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70.偶然の
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「何やってんの?」
本屋を出たと同時に誰かが私へと声を掛けた。しかし、その"誰か"は意識する以前に、その聞き慣れた声だけで私に誰であるかを気付かせる。
「莉結……。お前こそなんだよ……」
「ねぇ、"お前"じゃないでしょっ」
莉結は怪訝そうにそう言って私に指を立てた。だけど私には反論する元気は無く、"ごめん、それじゃ"とだけ小さく答えて足を進めようとした。
「ちょっと待ってよ」
そう言うと同時に私の肩を莉結の手が掴む。そしてゆっくりと振り返った私の目には……、莉結の真剣な眼差しが向けられていた。
「なに……?」
すると私の肩から莉結の手がゆっくりと離れていく。そして莉結は、一瞬何か迷うように視線を下げてから再び私へと視線を戻す。
あれ? ……さっきとは違う寂しげな瞳。
「天堂さんと……、なんかあった?」
「へっ? どうして? 別に……、何も」
突然の的を射た質問に動揺を隠しきれなかったが、どうしてかあの出来事を話す気にはなれなかった。別に隠したいわけじゃない。やましい事でもないのに。それでも何故だか莉結には話せなかった。
「絶対嘘。何年瑠衣と一緒に居ると思ってんの?」
そりゃそうか。いつだって莉結は私の気持ちを見透かしているように隠した気持ちさえ気付いてしまうのだ。それは私が感情を隠すのが下手なのか、莉結の洞察力が優れているのか……。どちらにせよ私と莉結の一緒に過ごしてきた長い年月がそうさせているのは間違いない。こういう時は幼馴染も善し悪しだな、と思ってしまう。
早々に観念した私は一先ず手に持った動物園のお土産の入った袋をズンと前に突き出した。
「とりあえず、これ」
莉結は一瞬呆気にとられたような表情をしたけど、"えっ、なにこれ? "と袋の中を覗いた。
「動物園……行ったんだ」
「うん……。それ莉結のお土産」
「えっ、私に?」
莉結は驚いた様子でそう答えた。どう見たって莉結へのお土産以外に考えられないっていうのに、私が他の誰にあげるっていうのか。それでも次の瞬間には莉結の表情は和らぎ、何でもない普通のビスケットを見つめて嬉しそうに微笑んだ。
「ありがと……。それで、どうしたの? 天堂さんは?」
「うん。それなんだけどさ……」
……私は莉結にあの出来事を話した。なるべく細かく、覚えている限りの会話まで丁寧に。莉結はというと相槌を打ちながら最後まで口を挟む事なく私の話を真剣に聞き、私の話が終わると大きな溜息を吐き出してゆっくりと口を開いた。
「事情はわかった。でも私にはビスケットで天堂さんにはそのぬいぐるみだったんだぁ」
「べ、別にいいじゃんか、そんな欲しいならこれもあげるよ」
「要らないよそんなの。いやっ、違っ……、えっとなんかおかしいと思ったんだよねぇ、瑠衣がそんな可愛い人形持ち歩いてるなんてさっ」
莉結はそう言ってぬいぐるみを指差すと、呆れたような視線を私に向けた。
その瞬間、ぬいぐるみを手に持ち、あどけない瞳で上目遣いに微笑む自分の姿が脳裏に浮かんだ。そしてそんな"絵に描いたような女"みたいな事をしていた自分が急に恥ずかしくなった私は、慌ててぬいぐるみを鞄へと押し込むと「そんなんどうでもいいからどうして突然彩ちゃんが変になっちゃったのか考えてよ!」と叫んだ。
「ちょっと声大きいっ」
莉結は態とらしく立てた人差し指を口元に当てつつ、さっと辺りを見渡してから私の腕を掴んだ。私は驚いて莉結の顔を覗き込んだけど、莉結は私に視線を合わせる事なくそのまま腕を引っ張って早々と足を進めていく。
「ちょっ……、どこ行くの?」
「どうせ瑠衣の事なんだからそのままのこのこと帰ってきたんでしょ? 天堂さんの家知ってるんだからさ、行って直接聞けばいいじゃんっ」
のこのことは失礼な気もするけど、莉結の言う通りだ。私は言われるがままに理由も分からず一人悩んだまま家へと足を進めたはずだ。そして多分、家に着いてからも脳裏にべっとりとこびり付いたあの言葉の意味をひたすらに悩み続けていた事だろう。
本屋を出たと同時に誰かが私へと声を掛けた。しかし、その"誰か"は意識する以前に、その聞き慣れた声だけで私に誰であるかを気付かせる。
「莉結……。お前こそなんだよ……」
「ねぇ、"お前"じゃないでしょっ」
莉結は怪訝そうにそう言って私に指を立てた。だけど私には反論する元気は無く、"ごめん、それじゃ"とだけ小さく答えて足を進めようとした。
「ちょっと待ってよ」
そう言うと同時に私の肩を莉結の手が掴む。そしてゆっくりと振り返った私の目には……、莉結の真剣な眼差しが向けられていた。
「なに……?」
すると私の肩から莉結の手がゆっくりと離れていく。そして莉結は、一瞬何か迷うように視線を下げてから再び私へと視線を戻す。
あれ? ……さっきとは違う寂しげな瞳。
「天堂さんと……、なんかあった?」
「へっ? どうして? 別に……、何も」
突然の的を射た質問に動揺を隠しきれなかったが、どうしてかあの出来事を話す気にはなれなかった。別に隠したいわけじゃない。やましい事でもないのに。それでも何故だか莉結には話せなかった。
「絶対嘘。何年瑠衣と一緒に居ると思ってんの?」
そりゃそうか。いつだって莉結は私の気持ちを見透かしているように隠した気持ちさえ気付いてしまうのだ。それは私が感情を隠すのが下手なのか、莉結の洞察力が優れているのか……。どちらにせよ私と莉結の一緒に過ごしてきた長い年月がそうさせているのは間違いない。こういう時は幼馴染も善し悪しだな、と思ってしまう。
早々に観念した私は一先ず手に持った動物園のお土産の入った袋をズンと前に突き出した。
「とりあえず、これ」
莉結は一瞬呆気にとられたような表情をしたけど、"えっ、なにこれ? "と袋の中を覗いた。
「動物園……行ったんだ」
「うん……。それ莉結のお土産」
「えっ、私に?」
莉結は驚いた様子でそう答えた。どう見たって莉結へのお土産以外に考えられないっていうのに、私が他の誰にあげるっていうのか。それでも次の瞬間には莉結の表情は和らぎ、何でもない普通のビスケットを見つめて嬉しそうに微笑んだ。
「ありがと……。それで、どうしたの? 天堂さんは?」
「うん。それなんだけどさ……」
……私は莉結にあの出来事を話した。なるべく細かく、覚えている限りの会話まで丁寧に。莉結はというと相槌を打ちながら最後まで口を挟む事なく私の話を真剣に聞き、私の話が終わると大きな溜息を吐き出してゆっくりと口を開いた。
「事情はわかった。でも私にはビスケットで天堂さんにはそのぬいぐるみだったんだぁ」
「べ、別にいいじゃんか、そんな欲しいならこれもあげるよ」
「要らないよそんなの。いやっ、違っ……、えっとなんかおかしいと思ったんだよねぇ、瑠衣がそんな可愛い人形持ち歩いてるなんてさっ」
莉結はそう言ってぬいぐるみを指差すと、呆れたような視線を私に向けた。
その瞬間、ぬいぐるみを手に持ち、あどけない瞳で上目遣いに微笑む自分の姿が脳裏に浮かんだ。そしてそんな"絵に描いたような女"みたいな事をしていた自分が急に恥ずかしくなった私は、慌ててぬいぐるみを鞄へと押し込むと「そんなんどうでもいいからどうして突然彩ちゃんが変になっちゃったのか考えてよ!」と叫んだ。
「ちょっと声大きいっ」
莉結は態とらしく立てた人差し指を口元に当てつつ、さっと辺りを見渡してから私の腕を掴んだ。私は驚いて莉結の顔を覗き込んだけど、莉結は私に視線を合わせる事なくそのまま腕を引っ張って早々と足を進めていく。
「ちょっ……、どこ行くの?」
「どうせ瑠衣の事なんだからそのままのこのこと帰ってきたんでしょ? 天堂さんの家知ってるんだからさ、行って直接聞けばいいじゃんっ」
のこのことは失礼な気もするけど、莉結の言う通りだ。私は言われるがままに理由も分からず一人悩んだまま家へと足を進めたはずだ。そして多分、家に着いてからも脳裏にべっとりとこびり付いたあの言葉の意味をひたすらに悩み続けていた事だろう。
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