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聖魂騎士団と獣人の国

ザックフォードと副隊長アルミラ

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 暗い夜の森の中を、不浄な空気が取り払われ辺りは静けさと木々の穏やかな空気に包まれていた。背が高い木々の間からは空高くにある大きな満月の光が差し込んでくる。リド樹海は、不死族の影響から解き放たれ、古代から生い茂る神秘性と静謐せいひつさを取り戻したかのようであった。

 そんな森の中を聖魂騎士団のザックフォードを先頭とした部隊は、課せられた役目を果たし自分達の国に向かって歩いていた。

「それで隊長、今回のことはどう報告するつもりですか?」副隊長のアルミラが少し苛立いらだちながらザックフォードに聞いた。ザックフォードがその質問に答えようとしてそちらを見ても、アルミラは顔を向けてはいなかった。アルミラは苛立つと人と目をあせようとしない。昔そのことについてアルミラに聞いたことがあったが、目を合わせて会話をしてさらに苛ついたことを言われると手が出るからという理由らしい。

 そんな調子のアルミラを横目にザックフォードは「どうもこうもないだろう起こったことをありのまま説明するしかない、ノブナガはいなかった。ヴィネリアは死んだ。それだけだろう、聖女も回収できたことだしなにも問題ないは、ず……」と少し声のトーンを抑えめに恐る恐るアルミラの質問に答えた。

「なにも問題はない……?」ザックフォードは、アルミラのその声を聞いて「しまった」と心の中で叫んだ。ザックフォードよりも頭二つ分くらい小さい女性のアルミラなのだが、威圧感ではち切れそうになっている。それは横に凶暴な熊でもいるかのようであった。その不穏な空気を感じ取ったのか、すぐ後ろを歩いていたはずの他の団員達との距離が広がっている。

「あいつら……」ザックフォードは心の中でそう思い、軽く舌打ちをした。今から起こることはこの部隊にいれば誰でも予想がつく展開であった。

――生贄は俺だけで十分てことか

「問題大ありですよ!」ほらきたとザックフォードは思った。そんなことはおかまいなしにアルミラは勢いよく言葉を発し続けた。

「ヴィネリア討伐は我々の部隊に与えられた使命だったからいいものを、不死族壊滅させてどうするんですか! いいですか! 私達はあくまで歴史の裏方なんですよ! エンデラもエッダマルガも帝国も不死族の対応に追われていたから軍事的なバランスがとられていたというのに、今後どうなるかわらかなくなったじゃないですか!」

「それ俺に言うか!? 俺達が到着した時にはもう戦闘が始まっていたじゃないか、どうしようもなかっただろあんなの、お前も見てただろ『あいつら』を!」

「ええ、見ていましたよ。見慣れない服装、正体不明、レプリカ―ズドではない、それにヴィネリアと対等以上に戦うことが出来たあの膨大な魔力と力、そんなどこの馬の骨ともわからないやつらなのに密偵をつけて監視をしようともせず、情報を引き出すわけでもなく、そのまま解放するなんてどうかしています!」

「いや無理だろう、あいつらの後ろをばれることなくついていくことが可能で、情報を手に入れることが出来るやつなんていない、俺だって無理だ、下手すれば殺されるぞ、あいつらだってなにかしら目的があってヴィネリアと戦ってたわけだからな、話が通じて聖女がこちらの手に確保出来ただけで満足するべきだっただろ」

「あんな人物がこの周辺にいるなんて情報は来てなかったですし、あれらは今後も我々聖魂騎士団の活動の障害になるのではないですか!」

「アルミラの言いたいこともわかるが……あんな力を目の前で見せつけられたのに対等に交渉して目的の物を奪取出来たのは、俺自身よくやったと思うぜ、怒る前に褒めてもらってもいいくらいだ」

「隊長は自分に甘すぎます!」

「そんなことを言われてもあれは実際しょうがなかったと思うぜ、それと俺は不死族が壊滅したこと自体は喜ぶべきことだと思うぜ、その後周りの国がどうなろうとそれはそいつらの判断だ違うか?」

「しかし……もしそれで、周りの国同士が争う様になれば、私達がこうやって裏で動くことがやりづらくなるじゃないですか」

「そうなったら、その時よ」

 いつも会話がかみ合わないザックフォードとアルミラは、最後にはアルミラの大きな溜息で会話が終わるのが常であった。
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