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12話 お客様
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お店の中に入ると、たくさんの綺麗な色が目の中に飛び込んできた。酔ってしまいそうなほどお店の中はキラキラと光っていた。いつもは仕立て屋を屋敷に呼んでいたのであまり慣れない光景だ。
ゆっくりと首を回してお店の中を見渡す。ここはかなり有名なお店らしいが……。奥で女性の店員と客が話している。けれど私はそれが不思議でしょうがなかった。店員は笑っているのに、お客さんであるその女の子は今にも泣き出してしまいそうな顔をしている。どうやら慰めている訳でもなさそうだ。
「……何があったのか聞いて参りましょうか、お嬢様」
私が気にしているのに気が付いたのかマテオが私の後ろから話しかけてきた。
「いいえ、私が直接聞くわ」
2人の方に近づいていくと、2人の会話の内容が耳に入ってきた。
「入るお店をお間違いではないですか」
どういうことだろう。目的のものがない店だったのだろうか。
「で、でも……入学パーティー用のドレスが必要で……」
どうやらそういう訳でもなさそうだ。
「ですが、ここにある商品は皆高いものばかりです。従者もつけていないようなあなたに買えますか」
その言葉を聞いて女の子の目からはポロリと一滴の涙がこぼれ出した。なんとも失礼な店員だ。入学パーティー、ということはあの子は私の入学した学校の生徒なのだろうか。それなら、同じ学校の同級生として私が助けてあげないと……。
「ごきげんよう」
2人に向かってそう話しかけると、女の子が驚いたように私の方を振り返った。
「あ、こ、こんにちは」
「いらっしゃいませ、お客様。お出迎えできずに申し訳ありませんでした」
店員は先ほどと変わらぬ貼り付けのような笑顔で私に頭を下げた。さっきとはかなり態度が違う。
「本日はどのようなドレスをお探しでしょうか」
ついさっきまで話していた客をまるでいないものとして扱っている。このお店は本当に大丈夫なのだろうか。まったく。ため息をつきたくなる。
「お金がなくとも同じ客。そこまで態度を変えるのもどうかと思いますが」
私も彼女と同じように笑顔を貼り付け笑ってやった。彼女はムッとしたような顔をしたかと思うと、対抗するようにまたあの笑顔で笑う。
「ですが、こちらのお客様の予算ではこの店のドレスはとても買えません……」
まるで反省する様子がない。本気で自分が正しいと思っているのだろうか。少なくとも私はそれが正しいとは思えない。
「言い方があるでしょう、と言っているのです。わかりにくかったでしょうか」
少し嫌味ったらしくなってしまっただろうか。まあ、いいや。
女の子の涙はもう止まっていた。その綺麗な目には、私だけが映っていた。
ゆっくりと首を回してお店の中を見渡す。ここはかなり有名なお店らしいが……。奥で女性の店員と客が話している。けれど私はそれが不思議でしょうがなかった。店員は笑っているのに、お客さんであるその女の子は今にも泣き出してしまいそうな顔をしている。どうやら慰めている訳でもなさそうだ。
「……何があったのか聞いて参りましょうか、お嬢様」
私が気にしているのに気が付いたのかマテオが私の後ろから話しかけてきた。
「いいえ、私が直接聞くわ」
2人の方に近づいていくと、2人の会話の内容が耳に入ってきた。
「入るお店をお間違いではないですか」
どういうことだろう。目的のものがない店だったのだろうか。
「で、でも……入学パーティー用のドレスが必要で……」
どうやらそういう訳でもなさそうだ。
「ですが、ここにある商品は皆高いものばかりです。従者もつけていないようなあなたに買えますか」
その言葉を聞いて女の子の目からはポロリと一滴の涙がこぼれ出した。なんとも失礼な店員だ。入学パーティー、ということはあの子は私の入学した学校の生徒なのだろうか。それなら、同じ学校の同級生として私が助けてあげないと……。
「ごきげんよう」
2人に向かってそう話しかけると、女の子が驚いたように私の方を振り返った。
「あ、こ、こんにちは」
「いらっしゃいませ、お客様。お出迎えできずに申し訳ありませんでした」
店員は先ほどと変わらぬ貼り付けのような笑顔で私に頭を下げた。さっきとはかなり態度が違う。
「本日はどのようなドレスをお探しでしょうか」
ついさっきまで話していた客をまるでいないものとして扱っている。このお店は本当に大丈夫なのだろうか。まったく。ため息をつきたくなる。
「お金がなくとも同じ客。そこまで態度を変えるのもどうかと思いますが」
私も彼女と同じように笑顔を貼り付け笑ってやった。彼女はムッとしたような顔をしたかと思うと、対抗するようにまたあの笑顔で笑う。
「ですが、こちらのお客様の予算ではこの店のドレスはとても買えません……」
まるで反省する様子がない。本気で自分が正しいと思っているのだろうか。少なくとも私はそれが正しいとは思えない。
「言い方があるでしょう、と言っているのです。わかりにくかったでしょうか」
少し嫌味ったらしくなってしまっただろうか。まあ、いいや。
女の子の涙はもう止まっていた。その綺麗な目には、私だけが映っていた。
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