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56話

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 みんながヒヤヒヤしながら水の五大精霊を見守る中、後ろからした物音に振り返る。そこには高貴な身なりをした青年の人魚が入り口の前にどっしりと構えていた。前世で言えば、高校生くらいのその人は、吊り上がった目をして私たちを見ている。
「誰だ」
 緊張したような空気が漂う。冬菜は驚いた様子もなく、真顔で入ってきた彼を見ている。けれど、エラはどこに隠れればいいのか分からないようで、おろおろとしていた。
 私は状況がよく分からずに戸惑いながら、王族のように豪華な衣装を見にまとう人魚を見ていた。
「彼女達は僕の友人さ、王子様」
 彼が先ほど言っていた協力者の王子様なのか。私はどこか納得するように、ふたりを交互に見る。しっかりしていそうな見た目をしたその王子様は、協力者にぴったりだ。
「友人」
 彼の眉がピクリと動く。
「ご友人、どこから入った」
 きつい目をして私たちに歩み寄る。私たちからしてみれば恐怖でしかない。助けを求めるように少し離れたところにいた冬菜を見ると、冬菜はイライラしているようで、少しおかしな笑みを浮かべていた。
「世の中にはねえ、不思議なことの1つや2つあるんですよ」
 予想通り、自分の娘に怖い顔をしながら寄っていった王子様に腹を立てていたらしい冬菜は、いつもより低い声でそう言った。
「そうだぞー」
 頼むから水の五大精霊さん、これ以上挑発しないでほしい。五大精霊、暴走しすぎでしょ。
「……そうか」
 思ったよりもあっさり引き下がった王子様は、くるっと方向転換して戻っていった。それほど水の五大精霊の彼が信頼されている、と言うことだろうか。
「どこに行ったんだろ」
 冬菜が気が済んだ、とでも言いたげな表情で、彼が出て行った方に目を向けている。それをみて少年の姿をした彼は、嬉しそうに笑った。
「君たちの部屋の用意でもしに行ったんでしょ」
 泊めてくれるつもりなのだろうか。転移魔法でいつでも精霊の森なり、冬菜の家なりに帰れる今、そこはあまり心配していないのだが。
「あ、そうだ。僕のことは、スィーって呼んで。ここではそう呼ばれてるんだ」
 スィーはにこにこして笑う。不思議さを感じさせるほど、彼はずっと笑っている。少年の姿をした彼にはあまり似合わないその笑顔は、貼り付けたような笑顔だった。
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