滝川家の人びと

卯花月影

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19 決別のとき

19-3 瓢げ者の思惑

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 動乱の年が終わり、明けて天つ正しき十一の年。
 蒲生家には待望の男子が誕生した。格式を重んじる蒲生家では嫡男誕生時の通過儀礼が多く、とにかく忙しくなる。出産の間、祈祷を続けていた陰陽師が庭先で片づけをしている中、産立の祝いがあり、城では家臣たちが勢ぞろいして夜を徹した初夜の祝いが盛大に執り行われた。
 三日夜の祝い、五日夜の祝いと続き、今日は七日夜の祝いだ。庭先には家臣たちから送られた馬がずらりと並び、広間は同じく家臣たちが献上した武具が所狭しと並べられている。
「殿!若君は大きくなられましたかな!」
 早くもろれつが回っていない町野長門守が嬉しそうに声をかけると、物がはっきりと見えないほどに酔いがまわっている忠三郎が嬉しそうに町野長門守を見上げ、
「長門。まだ七日しかたっておらぬ」
「されど、蒲生家の御嫡男。そろそろ馬に乗ってもおかしくないころかと。ところで、若君は何とお呼びすれば?」
 通常、七日夜の祝いの席では幼名を書いて張り出すものだが、それが見当たらない。
「おぉ、忘れておった!」
 嬉しさのあまり、名をつけるのを忘れてたことに気付いた。
「なんとも殿らしゅうござります。…で、お名前は?」
「それは無論、鶴千代に決まっておる!」
「鶴千代君。ハハッ!」
 七日目は生まれた子があの世からこの世へ移された日と言われる。
「もう七日目か」
 酒宴が続き、ずっと飲み明かしているため、昼も夜もわからず、何日たったのかも定かではなかった。
「はい。もう産剃の儀も終わり、綿向神社に若君の産毛が奉納されておりまする」
「章も産屋から出ておるのか」
「はい。少し疲れたご様子で…」
 産婦は七日目にならなければ産屋を出られないしきたりだ。
「では顔を見に行こうか」
 章姫のために用意した奥御殿に足を向けようとすると、宴に出ていた関盛信が慌てたように近寄って来た。
「忠三郎殿。ちとお待ちを」
 後ろには次男の一政もいる。二人は男子誕生の二日目に祝いの品を持って日野に来て、それからずっと滞在している。
「そろそろ安土に年賀の挨拶に行かねばならぬかと思うておるのじゃが…」
 二人が来たのは一月三日。それからずっと祝いの宴に付き合うことになり、忠三郎が腰を上げるのを今か今かと待って、もう五日もたつ。日野から目と鼻の先にある安土に行くのであれば一日あれば事足りる筈だが、北伊勢の居城、亀山城を出てから七日たっても安土にたどり着いていない。
(もしや忘れておるのでは…)
 常人ならばあり得ない話だ。しかし忠三郎であればあり得なくもない。
「これは…失念しておった」
 案の定、忠三郎はそう言って笑った。
「では九日夜の祝いを終えたあとに参りましょう」
 関盛信が恐れていた通りの答えが返って来た。
 九日夜の祝いで、誕生の祝いに区切りがつく。このあとは三十日になるまで儀式はない。機嫌よく席をたち、広間を出ようとする忠三郎の背中を見送りながら、本当に大丈夫なのかと不安になった。
 忠三郎が広間を去ろうとしているのを見て、慌てて声をかけてきた人物がもう一人。祝いに来ていた美濃の国人、牧村長兵衛だ。牧村長兵衛は安土の三法師に年賀の祝いを述べたあと、日野に立ち寄った。
「忠三郎殿、祝着至極でござりまする」
「これはこれは長兵衛殿。痛み入りまする。そのご様子では、まだまだ飲み足りぬのでは?…長門!大盃を」
 上機嫌でそう言う忠三郎に、城についてから大酒を飲まされ続けていた牧野長兵衛は焦って忠三郎を押しとどめると人目をはばかるような小さな声になり
「ちと…よろしいかな」
「はて?なにか…?」
 どうやら人には知られたくない話らしく、ずいずいと忠三郎の腕を引き、不思議そうに見守る家臣たちを尻目に、ついに厠の前まで連れてきた。忠三郎専用の厠なので誰かが来ることはないが、それにしても奇妙な態度だ。
「長兵衛殿?」
 何事かと忠三郎が首を傾げると、長兵衛はちらちらと辺りを伺いながら口を開いた。
「妹御を人質に出されたとか」
「そのことでござるか。然様、先日、黒田殿が…」
 と言いかけると、長兵衛は顔色を変えて
「やはり何もご存じないと見える。お身内の女子を人質に出すなどと…」
「は…?」
 長兵衛の言わんとしていることが理解できず、忠三郎は首を傾げる。
「羽柴殿の女狂いをご存じないとは。忠三郎殿が清須に連れて行った故右府様のご側室、城介様のご側室方は皆、羽柴殿の妾にされておりまするぞ」
「え…」
 長兵衛の話で急に酔いが覚めた。
「ち、ちと待たれよ…。長兵衛殿、それは一体…」
 この戦さが終わったら、当然、虎は無傷で返されるものと思っていた。
「それほど驚かれるところを見ると、父君や妹御と何も話し合いをせずに手放されたか。羽柴殿が名家の姫君をお好みであることは、存じておられることと思うていたが…」
 すべてが寝耳に水であり、初めて聞いた話ばかりだ。
「そ、それで?」
 忠三郎が泣き出しそうな声で問うと、長兵衛は顔を曇らせる。
「更に拙いことに、身の危険を察した妹御が、あろうことか懐妊されていると、自らそう仰せになったとか」
「懐妊?虎が?」
 何も聞いていない。というよりも、そもそも虎には何も説明をしていなかった。何も知らずに秀吉の元に連れていかれた虎が、窮した挙句に咄嗟に口にしたと思われた。
「そ、それは…あの、真の話で?」
「驚いた筑前殿が大医を呼び、診させたところ、間違えないと」
「さ、されど…妹が滝川三九郎の室であったことは、筑前殿もご存じのはずでは」
「然様。それゆえ、子については取沙汰せぬと」
「取沙汰せぬとは。では…妹も子も、お返しいただけると?」
 存外に秀吉の態度が肝要で少しほっとしたが、
「いえ。それはそれ。これはこれ」
「…と、言われると?」
「子が生まれた後に、正式に虎殿を側室として迎えたいと、そう仰せで」
 長兵衛の言っていることがにわかに理解できず、忠三郎はポカンとした顔をした。
「忠三郎殿、気を確かにお持ちくだされ」
 不安になった長兵衛が声をかけると、
「は…それはそれ、これはこれ…。子が生まれた後…虎を…」
 ひとつひとつ反芻して、ようやく理解できた。
「妹を側女にすると?」
 ふつふつと怒りが沸き上がって来た。
 これほどの屈辱があるだろうか。これまで下賤な者と見下してきた秀吉に土足で踏みつけられ、忠三郎の自尊心は深く傷つけられた。
「さすれば生まれた子は、お返しくださるとのことでござります」
「そ、それでは…」
 妹を生贄にして身の保身を図った痴れ者と、天下の笑いものになるではないか。そう言いそうになり、グッと言葉を飲み込む。
「口惜しいお気持ちはよう分かりまする。されど、これは取りようによってはよき話。これから天下の覇者となる筑前殿と親類になるということじゃ」
 なんとか忠三郎の気持ちをなだめようと、長兵衛は必死に言葉を取り繕うが、忠三郎は一点を見つめたまま、何も言わない。
「忠三郎殿。この話はお受けしても…」
 恐る恐る顔を覗き込むと、忠三郎が突然、顔をあげ、おおよそ普段の忠三郎には似合わない高笑いをはじめた。
「あ、あの…忠三郎殿…」
 長兵衛はぎょっとして、腫れ物に触るかのように声をかける。すると忠三郎はピタリと笑いを収め、
「長兵衛殿。委細承知仕りました。御前よしなに」
 それだけ言うと、踵を返して逃げるように館の外へ向かって走り去った。
「あ、殿!北伊勢から祝いの…」
 町野長門守が声をかけるが、忠三郎は聞こえていないかのように館を飛び出し、厩へ向かっていく。
「殿!いずこへ?」
 並々ならぬ忠三郎の剣幕に、異変を感じた町野長門守が慌てて追いかけてくるが、忠三郎は振り返ることもせず馬に飛び乗ると、そのまま外へ向かって走り去ってしまった。
 
 夜になり、日野谷に冷たい風が吹く。今宵は雪が舞い落ちるかもしれない。木枯らし吹く中、城下の信楽院の傍にある庵の明かりは、夜遅くなっても消えることがなかった。
「やれやれ。相変わらずこの辺りは風が冷たい。凍り付きそうじゃ」
 義太夫が手をこすり合わせると、助九郎も、まことに、と体を震わせる。二人は挙兵準備の締めくくりとして日野の鉄砲鍛冶村で鉄砲を買い求め、伊勢に戻るところだ。
 昼間、勢いよく馬を走らせ、城下に向かっていくのが忠三郎だと分かったが、気にも留めずに鍛冶村へ向かった。ほどなくして、ふと気になり、もしやと思い庵へ来て見ると、案の定、庵の前に大層な鞍を付けた馬が繋ぎ止めてあった。
 そっと覗き込むと庭先の待合に町野長門守らしき姿が見えた。忠三郎に追い返されたのか、中には入れてもらえず、一人、待合に座る姿はなんとも哀れだ。
「助太郎も難儀しておったようじゃが、あやつの乳人子も難儀じゃ。それに比べ、助九郎。そのほうはずっとわしと供にいられてよかったのう」
「は、はぁ…然様で」
 なんとも返事に困った助九郎が、頭上に輝く月を見る。
「されど、昼間、お姿を見たときから随分と時がたっておりまする。お二人とも、ずっとあの場所で?」
「よう知らんが…。昼寝じゃろ」
 どうしようかと思案したが、買い求めた鉄砲を助九郎に預け、行ってみることにした。
 茶室の扉をガタガタと音を立てて開けようとすると、
「入ってくるなと言う…」
 町野長門守だと思い、茶室に入ろうとしている者の顔を見て、忠三郎が驚いて目を見開く。
「義太夫…」
「なんじゃ、如何した?」
 あまりに惚けたその言いように、忠三郎は可笑しくなって笑い出した。義太夫は何食わぬ顔で、以前に教えられた通り、茶室に入るとすぐに掛け軸に目をやる。
 
 わくらばに問ふ人あらば須磨の浦に
             藻塩たれつつわぶと答へよ
 
 滅多にないことかもしれないが、私のことをたずねる人がいたら、須磨の浦で藻塩の水のような涙で袖を濡らして侘しく暮らしていると答えよ、と詠う。
「在中納言行平が須磨に蟄居した折、侘しく詠んだ歌と言われておる」
「古今集か?」
 感心すると、平然と忠三郎の前に座り、寒い寒いと、手炙りに手をかざす。
「何を探りに参った?」
「どの程度、戦さ支度が進んでおるのかと見て回ったが…。さしたる支度もしてはおらなんだな。ついでに鍛冶屋に頼んでおいた鉄砲を取りに来たのじゃ」
 当たり前のようにうそぶいた。
「何!その方、まだ日野で鉄砲を買いそろえておったのか!」
 鉄砲鍛冶にとって滝川家は上客だ。売り渋ることもないのだろう。
「ついでに城に祝いの品を届けておいた。殿からじゃ。有難く受け取れ」
「義兄上から…」
 一益のことを思い出すと、後ろめたい気持ちでいっぱいになる。忠三郎の雅た顔がにわかに陰り、手元の茶杓に視線を落とす。
「では、わしからこれを」
 と共筒に茶杓を入れようとして、
「銘を入れねばな…」
 忠三郎は左手に共筒、右手に筆をとり、少し考えたのち、スラリと銘を書き込んだ。
「待望の男子誕生というに、浮かない顔をしておるな。如何した?」
「存知の通り、虎を人質に出した。その上…」
 忠三郎はポツリ、ポツリと昼間の牧村長兵衛とのやりとりを話した。義太夫は驚きもせず話を聞いていた。
「よりにもよって我が妹を、あのような賎しい家の者にくれてやる羽目になるとは夢にも思わなんだ」
 忠三郎が口惜しそうにそう言うと、義太夫はしたり顔になり、
「世には今楊貴妃や今李夫人という美しき花の顔《かんばせ》の君も仰山おるに、鶴のように何とも言い難き空蝉のような者の妹でも名門の姫なればの憂いがあるものよの」
 忠三郎はウムと頷き、義太夫が言うところのなんとも言い難き空蝉とは、よくよく吟味すると、中身がないという意味かと気づき、
「待て、それは如何なる意味か」
 と咎めると、
「なんじゃ、気づいたか」
「気づかぬはずもない。されど、器量がよいという評判のある女子は気を付けよと、長兵衛殿が言うておった」
「ふむ…では妙案がある。聞くか?」
「妙案?」
「器量がよいという評判の女子がいかんというのであれば、蒲生家は皆、器量の悪い女子ばかりじゃと、そう噂を流せばよいではないか。頬ゆがみ、目は腫れ、眉毛は一本も抜かぬゆえ、その容姿たるや、漢も及ばぬ猛々しさ。お歯黒もなく、歯は真っ白。おまけに筋骨隆々とし、熊を素手で倒すような屈強な女子ばかりじゃと…」
 義太夫は調子に乗って話し続けるが、聞いているほうは真剣に耳を傾けた自分の愚かさに腹が立つ。
「義太夫、うつけに薬がないとはまことのことなれど…もうよい」
 話す相手を間違えたかな、と忠三郎はため息をついた。義太夫はそんな忠三郎の思いを見透かしたように、
「その方は己の家や誇りが傷つけられたと悔しがる。されど、今の話を聞けば、我が家の若殿のほうが余程、口惜しい思いをなさるのではないか」
 義太夫が忠三郎から受け取った共筒をコツコツと軽く叩きながら言うと、忠三郎は返す言葉もなく黙り込んだ。義太夫はしばらく肩を落としてふさぎ込む忠三郎を見ていたが、
「腹が減っておろう」
 と懐から何やらゴソゴソと包みを取り出す。まさか、また饅頭かと警戒すると、出てきたのは干し柿だった。
 忠三郎は安心して干し柿に手を伸ばした。
「我が城の周りは渋柿ばかりじゃ。美味いか?」
「美味い…が、ちと固い」
「我が家の玉姫殿が仰山作って持たせてくれたのじゃ」
 干し柿は美濃の名産だ。岐阜城のある稲葉山にも柿の木がたくさんあり、信長がフロイスに手土産として渡していたのを思い出す。
「人というものはのう…」
 少々固くなった干し柿を苦労して食べながら、義太夫がしみじみと語りだした。ようやく真面目な話が始まるのかと身構えると、
「飯を食う生き物じゃ」
「飯を食う生き物?」
「然様。腹が減っているとろくなことを考えぬものじゃ。つまらんことを考えだしたら、飯を食え」
「…な、なるほど…」
 飯を食えは、いかにも義太夫らしい助言だ。言われてみると、昔から義太夫は何かあると、懐から食べ物を取り出し、食べさせてくれた。
「おぬしのところの若君への祝いの品じゃが…重文軽武を存じておるか?」
「重文軽武。武人を軽んじ、文官を大事とすることか」
「然様。文事、文学が栄えることが天下泰平に繋がるという考えじゃ」
 魏の皇帝、曹丕が推し勧めた政策で、中華の伝統的な価値観では武官は軽んじられ、文官が重く用いられる。
「剣を取る者はみな剣で滅びる。これよりのちの世、すなわち天下が収まったときにはもはや弓矢取るもののふの世ではなくなる。我等はそのために戦うてきた…と殿はかように仰せであった。それゆえ、それに相応しい品を持参した。まぁ、帰ってから中を改めるがよい」
 それはまた分厚い書物が届いていそうだ。先日生まれたばかりの鶴千代が読めるようになるのは十年以上先のことになる。
「義兄上は、そのようにお考えか」
「いかにも。我らは剣で滅びる身。そのほうも、同じであろう。されど和子が大きゅうなるころには、武芸などは無用の長物となっておるのが殿の願い。…おぉ、そうじゃ。北勢に攻め込んでくるのであれば、しっかと覚悟を決めてから参れ。手加減などせぬゆえ」
 義太夫が共筒を持ってすくっと立ち上がる。
「伊勢に攻め入るようなことは…ないとは思うが…。待て、もう帰るのか」
「安土に関親子を連れて行くのであろう?早う行ったほうがよい。筑前によろしゅうな」
 そう言うと義太夫は茶室の出口にぶつかりながら外へ出た。
「安土に関親子を…何故、そのようなことを存じておる。待て、義太夫!」
 忠三郎も慌てて追いかけようとするが、義太夫以上に大きな体がつかえ、狭い茶室の入口を急いで出ることはできない。やっと外へ出ると、すでに義太夫の姿は暗闇の中に消えていた。
「長門!」
 待合にいる町野長門守に声をかけると、それまで居眠りしていた長門守がハタと目を覚まし、慌てて出てきた。
「何事で?」
「義太夫は?」
「はて?義太夫殿?…義太夫殿が来られたので?」
 長門守はいかにも寝起きという顔をしている。
「もしやそれは幻では?」
「戯けたことを申すな。これを見よ」
 忠三郎が握りしめた手を開くと、そこには干し柿のヘタがあった。寝て起きたばかりで、忠三郎の言うことがさっぱり理解できない長門守にとっては、忠三郎だけが人知れず空腹を満たしたようにしか見えない。
「殿、それがしも腹が減りました。城へ戻ってもよろしゅうござりまするか」
 長門守は昼間からずっと庭先の待合で忠三郎が出てくるのを待っていた。さすがに空腹と見えて情けない声を出して泣き言をいいだす。
 忠三郎は可笑しくなり、
「戻ろう。人は飯を食う生き物ゆえ」
 そう言って馬をつないだ松のほうへと歩みを進める。
「人と言わず、獣も、鳥もみな、飯は食うものでは…」
 一体、忠三郎は何を言い出すのだろうか。町野長門守はこの若い主人の考えにはどうにもついていくことができない。
 忠三郎はというと、もう別のことを考えていた。
(あやつ、去り際に妙なことを言うたな…伊勢に攻め入るなどということが…)
 北陸遠征の話は出ていても、伊勢の話は出ていない。今の状況では伊勢に兵を向けることは考えられないのだが。義太夫の取り越し苦労かと思い、気にも留めずに城に戻った。
 
 二日後。ようやく腰を上げた忠三郎が関盛信を連れて安土に向かった。三法師に拝謁したのはいいが、秀吉は姫路に戻った後だった。致し方なく盛信を連れ姫路まで足を延ばして秀吉に拝謁を願い出ると、すぐに広間に通された
「これなるは伊勢、亀山城主、関安芸守にござりまする」
 関盛信を紹介すると、秀吉が脇息を蹴ってバタバタと盛信に駆け寄り、
「ようおいでくだされた。どうか三法師様のおために、力をお貸しくだされ。なんというてもわしと忠三郎殿は親類。帰するところ、蒲生家と親類の関殿も、わしの親類ということじゃ」
 何も知らない関盛信は、秀吉の言う意味が理解しかねたように忠三郎を見る。
「未だお伝えしておらなんだ。叔父上、虎を羽柴殿の側室にすることが決まったのでござります。つまりは関家の右衛門殿とは相婿となりまする」
 忠三郎が平然と説明をすると、関盛信は驚きを隠せず、咄嗟に言葉がでないようだった。が、何か言わなければと口ごもりつつ、
「それは、ま、まことに、目出度き次第。この上なきよき縁談。我等にとっても身に余る光栄でござりまする」
 知らないなりにもうまく合わせてくれたので、胸をなでおろした。忠三郎はそのまま何事もなく、秀吉の前を下がると、酒肴のもてなしを受けた。
「長門、播磨の酒は如何なものであろうか」
 忠三郎が嬉しそうに傍らに控える町野長門守を振り返る。麹文化発祥の地とも伝わる播磨は、奈良時代から酒が造られていたと言われ、酒造に欠かせない清らかな水と米が豊富に採れる豊饒な地だ。これが京、近江辺りとはまた違う力強い口当たりで、独特の癖がある。
 酒宴では、もてなす方は客人を酔い潰すほどもてなすのが礼儀で、もてなしを受けた側は泥酔するほど飲むのが礼儀だ。忠三郎が勧められるままに機嫌よく盃を傾けていると、どこから見ても酒豪と思しき恰幅のいい若侍が入ってきて、
「御身が蒲生忠三郎殿か」
 と四合から五合は入ると思しき大盃を手に、鴬飲み勝負を挑んできた。鴬飲み勝負とは自分と相手、それぞれの目の前に十の盃を梅の花のごとく五つ並べたものを二つ作り、どちらが早く十杯飲み終わるかを競う。ここで勝負を断ったり、挑戦者に負ければ、笑いものにされる。さながら戦場での一騎打ちのごとく、堂々と勝負し、大盃で十杯を先に飲みほす者こそ、まことのもののふと褒め称えられる。
 忠三郎は正月からの祝宴で連日酒を飲まぬ日はないほどだ。これはさすがに拙いと思った町野長門守が、すわ主の一大事とばかりに体を張って進み出た。
「此度はこの町野長門守が勝負させていただきたく存じ候!」
 忠三郎も相手の若侍も手を叩いて喜び、
「よし!長門!江南の武士の心意気を見せてやれ!」
 とはやし立てた。
 この騒ぎに、次から次と秀吉の家臣と思しき若い武将たちが集まってくる中、御酌人が盃になみなみと酒を注ぐ。
 相手は相当な酒豪と見え、ぐいぐいと水のように飲みほしていく中、町野長門守も負けじと盃を傾ける。すでに周りには人だかりができ、
「市松!負けるな!」
「近江者がひるんでおるがな!」
 と声がかかる。相手は市松というらしい。幼名だろう。言葉の訛りから尾張の者だと分かる。ときどき聞くに堪えない野次も飛び、秀吉子飼いの近侍たちのようだが少々柄が悪い。滝川家の家人たちとはまた少し毛色の違う粗暴さがある。
 気づくと長門守が盃を手に青ざめて、微動だにしなくなった。
「如何した、長門?大事ないか」
 様子がおかしい。忠三郎が心配して声をかけると、長門守はウッと苦しそうに唸り、口から酒を噴き出して卒倒した。
「長門!」
 忠三郎が抱きかかえると、
「殿…武運も尽き果て…」
 と、首を絞められた鳥よりも悲痛に満ちた情けない声を出したので、居並ぶものは皆、不甲斐ない有様に笑い転げた。固唾を飲んで見守っていた関盛信は、どうなることかとハラハラしている。
 やがて小姓らしき前髪立ちの若衆が来て、長門守を介抱するため奥へと連れ去ると、忠三郎は満座の嘲笑の中、
「家人の無念を晴らすべく、次はわしがお相手願おうか」
 と笑顔を返した。
「おぉ、音に聞こえた蒲生忠三郎殿がお相手くださるとな!」
 その場は一気に沸き立ち、人だかりは更に大きくなる。
(ここまでの大勝負は何時ぶりか…)
 なみなみと注がれる酒を見ながら思い返す。安土の御前相撲以来かもしれない。あのときは堀久太郎に勝った。安土でも、ここでも、いつでも勝負は命がけで、周りは敵ばかりのように思える。織田家にいても、こうして秀吉の城に来ていても、近江者と言われる。どこにいても余所者、寄留者であり、安住することはない。
(されど…)
 どこにいようとも、誰を相手にしようとも、勝てばいい。負けるなどとはあり得ない。勝って天下に我が名を知らしめる。我こそはあの信長が認めた娘婿なのだから。
「さすが蒲生忠三郎…」
 どこかからか声が聞こえた。気づくと忠三郎はあと大盃一杯のところまで来ているのに対し、市松はまだ三杯残っている。
(尤もなり。我こそは蒲生忠三郎。天下に名をはせた剛の者)
 忠三郎は誇らしげに最後の一杯を飲み干すと、必死で大盃を傾ける市松に声をかけた。
「また勝負しようではないか。その方、名は?」
「尾張二ツ寺村の福島市兵衛じゃ!」
 いかにも悔しそうに忠三郎を睨み、そう吐き捨てた。
 尾張二ツ村の桶屋の息子、福島市兵衛正則は忠三郎よりも五つ年下で、秀吉の甥にあたる。秀吉の尾張時代からの子飼いの臣だが、無論、忠三郎はそのことは知らない。
 それよりも真っ青になって倒れた町野長門守のことが気がかりだ。叔父の関盛信に声をかけると、長門守の消えた奥の間へと向かっていった。
 
 翌日、ひどい二日酔いでフラフラになっている町野長門守を気遣いながら、城を出る支度を整えていると、襖の向こうから姦しい侍女たちの声が聞こえてきた。
「年が明けたというに、姫様は浮かぬ顔でござりますなぁ」
「待ちに待った母君からのお便りが来ぬゆえ、お心弱くもあらせられまする」
 誰のことだろうか。町野長門守の顔を見ると、何かに思い当たったようで、
「もしや、三十郎様の姫君のことでは…」
「三十郎殿?」
 三十郎とは信長の弟で、中勢、安濃津城主、長野三十郎信包のことだ。そしてこの姫路城にいるのは、信包と伊勢の国人、長野藤定の娘の間に生まれた姫君。先年、秀吉のたっての希望により、数え十四で秀吉の側室になった。
「母君は名門、長野氏の出身。それゆえ、あのような下賤な者の側女にするなどもっての他と怒られ、姫君を連れて屋敷の一室に立て籠ったとかいう話で」
 それはまた他人事とも思えない話だ。信包は何も感じないはずはないが、そうやって身の保身を計っているのだろうか。
 すると二人の話を聞いていた関盛信がはばかるような小声でボソボソと話し出した。
「かつて室町幕府を開いた足利尊氏の寵臣、高師直などは、臣下の妻妾は皆、己の妻妾であるというていたとか。世が乱れれば、いかなる不法もまかり通る」
 そんな何百年も前にまかり通っていたことが、今もってまかり通るというのか。なんとも気の滅入る話だ。
「長居は無用。日野へ戻る」
 思いがけない遠出をしてしまった。ここにいると気分が暗くなるばかりだ。
 鶴千代誕生以来、章姫の顔を見ていない。早く戻って章姫に会わなければ、と急ぎ支度を整え、帰途についた。
「長門、大事ないか」
「は…いえ、なんのこれしき…」
 忠三郎の方が飲んでいる筈だが、長門守とは打って変わって常とは変わらぬ様子で、平然と馬を歩ませる。
「ようやく播磨の境が見えて参りましたな」
 長門守がホッとしてそう言うと、忠三郎はにわかに馬を寄せ、馬から降りて草むらに駆け込んでいった。
「おや?殿?」
 忠三郎が姿を消した方向から、明らかに嘔吐していると思われる苦しそうな声が聞こえてきた。
「ひゃあ、殿!」
 町野長門守が驚いて草むらを掻き分け、近づいていくと、
「み、水…」
 震える手で水を求めてきたので、慌てて腰に下げた竹筒を渡す。すると竹筒を鷲掴みにして、ガブガブと水を飲みこんだ。
「殿、ご無事で?」
「ん…少し楽に…」
 とても飯など食べられるような状態ではないところに、朝から膳を勧められた。無論、二日酔いとは口が裂けても言えない。何食わぬ顔で無理やり飯を押し込んだ。その後、五臓六腑が飛び出しそうな程の苦しみに襲われた。それでも播磨を出るまではなんとしても耐えなければと激しい頭痛と吐き気、臓物の焼けるような痛みに堪えに堪えてきたが、播磨を抜けたと聞いて緊張の糸が解けた。
「酒が抜けぬ…」
「それがしが不甲斐なき醜態をさらしたがために、殿を大変な目にあわせてしもうた」
 責任を感じて肩を落とす町野長門守に、忠三郎が笑いかける。
「なんでも己のせいにするな。早う日野に戻ろう」
 酒が残ったまま、故国へと向かった。
 どうにかその日のうちに日野につき、翌朝、関盛信は伊勢の亀山城へと戻っていった。
 二日後、関盛信のもとから急使が現れた。
「戻ったばかりでもう使者を送ってくるとは…」
 留守中になにかあったのだろうか。広間に使者を通し、急いで目通りすると、使者が耳を疑うようなことを告げてきた。
「留守の間に滝川左近に城を奪われてござりまする!」
「な、なに?城を奪われた…とは?」
「亀山、関、峯を奪われ、国府、鹿伏兎の関一族、並びに千種、赤堀、楠、稲生が皆々、滝川左近に寝返り反旗を翻しておりまする。どうかお助けくだされ」
「無人の城でもあるまいに。そんな容易く城を奪えるはずが…」
 にわかに信じがたい。僅か数日、城を留守にしただけで、鈴鹿山脈の向こう側がすべて一益に抑えられているとは。
「いくらなんでも動きが早すぎる。かような短い間にすべての城が奪われたなどと…。叔父上が早合点されておるのではないか」
「されど亀山、関、峯の城には滝川の旗印が掲げられておりまする」
「何!」
 それは尋常ではない。
「長門。何人か送り出し、峠の向こうで何が起きているのか、調べさせよ」
「ハハッ」
 長門守が音を立てて走っていくのを聞きながら、先日、ひょっこりと茶室に現れた義太夫が、去り際に言ったことを思い出した。
(伊勢に攻め込むなら、覚悟を決めて来いと、そう言った)
 あの時、さして気にも留めなかったが、義太夫は関盛信を連れて年賀の挨拶に行くことを知っていた。
(城を留守にすることを前もって知っていて、それで…)
 全て知った上で調略を進め、城を空けるのを待って攻め入ったのだろう。
(では、あの、挨拶に行くなら早く行けと、そう言ったのは…)
 留守中に攻め込むことを予告し、忠三郎がそれに気づくかどうかと高みの見物をしていたに違いない。しかも忠三郎を空蝉と揶揄し、白昼堂々と日野の鉄砲鍛冶から鉄砲を買い求めて。
「あやつめ!」
 義太夫がしてやったりと得意げな顔で笑う姿が目に浮かぶ。忠三郎や関盛信だけならともかく、羽柴秀吉の大軍を相手にして、本気で戦おうというのか。
「正気ではない」
 義太夫も、一益も。
 一益がどう兵をかき集めたとしても一万にも届かないだろう。一方、秀吉が動員できる兵力は南伊勢・尾張を領する織田信雄の兵と合わせると七万は下らない。柴田勝家が動き出す雪解けを待たずに兵をあげるなどと、正気の沙汰とは思えない。
(義兄上は何を考えて、かような無謀な戦いを挑んできたというのか)
 真偽を確かめ、本当に関盛信が城を奪われてしまったというなら、秀吉に知らせを送るしかない。そのうえで、
(北勢に攻め入る)
 その時には当然、忠三郎が先鋒を務めることになる。
(それをすべて承知の上で、義兄上はわしと戦うと、そう仰せか)
 混乱する頭を整理して考えていると、ようやく事と次第が理解できてくる。なるほど、そうか。無断で滝川家と縁を切り、秀吉に恭順したことへの返事がこれなのか。
(ならばわしも、本気で挑むしかあるまい)
 想定していた中では一番最悪な結果だが、もはや選択の余地はない。一益が本気なのであれば、こちらも本気でかかっていかなければ命取りになる。もう覚悟を決めるしかない。
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