を楽しんでいるように思えた。かすかに彼女の息が荒くなっているのが聞こえてきた。
さらに反応を楽しむように、私を刺したナイフは、さらに奥へと突き入れられる。
「あぐっ、うぅ……」
吐き気がした。息もうまくできない。このまま死ぬんじゃないか、そんな不安と恐怖が込み上げてきた。
どうして私なの。どうして私が選ばれたの──私はもう、痛みと涙で、エリザちゃんの顔が見えなかった。
「ああ、これで私たち、恋人だね。こんなこと、恋人同士じゃないと、しちゃいけないんだよ。ハナちゃん、愛しているよ」
唇に柔らかい感触がした。エリザちゃんの唇だった。
どのぐらいそうしていたのか、一秒か一時間か、不意にエリザちゃんの体が離れる。それと同時に私の中からナイフが引き抜かれた。
私は解放されたけれど、指先一つ動かすことができなかった。まるで私の体じゃないような感覚がした。
起き上がる気力も、逃げる気も起こらない。ただただ全身が痛い。彼女に掴まれた手首が、彼女に曲げられたお腹が、彼女に割られた股の関節が痛い。階段から落ちた怪我が痛い。何よりも、股の間がじんじんと痛む。熱のこもった火種のような痛みが、私のそこに留まっていた。
痛みのせいか、私の頭の芯が麻痺して、もう何も考えられない、何も考えたくなかった。もし誰かが今私を殺そうとしても、私は悲鳴一つあげないだろう。
「ハナちゃん見て」
エリザちゃんが私に、血塗れの指を見せる。それに私は気が遠くなりそうだった。彼女がナイフなんか持っているわけがないことは分かっている。それなのに彼女の手が赤黒く濡れて見えるのは、きっと夕日のせいに違いない。
「これでハナちゃんは私のもの」
楽しげに、嬉しそうにエリザちゃんは笑った。
それがどういうことなのか分からないけれど、私はもう昨日までの私ではなくて、何か大切なものを失ったような気がした。
彼女の柔らかい唇、生温い吐息。いつまでも彼女は唇を離さない。しっかりと頭を押さえられて、私は顔を背けることもできなかった。
「んっ……ん……」
彼女の鼻から甘い音が漏れ聞こえた。
私はキスがどんな感じか、考えたこともなかった。誰かとすることも想像したことがなかった。
それでもこんなに空っぽで、何も感じないとは思わなかった。
どこかで初めてのキスを特別なものと思っていたのかもしれない。私の中には、お母さんにねだって買ってもらったお菓子についていたシールが、好きだったキャラクターのものでなかった時のような失望があった。
エリザちゃんにとっては特別な行為でも、私にとっては何の意味も価値もない空っぽな行為だった。これで彼女が満足するのなら、私は我慢できると思った。
不意に、私の唇を割って、何か弾力のあるものが差し入れられてきた。それが彼女の舌だと気づいて、私は彼女の体を押しのけようとした。
「んんんっ……!」
必死に私は彼女から逃れようとした。それでも強引に舌をねじ込まれていく。私の歯を、歯茎を、彼女の舌先がなぞる感触がした。
気持ち悪い、嫌だ──
私は歯を食いしばって耐える。
どうしてこんなことをするのか分からなかった。この行為が何なのかも。彼女の舌先が私の歯を割って、その奥へ入ろうとしていることは分かった。
彼女の舌先を感じるたび、寒気のようなものが背中や腕に、ぞわぞわと這い上がってきた。
エリザちゃんの手首を掴んで、力一杯押し開く。わずかに私の頭を押さえていた力がゆるんで、なんとか抜け出すことができた。そのまま腕を押しやり、体一つ分離れる。まだエリザちゃんの腕には力がこもっていて、私は怖くて手を離せなかった。
「ハナちゃん、初めてのキスだったんだよね。どうだった?」
エリザちゃんの唇や口元は、私の唾液か彼女のものか、濡れて光っていた。
「もうやめて……」
「ハナちゃんとのキス、すごく気持ちよかった。もっとしたいな」
エリザちゃんは腕を広げると、私たちの間にあった突っ張りがなくなって、彼女は一歩踏み出して私の目の前に立った。再び彼女の顔が間近に迫った。
「やだ……もうやだ……」
「ダリアちゃん、ハナちゃんを押さえてて。マリーちゃん、誰か来ないか廊下を見張ってて」
砂村さんは無言で、後ろから私の両脇の下から腕を通して、持ち上げようとする。それによって私の肩は固められて、腕は左右に広がった。それによって私は砂村さんを振り解くことも、エリザちゃんを拒むこともできなくなった。
姫山さんが教室を出て、ドアを閉める音がした。
エリザちゃんはいつもと変わらない、微笑みを浮かべながら私を見ていた。
あと何回かキスをすれば彼女は満足してくれるのだろうか。あとどれだけの時間キスをすれば。
エリザちゃんがおもむろに私に向けて手を伸ばしてくる。またキスを──キスならまだいい、キスだけでなくあれをされる。そう思うと怖くて、私は目をつぶった。
頬に触れた感触に、私は唇を固く結ぶ。しかしその手が、私の首へ、肩へ、胸をなぞって、腰に当てられた。そのたびに私は身震いした。
「怖がらないで。安心して。あなたが私のものであること、私の恋人であることを、あなたの体に、心に、記憶に刻むの。これはとても素敵なことなんだよ」
私の腰に回された彼女の手は、スカートの上から太ももの側面を撫で、裾をまくりあげて、中に入ってくる。
何か違う。またあれをされると思っていたのに、エリザちゃんは別のことをしようとしている。
私は目を開けた。エリザちゃんの顔が再び目の前にあった。生温かい息が顔にかかる。少しだけ彼女の目に、いつもと違う色があった。細めた目は微かに潤んでいて、私の怯える様子を楽しんでいるようにも感じられた。
「やだ、やだ……怖い……」
変な感覚がした。痺れるような、むずがゆいような。全身に寒気が這い上がってくる。心臓が痛い。指先が緊張に引きつる。足場のない、崖の縁に立たされているような気がして、足がすくんだ。
彼女の指がショーツのゴムにかけられた。
「なんで? どうして?」
エリザちゃんの指が、ショーツの中に入ってきた。
「ねぇ、ハナちゃん。恋人同士ですることに、何があるか知っている?」
「キス……?」
「キスのあとは何をするの?」
「え? 一緒に、寝る?」
「そうだね」
エリザちゃんがおかしそうに笑った。
「キスをして、一緒に寝て、何をするのかな?」
それ以外にどんなことをするのだろう。
「わかんない……」
「ここを触るんだよ」
エリザちゃんの指がショーツの中に滑り込んで、私の股の間にある、しこりのような、豆粒ほどの大きさの突起に触れた。
「ひゃっ……⁉︎」
静電気が走った時のような刺激、その何倍も強い痛みが私を打った。膝から力が抜けて倒れそうになったが、砂村さんがそれを許してくれなかった。
「もしかしてこれも初めて?」
「お姉ちゃんが、そこは触っちゃダメって……」
「嬉しい。ハナちゃんのたくさんの初めて、全部私がもらうね」
エリザちゃんはうっとりと笑った。
またエリザちゃんの指が、私のそこに触れてくる。
「痛い、やめて……痛いよぉ……」
何度も何度も擦られて、ひりつくような、焼けつくような痛みが走った。
どうしてこんなひどいことができるのだろう。エリザちゃんは本当は、私のことが嫌いでこんなことをするのかもしれない。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
「どうして謝るの?」
「ごめんなさい……許してください……」
「何も怒ってないよ。ハナちゃんのことが大好きなだけ。これは恋人同士だけがする特別なことなんだよ」
エリザちゃんが私の頬を舐める。寒気がした。
「怖いよね。不安だよね。だけど安心して。私のことを信じて任せて」
「痛い痛い痛い……」
私が泣いても、痛がっても、エリザちゃんはやめてくれなかった。
ずっと終わることなくこの痛みが続くと思っていたけれど、不意にエリザちゃんは指を止め、私のショーツから指を引き抜く。その指を私に見せて、うっとりと微笑んで舐めた。
「濡れてきたね」
夕日で黄金色に染まる教室の中で、彼女の指がてらてらと、いやらしく光って見えた。
「ダリアちゃん、もういいよ」
私はようやく砂村さんから解放されたけれど、立っていることができず、その場にへたり込んだ。ようやくおわった。
エリザちゃんにいじられたところも痛いけれど、階段から落ちて打ちつけた腕や体、捻った右の足首もいたかった。けれどこれでようやくおわったのだ。そう思った。私はそう願った。
しかし私はエリザちゃんに押し倒される。黒い影となって、彼女が私に覆い被さった。彼女の黒髪、柔らかく波打つ長い髪が、何か得体の知れない、私を深海に引きずり込む怪物のように思えた。エリザちゃんの色素の薄い褐色の瞳が、今は琥珀色ではなく、沈んだ血の色のように見えた。
私は彼女に押し倒されて、床にぶつけた背中が、その衝撃が怪我にも響いて、痛くて怖くてたまらなかった。
「これで私たち、本当の恋人同士だね」
影の中でエリザちゃんが微笑む。
片手で両手首を押さえられ、私の両足は彼女の体に割られて大きく開かされる。押し込められるように体を曲げられて、息が苦しかった。
そして私のスカートの中へ、彼女の手が再び入ってくる。
「やだ、やだ……」
何が起きているのか分からない。これから何が起こるのかも分からない。ただ何かよくないことが起こる。それだけは分かった。
「あなたのことは気の毒に思うわ」
砂村さんの声だった。彼女は私たちから離れて、教室のドアの前にいた。彼女は哀れむように、呆れたように、私たちのことを見ていた。
「お願い、助けて……」
私は砂村さんにさえ助けを求めるしかなかった。それは当然のことだけれど、彼女は私から目を背けた。
「ハナちゃんの初めて、もらうね」
どういうことなの──そう聞く間もなく、エリザちゃんの指が私のショーツの股の部分をずらし、割れ目に触れたのが分かった。
思わず息を呑んだ。
「こわい、こわいよ、エリザちゃん……」
彼女が何をしようとしているのか、どうしてそんなことをするのか分からない。お姉ちゃんは、そこは大事な場所だから、あまり自分で触ったり、人に触らせては駄目だと言っていた。それなのにどうしてエリザちゃんはこんなことをするのか。
エリザちゃんの指が、私の割れ目をなぞって、何かを探しているようだった。そのたびに痛みが走り、芋虫が股の間を這って、何か入り口を探しているような恐怖と不快感が込み上げてきた。
「ここかな」
「うっ──」
彼女の指が止まる。何かを探り当てたようだった。それに異質な感じがした。私の中に何かが、彼女の指が、割って入ってくるような。
「入れるよ」
「えっ──」
彼女の指が、ぐっと押し込まれるのが分かった。何が起きているのか理解する間もなく、焼けるような鋭い痛みが、私を刺し貫いた。
どうして、なんで、私の中に彼女が入ってくるの──
「ああっ──」
あまりの痛みに息ができなかった。指なんかではなくて、ナイフか何かで私は刺されたのではないだろうか。そしてそのナイフは爪のような形をしていて、私の中をえぐり、内臓を掻き出すように思えた。
「いたい、いたいっ、いたい……」
「ハナちゃんの中、温かくて、ヌルヌルしてる」
エリザちゃんは痛みに苦しみ悶える私の様子を楽しんでいるように思えた。かすかに彼女の息が荒くなっているのが聞こえてきた。
さらに反応を楽しむように、私を刺したナイフは、さらに奥へと突き入れられる。
「あぐっ、うぅ……」
吐き気がした。息もうまくできない。このまま死ぬんじゃないか、そんな不安と恐怖が込み上げてきた。
どうして私なの。どうして私が選ばれたの──私はもう、痛みと涙で、エリザちゃんの顔が見えなかった。
「ああ、これで私たち、恋人だね。こんなこと、恋人同士じゃないと、しちゃいけないんだよ。ハナちゃん、愛しているよ」
唇に柔らかい感触がした。エリザちゃんの唇だった。
どのぐらいそうしていたのか、一秒か一時間か、不意にエリザちゃんの体が離れる。それと同時に私の中からナイフが引き抜かれた。
私は解放されたけれど、指先一つ動かすことができなかった。まるで私の体じゃないような感覚がした。
起き上がる気力も、逃げる気も起こらない。ただただ全身が痛い。彼女に掴まれた手首が、彼女に曲げられたお腹が、彼女に割られた股の関節が痛い。階段から落ちた怪我が痛い。何よりも、股の間がじんじんと痛む。熱のこもった火種のような痛みが、私のそこに留まっていた。
痛みのせいか、私の頭の芯が麻痺して、もう何も考えられない、何も考えたくなかった。もし誰かが今私を殺そうとしても、私は悲鳴一つあげないだろう。
「ハナちゃん見て」
エリザちゃんが私に、血塗れの指を見せる。それに私は気が遠くなりそうだった。彼女がナイフなんか持っているわけがないことは分かっている。それなのに彼女の手が赤黒く濡れて見えるのは、きっと夕日のせいに違いない。
「これでハナちゃんは私のもの」
楽しげに、嬉しそうにエリザちゃんは笑った。
それがどういうことなのか分からないけれど、私はもう昨日までの私ではなくて、何か大切なものを失ったような気がした。
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