40 / 63
第40話 荒事
しおりを挟む
クローデルさんと会ったことをライスハイン卿に伝え、彼女からの連絡を待つ事で当面の方針が決まった。 とはいえ部屋は狭く、食事も庶民の食材しかないため貴族の方々には何とも申し訳ない。
その夜、ミハイル様が上の部屋から俺の部屋に降りてきた。
「おーい、ゆうたさん。ライスハイン卿も安心されたようで、晩酌をしたいんだそうだ。すまないが、お酒となにかつまむものはないかな?」
「あー、伯爵様。お酒は買い置きがここに。おつまみは、ありあわせのものしかありませんが、何か準備しますね。メロンちゃんも手伝って」
そう言って星さんが嬉しそうに台所に立った。
「それじゃ、つがい殿。先にお酒だけいただいていきますよ。
あ、そうだ。ゆうたさん、あなたも付き合いなさい」
「えっ、俺ですか? それじゃ、エルルゥもお酌くらいは……」
「あー、私は花梨みてるわ」
仕方ないので、俺はミハイル様といっしょに上に上がった。
なんかこのご夫妻といっしょにお酒とか、緊張以外の何物でもないな。
やはり窮屈な暮らしにいろいろな不安も重なって、かなり堪えていたのか、久々のお酒が、皆さん染みわたっているようだ。ただ、騒いで軍に見つかったりすると大変なので、そこは自重していただいている。
ライスハイン卿が俺に話しかける。
「ゆうた殿。すまん。わしは今まで人間という奴はつまらん生き物だと思っていた。だが、どうやら貴公は違う様だ。わしの娘が人を頼りにする姿など想像もつかん……もう、ヤッたのか?」
「ぶー!」俺は口に含んでいたお酒を噴き出した。
「はは、照れんでもよい。あいつは、自分が認めた男としか付き合わん。ましてや親を探してくれなどと殊勝な事を言わせる男なら、さぞや気に入られたのであろう」
なんか、ミハイル様とビヨンド様がニヤニヤしながら俺の顔を見ている。
「だからー。ゆうたさん、言ったでしょ。エルフなんて一夫一婦だとか言ってても、それだとみんな人生飽きちゃうから、かなりフリーセックスなのよー」
ビヨンド様酔っぱらてる?
「なにがフリーセックスなのかなー」
そう言いながら、星さんが出来たおつまみを持って入ってきた。
「うわっ!」俺は焦って飛びのいてしまった。
星さん、今の会話どの辺から聞いてたのかな。
「おお、つがい殿。申し訳ない。うむ、おいしそうな炒め物だ。
どうですか。せっかくですから、つがい殿も一献」
そう言いながら、ミハイル様がコップを星さんに渡した。
「それじゃ、ちょっとだけ……」
そう言って星さんは、俺の前を素通りし、ビヨンド様とライスハイン卿の奥方様のところに座って、奥様同士で話し始めた。なんか、結構盛り上がってるな。
小一時間ほど過ぎ、宴会も終了となって、俺と星さんは下の部屋に戻った。
「ふふーん。ゆうくん。私ね。奥方様たちに、あなたも、もっと浮気してもいいのよ! って言われちゃったの。人生楽しまなくちゃって」
「はい? でも、エルフと人間では寿命がそもそも違うし……」
「まあ、そうよね。でもね、私こう答えたの。うちの旦那が一番ですって!」
「はは……ありがとう」
「そしたらね……ビヨンド様が……そうよね。あれはすごいわよねって……」
「!」うわー、冷や汗で全身がびしょびしょになるってこういう感じなんだ……。
そのまま無言で階段を降り、部屋の前で星さんがクルリと俺の方に向いて言った。
「まあ、こんな世界だし、どこ行ってもいいけど……ちゃんと帰ってきてね」
くそー。やっぱ、星さん可愛い! 無性にエッチしたくなったが、部屋には当然メロンもエルルゥもいて……俺の禁欲生活はまだ当面続きそうだ。
三日後、クローデルさんから呼び出しがあったが……またデート喫茶だ……。
「仕方ないじゃない。ここくらいしかゆっくりお話し出来ないのよ!
まあ、私としてはお話以外をしてもいいんだけど……」
「いえ、お話をしましょう。それで、手はずは整ったのですか?」
「ええ。王都の中を流れる運河は知ってるわよね。あれ城壁の下で鉄格子経由で外につながっているんだけど、その鉄格子を破壊できそうなのよ」
「ええっ! ということは御父上たちに水泳させるのですか?」
「まさか、父はカナヅチよ……小舟を使うわ。ただ、破壊作業中に警備中の軍に発見される可能性が高いの。そうなると時間稼ぎの荒事が必要なのだけど……誰か傭兵とか用心棒とか引っ張ってこれないかしら?」
「あー、心当たりがあるといえば……でもその場合、その助っ人も当面王都には戻れませんよね?」
「さっすがダーリン。でもその通りよ。これを機に私も王都を脱出するつもりだけど
その助っ人も当面戻れないわね」
ついにダーリンに昇格したか……でもこれ、シャーリンさんに相談していいのだろうか? だが迷っていても仕方ない。相談には乗ってくれるだろうし。
そう考え、俺は商会を訪ねることにした。
商会では、あごひげさん、フマリさん、シャーリンさんにそれまでの経緯を説明し
協力を求めた。あごひげさんが口を開く。
「やれやれ。ゆうたさんはいつの間に我ら商人の情報網より先を行かれるようになったのでしょうか。そんな事になっているとは露ほども知りませんでした。やはり民間への情報統制はしっかりしているようですね。それにしても王女様を立てるとは」
「ああ、この事はくれぐれもご内密に。
それとどうでしょう。シャーリンさんをお借りするわけには……」
「そうですね。まあ、王都に居られなくてもミハイル卿の所に居られるなら、キャラバンとしては、さほど痛手ではありません。シャーリンさん、君はどうだい?」
「……何人位必要なんだ?」
「? ああ、助っ人の数ですよね。クローデルさんの試算だと、幅十mの通路に押し寄せてくる軍隊を十分間足止めして貰えればという事ですが、どうでしょうか」
「なんだ、それなら私だけで十分ではないか」
「えー。でも、幅が結構ありますよ。一兵も通さないとか……」
「なにを言ってる。ビヨンド様も数に入れていいだろ。得物なら貸してやる。
まあお前は王都を出ていけないから使えんがな」
「はい? ああ、そうか。あの人めちゃくちゃ強いですものね」
「ああ、私の師匠だからな。でも、あの人のエッチな指導はゴメンだ……あ、これは冗談ではないぞ! 笑うな!」
こうしてシャーリンさんの助っ人も決まり、俺はクローデルさんにそのことを伝えた。クローデルさんも、他に数人、逃がしたい貴族がいるようで、それらを取りまとめて三日後の夜、いよいよ貴族達の王都脱出作戦が開始された。
◇◇◇
真夜中、俺は、ダウンタウンの脇を流れる運河沿いに、ミハイル様夫妻とライスハイン卿夫妻を案内し、指定の通路までお送りした。
俺の仕事はここまでだ。
「それじゃ、ご無事をお祈りいたしますミハイル様。指定の場所でクローデルさんも傭兵さんも待っているはずです。またイルマンでお会いしましょう」
「うん。世話になったね、ゆうたさん。それじゃ、近いうちにイルマンで」
ライスハイン卿も俺の肩を叩いて言った。
「この恩は忘れぬ。そう言えば君はエルフの人探しをしていたんだっけな。今は何もできないが、領地に帰ったら君にもらったメモで調べてみるさ。私の領地はちょっと遠いが、まあ遊びに来てくれ。クローデルも喜ぶだろう」
別れ際、ビヨンド様が俺に思い切りディープキスをしてきた。
「大丈夫よ。別に死亡フラグ立てた訳じゃないから。
私とシャーリンちゃんがやって上手くいかないはずないもの。
それじゃ、ゆうた。イルマンでまた4Pしましょうね」
そして、ミハイル様一行は、通路の闇に溶けていった。
◇◇◇
物語は、国王が崩御された日の夜に遡る。
王城内のアロン第二王子の私室で、アロンの叔父にあたるアスナバル公爵と、王都軍の総司令官ナスキンポス将軍の三人が顔を突き合わせ密談をしていた。
アロン王子が激高しながらしゃべっている。
「くそ! 御父上が亡くなるのが早すぎるぞ! まだまだ準備不足じゃないか。
叔父上、これからどうすべきでしょうかね!」
「確かに、今のタイミングではこのまま第一王子が王位継承という事で、元老院もすんなり承諾してしまうでしょうな。ここからアロン様が逆転するとなると……大君が亡くなるのが早すぎるのは、第一王子のせいという事にするとか?」
「はは、なるほどな。でも、それで兄上を退けた後どうなる。王城の高官や周辺諸侯は、私に従うのか? そもそも造反者が出ぬくらい力を付けてから兄上とは対峙する予定だっただろう。まったく、軍も大風呂敷を広げた割には、何も進捗していないしな!」
矛先が変わって、ナスキンポス将軍が顔色を変えて反論する。
「なにをおっしゃる。あの計画はもともと準備に長期間を要するものと、最初からご承知だったはず。それをいまさら……なに、問題ございませんよ。わが王都軍と公爵様の私軍だけでも、それに対抗できる周辺諸侯などほとんど居りません。それに……そうですな。例えば国王の葬儀や戴冠式で王都を訪れる諸侯も絡めとれば、もう我々に刃向かえるものなどいないでしょう」
「だが、まだアスカがいるではないか。
あれがコーラル卿に担がれてこちらに攻めてくるような事があれば……」
アロン王子は不安そうに話したが、公爵は笑みを浮かべながら言った。
「それは全く問題ございません。間者の報告では、アスカ姫はお心を病んで実務に耐えられず、日々女官と肉欲に溺れる生活との事です。それを暴露すれば姫についてくるものなど……それに他にも手を打っておりますし、なによりあのコーラル卿ですからね。よほど勝ち確でなければ動かれないかと。あの姫は、かねてからのお望み通りあなたが王位についてから、ゆっくりおもちゃになさるといい」
「叔父上がそこまで言うなら信用しよう。それでは、国葬のタイミングで集まった周辺諸侯も絡めとる方向で作戦を練ってくれ」
二人が下がった後、アロン王子はベッドに横になり眼を閉じて考え事をしている。
「くそ、何もかも思い通りにならん。王位継承の事も、アスカのことも……叔父上もどこまで本気で私について来ているかわからんし、軍に至っては裏では手を抜いているんではないか? 人間の兵器を大量に調達するなどという絵空事に、どれだけ国庫から払わせられたというのだ。
監査して少しでも問題があったら関係者全員処刑せねば…‥
だが、もう少し頑張れば……私が王位に付けさえすれば、皆私を見直すだろう。
そして……母上も……」
アロン王子の母親はそれほど身分の高くない貴族の出であったが、若くして生まれた娘が、子宝に恵まれなかった侯爵家の養子となった。そしてその娘が成長し国王に見初められ結婚。ヨウモやアスカなど四人の子供をもうけた。
(だが、私は……)
父がどういうつもりで自分の妻の母親に手を出したのか分からないが、自分が生まれた後、記録は書き換えられ、王妃は最初から子爵夫妻がさずかった娘とされた。
私はいい。別に母親の身分が低かろうが関係ない。間違いなく国王の息子だ。
だが母は……生まれた娘の存在自体を抹消された。王妃は大分前に亡くなっており、今日国王も崩御した。もはやその裏側を知るのは私だけだろう。だから私が……私の母が王の母親であることを証明しなければならない。ヨウモやアスカが国王ではだめなのだ!
そして私がアスカと契れば、その子供は正真正銘、非の打ち所のない王位継承者だ。
「私が国王になったことを、母の墓前に報告するまでは……やってやるさ……」
そう言いながら、アロン王子は大きなため息をついた。
その夜、ミハイル様が上の部屋から俺の部屋に降りてきた。
「おーい、ゆうたさん。ライスハイン卿も安心されたようで、晩酌をしたいんだそうだ。すまないが、お酒となにかつまむものはないかな?」
「あー、伯爵様。お酒は買い置きがここに。おつまみは、ありあわせのものしかありませんが、何か準備しますね。メロンちゃんも手伝って」
そう言って星さんが嬉しそうに台所に立った。
「それじゃ、つがい殿。先にお酒だけいただいていきますよ。
あ、そうだ。ゆうたさん、あなたも付き合いなさい」
「えっ、俺ですか? それじゃ、エルルゥもお酌くらいは……」
「あー、私は花梨みてるわ」
仕方ないので、俺はミハイル様といっしょに上に上がった。
なんかこのご夫妻といっしょにお酒とか、緊張以外の何物でもないな。
やはり窮屈な暮らしにいろいろな不安も重なって、かなり堪えていたのか、久々のお酒が、皆さん染みわたっているようだ。ただ、騒いで軍に見つかったりすると大変なので、そこは自重していただいている。
ライスハイン卿が俺に話しかける。
「ゆうた殿。すまん。わしは今まで人間という奴はつまらん生き物だと思っていた。だが、どうやら貴公は違う様だ。わしの娘が人を頼りにする姿など想像もつかん……もう、ヤッたのか?」
「ぶー!」俺は口に含んでいたお酒を噴き出した。
「はは、照れんでもよい。あいつは、自分が認めた男としか付き合わん。ましてや親を探してくれなどと殊勝な事を言わせる男なら、さぞや気に入られたのであろう」
なんか、ミハイル様とビヨンド様がニヤニヤしながら俺の顔を見ている。
「だからー。ゆうたさん、言ったでしょ。エルフなんて一夫一婦だとか言ってても、それだとみんな人生飽きちゃうから、かなりフリーセックスなのよー」
ビヨンド様酔っぱらてる?
「なにがフリーセックスなのかなー」
そう言いながら、星さんが出来たおつまみを持って入ってきた。
「うわっ!」俺は焦って飛びのいてしまった。
星さん、今の会話どの辺から聞いてたのかな。
「おお、つがい殿。申し訳ない。うむ、おいしそうな炒め物だ。
どうですか。せっかくですから、つがい殿も一献」
そう言いながら、ミハイル様がコップを星さんに渡した。
「それじゃ、ちょっとだけ……」
そう言って星さんは、俺の前を素通りし、ビヨンド様とライスハイン卿の奥方様のところに座って、奥様同士で話し始めた。なんか、結構盛り上がってるな。
小一時間ほど過ぎ、宴会も終了となって、俺と星さんは下の部屋に戻った。
「ふふーん。ゆうくん。私ね。奥方様たちに、あなたも、もっと浮気してもいいのよ! って言われちゃったの。人生楽しまなくちゃって」
「はい? でも、エルフと人間では寿命がそもそも違うし……」
「まあ、そうよね。でもね、私こう答えたの。うちの旦那が一番ですって!」
「はは……ありがとう」
「そしたらね……ビヨンド様が……そうよね。あれはすごいわよねって……」
「!」うわー、冷や汗で全身がびしょびしょになるってこういう感じなんだ……。
そのまま無言で階段を降り、部屋の前で星さんがクルリと俺の方に向いて言った。
「まあ、こんな世界だし、どこ行ってもいいけど……ちゃんと帰ってきてね」
くそー。やっぱ、星さん可愛い! 無性にエッチしたくなったが、部屋には当然メロンもエルルゥもいて……俺の禁欲生活はまだ当面続きそうだ。
三日後、クローデルさんから呼び出しがあったが……またデート喫茶だ……。
「仕方ないじゃない。ここくらいしかゆっくりお話し出来ないのよ!
まあ、私としてはお話以外をしてもいいんだけど……」
「いえ、お話をしましょう。それで、手はずは整ったのですか?」
「ええ。王都の中を流れる運河は知ってるわよね。あれ城壁の下で鉄格子経由で外につながっているんだけど、その鉄格子を破壊できそうなのよ」
「ええっ! ということは御父上たちに水泳させるのですか?」
「まさか、父はカナヅチよ……小舟を使うわ。ただ、破壊作業中に警備中の軍に発見される可能性が高いの。そうなると時間稼ぎの荒事が必要なのだけど……誰か傭兵とか用心棒とか引っ張ってこれないかしら?」
「あー、心当たりがあるといえば……でもその場合、その助っ人も当面王都には戻れませんよね?」
「さっすがダーリン。でもその通りよ。これを機に私も王都を脱出するつもりだけど
その助っ人も当面戻れないわね」
ついにダーリンに昇格したか……でもこれ、シャーリンさんに相談していいのだろうか? だが迷っていても仕方ない。相談には乗ってくれるだろうし。
そう考え、俺は商会を訪ねることにした。
商会では、あごひげさん、フマリさん、シャーリンさんにそれまでの経緯を説明し
協力を求めた。あごひげさんが口を開く。
「やれやれ。ゆうたさんはいつの間に我ら商人の情報網より先を行かれるようになったのでしょうか。そんな事になっているとは露ほども知りませんでした。やはり民間への情報統制はしっかりしているようですね。それにしても王女様を立てるとは」
「ああ、この事はくれぐれもご内密に。
それとどうでしょう。シャーリンさんをお借りするわけには……」
「そうですね。まあ、王都に居られなくてもミハイル卿の所に居られるなら、キャラバンとしては、さほど痛手ではありません。シャーリンさん、君はどうだい?」
「……何人位必要なんだ?」
「? ああ、助っ人の数ですよね。クローデルさんの試算だと、幅十mの通路に押し寄せてくる軍隊を十分間足止めして貰えればという事ですが、どうでしょうか」
「なんだ、それなら私だけで十分ではないか」
「えー。でも、幅が結構ありますよ。一兵も通さないとか……」
「なにを言ってる。ビヨンド様も数に入れていいだろ。得物なら貸してやる。
まあお前は王都を出ていけないから使えんがな」
「はい? ああ、そうか。あの人めちゃくちゃ強いですものね」
「ああ、私の師匠だからな。でも、あの人のエッチな指導はゴメンだ……あ、これは冗談ではないぞ! 笑うな!」
こうしてシャーリンさんの助っ人も決まり、俺はクローデルさんにそのことを伝えた。クローデルさんも、他に数人、逃がしたい貴族がいるようで、それらを取りまとめて三日後の夜、いよいよ貴族達の王都脱出作戦が開始された。
◇◇◇
真夜中、俺は、ダウンタウンの脇を流れる運河沿いに、ミハイル様夫妻とライスハイン卿夫妻を案内し、指定の通路までお送りした。
俺の仕事はここまでだ。
「それじゃ、ご無事をお祈りいたしますミハイル様。指定の場所でクローデルさんも傭兵さんも待っているはずです。またイルマンでお会いしましょう」
「うん。世話になったね、ゆうたさん。それじゃ、近いうちにイルマンで」
ライスハイン卿も俺の肩を叩いて言った。
「この恩は忘れぬ。そう言えば君はエルフの人探しをしていたんだっけな。今は何もできないが、領地に帰ったら君にもらったメモで調べてみるさ。私の領地はちょっと遠いが、まあ遊びに来てくれ。クローデルも喜ぶだろう」
別れ際、ビヨンド様が俺に思い切りディープキスをしてきた。
「大丈夫よ。別に死亡フラグ立てた訳じゃないから。
私とシャーリンちゃんがやって上手くいかないはずないもの。
それじゃ、ゆうた。イルマンでまた4Pしましょうね」
そして、ミハイル様一行は、通路の闇に溶けていった。
◇◇◇
物語は、国王が崩御された日の夜に遡る。
王城内のアロン第二王子の私室で、アロンの叔父にあたるアスナバル公爵と、王都軍の総司令官ナスキンポス将軍の三人が顔を突き合わせ密談をしていた。
アロン王子が激高しながらしゃべっている。
「くそ! 御父上が亡くなるのが早すぎるぞ! まだまだ準備不足じゃないか。
叔父上、これからどうすべきでしょうかね!」
「確かに、今のタイミングではこのまま第一王子が王位継承という事で、元老院もすんなり承諾してしまうでしょうな。ここからアロン様が逆転するとなると……大君が亡くなるのが早すぎるのは、第一王子のせいという事にするとか?」
「はは、なるほどな。でも、それで兄上を退けた後どうなる。王城の高官や周辺諸侯は、私に従うのか? そもそも造反者が出ぬくらい力を付けてから兄上とは対峙する予定だっただろう。まったく、軍も大風呂敷を広げた割には、何も進捗していないしな!」
矛先が変わって、ナスキンポス将軍が顔色を変えて反論する。
「なにをおっしゃる。あの計画はもともと準備に長期間を要するものと、最初からご承知だったはず。それをいまさら……なに、問題ございませんよ。わが王都軍と公爵様の私軍だけでも、それに対抗できる周辺諸侯などほとんど居りません。それに……そうですな。例えば国王の葬儀や戴冠式で王都を訪れる諸侯も絡めとれば、もう我々に刃向かえるものなどいないでしょう」
「だが、まだアスカがいるではないか。
あれがコーラル卿に担がれてこちらに攻めてくるような事があれば……」
アロン王子は不安そうに話したが、公爵は笑みを浮かべながら言った。
「それは全く問題ございません。間者の報告では、アスカ姫はお心を病んで実務に耐えられず、日々女官と肉欲に溺れる生活との事です。それを暴露すれば姫についてくるものなど……それに他にも手を打っておりますし、なによりあのコーラル卿ですからね。よほど勝ち確でなければ動かれないかと。あの姫は、かねてからのお望み通りあなたが王位についてから、ゆっくりおもちゃになさるといい」
「叔父上がそこまで言うなら信用しよう。それでは、国葬のタイミングで集まった周辺諸侯も絡めとる方向で作戦を練ってくれ」
二人が下がった後、アロン王子はベッドに横になり眼を閉じて考え事をしている。
「くそ、何もかも思い通りにならん。王位継承の事も、アスカのことも……叔父上もどこまで本気で私について来ているかわからんし、軍に至っては裏では手を抜いているんではないか? 人間の兵器を大量に調達するなどという絵空事に、どれだけ国庫から払わせられたというのだ。
監査して少しでも問題があったら関係者全員処刑せねば…‥
だが、もう少し頑張れば……私が王位に付けさえすれば、皆私を見直すだろう。
そして……母上も……」
アロン王子の母親はそれほど身分の高くない貴族の出であったが、若くして生まれた娘が、子宝に恵まれなかった侯爵家の養子となった。そしてその娘が成長し国王に見初められ結婚。ヨウモやアスカなど四人の子供をもうけた。
(だが、私は……)
父がどういうつもりで自分の妻の母親に手を出したのか分からないが、自分が生まれた後、記録は書き換えられ、王妃は最初から子爵夫妻がさずかった娘とされた。
私はいい。別に母親の身分が低かろうが関係ない。間違いなく国王の息子だ。
だが母は……生まれた娘の存在自体を抹消された。王妃は大分前に亡くなっており、今日国王も崩御した。もはやその裏側を知るのは私だけだろう。だから私が……私の母が王の母親であることを証明しなければならない。ヨウモやアスカが国王ではだめなのだ!
そして私がアスカと契れば、その子供は正真正銘、非の打ち所のない王位継承者だ。
「私が国王になったことを、母の墓前に報告するまでは……やってやるさ……」
そう言いながら、アロン王子は大きなため息をついた。
10
お気に入りに追加
451
あなたにおすすめの小説
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
母娘丼W
Zu-Y
恋愛
外資系木工メーカー、ドライアド・ジャパンに新入社員として入社した新卒の俺、ジョージは、入居した社宅の両隣に挨拶に行き、運命的な出会いを果たす。
左隣りには、金髪碧眼のジェニファーさんとアリスちゃん母娘、右隣には銀髪紅眼のニコルさんとプリシラちゃん母娘が住んでいた。
社宅ではぼさぼさ頭にすっぴんのスウェット姿で、休日は寝だめの日と豪語する残念ママのジェニファーさんとニコルさんは、会社ではスタイリッシュにびしっと決めてきびきび仕事をこなす会社の二枚看板エースだったのだ。
残業続きのママを支える健気で素直な天使のアリスちゃんとプリシラちゃんとの、ほのぼのとした交流から始まって、両母娘との親密度は鰻登りにどんどんと増して行く。
休日は残念ママ、平日は会社の二枚看板エースのジェニファーさんとニコルさんを秘かに狙いつつも、しっかり者の娘たちアリスちゃんとプリシラちゃんに懐かれ、慕われて、ついにはフィアンセ認定されてしまう。こんな楽しく充実した日々を過していた。
しかし子供はあっという間に育つもの。ママたちを狙っていたはずなのに、JS、JC、JKと、日々成長しながら、急激に子供から女性へと変貌して行く天使たちにも、いつしか心は奪われていた。
両母娘といい関係を築いていた日常を乱す奴らも現れる。
大学卒業直前に、俺よりハイスペックな男を見付けたと言って、あっさりと俺を振って去って行った元カノや、ママたちとの復縁を狙っている天使たちの父親が、ウザ絡みをして来て、日々の平穏な生活をかき乱す始末。
ママたちのどちらかを口説き落とすのか?天使たちのどちらかとくっつくのか?まさか、まさかの元カノと元サヤ…いやいや、それだけは絶対にないな。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる