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第12話「7月末のシド・ヴィシャスへ」
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その日の夜、僕はまた夢を見た。半力さんの夢だ。
「残念でしたね」
「何が?」
「ほっこり大賞の公募。せっかく、テーマはばっちりだったのに……」
「仕方ないさ。第三回って書いてあったし、いつか第四回もあるだろ?」
「第四回だとダメなんです」
「どうして?」
「ご主人様は、もうすぐ筆を折っちゃうから……」
半力さんの顔は物凄くまじめだった。
「全力さんに聞いたんですけど、もし第三回に応募することが出来てたら、何か賞が貰えてたみたいなんです」
「そんなこと言ってもなあ……」
「一つだけ方法があります。過去のご主人様に、ちくねこ。の入ったメールを送るんです」
「あはは。そんなことできる訳がないよ」
「それが出来るんです。全力さんのあの箱があれば」
「えっ?」
その後の半力さんの説明はイマイチ要領を得なかったが、要点をかいつまむと、こういう事らしい。この世界は一つではなく、似たような並行世界が沢山あって、時系列もそれぞれ異なっている。そして、全力さんの乗ってるあの箱があれば、過去や未来に居る全力さんを通して、別の世界線の僕に情報を送ることが出来るらしいのだ。
「全力さんが大抵あの箱の上に乗っているのは、他の世界線の全力さんと、情報のやり取りをしてるからみたいなんです」
「なるほど」
「そして全力さんの話だと、三か月後のご主人様は、相場に戻っちゃうんですって」
「それは困ったな。ところで、僕が今持ってる、ちくねこ。を七月末の自分に送るとどうなるの?」
「直ぐには何も変わりません」
並行世界の僕が受賞したところで、この世界線はもう十二月だ。既に決まった賞が覆るはずがない。
「だけど、別の世界のご主人様が上手く行ったら、きっと同じように何かアクセスがあると思います」
「アクセス?」
「並行世界って言うのは、まったく別の世界が存在する訳じゃなくて、時系列の違うほとんど同じ世界が無数に存在することを意味します。つまり、一回どこかの世界線のご主人様が成功すれば、それ以後に生まれる世界線のご主人様も同じように成功するんです」
「なるほど」
「情報は過去だけではなく、未来にも送れますから、その中の誰かがきっと、ご主人様に有益な情報をもたらしてくれると思うんです。例えば、受賞の際に良い評価をしてくれた編集さんや、作家さんの名前を教えてくれるとか」
「そっか。期日の過ぎた賞を受賞することは出来なくても、良い評価を与えてくれた人は、この世界にもちゃんといるはずだもんね」
「その通りです。大事なのは何か賞を取ることじゃなくて、ご主人様の作品を評価してくれる、力ある人間の名前を知ることです」
「それさえ分かれば、あとは何とかその人に作品を読んで貰えばいいってことか」
「はい。そういう人が見つかれば、少なくとも、筆を折る事は無くなるはずです」
「わかった。じゃあ、やってみよう。データはどうやって送ればいいの?」
「作品のテキストデータの入ったUSBメモリーを、あの箱の中に入れておいてください。あとは、全力さんが上手くやってくれると思います」
半力さんがそう答えた瞬間、目が覚めた。僕は直ぐに、『ちくねこ。』を全部読み返して、おかしな部分がないかを確認した後、テキストデータをUSBメモリに入れた。そして、赤瀬川さんの事務所に駆けて行った。
「残念でしたね」
「何が?」
「ほっこり大賞の公募。せっかく、テーマはばっちりだったのに……」
「仕方ないさ。第三回って書いてあったし、いつか第四回もあるだろ?」
「第四回だとダメなんです」
「どうして?」
「ご主人様は、もうすぐ筆を折っちゃうから……」
半力さんの顔は物凄くまじめだった。
「全力さんに聞いたんですけど、もし第三回に応募することが出来てたら、何か賞が貰えてたみたいなんです」
「そんなこと言ってもなあ……」
「一つだけ方法があります。過去のご主人様に、ちくねこ。の入ったメールを送るんです」
「あはは。そんなことできる訳がないよ」
「それが出来るんです。全力さんのあの箱があれば」
「えっ?」
その後の半力さんの説明はイマイチ要領を得なかったが、要点をかいつまむと、こういう事らしい。この世界は一つではなく、似たような並行世界が沢山あって、時系列もそれぞれ異なっている。そして、全力さんの乗ってるあの箱があれば、過去や未来に居る全力さんを通して、別の世界線の僕に情報を送ることが出来るらしいのだ。
「全力さんが大抵あの箱の上に乗っているのは、他の世界線の全力さんと、情報のやり取りをしてるからみたいなんです」
「なるほど」
「そして全力さんの話だと、三か月後のご主人様は、相場に戻っちゃうんですって」
「それは困ったな。ところで、僕が今持ってる、ちくねこ。を七月末の自分に送るとどうなるの?」
「直ぐには何も変わりません」
並行世界の僕が受賞したところで、この世界線はもう十二月だ。既に決まった賞が覆るはずがない。
「だけど、別の世界のご主人様が上手く行ったら、きっと同じように何かアクセスがあると思います」
「アクセス?」
「並行世界って言うのは、まったく別の世界が存在する訳じゃなくて、時系列の違うほとんど同じ世界が無数に存在することを意味します。つまり、一回どこかの世界線のご主人様が成功すれば、それ以後に生まれる世界線のご主人様も同じように成功するんです」
「なるほど」
「情報は過去だけではなく、未来にも送れますから、その中の誰かがきっと、ご主人様に有益な情報をもたらしてくれると思うんです。例えば、受賞の際に良い評価をしてくれた編集さんや、作家さんの名前を教えてくれるとか」
「そっか。期日の過ぎた賞を受賞することは出来なくても、良い評価を与えてくれた人は、この世界にもちゃんといるはずだもんね」
「その通りです。大事なのは何か賞を取ることじゃなくて、ご主人様の作品を評価してくれる、力ある人間の名前を知ることです」
「それさえ分かれば、あとは何とかその人に作品を読んで貰えばいいってことか」
「はい。そういう人が見つかれば、少なくとも、筆を折る事は無くなるはずです」
「わかった。じゃあ、やってみよう。データはどうやって送ればいいの?」
「作品のテキストデータの入ったUSBメモリーを、あの箱の中に入れておいてください。あとは、全力さんが上手くやってくれると思います」
半力さんがそう答えた瞬間、目が覚めた。僕は直ぐに、『ちくねこ。』を全部読み返して、おかしな部分がないかを確認した後、テキストデータをUSBメモリに入れた。そして、赤瀬川さんの事務所に駆けて行った。
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