滝川家の人びと

卯花月影

文字の大きさ
上 下
35 / 128
6 色即是空

6-2 女武者

しおりを挟む
 その頃、義太夫と助九郎は岩村城を目指して東美濃の山奥を歩いている。
「住み果てぬ世に、みにくき姿を待ちえて何かはせん」
 義太夫が徒然草の一節を口にすると、助九郎が怪訝な顔をする。
「は?…義太夫殿?」
「命長ければ恥多し。長くとも四十に足らぬほどにて死なんこそ、めやすかるべけれ」
 一人、ぶつぶつと言う義太夫に、助九郎が眉をひそめ、
「しっかりしてくだされ、義太夫殿。朝からため息ばかりついたかと思えば、ようわからぬことをぶつぶつ唱え始め、なんとも不気味な有り様、生霊のごとし」
「恋するに、死するものにあらませば、わが身は千編死にかえらまし」
 にわか万葉歌人となった義太夫が、憑りつかれたように、そう詠いあげる。
 東美濃に入り、中山道の宿場あたりで織田掃部の足跡を確かめることができた。想像通り、信長を怒らせた織田掃部が身を隠していたのは甲斐だった。掃部に二心があるのは間違いない。
「まこと生霊となって呪い殺したい。あやつは武田の間諜。己がために、秋山にはおつや様が絶世の美女と伝え、おつや様には御坊丸様の命と引き換えなどとたぶらかし、秋山なる山猿に嫁がせたのじゃ」
「されど秋山といえば甲斐源氏の庶流。さらに秋山伯耆守は、猛牛の異名をもち敵味方に恐れられる勇将でござります。おつや様の相手となるに不足はないような…。それに…たぶらかされたのは、義太夫殿では?」
 助九郎が呆れてそう言うと、
「それをこれから確かめに行く」
 助九郎はエッと驚き、
「章姫様をお救いするのでは?」
「それもそうじゃ。されど、まずはおつや様に会わねば話は進むまい」
「無茶なことを申される。城はすでに御曹司の軍勢が取り囲んでおりまする」
「いやいや。助九郎、いざと言うときは、そなたが囮になって兵を引き付けてくれ。その間にわしが城に入る」
 寄せ手の大将、織田勘九郎の目を欺いて城内に侵入するという。万が一にも見つかったら、どんな言い訳をするつもりなのか。
「いかに義太夫殿といえども、それは無謀ではありませぬか」
「案ずるな。あの城には何度も忍び込んでおる」
「え?」
 義太夫は一益に隠れて、常日頃から何をしているのだろう。確かに、一益が重宝しているだけのことはあって義太夫の調略の腕は右にでるものがない。とにかく口がうまく、義太夫にかかると敵は何故かコロリと騙されてしまう。敵ばかりではない。義太夫のことをよく知っている滝川家の家人たちも、最初は荒唐無稽と馬鹿にしていたような話であっても、絶え間なく喋る義太夫の話を聞いていると、いつのまにやら信じてしまうことがある。
 義太夫と助九郎が別名霧ケ城とも呼ばれる岩村城にたどりついたのは、その日の夜半。予想通り、勘九郎の軍勢が取り囲んでいるので、うかつには近寄れない。
「あのような険しき山の上にある城に、何度も忍び込んだとは…」
 それも義太夫の執念がなせる業なのかと、助九郎は舌を巻く。
「皆が寝静まっている今が狙い目。おつや様に会い、無事に城をでたら合図するゆえ、それまでどこかに潜んでおれ」
「お待ちを!まさか一人で…」
 と、呼び止める助九郎の言葉が終わらないうちに、義太夫は一人、城に向かって走り出していた。
 
 夜の闇に潜み、石垣をよじ登りながら、ようやく城内に入った義太夫は、どうにかおつやのいる本丸にたどり着いた。
 兵は櫓や大手門付近に集中している。
 易々と中に入ると、おつやのいる部屋の前まで行き、はやる心を抑えつつ、襖越しにそっと声をかけてみる。
「おつや様…」
 返事がない。眠っているのだろうか。
(勝手に入るのは恐れ多く、ここにいると人に見つかる…。はてさて、どうしたものか)
 城に忍び込むことばかり考えていたせいで、この先を考えていなかった。朝になるまで、屋根裏に潜んでおこうかと思ったとき、静かに襖が開いた。
「そなた…義太夫ではないか」
 袖を括り、裾を括って薙刀を持ったおつやが、驚いた顔をして立っている。
「人目につく。中へ…」
「ハハッ」
 遠慮がちに部屋に入る。
「おつや様…なんとも勇ましいお姿で…」
 さすがは女だてらに城主をやっていただけのことはあると、義太夫が感慨深げにそう言うと、
「勘九郎殿が攻めてきたのじゃ」
「それは…我が方に寝返ると言う約定は如何なりましたでしょう」
 義太夫が言いにくそうにそう言う。常日頃から煩いと人に言われるほどに饒舌な義太夫も、おつやの前では言葉が少なくなる。おつやがキリリと締まった目つきで義太夫を見たので、義太夫は尚更、言葉を発せなくなった。
「許してたもれ。御坊丸を一人武田に残していくわけにはいかぬ。したが案ずるな。そなたのおかげで武器・兵糧ともに存分に蓄えることができた。半年はもちこたえることができよう。義太夫、礼を申すぞ」
 持ち込んだ金がすべて軍資金に使われている。半年も籠城されては武田の援軍が来てしまうかもしれない。一益が知ったらどれほど怒るだろうか。
「な、なるほど…それでは章姫様は…」
「もとはと言えば、章姫の輿入れは織田掃部からの勧めにより、わらわが三郎殿に願い出た話じゃ。それゆえ、わらわは章姫を返したいと思うておる」
 おつやは今でも信長を三郎と呼ぶ。
(やはり元凶は織田掃部であったか)
 易々とは章姫を返してもらえないと思っていたが、取り越し苦労だったか、と胸をなでおろしていると、
「されど織田掃部は、我が殿に、いざこの城が落城となった折に助命を願い出るためにも、章姫を残しておけと、そう進言しておる」
 城明け渡しになったときの交換条件として章姫を使うと言っている。
(そう甘くはなかったか…)
 落胆したが、少なくとも当面、章姫は危害を加えられるようなことはない。
「御坊丸様は…」
 恐る恐る聞いてみる。
「御坊丸は何があっても渡せぬ」
 きっぱりとそう言われた。
 おつやは四度嫁いだが、子をなしたことが一度もない。養子にした御坊丸を我が子のようにかわいがっていたと聞く。
「三郎殿には他にもお子がおろう」
「しかしそれでは…」
 信長が納得するはずがない。どうしたものかと考え込むと、おつやが義太夫の手を取る。
 驚いた義太夫がおつやの顔を見ると、
「今は武田の養子として育てられておるが、御坊丸は我が心の支えじゃ。義太夫、わらわから御坊丸を奪わないでおくれ」
「おつや様はそこまで御坊丸様のことを…」
 潤んだ瞳でそう言われては、返事のしようがない。
 この掴まれた手をどうしようかと義太夫が背中に汗をかいて混乱していると、おつやはいとも無造作にその手を放し、
「この城に兵を差し向けたということは、約定を違えたこと、三郎殿はお怒りなのか?」
 そんな当たり前のことを聞いてくるのが、おつやらしいと思ったが、怒っているとも言えず、
「さて…それは…」
「三郎殿に、わらわが詫びていたと伝えてたもれ」
「は、はい。上様にしかとお伝えいたしまする」
 詫びてどうなるものでもなく、伝えられる筈もない。火に油を注ぐようなものだ。
「人が来るやもしれぬ。さ、もう行くがよい」
 まだ章姫が城のどこにいるのかさえ確かめてはいないが、体よく追い払われ、仕方なく城を後にした。
 
 山の中に置いて行かれたままの滝川助九郎は、まだかまだかと合図の狼煙があがるのを待っている。一人取り残され、なんとか城の中を探ろうとしたが、険しく深い奥美濃の山岳地帯にある岩村城は簡単には近づけない。
 この滝川助九郎は、忠三郎の元に留め置かれている滝川助太郎の弟で、元々は悪名高い一益ではなく、人当たりよく、親族の間でも評判のよい義太夫を慕って甲賀を出てきた。
(まさか、かようなお方とは…)
 確かに義太夫は偉ぶったところがなく、打ち解けやすく、親しみやすい。しかし高潔とも言える一益との差は歴然としており、今となっては、何故、一益が義太夫を一番家老にしているのかさえ疑問だ。
 日も暮れ、夜更けたころ、奥美濃の空に合図の狼煙があがった。助九郎は山の中を探し廻り、なんとか義太夫を見つけることができた。しかしやっと見つけた義太夫は助九郎を見てもなんの説明もなく、ため息ばかりついている。たまりかねた助九郎が、
「義太夫殿、首尾は如何だったのでしょうか?」
 とせかすように言うと、
「それは無論…」
「それは無論?」
「やはり変わらず、お美しいお方であった」
 熱に浮かされたようにそう言う。
「女武者姿も、お美しい。天下一と称えられるにふさわしいお方。おぬしにも見せたかった」
「まさか、そのような話を、殿の前でなさるおつもりではありますまいな」
 助九郎が呆れた顔でそう言うと、義太夫もようやく気付き、
「いや…殿には…」
 章姫の安否が確認できただけで、何の収穫もない。それよりなにより、今度こそ岩村城が攻め落とされるのではないかと思うと、気が気ではない。
「わしはもう少しここに留まる。おぬしは先に戻り、章姫様の無事を伝えてくれ」
「何を申される。かようなところでうろうろしていては勘九郎様の兵に見つかりましょう。早う伊勢に戻らねば」
 助九郎がいかにせかしても、義太夫は頑としてきかない。
「義太夫殿!」
「いや、おつや様の身が案じられる。わしはここに留まる」
 義太夫の本音が出て、助九郎は色を失う。
「おつや様?章姫様を案じておられるのではないのか」
 二人がもみ合っていると、白々と夜が明け始めた。
 明るくなると動きがとりにくくなる。焦る助九郎の目に、木々の隙間で、朝日に照らされ、キラリと光るものが見えた。
「あ、義太夫殿!」
 助九郎があわてて周りを見渡すと、複数の兵の気配がする。
「待て!我らはお味方!滝川のものである」
 助九郎が声高に呼ばわると、義太夫も驚いて四方を見回す。
(足軽ごときに見つかるとは、何たる不覚…)
 兵が様子を窺いながら姿を現した。
 旗指物は織田の五つ木瓜。勘九郎の兵だろう。
 臍を噛むが、こうなってしまったら観念するしかない。
「我らは滝川の家人じゃ。御大将、勘九郎様にお目通りを願う」
 若い勘九郎はごまかせても、一益をごまかす自信はない。伊勢に戻ったら、なんと申し開きをしようかと、思いを巡らした。
 
 東美濃の要所、岩村城を巡って、織田・武田、両家では度々戦闘が繰り返されてきた。
 設楽原の合戦により、武田勝頼に援軍を送る余裕がなくなったと見越して、織田方は各方面に兵を置き、猫の子一匹通さないように岩村城を取り囲んで兵糧攻めの構えを見せている。
 その岩村城からのこのこと出てきた怪しい者がいると聞いて、驚いた勘九郎が引き立てられてきた者を見ると、二人とも見覚えのある顔だった。
「ぬしらは滝川左近の家のものではないか」
「はい。章姫様を城からお救いするため、まかり越しました」
「城から出てきたと聞き及んだが?」
「おつや様に会うてきたのでござります」
 おつやから聞いた話を伝えると、勘九郎はしばらくじっと考え込んでいたが、やがて顔をあげ、
「では章は無事か」
「はい。秋山にとっては章姫様はいざというときのための大事な質。おつや様にとっても御身内ゆえ、決して無下な扱いはされておらぬものと存じまする」
 義太夫の尤もらしい話に、勘九郎が頷く。
「されど御坊丸様は…」
「御坊丸が心の支えと、おつや殿はそう申されたのじゃな」
「はい」
 勘九郎がまた、何かを考え始める。そして、
「御坊丸のことはよい」
 意外にあっさりとそう言った。
 勘九郎にとっても大事な弟である筈の御坊丸のことを、何故、そうも簡単に諦めるのか、わからない。
「大儀であった。左近にもそう伝えよ」
「ハハッ」
 なんとかこの場を取り繕ったが、こうなっては伊勢に戻るしかない。
 義太夫は後ろ髪引かれる思いで岩村城を後にした。
  
 義太夫と助九郎が岩室城の織田本陣から引き上げた頃、一益は四日市日永に来ていた。
 日永は長島から五里ほど南にある伊勢湾に面した温暖で風光明媚な港町だ。古くは古事記に、日本武尊が怪我を癒したと伝わり、日本書紀では壬申の乱のときに大海人皇子が日永にある川のほとりで戦勝祈願をしたといい、言い伝えにある記念の松は今も残されている。近年では室町時代から四のつく日に市が開かれるようになったことから、日永とその周りの一帯が四日市と呼ばれるようになった。点在する古墳が、太古の昔から人が住んでいたことを表している。
 一益は陸海両方の交通の要所となる四日市に将来の展望を見出し、手厚く保護してきた。何度か足を運ぶ中で、荒廃した寺を見つけ、津田秀重に命じて改修工事を行わせることにした。
 死んだと思われていた母、滝御前が甲賀の山中に潜んでいるという話を聞いたのは、設楽原へ赴く少し前のこと。
「婆様から、父上には言うなと固く口留めされておりましたが、長く患い、目も耳も衰え、薬師の話ではそう長くはないであろうと」
 三九郎が申し訳なさげにそう伝えてきた。
 その話を聞き、甲賀に使いを送って桑名まで連れてきたが、三九郎の言う通り、一益の顔が分かっているのか、分からないのか、反応が薄い。
「どうしたものか…」
 扱いに困って津田秀重と、弟の休天和尚に相談した。
 北伊勢に根を下ろすのであれば、菩提寺を据えなければならないと思っていたところだった。
「平安のころに開かれた由緒正しい寺が北勢にございましたが…」
「ふむ。よいではないか」
「三嶽寺でござります。七年程前に寺にいた僧兵どももあわせて、兄上が焼き払っておりまする」
 覚えている。伊勢入りしたばかりの頃、義太夫・新介の二人を古刹との交渉にあたらせた。が、失敗して交渉は決裂。引接寺、慈眼寺、正眼寺、清安寺、禅林寺など、一帯の寺を焼き払う結果となった。最終的には北伊勢にあった本願寺の流れを組む浄土宗の寺、比叡山延暦寺の流れを組む天台宗の寺など、ことごとく和睦交渉に失敗。寺という寺を焼き払っている。
「荒廃した寺を復興させ、殿が仏敵ではないと領内の民に知らしめる機会では?」
 津田秀重はそう言うが、自分で焼いた寺を復興させるというのも如何なものか。しかし、
「兄上はよいとしても、皆、命がけで戦っておるのでござります。戦さ場で討死したとしても、墓もないでは皆の心も休まることがないのでは?」
 休天の言うとおりだ。
 考えあぐねていると、秀重と休天和尚がうってつけの寺を探して来た。
 四日市の町から少し離れた街道筋のすぐそばに、その寺、実漣寺はあった。
「我等が北伊勢に攻め入る前に、戦乱に巻き込まれて荒れた寺がござりました。ここを滝川家の菩提寺としては如何なものでしょう」
 寺のすぐ裏にある登城山にはその昔、城が築かれ、山の中腹には村ができ、山裾には寺社が建てられたという。鎌倉時代というから三百年は経過している。
 一益は二人の助言に従い、寺領二十石を与えて、この寺を休天のいる安国寺の末寺としたうえで滝川家の菩提寺とし、滝御前の庵を造るよう命じた。
 甲賀でも尾張でもない。この伊勢の地を、子々孫々、根を下ろす場所とするために。
 一益は三九郎を呼び、
「これでそなたも心置きなく槍働きができるか?」
 と問うと、三九郎が力強く頷く。
「秀重はどうじゃ?」
 満足げにそう尋ねると、津田秀重は困惑して、
「恐れながら…それがしは御一門ではござりませぬゆえ」
 と答えた。
 津田秀重は一益にとっては欠かせない重臣で、三九郎の傅役ではあるが、義太夫、佐治新介、道家彦八郎などの滝川一門衆ではない。
 そこに少なからず、遠慮があるのだと気づいた。
「そなたら津田兄弟のこれまでの当家における働きぶりは一門衆に負けずとも劣らぬ。それゆえ、次にわしに女が生まれた暁には、そなたの一子、小平次に娶らせ、津田家を我が一門に加えよう」
「ハッ、有難き幸せにて」
 秀重が喜んで頭を下げる。
 こうして少しずつ、家臣たちにも北伊勢に腰を下ろして住まう心が根付いてきたころ、岩村城に送った義太夫と助九郎が長島に戻ってきた。
「やはり織田掃部が武田に寝返り、おつや様をたぶらかして章姫様を人質にとっておりまする」
 義太夫が開口一番にそう言ったので、その場にいた助九郎はもちろん、三九郎も、佐治新介も、互いに顔を見合わせていた。
 一益だけは一人、頷きながら、
「上様に、章姫との婚儀の話をもちかけたは、秋山ではなく、つや殿と、そういうことか」
「それもこれもすべては織田掃部のはかりごとにて」
 少しずつ、謎が解けてくる。
「…で、つや殿は、御坊丸様を手放さぬと、そう言うたのじゃな」
「はい!おつや様はまことに麗しく、勇ましい武者姿でそれがしの足元に膝をつき、天女のような声で、御坊丸は心の支え。どうかわらわから御坊丸を奪わないでおくれ…と、薙刀を傍に置き、それがしの手を取り、吸い込まれるような潤んだ瞳で、じっと目をみつめて…」
 義太夫が聞いてもいないことまでベラベラとしゃべりだしたので、皆、下を向いて笑っている。
「義太夫…」
「はい」
「もうよい。…で、城方の蓄えはいかほどか、探って参ったか?まだまだ兵糧は十分か」
「そこまでは…わずかな時しか城におりませなんだゆえ…」
 急に義太夫の言葉数が少なくなったので、せっせと運んだ金が全て軍資金に充てられたのだと分かった。
(この戦さは長引く)
 義太夫が勘九郎に余計なことを言わずに帰ってきたことでよしとすべきか。
 しかし、わからないと思っていた事柄が、義太夫の報告で少しずつ見えてきた。
(面倒なことに巻き込まれた)
 平穏には終わらないだろうことだけは分かる。
「ようわかった。もう十分じゃ。そなたは今後、岩村城には行くな」
 義太夫が驚いて一益の顔を見る。
「しかし…あの…」
「つまらぬことを考える前に戦さの支度をせよ。皆もじゃ。越前へ出兵する」
 信長から、主だった家臣に越前一向一揆討伐の命が下っている。義太夫はもちろん、居並ぶものはみな、また遠征かと動揺を隠せない。
「留守居は道家彦八郎と篠岡平右衛門。他の者は領内に触れを出し、兵を集め、戦さ支度を整えよ。五日後に岐阜へ向けて出陣する」
 北陸の夏は短い。温暖な伊勢から向かえば、余計に寒さを感じるだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

獅子の末裔

卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。 和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。 前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。

大航海時代 日本語版

藤瀬 慶久
歴史・時代
日本にも大航海時代があった――― 関ケ原合戦に勝利した徳川家康は、香木『伽羅』を求めて朱印船と呼ばれる交易船を東南アジア各地に派遣した それはあたかも、香辛料を求めてアジア航路を開拓したヨーロッパ諸国の後を追うが如くであった ―――鎖国前夜の1631年 坂本龍馬に先駆けること200年以上前 東の果てから世界の海へと漕ぎ出した、角屋七郎兵衛栄吉の人生を描く海洋冒険ロマン 『小説家になろう』で掲載中の拙稿「近江の轍」のサイドストーリーシリーズです ※この小説は『小説家になろう』『カクヨム』『アルファポリス』で掲載します

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます! 平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。 『事実は小説よりも奇なり』 この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに…… 歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。 過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い 【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形 【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人 【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある 【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

満州国馬賊討伐飛行隊

ゆみすけ
歴史・時代
 満州国は、日本が作った対ソ連の干渉となる国であった。 未開の不毛の地であった。 無法の馬賊どもが闊歩する草原が広がる地だ。 そこに、農業開発開墾団が入植してくる。 とうぜん、馬賊と激しい勢力争いとなる。 馬賊は機動性を武器に、なかなか殲滅できなかった。 それで、入植者保護のため満州政府が宗主国である日本国へ馬賊討伐を要請したのである。 それに答えたのが馬賊専門の討伐飛行隊である。 

陣代『諏訪勝頼』――御旗盾無、御照覧あれ!――

黒鯛の刺身♪
歴史・時代
戦国の巨獣と恐れられた『武田信玄』の実質的後継者である『諏訪勝頼』。  一般には武田勝頼と記されることが多い。  ……が、しかし、彼は正統な後継者ではなかった。  信玄の遺言に寄れば、正式な後継者は信玄の孫とあった。  つまり勝頼の子である信勝が後継者であり、勝頼は陣代。  一介の後見人の立場でしかない。  織田信長や徳川家康ら稀代の英雄たちと戦うのに、正式な当主と成れず、一介の後見人として戦わねばならなかった諏訪勝頼。  ……これは、そんな悲運の名将のお話である。 【画像引用】……諏訪勝頼・高野山持明院蔵 【注意】……武田贔屓のお話です。  所説あります。  あくまでも一つのお話としてお楽しみください。

淡き河、流るるままに

糸冬
歴史・時代
天正八年(一五八〇年)、播磨国三木城において、二年近くに及んだ羽柴秀吉率いる織田勢の厳重な包囲の末、別所家は当主・別所長治の自刃により滅んだ。 その家臣と家族の多くが居場所を失い、他国へと流浪した。 時は流れて慶長五年(一六〇〇年)。 徳川家康が会津の上杉征伐に乗り出す不穏な情勢の中、淡河次郎は、讃岐国坂出にて、小さな寺の食客として逼塞していた。 彼の父は、淡河定範。かつて別所の重臣として、淡河城にて織田の軍勢を雌馬をけしかける奇策で退けて一矢報いた武勇の士である。 肩身の狭い暮らしを余儀なくされている次郎のもとに、「別所長治の遺児」を称する僧形の若者・別所源兵衛が姿を見せる。 福島正則の元に馳せ参じるという源兵衛に説かれ、次郎は武士として世に出る覚悟を固める。 別所家、そして淡河家の再興を賭けた、世に知られざる男たちの物語が動き出す。

朝敵、まかり通る

伊賀谷
歴史・時代
これが令和の忍法帖! 時は幕末。 薩摩藩が江戸に総攻撃をするべく進軍を開始した。 江戸が焦土と化すまであと十日。 江戸を救うために、徳川慶喜の名代として山岡鉄太郎が駿府へと向かう。 守るは、清水次郎長の子分たち。 迎え撃つは、薩摩藩が放った鬼の裔と呼ばれる八瀬鬼童衆。 ここに五対五の時代伝奇バトルが開幕する。

毛利隆元 ~総領の甚六~

秋山風介
歴史・時代
えー、名将・毛利元就の目下の悩みは、イマイチしまりのない長男・隆元クンでございました──。 父や弟へのコンプレックスにまみれた男が、いかにして自分の才覚を知り、毛利家の命運をかけた『厳島の戦い』を主導するに至ったのかを描く意欲作。 史実を捨てたり拾ったりしながら、なるべくポップに書いておりますので、歴史苦手だなーって方も読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...