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1話 婚約破棄だ
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部屋中に怒号が響く。お父様とお母様だけでなく、使用人達も大勢いるこの屋敷で、私は盛大に怒鳴られていた。その声は頭の中でうるさく響く。私を怒鳴りつけているのは、両親でも先生でもなく、私の婚約者、ギリトー・ソウ様だった。
私はこの国とある貴族の娘だ。正確には、公爵家の弟を1人持つ姉なのだが、そんな私には婚約者がいる。いわゆる政略結婚のために取り決められたこの婚約。もちろん、私たちの間に愛などなかった。これも仕事の一つなのだと思っていたから。貴族として、不自由のない暮らしをさせてもらっている恩返しを、少しでも民にと、私はそう言われて育った。それをおかしなことだと思ったことはないし、当たり前のことだと思っている。幸せになりたい。その気持ちがないわけではないのだが、仕方のないことだと諦めていた。
そんな私の婚約者はこの国の王太子様、ギリトー様だ。彼は優しく、民からも貴族からも慕われていた。私はそんな彼の婚約者であることを不快に思ったことはないし、むしろ少し誇らしく思っていた。……この状況から見るにそろそろ私は彼の婚約者ではなくなるはずだが。
「オリビア・マーガレット。婚約破棄だ」
そんなに大きな声で言わなくても聞こえています。思わずそう言いたくなる口を抑え、にっこり笑ってみせる。意味のわからないことをほざいている王子様と、後ろに隠れている見覚えのある少女に。
「あ、あの、ギリトー様……」
「ああ、怯えなくてもいいんだよ、愛しのエリー」
彼女のことは私も知っている。貴族の通う学園で同じクラスだったエリー・クロッカス様。最近、ギリトー様と仲良くなされていると噂のご令嬢だ。エリー様とは何度かお話をしたことがあるくらいだが、それでも彼女が優しく素直な正確であることくらいはわかった。伝わってくるのだ。彼女の性格が、心根が。そのくらいに彼女は真っ直ぐだった。
「オリビア、お前、エリーをいじめていたそうじゃないか」
王子様が来るということで一緒に出迎えていたお父様も、お母様も弟も驚いた様子でギリトー様を見つめていた。お父様もお母様も私がそんなことをしないのは分かっているはずなのだが、それでもいきなりそんなことを言われれば驚くだろう。
「故に、お前との婚約は破棄させてもらう」
全く、何度も同じことを言わなくても聞こえていますって。
私はこの国とある貴族の娘だ。正確には、公爵家の弟を1人持つ姉なのだが、そんな私には婚約者がいる。いわゆる政略結婚のために取り決められたこの婚約。もちろん、私たちの間に愛などなかった。これも仕事の一つなのだと思っていたから。貴族として、不自由のない暮らしをさせてもらっている恩返しを、少しでも民にと、私はそう言われて育った。それをおかしなことだと思ったことはないし、当たり前のことだと思っている。幸せになりたい。その気持ちがないわけではないのだが、仕方のないことだと諦めていた。
そんな私の婚約者はこの国の王太子様、ギリトー様だ。彼は優しく、民からも貴族からも慕われていた。私はそんな彼の婚約者であることを不快に思ったことはないし、むしろ少し誇らしく思っていた。……この状況から見るにそろそろ私は彼の婚約者ではなくなるはずだが。
「オリビア・マーガレット。婚約破棄だ」
そんなに大きな声で言わなくても聞こえています。思わずそう言いたくなる口を抑え、にっこり笑ってみせる。意味のわからないことをほざいている王子様と、後ろに隠れている見覚えのある少女に。
「あ、あの、ギリトー様……」
「ああ、怯えなくてもいいんだよ、愛しのエリー」
彼女のことは私も知っている。貴族の通う学園で同じクラスだったエリー・クロッカス様。最近、ギリトー様と仲良くなされていると噂のご令嬢だ。エリー様とは何度かお話をしたことがあるくらいだが、それでも彼女が優しく素直な正確であることくらいはわかった。伝わってくるのだ。彼女の性格が、心根が。そのくらいに彼女は真っ直ぐだった。
「オリビア、お前、エリーをいじめていたそうじゃないか」
王子様が来るということで一緒に出迎えていたお父様も、お母様も弟も驚いた様子でギリトー様を見つめていた。お父様もお母様も私がそんなことをしないのは分かっているはずなのだが、それでもいきなりそんなことを言われれば驚くだろう。
「故に、お前との婚約は破棄させてもらう」
全く、何度も同じことを言わなくても聞こえていますって。
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