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後日談:エルルゥのツェルラント通信 

第7話 学園祭の事

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 そしていよいよ、学園祭当日となった。

 服飾科二年生のエルルゥファッションショーは、講堂で十五時スタートだ。
 エルルゥと灯は早めの昼食をとり、本番に備えた。美冬も舞台正面に陣取り、カメラをパソコンに接続してLive配信に備える。
 その隣にジョージさんが座ったため、美冬が必要以上に意識してしまっているようで、耳まで真っ赤だ。
 そして、周辺スタッフは全員Biscordにリンクしたインカムを付け、リアルに連絡を取り合うため、カメラのそばに居なくても、夏美の実況はそのままLive映像とリンクして配信される。

 そして時計が十五時を指した。

「はーい。夏冬プロデュースの『エルルゥのツェルラント通信』番外へーん。
 今日は、某短大の学祭に突撃して、エルルゥのファッションショーの実況を行いまーす。あー、やってる場所はクローズだから、来ちゃだめだよー。みんなネットで応援してね!」

 夏美がしゃべりだし、ショーのLive実況が始まった。

 エルルゥがしょっぱなからおへそと太腿丸出しの際どい衣装で登場し、会場はいきなり盛り上がった。そして引っ込んだと思ったら、間髪おかず次の衣装で登場する。

「はは、これはすごい。どうやって早着替えしてるんですか?」
 ジョージさんが美冬に問う。
「ああ、あれ……出番の終わった衣装は脱ぐとき結構破れちゃうんですよね。着る時も一部仮縫いのままだったり……舞台上で短時間のお披露目なんで出来るんですけど、そのまま着てたらどっかでバラけます……」
「はは……裏側は大変そうですね」

 やがてエルルゥ以外のモデルたちのパートになり、エルルゥは小休憩後、メインのウエディングドレスの支度にかかった。そして舞台では、灯の水着の番が来た。

「灯マネ、がんば!」学生達に励まされ、意を決して舞台に飛び出したが、いきなり明るすぎる照明に照らされて緊張が最高潮に達する。しかもクローズとはいえ、短大の学生で会場は満員であり……しかも正面にジョージさんがいるよー……。

「Oh、灯……セクシー!」ジョージさんが大声で応援してくれているのがはっきり聞こえた。

(いやー、はずかしい・はずかしい・はずかしい……でもほめてくれた!)

 そして舞台裏に戻ろうと体の向きを百八十度ターンした瞬間、ヒールの先が、舞台のちょっっとしたすき間にかかって、灯が思い切り転倒してしまった。
「キャー!」会場から悲鳴が上がる。

「あー、大丈夫。大丈夫です。皆さん、すいませーん」
 そう言って灯はすぐに立ち上がったのだが、
「いやー! ダメ! 灯マネ、胸、胸……放送事故―!」美冬が大声で叫んだ。
「えっ?」灯が恐る恐る自分の身体をみた。

「!」 なんと水着のブラがずれ、乳首が丸出しになってしまっていたのだ。
「いやー!」灯は思わず胸を両腕で隠して座り込んでしまった。すると次の瞬間、誰かが上から灯に覆いかぶさり、会場側の視線から彼女を隠してくれた。
 ジョージさんだ!

 そのまま灯を立たせ、会場側から彼女が見えないように舞台の袖までジョージさんが立ちふさがって隠してくれ、何とか舞台裏にすべり込むことが出来た。
 そして次のモデルさんが舞台に出ていく。

「灯さん。大丈夫ですか? 怪我はない?」
 舞台裏でジョージさんが心配そうに灯に尋ねる。
「あ。ちょっと膝すりむいちゃったけど、大丈夫です」
 灯が、そう言いながらジョージさんの顔を見たが……ん? 
 なんか恥ずかしそうに下向いて……あっ! 私まだ、おっぱい丸出しだったわ!  
 慌てて水着の位置を直した。

「なんともないようでよかった。私は席に戻りますね」ジョージさんがそう言って立ち上がった時、舞台裏の服飾科の生徒たちが騒ぎ始めているのに気が付いた。

「どうしたの?」灯が学生たちに尋ねる。
「ああ、灯マネ。いないんです……。
 エルルゥさんがいないんです。もうすぐメインの順番なのに……」
「何ですって?」

 直ぐにみんなで舞台周辺や更衣室、トイレなども探したが見当たらない。
 学生たちが一番最後にエルルゥを目撃したのは、メインのウェディングドレスの装着が終わって舞台裏に戻ってきた時なのだが、なにかフィット感が気に入らない箇所があるとかで、すぐ戻るからと言って更衣室に行ったらしい。
 その後、エルルゥを見たものは居なかった。

 インカムで、会場側にいる夏冬とも情報を共有し、夏美が決断した。
「仕方ないわ。痛いけど、通信機器の不備って事で、Liveは中断しましょ。
 美冬、あんた後でメイキング作るって、更衣室とかにもカメラ置いてたわよね。
 すぐ確認して!
 ……ああ、変質者とかじゃなければいいけど……」

 灯とジョージさんは、美冬とともに更衣室に向かった。

「これこれ。あっ、これ隠しカメラじゃないからね! 
 ちゃんとみんなに了解貰って置いてるから……」
 美冬が言い訳っぽく説明するが、そんなのどうでもいいから……。

 美冬が最初から早送りで映像を見ていくが、エルルゥや他の女の子の着替えシーンが生々しく映っていて、ジョージさんは「僕は見ないから」とちょっと離れてしまった。うわっ、私のもあるじゃん。もう……すっぽんぽんじゃない……ジョージさんに見られなくてよかった。

「あ、これ!」美冬がカメラをちょっと戻してから再生を始めた。
 そこには、メインのウェディングに着替えたエルルゥと見知らぬ男が写っていた。
「何よー、これ。ストーカー?」
 美冬が叫ぶ。いや違うわ。これ……

「ジョージさん! 見てこれ。この人……」
 ジョージさんが映像を一目見て言った。

「ああ、これはスタンフォードだ!」

 エルルゥがスタンフォードに連れ去られたのは間違いなさそうだ。
 ……でもどうする。
 いまさら警察に駆け込む訳にもいかない。
 ジョージさんが軍の人と連絡を取ってくれている。

 仕方なく、エルルゥのファッションショーは、本人急病ということでメイン部分は無しという事で終わりとさせてもらった。配信も尻切れトンボになってしまったが、夏冬はそんなこと気にしなくていいと言ってくれた。

「それで、灯マネ。私達はどうしましょう。
 エルルゥさん、ワケアリだから警察とかまずいんですよね。
 だから私達で出来る事ならお手伝いします!」
「ありがとう、二人とも……そうね。この画像の二人がここからどっちに行ったとか、学校内だけでも調べてもらえないかな?」
「わかりました! みんなで手分けして確認します」

 二人の目撃情報はすぐに集まり、エルルゥはスタンフォードに抱えられるように学校を出て行ったらしい。後ろで刃物などを突き付けられていたのかも知れない。

 でも、その後いったいどこへ……ジョージさんが口を開く。
「灯さん。私は奴が向かうのは一か所だと思うのですが……」
「えっ、それって……あっ、ゲート!」
「はい。奴にはあっちに行く事しか頭にありません。こんなに手荒な真似をしてエルルゥさんを拘束していますので、直ぐに目的地に向かうのではないかと……」
「でも、ゲートの場所がスタンフォードに分かるの?」
「あなたが行方不明になった場所なら分かっているはずです」

 ◇◇◇

「ごめん、あんた達を巻き込みたくないの。私とジョージさんだけでちょっと行ってくるから、ここの収拾つけるのお願いしていいかな」
 夏冬にそう言って、灯はジョージさんと会場を飛び出した。

「あー、灯マネー。それはいいんですけど……。
 あー、行っちゃったよ……またポロリにならなきゃいいけど……」
 夏美がため息をついた。
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