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そしてそのシートの上にはお重箱に詰められた、容器に似合わない彩りの良いサンドウィッチやデコレーションされたクッキー、わざわざ袋から出して盛り付けたであろうお菓子が並んでいる。すると莉結が私に持たせていたバッグを手に取って、中から似たようなお重箱を取り出した。
「みんな良かったらこれも食べてねっ」
そう言って莉結がお重箱の蓋に手を掛けると辺りから歓声が上がった。麗美の友達なんて目を輝かせて携帯のカメラを構えだしている。私はそんなに興味は無かったけど、やけに重かった荷物の正体を確かめてやろうと私も合わせて視線を向けた。
「ジャーンっ」
「何だこれっ!」
莉結の掛け声と共に開かれた蓋の中身を見て私は思わず声を上げてしまった。それに対して笑いが起こり、私は恥ずかしくなって視線を逸らした。
莉結のお重の中身、それは都会の満員電車の如く詰め込まれた三色団子の詰め合わせだった。
「これ莉結ちゃんの手作りっ?」
麗美がそう言うと莉結は照れ臭そうに頷いた。しかし、嬉しそうな麗美を他所に詰め込まれ過ぎて変形し、団子には見えないようなそれを見て苦笑いを浮かべる麗美の友達。あんなにはしゃいで構えていたカメラもシャッターを押す事なくバッグへとそっとしまっている。そんな姿を見て私は"あぁそういう事か"と何となくその子の事がわかった気がした。その子にとっては写真に残す理由なんて思い出の為ってよりは自慢の材料集めみたいなものなんだろう。それはきっと手作りの可愛い食べ物を写真映えのする場所で食べたんだよっ、ていう優越感の押し付け。でも私は見映え重視で作ったようなものよりも、この莉結らしさで溢れるものの方がいいと思った。きっと莉結は"みんなが好きなだけ食べられるように"なんて考えてこんなにも沢山の団子を作ったに違いないから。
「莉結凄いじゃん。こんなに沢山いつ作ったの?」
莉結の耳元で私は言った。手作りの団子はすぐ固くなっちまうから作り置きはできないんだよ、と莉結のお婆ちゃんが言っていたのを思い出したからだ。
「今朝だよ? まぁお婆ちゃんにもちょっと手伝ってもらったけどね」
どんだけ早起きしたんだよ、なんて思って頬が緩んだ。でも本当はみんなでこういうことするの好きなのかなって今更になって莉結の知らない一面が垣間見えた気がして何だか嬉しくなる。それと、私にも"今日来て良かったな"なんて感情が湧き出た事は莉結には内緒にしておくつもりだ。
「誰も食べないならもらっちゃおっと」
私は態とらしくそう言って団子を一本取ると口に含んだ。莉結の作ったものなんだから美味しいに決まってると思ってはいたけど……。
「何これ……、凄い美味しいっ!」
自然とそんな言葉が溢れた。甘いものはそんなに食べなかった私だけど、これも味覚の変化なのか……、ううん、これは今まで食べた事が無い新種のデザートだからかもしれない。
その柔らかな団子の中に詰め込まれていたものは餡では無く甘酸っぱい苺ソースだった。そしてそれだけじゃ無い。苺ソースの赤色団子、白色の団子には練乳が入っていて、緑色の団子にはキウイソースが入っているという手の込み用だ。
「何これっ、ヤバいっ」
私の後に続いて口にした麗美さんが目を見開いて手足をバタバタとさせた。それを見た麗美の友達も、顔を見合わせてから団子を手にとり……。
「ホントだっ……、凄い美味しいっ」
私は心の中で"見た目より味だバーカっ!"と舌を出した。ふと目をやった莉結の横顔は本当に嬉しそうで、私も莉結の努力が認められた気がして嬉しかった。
「稚華も食べなよっ」
麗美がそう言って団子を手に取った。そういえばさっきからこの子だけはみんなの輪に入っていない気がする。上手い具合に話を合わせつつもどこか私たちに壁を作っているような独特な雰囲気。
「ありがとっ……、うわっ美味しいっ! これ貰ってってもいいかなぁ?」
その言葉に一瞬訪れた沈黙。そしてその意味を考えている私たちに麗美がそっと口を開いた。
「稚華には身体の悪い妹が居るんだ。だから妹にもって事、そうでしょっ?」
「あぁ、ごめんっ。言葉足らずだったね。そういう事なんだけどいいかなぁ?」
すると莉結が少し困ったような表情で言った。
「うん……。私は嬉しいけどこのお団子手作りだから家に着く頃には固くなっちゃってるかも」
それを聞いた稚華さんは手に持った団子を見ながらも残念そうに"そっかぁ……、ならしょうがないかっ"と呟く。
「また作りたてのやつ持ってってあげるよっ! 妹さんにっ」
莉結がそう言うと稚華さんは喜んだ。しかしすぐに表情を曇らせてこう答える。
「あ、でもごめん、やっぱりいいや。うちの妹、人見知りで家に人が来るの凄い嫌がるからさっ。ホントごめん」
稚華さんはそう言って視線を逸らした。その瞳は何処か寂しげで、本当は来てもらいたいのにできない理由がある、稚華さんの表情からそんな雰囲気を感じた。
「じゃぁ私が妹の分も食べちゃおっと」
麗美さんがおちゃらけて団子を手に取る。麗美はこういう所に敏感で空気を読むのが上手いよな、ってつくづく思う。そんな麗美のおかげで少しずつ打ち解けていった私たちは、暫く経ったころには満開の桜には目もくれず、何でもない話に花を咲かせるようになっていた。
そしてその時は突然訪れた。麗美の明るい性格は昔から変わらない、なんて話をしていると美穂が気になる事を言ったのだ。
それは"麗美のこの性格は危ないクスリをやっているせいだ"なんて冗談の会話から始まった。するとそんなふざけ合った会話の途中に美穂が"その証拠に注射の跡ヤバいし"なんて事を言ったのだ。それはあの時……、そう林間学校のお風呂場で私が見たぼんやりと残る記憶を思い起こさせた。
あの注射痕……。それは私のものとよく似ていた。あんな所に沢山の注射跡を残すような事はよくある事だろうか? いや、少なくとも私の知る限りはそんな人は会ったことが無いのだ。そしてもう一つ、私の夢に出てきた父さんの言葉。あんなものはただの夢だったのかもしれない。だけど妙にリアルで脳裏に焼き付いたその言葉は、目の前の事実と夢の中の言葉たちをリンクさせようとしていた。
「みんな良かったらこれも食べてねっ」
そう言って莉結がお重箱の蓋に手を掛けると辺りから歓声が上がった。麗美の友達なんて目を輝かせて携帯のカメラを構えだしている。私はそんなに興味は無かったけど、やけに重かった荷物の正体を確かめてやろうと私も合わせて視線を向けた。
「ジャーンっ」
「何だこれっ!」
莉結の掛け声と共に開かれた蓋の中身を見て私は思わず声を上げてしまった。それに対して笑いが起こり、私は恥ずかしくなって視線を逸らした。
莉結のお重の中身、それは都会の満員電車の如く詰め込まれた三色団子の詰め合わせだった。
「これ莉結ちゃんの手作りっ?」
麗美がそう言うと莉結は照れ臭そうに頷いた。しかし、嬉しそうな麗美を他所に詰め込まれ過ぎて変形し、団子には見えないようなそれを見て苦笑いを浮かべる麗美の友達。あんなにはしゃいで構えていたカメラもシャッターを押す事なくバッグへとそっとしまっている。そんな姿を見て私は"あぁそういう事か"と何となくその子の事がわかった気がした。その子にとっては写真に残す理由なんて思い出の為ってよりは自慢の材料集めみたいなものなんだろう。それはきっと手作りの可愛い食べ物を写真映えのする場所で食べたんだよっ、ていう優越感の押し付け。でも私は見映え重視で作ったようなものよりも、この莉結らしさで溢れるものの方がいいと思った。きっと莉結は"みんなが好きなだけ食べられるように"なんて考えてこんなにも沢山の団子を作ったに違いないから。
「莉結凄いじゃん。こんなに沢山いつ作ったの?」
莉結の耳元で私は言った。手作りの団子はすぐ固くなっちまうから作り置きはできないんだよ、と莉結のお婆ちゃんが言っていたのを思い出したからだ。
「今朝だよ? まぁお婆ちゃんにもちょっと手伝ってもらったけどね」
どんだけ早起きしたんだよ、なんて思って頬が緩んだ。でも本当はみんなでこういうことするの好きなのかなって今更になって莉結の知らない一面が垣間見えた気がして何だか嬉しくなる。それと、私にも"今日来て良かったな"なんて感情が湧き出た事は莉結には内緒にしておくつもりだ。
「誰も食べないならもらっちゃおっと」
私は態とらしくそう言って団子を一本取ると口に含んだ。莉結の作ったものなんだから美味しいに決まってると思ってはいたけど……。
「何これ……、凄い美味しいっ!」
自然とそんな言葉が溢れた。甘いものはそんなに食べなかった私だけど、これも味覚の変化なのか……、ううん、これは今まで食べた事が無い新種のデザートだからかもしれない。
その柔らかな団子の中に詰め込まれていたものは餡では無く甘酸っぱい苺ソースだった。そしてそれだけじゃ無い。苺ソースの赤色団子、白色の団子には練乳が入っていて、緑色の団子にはキウイソースが入っているという手の込み用だ。
「何これっ、ヤバいっ」
私の後に続いて口にした麗美さんが目を見開いて手足をバタバタとさせた。それを見た麗美の友達も、顔を見合わせてから団子を手にとり……。
「ホントだっ……、凄い美味しいっ」
私は心の中で"見た目より味だバーカっ!"と舌を出した。ふと目をやった莉結の横顔は本当に嬉しそうで、私も莉結の努力が認められた気がして嬉しかった。
「稚華も食べなよっ」
麗美がそう言って団子を手に取った。そういえばさっきからこの子だけはみんなの輪に入っていない気がする。上手い具合に話を合わせつつもどこか私たちに壁を作っているような独特な雰囲気。
「ありがとっ……、うわっ美味しいっ! これ貰ってってもいいかなぁ?」
その言葉に一瞬訪れた沈黙。そしてその意味を考えている私たちに麗美がそっと口を開いた。
「稚華には身体の悪い妹が居るんだ。だから妹にもって事、そうでしょっ?」
「あぁ、ごめんっ。言葉足らずだったね。そういう事なんだけどいいかなぁ?」
すると莉結が少し困ったような表情で言った。
「うん……。私は嬉しいけどこのお団子手作りだから家に着く頃には固くなっちゃってるかも」
それを聞いた稚華さんは手に持った団子を見ながらも残念そうに"そっかぁ……、ならしょうがないかっ"と呟く。
「また作りたてのやつ持ってってあげるよっ! 妹さんにっ」
莉結がそう言うと稚華さんは喜んだ。しかしすぐに表情を曇らせてこう答える。
「あ、でもごめん、やっぱりいいや。うちの妹、人見知りで家に人が来るの凄い嫌がるからさっ。ホントごめん」
稚華さんはそう言って視線を逸らした。その瞳は何処か寂しげで、本当は来てもらいたいのにできない理由がある、稚華さんの表情からそんな雰囲気を感じた。
「じゃぁ私が妹の分も食べちゃおっと」
麗美さんがおちゃらけて団子を手に取る。麗美はこういう所に敏感で空気を読むのが上手いよな、ってつくづく思う。そんな麗美のおかげで少しずつ打ち解けていった私たちは、暫く経ったころには満開の桜には目もくれず、何でもない話に花を咲かせるようになっていた。
そしてその時は突然訪れた。麗美の明るい性格は昔から変わらない、なんて話をしていると美穂が気になる事を言ったのだ。
それは"麗美のこの性格は危ないクスリをやっているせいだ"なんて冗談の会話から始まった。するとそんなふざけ合った会話の途中に美穂が"その証拠に注射の跡ヤバいし"なんて事を言ったのだ。それはあの時……、そう林間学校のお風呂場で私が見たぼんやりと残る記憶を思い起こさせた。
あの注射痕……。それは私のものとよく似ていた。あんな所に沢山の注射跡を残すような事はよくある事だろうか? いや、少なくとも私の知る限りはそんな人は会ったことが無いのだ。そしてもう一つ、私の夢に出てきた父さんの言葉。あんなものはただの夢だったのかもしれない。だけど妙にリアルで脳裏に焼き付いたその言葉は、目の前の事実と夢の中の言葉たちをリンクさせようとしていた。
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