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25話

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 ポケットに入れられたお金を取り出す。飲み物を買うには十分な量が入っていて、どのジュースを買うか迷ってしまう。いちご、りんご、そしてみかんに、あまり見たのことのないフルーツ。ああ、前世の知識で物を見ては行けないな。ここはもう別の世界なのだから。
「いちごのジュースをください」
 コインを何枚か選別して屋台に立つ男の人に渡す。ピッタリ払ったので、お釣りは返って来なかったのだが、男の人は代わりに笑顔を返してくれた。
「はい、どうぞ」
 とても丁寧なその動作に感心させられる。いちごのジュースをコップに注ぎ、渡してくれた彼にお礼を言うと、私はその場から離れた。
 ストローの先からジュースを一気に吸い込む。思っていたよりもいちご、という味がして美味しい。まるでいちごを食べているかのようなのに、喉が潤うこの感覚は何ともいえない。
私も飲んでもいい。
 残り僅かになったところで火の精霊が私に声をかけてきた。もう喉は潤ったので、あげてしまっても構わないのだが、どうやって飲むのだろうか。この子にはこのストローは大きすぎるだろう。
もちろんいいわよ。
 いちごのジュースを少し差し出すように前に出す。どうやって飲むのか、少しわくわくしながら待っていると、精霊さんは小さなコップをどこからか取り出してジュースに添えた。すると、コップの中に赤い液体が現れる。どうやら転移魔法を使ったようだ。
 もしかしたら、転移魔法が使われなくなったのは、どこにでも入れるからというだけではないのかもしれない。今のように物を自分の手元に転移させることができれば、盗みだって簡単にできてしまうだろう。そうなれば、争い事ばかりの毎日だ。昔はそんな時代もあったのだろうか。
 精霊は転移魔法を使う。けれどそれは、精霊達が仲間意識が強く、盗みや争いの種になるようなことをしないからなのだろう。
 彼女達のする事なす事、全てに驚かされる。失われた転移魔法。固い絆。それなのに弱ってしまった力……。精霊達に力と安心を取り戻させるためにも、私が何か力になってあげることができればいいのだが。
 私は精霊の残した最後のジュースを飲み切ると、少し足速に歩き出した。早くいかなくては。精霊達のために、火の五大精霊のために、友達の精霊達のために、早くいかなくては。自分の利益など考える隙もなく、私はコップをゴミ箱に放り投げた。
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