本日は性転ナリ。

ある

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111.あのヒト

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その頃は父親を亡くして間も無く、母さんが仕事に追われ家に独りきりの私を気遣い、よく莉結の家で晩御飯をご馳走になっていた。

買い物に出掛けた莉結の両親は、なかなか家に戻って来なかった。

その時はさほど気にもしていなかったが、1本の電話が鳴る。

血相を変えたお婆ちゃんが"莉結ちゃん…とんで(急いで)出るよ!!"と莉結と私の手を取りタクシーへ乗った。


着いた先は病院。

そこにいたのは別人にも思えるほど顔面が赤黒く腫れ上がり、身体中に包帯が巻かれた莉結の両親であった…

莉結の到着を待っていたかのように、幼い莉結の目の前で2人は息を引き取った。


それから莉結は3日ほど泣き続けた。

私はその間もずっとそばに居る事しかできなかった。

何もできず、気の利いた言葉も見つからず…あれ程辛かったことはない。

"あのヒト"が来たのは通夜の時だった。

親族控室で座っていると、外からお婆ちゃんの怒鳴り声が聞こえた。

外に出ると若い大人の人が頭を地面に叩きつける勢いで土下座をして何か叫んでいた。

お婆ちゃんはそのヒトに何か言うと、こちらへ向かって戻ってきた。

その間もそのヒトは頭を上げることはなかった。

時間が経ってから、あのヒトは"加害者"なんだと理解した。


莉結の両親は交通事故で亡くなったのだ。

それから毎年この時期になると、必ず花が供えられている。

被害者側の気持ちは、微々たるものであれど少しずつ落ち着いていくものだが、加害者の罪の意識は消えることはない。

あのヒトは自身がこの世を離れるまでずっと過去に悩まされ、自責の念が消えることはないのだろう。

一瞬の不注意で一生悩まされ続けるなんて、許せはしないが、少しだけ可哀想に思ってしまった。



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