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 しばらくすると、明るい空気までとはいかないものの、私達は先ほどの恐怖と怒りを忘れ、買い物を楽しむことができるようになっていた。冬菜はまだ顔色が悪いが、仕方がない。普通に振る舞おうと前を向けているだけでもすごいことだ。
「ねえ、何があったのさ」
 フゥが耳打ちして聞いてきたのだが、私は笑ってそれを流した。別にフゥのことを信用していないわけではないのだが、あまり巻き込みたくないし、誰に聞かれているかわからないのだから仕方がない。
 フゥは不満なようだったが、すぐにエラに話しかけに行ってしまった。私は少しだけ離れたところから見守っていたのだが、エラに手招きされて駆け寄る。エラは期待に満ちた目で私を見ている。
「これ、3人で着たい……」
 エラがそう言って手からぶら下げている服は……え、本気なの。
 フリルのついた大きな襟。レースの施された肩。ひらひらと広がるスカート。袖口につけられたリボン。しかも、淡い色であるとはいえ、ピンク。
 ドレスはたくさん着てきた。けれど私は落ち着いた、少し大人っぽいドレスばかり着てきたのだ。こういう、なんでいうんだろ。女の子おっ、みたいな感じの服は幼少期しか着て来なくて……。
 しかも、これ、冬菜にも着せるんでしょ。冬菜は私たち人間で言えばおばあちゃん通り越してる何かなのよ。前世含めたら120歳くらいはいってるだろうし……。おばあちゃんのなかでも相当生きてる方だよ。いきなりこんなの着ろって、きついんじゃ。
「おかあさーん。これ3人できたーい」
「あら、いいじゃない」
 えっ、いいの。本当にいいんですかっ。私はあんまり好みじゃないんですけど……。まあ、冬菜とエラがそういうなら、きてみるだけなら……。
 私はエラが選んだものと同じデザインのもので、自分のサイズを探し、手に取った。……んんんんん。目玉が飛び出てないか心配なんだけど……。見間違いかなあ。これ、一万くらいするんだけど……。え、3人買ったら三万でしょ。
 貴族だった頃ならかなりお安い方だが、感覚が完全に庶民にもどってしまっている私にはちょっと……。
「ねえ、フゥ。これちょっと……」
 私は2人に隠れてこっそりフゥに値札を見せた。フゥはじっと桁の多い値札を見つめている。
「大丈夫なの」
 稼いでいるとは言っても、流石にプレゼントでこの額は大きくない。
「え、何が」
うーん、どうやら問題ないみたい。
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