53 / 63
第53話 限界
しおりを挟む
危ないところだったが、近衛のみんなが、ゲート室の寸前でナスキンポス将軍の拘束に成功した。これで俺達のゲートでの帰還を邪魔するものは何もなくなった。
外から来た諸侯連合の軍勢も王城に入城しだしており、そのまま本丸の武装解除も進んでいるようだ。
俺達は、新王とともにゲート室に入り、灯、エルルゥやシステンメドルといった、城外で待機していたメンバ―が来るのを待った。
「王様。王様も私たちと一緒に亡命します?」
おいおい、星さん。いくら何でもそれはダメだろ。
「はは、そんなつもりはまったくない。俺はまだ、腐っても国王だからな。
この先の顛末を見届ける義務がある」
そう言いながら新王は花梨を抱き抱えた。
「お前は私と同じなのに、みんなに愛されていてうらやましいぞ。
……いや、私も周りから愛されていたのに気づかなかっただけなのだろうな……」
やがてプルーンが灯達を引き連れてゲート室にやってきた。
はは、メロンまで付いてきた。
灯が星に駆け寄って抱きついた。
「お母さん……よかった。無事でよかったよー」
その灯に新王が話かけた。
「お前がともりか? 率直に聞きたい。
自分の思い人を母親に取られた気分はどんなものなのだ?」
新王の言葉を俺が訳して灯に伝えた。
「何よこの人。失礼じゃない?」
いやいやこの人王様だから、と俺が灯に説明した。
「ふん、あんたがこの騒ぎの張本人ってわけね……そりゃ悔しくない訳ないじゃない! でもね。遊びとかじゃなく、本気で好きになっちゃったらしようがないよ。
人の気持ちなんて、倫理やルールで決められないんじゃない?」
「そうか……そうだな。お前にも教えられたな……」
灯の回答も新王の意に沿うものだったようだ。
◇◇◇
ゲート室に新王がいて最初は驚いた様だったが、システンメドルが早速、制御装置の確認を始めた。
しばらくして彼が言った。
「二名だ!」
「えっ? それって、ゲートを通れる人数ってこと?」プルーンが問う。
「そうだ。今のマナ蓄積量だとそれが限界だ」
「えー! それだとみんなで帰れないじゃん。
ちっこい人なら三人とかは出来ないの?」エルルゥが質問した。
「無理だ。多少余力は見ているが、そこの子供でも三人目は無理だ」
その場の皆が顔を見合わせ、沈黙してしまった。
「でも、時間が立てばまた通れるようになるんですよね?」
俺の問いにシステンメドルが答える。
「そうだ。だがあと一人通れるのが五年後なのか十年後なのかデータが少なくてわからん」
「うん、それじゃ仕方ないか。私はあきらめるよ」エルルゥが言った。
「でも、それでも後四人いるよ……ゆうた、どうする?」
プルーンが気の毒そうに言う。
一旦引き上げて検討しなおそうかとも思ったが、灯が声を上げた。
「あのさ、みんな。勝手な事言っていいかな?
雄太とお母さんと花梨は一緒じゃなきゃダメだと思うの……それで……。
私とエルルゥがあっちに行くんじゃダメかな?」
「灯! それじゃ私はあなたと……」星さんが声を詰まらせる。
「うん、もちろん私も帰らないでみんなこっちに残るって選択肢もあると思う。
でもやっぱり私、あっちに帰って自分の人生リセットしたい。お母さんもゆうくんも嫌いになった訳じゃないのは分かって……」
「ああ、わかってるさ。お前、あっちに帰ったら俺を振って新しい恋人作るって言ってたもんな。俺は一度帰還をあきらめた身だし、こっちに残る事に何の悔いもない。
星さん、どうだろう。灯の意見に従うのは?」
「……灯がそれで幸せになれるなら……」
「大丈夫だよ。お母さん。あなたの娘はそんなにヤワじゃないから……。
こんな第三夫人までいるスケベ男はお母さんに進呈して、私はもっといい人見つけるからさ!」
「ううっ……灯ぃ……」そのまま、星さんと灯はしばらく抱き合って泣いていた。
◇◇◇
「それでは準備はよろしいかな」
システンメドルが、タグを灯とエルルゥに装着した。
「それじゃ、灯。俺の両親に宜しく。そんで俺の荷物も宜しく頼むわ。グレゴリーさんの軍票とか、世に出すタイミングが難しいかもしれないけど、オヤジとよく相談してくれ。エルルゥも元気でな。いつでも挫折して帰ってきていいからな」
俺は灯とエルルゥに順番にキスをした。
「私も……挫折したら戻ってきていいかな?」灯がおどけてそう言った。
「ああ、もちろんだ! それに、もしかしたらゲートの研究が進んで、俺達も帰れるようになるかもしれない。そん時はまたよろしく頼むな」
そして、灯とエルルゥは、みんなに見送られながら、ゲートの中に消えていった。
外から来た諸侯連合の軍勢も王城に入城しだしており、そのまま本丸の武装解除も進んでいるようだ。
俺達は、新王とともにゲート室に入り、灯、エルルゥやシステンメドルといった、城外で待機していたメンバ―が来るのを待った。
「王様。王様も私たちと一緒に亡命します?」
おいおい、星さん。いくら何でもそれはダメだろ。
「はは、そんなつもりはまったくない。俺はまだ、腐っても国王だからな。
この先の顛末を見届ける義務がある」
そう言いながら新王は花梨を抱き抱えた。
「お前は私と同じなのに、みんなに愛されていてうらやましいぞ。
……いや、私も周りから愛されていたのに気づかなかっただけなのだろうな……」
やがてプルーンが灯達を引き連れてゲート室にやってきた。
はは、メロンまで付いてきた。
灯が星に駆け寄って抱きついた。
「お母さん……よかった。無事でよかったよー」
その灯に新王が話かけた。
「お前がともりか? 率直に聞きたい。
自分の思い人を母親に取られた気分はどんなものなのだ?」
新王の言葉を俺が訳して灯に伝えた。
「何よこの人。失礼じゃない?」
いやいやこの人王様だから、と俺が灯に説明した。
「ふん、あんたがこの騒ぎの張本人ってわけね……そりゃ悔しくない訳ないじゃない! でもね。遊びとかじゃなく、本気で好きになっちゃったらしようがないよ。
人の気持ちなんて、倫理やルールで決められないんじゃない?」
「そうか……そうだな。お前にも教えられたな……」
灯の回答も新王の意に沿うものだったようだ。
◇◇◇
ゲート室に新王がいて最初は驚いた様だったが、システンメドルが早速、制御装置の確認を始めた。
しばらくして彼が言った。
「二名だ!」
「えっ? それって、ゲートを通れる人数ってこと?」プルーンが問う。
「そうだ。今のマナ蓄積量だとそれが限界だ」
「えー! それだとみんなで帰れないじゃん。
ちっこい人なら三人とかは出来ないの?」エルルゥが質問した。
「無理だ。多少余力は見ているが、そこの子供でも三人目は無理だ」
その場の皆が顔を見合わせ、沈黙してしまった。
「でも、時間が立てばまた通れるようになるんですよね?」
俺の問いにシステンメドルが答える。
「そうだ。だがあと一人通れるのが五年後なのか十年後なのかデータが少なくてわからん」
「うん、それじゃ仕方ないか。私はあきらめるよ」エルルゥが言った。
「でも、それでも後四人いるよ……ゆうた、どうする?」
プルーンが気の毒そうに言う。
一旦引き上げて検討しなおそうかとも思ったが、灯が声を上げた。
「あのさ、みんな。勝手な事言っていいかな?
雄太とお母さんと花梨は一緒じゃなきゃダメだと思うの……それで……。
私とエルルゥがあっちに行くんじゃダメかな?」
「灯! それじゃ私はあなたと……」星さんが声を詰まらせる。
「うん、もちろん私も帰らないでみんなこっちに残るって選択肢もあると思う。
でもやっぱり私、あっちに帰って自分の人生リセットしたい。お母さんもゆうくんも嫌いになった訳じゃないのは分かって……」
「ああ、わかってるさ。お前、あっちに帰ったら俺を振って新しい恋人作るって言ってたもんな。俺は一度帰還をあきらめた身だし、こっちに残る事に何の悔いもない。
星さん、どうだろう。灯の意見に従うのは?」
「……灯がそれで幸せになれるなら……」
「大丈夫だよ。お母さん。あなたの娘はそんなにヤワじゃないから……。
こんな第三夫人までいるスケベ男はお母さんに進呈して、私はもっといい人見つけるからさ!」
「ううっ……灯ぃ……」そのまま、星さんと灯はしばらく抱き合って泣いていた。
◇◇◇
「それでは準備はよろしいかな」
システンメドルが、タグを灯とエルルゥに装着した。
「それじゃ、灯。俺の両親に宜しく。そんで俺の荷物も宜しく頼むわ。グレゴリーさんの軍票とか、世に出すタイミングが難しいかもしれないけど、オヤジとよく相談してくれ。エルルゥも元気でな。いつでも挫折して帰ってきていいからな」
俺は灯とエルルゥに順番にキスをした。
「私も……挫折したら戻ってきていいかな?」灯がおどけてそう言った。
「ああ、もちろんだ! それに、もしかしたらゲートの研究が進んで、俺達も帰れるようになるかもしれない。そん時はまたよろしく頼むな」
そして、灯とエルルゥは、みんなに見送られながら、ゲートの中に消えていった。
18
お気に入りに追加
451
あなたにおすすめの小説
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
母娘丼W
Zu-Y
恋愛
外資系木工メーカー、ドライアド・ジャパンに新入社員として入社した新卒の俺、ジョージは、入居した社宅の両隣に挨拶に行き、運命的な出会いを果たす。
左隣りには、金髪碧眼のジェニファーさんとアリスちゃん母娘、右隣には銀髪紅眼のニコルさんとプリシラちゃん母娘が住んでいた。
社宅ではぼさぼさ頭にすっぴんのスウェット姿で、休日は寝だめの日と豪語する残念ママのジェニファーさんとニコルさんは、会社ではスタイリッシュにびしっと決めてきびきび仕事をこなす会社の二枚看板エースだったのだ。
残業続きのママを支える健気で素直な天使のアリスちゃんとプリシラちゃんとの、ほのぼのとした交流から始まって、両母娘との親密度は鰻登りにどんどんと増して行く。
休日は残念ママ、平日は会社の二枚看板エースのジェニファーさんとニコルさんを秘かに狙いつつも、しっかり者の娘たちアリスちゃんとプリシラちゃんに懐かれ、慕われて、ついにはフィアンセ認定されてしまう。こんな楽しく充実した日々を過していた。
しかし子供はあっという間に育つもの。ママたちを狙っていたはずなのに、JS、JC、JKと、日々成長しながら、急激に子供から女性へと変貌して行く天使たちにも、いつしか心は奪われていた。
両母娘といい関係を築いていた日常を乱す奴らも現れる。
大学卒業直前に、俺よりハイスペックな男を見付けたと言って、あっさりと俺を振って去って行った元カノや、ママたちとの復縁を狙っている天使たちの父親が、ウザ絡みをして来て、日々の平穏な生活をかき乱す始末。
ママたちのどちらかを口説き落とすのか?天使たちのどちらかとくっつくのか?まさか、まさかの元カノと元サヤ…いやいや、それだけは絶対にないな。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる