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本編
2話 怪盗
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王子は腕を下ろし、ミラを庇うように立ちはだかった。大切な物を守るように、大事に抱えるように。
「エラ、お前ミラをいじめていたそうじゃないか」
周囲にいる人たちがざわっと一斉に話し始めた。え、エマ様がそんなことを。いや、前からそんな噂はあったぞ。そんな声がちらほら聞こえてくる。
私が何も言わないのをいいことにミラが口を開いた。
「そうなんです。毎日毎日、暴言を言われて、物を壊されたり隠されたり……もう耐えられなくって」
そんな事実はないのに、どうやって王子様を騙したのか。その技術は気になるわね。物を壊されたり、隠されたりと言うくらいだからなんとか物証を作ったのでしょうけれど、調べればおそらくボロなんていくらでも出てくるでしょうね。騙された王子様があわれだわ。
「黙っていられなくてごめんなさい、お姉様。でも、どうしても耐えられなくって……」
ミラが悲しむように顔を手で隠す。それを慰めるように王子様はミラの頭を撫で、ギュッと抱きしめた。まるで私が悪いような言い草だ。私からいつも何もかも奪っておいてよく言う。
そんなことを考えながら私は内心少し焦っていた。王子様に責められたらどうしたらいいのかわからない。相手は天下の王族よ。私に、ただの伯爵令嬢に反論の余地なんてない。もういっそのこと身分も名前も家族も何もかも捨てて逃げ出してしまおうかしら。一生1人寂しく過ごすよりは、いっそのこと、ここから逃げ出して、平民として過ごすのも悪くないかもしれない。普通に働いて、友人を作って、いつかは恋人もできて。そんな未来も悪くないかもしれない。
そんなことが頭によぎった時、天井にある天窓が空いて。何かがふわりと私の前に降り立つ。闇夜に紛れて落ちてくるその姿にはどこか見覚えがあった。
女性たちが悲鳴をあげる。王子様とミラはぽかんと口を開けてそれを見つめていた。
「失礼」
降り立ったそれは目の前にいる2人にそう一言だけ言って私の方を向いた。猫の仮面をつけたそれは周りには何もいないとでも言うように私だけを見ていた。私だけをその仮面の奥に隠された瞳に映していた。
全身黒の衣装をその身に纏うそれ、彼は暗闇の中にいれば誰も気が付かないだろう。
「怪盗、ブラックキャッツ」
誰かがぽそりと呟いた。
「エラ、お前ミラをいじめていたそうじゃないか」
周囲にいる人たちがざわっと一斉に話し始めた。え、エマ様がそんなことを。いや、前からそんな噂はあったぞ。そんな声がちらほら聞こえてくる。
私が何も言わないのをいいことにミラが口を開いた。
「そうなんです。毎日毎日、暴言を言われて、物を壊されたり隠されたり……もう耐えられなくって」
そんな事実はないのに、どうやって王子様を騙したのか。その技術は気になるわね。物を壊されたり、隠されたりと言うくらいだからなんとか物証を作ったのでしょうけれど、調べればおそらくボロなんていくらでも出てくるでしょうね。騙された王子様があわれだわ。
「黙っていられなくてごめんなさい、お姉様。でも、どうしても耐えられなくって……」
ミラが悲しむように顔を手で隠す。それを慰めるように王子様はミラの頭を撫で、ギュッと抱きしめた。まるで私が悪いような言い草だ。私からいつも何もかも奪っておいてよく言う。
そんなことを考えながら私は内心少し焦っていた。王子様に責められたらどうしたらいいのかわからない。相手は天下の王族よ。私に、ただの伯爵令嬢に反論の余地なんてない。もういっそのこと身分も名前も家族も何もかも捨てて逃げ出してしまおうかしら。一生1人寂しく過ごすよりは、いっそのこと、ここから逃げ出して、平民として過ごすのも悪くないかもしれない。普通に働いて、友人を作って、いつかは恋人もできて。そんな未来も悪くないかもしれない。
そんなことが頭によぎった時、天井にある天窓が空いて。何かがふわりと私の前に降り立つ。闇夜に紛れて落ちてくるその姿にはどこか見覚えがあった。
女性たちが悲鳴をあげる。王子様とミラはぽかんと口を開けてそれを見つめていた。
「失礼」
降り立ったそれは目の前にいる2人にそう一言だけ言って私の方を向いた。猫の仮面をつけたそれは周りには何もいないとでも言うように私だけを見ていた。私だけをその仮面の奥に隠された瞳に映していた。
全身黒の衣装をその身に纏うそれ、彼は暗闇の中にいれば誰も気が付かないだろう。
「怪盗、ブラックキャッツ」
誰かがぽそりと呟いた。
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