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聖魂騎士団と獣人の国
獣鬼覚醒
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クリムルが先に走るシヴィソワに「本当に見に行くの? 危なくない?あの人こっから出て行くっていったんだから追う必要なくない」と言った。
「あれだけの力がある者達を無条件に力を貸してくれるなんてなんか怪しいと思わない?ザックフォード……聞いたことない人間ね、帝国にはそんな名前の人いなかったし、クリムルは聞いたことある?」
「わっかんないな、わたし、人の名前覚えるの自体不得意だし」
シヴィソワは来た道を走る途中で、後ろをちらちらと確認した。想響結界の向こう側に見えていた、赤い気配は消え去り、辺りはいつも通りの森の姿を取り戻していた。
「想響結界は大丈夫そうね、不死族の気配が消えたわ」
「よかった……寝て起きたばっかりで、滝壺に落ちた時みたいにわけわからなくなってたもの」
「こんな時に変なことを思い出せないでよ」シヴィソワは、クリムルの発した言葉で訓練の時に、滝壺に落とされたことを思いだした。
いつもの、清浄な空気が漂う森の雰囲気が戻ってきたことで、二人の緊張感は少しずつほぐれていったが、ザックフォードに初めて会った地点を越えたところから、なんとも言えない不安感が纏わりついてくるような気配を感じ、肺が圧迫され呼吸がしづらくなってきた。
「おかしいわね」土の香りや、木の香り、その中に混じる不純物。
「匂いが……」
「やっぱり、おかしい!」
なだらかに傾斜している獣道を、二人は加速して登った。そして獣道を登り切った直後シヴィソワは「いつっ……」と言って目を手で押さえた。そうなった原因は、ザックフォードよりもさらに濃く赤い存在が、いきなり目に飛び込んできたからだった。シヴィソワは「見ているのは無理だ」と言ってファラティックアイズを解除せざるをえなかった。「ふー……ふー……ふー……」と二人の荒い呼吸が、口から洩れる。
「なんなの……なにが起こっているの……」シヴィソワの体の中にある野生が、前に進もうとする意志を拒絶する。今までに嗅いだことがない程の強い腐臭が漂ってくる。周りにザックフォード達の姿はない。腐臭が流れてくる方向から強い風がこちら側に流れてきて、周りの木々がざわつく。
「ど、ど、ど、どうするの、村に戻って報告する? こんなの私達だけじゃ無理よ」クリムルが声を震わせながら言った。
「お、落ち着いてよ、気配はすごいけど、全部エンデラの方角よ」
「そうだけど、これ襲ってきたら結界全部壊されるんじゃないの、わたしこんなの見たことないよ」
クリムルの言っていることも、もっともだとシヴィソワは思った。ファラティックアイズを解除しなければ目を開けていられない程の強さを表す赤い光が目の中に差し込んでくるなんていうのも初めての出来事だった。
ただこんなところでいつまでも立ち止まっているわけにもいかなかった。周りには他の獣人がいなかったし『ワーズリカント』としてこの危機的状況を確かめないわけにはいかなかった。シヴィソワは口に溜まった生唾をゴクリと飲みこみ、前に進む決心をした。そして二人は凍える冷たい風が流れてくる森の向こう側を確かめに武器を構えて歩き出した。
もうすぐ向こう側が見えるという位置に来た時にシヴィソワが「覚醒しておこうか」と言って目を瞑った。獣人の中でも魔力を持つ『ワーズリカント』だけが可能にする『獣鬼覚醒』は、あらゆる能力を向上させる。シヴィソワに続いてクリムルも『獣鬼覚醒』した。
「よし、大分楽になった」シヴィソワが手に力を入れて自分の肉体の調子を確かめた。
「初めからこうしておけばよかったね」
「ザックフォードにバレたくなかったからね、しょうがないわ、でももうそんなこと言ってらんない」
二人は木の陰に隠れつつ、向こう側を覗いた。
「あれだけの力がある者達を無条件に力を貸してくれるなんてなんか怪しいと思わない?ザックフォード……聞いたことない人間ね、帝国にはそんな名前の人いなかったし、クリムルは聞いたことある?」
「わっかんないな、わたし、人の名前覚えるの自体不得意だし」
シヴィソワは来た道を走る途中で、後ろをちらちらと確認した。想響結界の向こう側に見えていた、赤い気配は消え去り、辺りはいつも通りの森の姿を取り戻していた。
「想響結界は大丈夫そうね、不死族の気配が消えたわ」
「よかった……寝て起きたばっかりで、滝壺に落ちた時みたいにわけわからなくなってたもの」
「こんな時に変なことを思い出せないでよ」シヴィソワは、クリムルの発した言葉で訓練の時に、滝壺に落とされたことを思いだした。
いつもの、清浄な空気が漂う森の雰囲気が戻ってきたことで、二人の緊張感は少しずつほぐれていったが、ザックフォードに初めて会った地点を越えたところから、なんとも言えない不安感が纏わりついてくるような気配を感じ、肺が圧迫され呼吸がしづらくなってきた。
「おかしいわね」土の香りや、木の香り、その中に混じる不純物。
「匂いが……」
「やっぱり、おかしい!」
なだらかに傾斜している獣道を、二人は加速して登った。そして獣道を登り切った直後シヴィソワは「いつっ……」と言って目を手で押さえた。そうなった原因は、ザックフォードよりもさらに濃く赤い存在が、いきなり目に飛び込んできたからだった。シヴィソワは「見ているのは無理だ」と言ってファラティックアイズを解除せざるをえなかった。「ふー……ふー……ふー……」と二人の荒い呼吸が、口から洩れる。
「なんなの……なにが起こっているの……」シヴィソワの体の中にある野生が、前に進もうとする意志を拒絶する。今までに嗅いだことがない程の強い腐臭が漂ってくる。周りにザックフォード達の姿はない。腐臭が流れてくる方向から強い風がこちら側に流れてきて、周りの木々がざわつく。
「ど、ど、ど、どうするの、村に戻って報告する? こんなの私達だけじゃ無理よ」クリムルが声を震わせながら言った。
「お、落ち着いてよ、気配はすごいけど、全部エンデラの方角よ」
「そうだけど、これ襲ってきたら結界全部壊されるんじゃないの、わたしこんなの見たことないよ」
クリムルの言っていることも、もっともだとシヴィソワは思った。ファラティックアイズを解除しなければ目を開けていられない程の強さを表す赤い光が目の中に差し込んでくるなんていうのも初めての出来事だった。
ただこんなところでいつまでも立ち止まっているわけにもいかなかった。周りには他の獣人がいなかったし『ワーズリカント』としてこの危機的状況を確かめないわけにはいかなかった。シヴィソワは口に溜まった生唾をゴクリと飲みこみ、前に進む決心をした。そして二人は凍える冷たい風が流れてくる森の向こう側を確かめに武器を構えて歩き出した。
もうすぐ向こう側が見えるという位置に来た時にシヴィソワが「覚醒しておこうか」と言って目を瞑った。獣人の中でも魔力を持つ『ワーズリカント』だけが可能にする『獣鬼覚醒』は、あらゆる能力を向上させる。シヴィソワに続いてクリムルも『獣鬼覚醒』した。
「よし、大分楽になった」シヴィソワが手に力を入れて自分の肉体の調子を確かめた。
「初めからこうしておけばよかったね」
「ザックフォードにバレたくなかったからね、しょうがないわ、でももうそんなこと言ってらんない」
二人は木の陰に隠れつつ、向こう側を覗いた。
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