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その15:Dead Or Arive(後編)
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後日、メイファーちゃんのご両親がサラドラ先生の診療所を訪ねて来て、一時的な入れ替わりの件を、正式なクエストとしてオファーを申し出て来た。サラドラ先生の見立てでは、まあ丸一日が限界だろうとの事だが、それでよいとの事だった。
リーマ姫とノアナさんが、早速、その一日で何をしようか。メイファーちゃんとの打ち合わせに赴いた。僕とヨリは、先生と入れ替わり中の心得の打ち合わせだ。
「まあ、無いとは思うがお兄さん。メイファーの身体で、変な気は起こすなよ」
「いや、起こしませんって! だいたい、自分では動けないですよね?」
「だからー。もし、体動かしたくなったり、おトイレしたくなったら、私が張り付いてるから……私がいれば安心でしょ?」ヨリが自信有りげにそう語った。
「ああ、だがヨリ。お前も外出組に付き添ってほしい。万一、やたらな魔物と遭遇したら、リーマとノアナだけでは不安だ。お兄さんには私が付き添う。そうすればメイファーの体に急変が有っても対処出来る」
「そっか。入れ替わると薬切れるまで戻せないんだっけ?」
「ああ、だから最初の投薬量で微調整するぞ」
そしてクエスト当日。大変良く晴れて、気候も穏やか。まさに絶好の体験クエスト日和だ。朝一で、メイファーちゃん宅に集合し、サラドラ先生が調合した入れ替わりの秘薬を、僕とメイファーちゃんが服用した。
「あっ。あれ? これが私? あはは、すごいすごい。立てるよ! 歩けるよ!」
僕の声ではあるが、メイファーちゃん本当にうれしそうだ。いや、この声聞いただけで、入れ替わった価値あるんじゃないか!?
だが、僕は……はは、目線しか動かせない。口は動かせるので、話す事は出来るが、そんなに早口ではしゃべれない。メイファーちゃん。ずっとこんな世界で暮らしていたんだ……そう思ったら、今日一日、メイファーちゃんが思い切り楽しめるといいなと思わずにはいられなかった。
◇◇◇
「ファイヤ!!」リーマ姫が詠唱し、目の前のスライムが黒焦げになった。
「わあっ! リーマさんすごい! 私も魔法使える様になれるかな?」
お兄ちゃんの姿ではしゃぐメイファーちゃん。本当に楽しそう。でも魔法は、多少練習しないとすぐにはね。そう思いながら、あまり危険な魔物に近づかない様、ヨリは注意深く周囲を警戒する。
やがてお昼近くになり、見晴らしのいいところに敷物を敷いて、リーマ姫のお手製お弁当を広げた。
「リーマさん。お料理も出来るんだ! いーなー。私もお料理習いたいなー。そんでね、大きくなったら、カッコいい王子様のお嫁さんになるの」メイファーちゃんの言葉にリーマ姫が自慢気に行った。
「お兄さんは、私の婚約者なんだよ!」
「えっ、そうなんだ……じゃ、このお兄さんの身体って、リーマちゃんのものなの? 私が借りちゃってよかったのかな?」メイファーちゃんがすまなそうにいう。
「大丈夫! 私は、私が正妻であれば、お兄さんが他の女の人と何しても気にしないって約束してるの! だから、メイファーちゃんも、病気直ったらお兄さん貸してあげる!」
「こら、リーマ姫。あんまり変な事言わない!」いつになく真面目な顔でヨリがたしなめ、リーマ姫がペロっと舌を出した。
「それで……あのね、リーマちゃん」
「ん? どうしたのメイファーちゃん」
「うんとね……くくっ!」
何かモジモジしているメイファーに、ノアナが声をかけた。
「あー、メイファーちゃん。おトイレ?」
「……うん」
「そっか。そっか。そうだよねー。見慣れないものついてるものねー。大丈夫よ、私に任せて。それの扱いなら慣れてるから」そう言って、ノアナがお兄さんの身体に入ったメイファーを茂みの影に連れていった。
◇◇◇
「先生。おしっこ」
「はいはい。ほら、めくるぞ」サラドラ先生がそう言って、ベッドに横たわるメイファーちゃん姿の僕の寝間着の前を開け、尿瓶をあてがってくれる。いやー、少女に尿瓶あてるとか、なんか妄想しちゃいそうだけど、いかんいかん。本当に自分自身で身動きが取れないと言うのは、想像以上に辛いものだな。じっとしているのは耐えがたい。そうしていたら、夜になって外出していたみんなが帰ってきた。
「お兄ちゃんただいま! 具合はどう?」ヨリが心配そうに僕に尋ねた。
「ノープロブレム。サラドラ先生にちゃんと面倒見て貰えたしな」
「そっか。それじゃ、私達、お風呂いただいて来るから」
「えー。それって僕の体と一緒に、皆入るの?」
「そうよ。この家の浴場。すごく大きいんだって」
はぁーー。僕の身体の経験値ばっかり、なんか上がっているよなー。
でも、メイファーちゃん楽しそうでよかったな。
やがて一日の予定行事が終了し、僕の体に入ったメイファーちゃんが、僕の脇にやって来た。朝になれば薬が切れるので、このまま側にいるのだ。部屋には、サラドラ先生だけでなく、ヨリもノアナさんもリーマ姫も、思い思いに床に座ったりして、いっしょに朝までいてくれる様だ。そして夜も更け、皆うたたねをしていた頃、突然、僕の体のメイファーちゃんが泣きじゃくりだした。
「……私、戻りたくないよ。この身体に、もう戻りたくない!!」錯乱したかの様な言葉に皆が目を覚まし、サラドラ先生が慌てて僕の身体のメイファーちゃんを抱きしめた。
「落ち着くんだ、メイファー。そして一旦元の身体に戻ろう。お兄さんの負荷もかなり大きいのだよ。君の具合を見て、また企画するから……」
「やだー。もうやだー!! 知ってるよ。私、このまま死んじゃうんでしょ……こんな身体……もう見たくない!!」そう叫んで、サラドラ先生を振り切ったメイファーちゃんが僕が寝ているベッドのシーツを思い切り引っ張り上げた。そして、中身はメイファーちゃんでも、身体は僕だ。ものすごい力で、メイファーちゃんの身体の僕がシーツごと跳ね上げられ、そのまま床にドガンと激突した。
「メイファー!!」サラドラ先生が僕に駆け寄ってくるのが分かった。
「お兄ちゃん!? やだ、ちょっと、首が曲がっちゃってない?」ヨリの声だ。
「あ……お兄さん。そんな……」リーマ姫とノアナさんも絶句している。
「ああ、あの……お兄さん……私、何て事を……」メイファーちゃんが僕の体で呆然としている。そして僕は……ああ、なんか目の前が暗くなってきたぞ。これってもしかして、アウトかな……そりゃそうだよな。僕の身体は頑丈でも、メイファーちゃんの身体じゃ……。
そして、だんだん僕の目の前の闇が深くなり……視界も意識も完全に閉ざされた。
(続く)
リーマ姫とノアナさんが、早速、その一日で何をしようか。メイファーちゃんとの打ち合わせに赴いた。僕とヨリは、先生と入れ替わり中の心得の打ち合わせだ。
「まあ、無いとは思うがお兄さん。メイファーの身体で、変な気は起こすなよ」
「いや、起こしませんって! だいたい、自分では動けないですよね?」
「だからー。もし、体動かしたくなったり、おトイレしたくなったら、私が張り付いてるから……私がいれば安心でしょ?」ヨリが自信有りげにそう語った。
「ああ、だがヨリ。お前も外出組に付き添ってほしい。万一、やたらな魔物と遭遇したら、リーマとノアナだけでは不安だ。お兄さんには私が付き添う。そうすればメイファーの体に急変が有っても対処出来る」
「そっか。入れ替わると薬切れるまで戻せないんだっけ?」
「ああ、だから最初の投薬量で微調整するぞ」
そしてクエスト当日。大変良く晴れて、気候も穏やか。まさに絶好の体験クエスト日和だ。朝一で、メイファーちゃん宅に集合し、サラドラ先生が調合した入れ替わりの秘薬を、僕とメイファーちゃんが服用した。
「あっ。あれ? これが私? あはは、すごいすごい。立てるよ! 歩けるよ!」
僕の声ではあるが、メイファーちゃん本当にうれしそうだ。いや、この声聞いただけで、入れ替わった価値あるんじゃないか!?
だが、僕は……はは、目線しか動かせない。口は動かせるので、話す事は出来るが、そんなに早口ではしゃべれない。メイファーちゃん。ずっとこんな世界で暮らしていたんだ……そう思ったら、今日一日、メイファーちゃんが思い切り楽しめるといいなと思わずにはいられなかった。
◇◇◇
「ファイヤ!!」リーマ姫が詠唱し、目の前のスライムが黒焦げになった。
「わあっ! リーマさんすごい! 私も魔法使える様になれるかな?」
お兄ちゃんの姿ではしゃぐメイファーちゃん。本当に楽しそう。でも魔法は、多少練習しないとすぐにはね。そう思いながら、あまり危険な魔物に近づかない様、ヨリは注意深く周囲を警戒する。
やがてお昼近くになり、見晴らしのいいところに敷物を敷いて、リーマ姫のお手製お弁当を広げた。
「リーマさん。お料理も出来るんだ! いーなー。私もお料理習いたいなー。そんでね、大きくなったら、カッコいい王子様のお嫁さんになるの」メイファーちゃんの言葉にリーマ姫が自慢気に行った。
「お兄さんは、私の婚約者なんだよ!」
「えっ、そうなんだ……じゃ、このお兄さんの身体って、リーマちゃんのものなの? 私が借りちゃってよかったのかな?」メイファーちゃんがすまなそうにいう。
「大丈夫! 私は、私が正妻であれば、お兄さんが他の女の人と何しても気にしないって約束してるの! だから、メイファーちゃんも、病気直ったらお兄さん貸してあげる!」
「こら、リーマ姫。あんまり変な事言わない!」いつになく真面目な顔でヨリがたしなめ、リーマ姫がペロっと舌を出した。
「それで……あのね、リーマちゃん」
「ん? どうしたのメイファーちゃん」
「うんとね……くくっ!」
何かモジモジしているメイファーに、ノアナが声をかけた。
「あー、メイファーちゃん。おトイレ?」
「……うん」
「そっか。そっか。そうだよねー。見慣れないものついてるものねー。大丈夫よ、私に任せて。それの扱いなら慣れてるから」そう言って、ノアナがお兄さんの身体に入ったメイファーを茂みの影に連れていった。
◇◇◇
「先生。おしっこ」
「はいはい。ほら、めくるぞ」サラドラ先生がそう言って、ベッドに横たわるメイファーちゃん姿の僕の寝間着の前を開け、尿瓶をあてがってくれる。いやー、少女に尿瓶あてるとか、なんか妄想しちゃいそうだけど、いかんいかん。本当に自分自身で身動きが取れないと言うのは、想像以上に辛いものだな。じっとしているのは耐えがたい。そうしていたら、夜になって外出していたみんなが帰ってきた。
「お兄ちゃんただいま! 具合はどう?」ヨリが心配そうに僕に尋ねた。
「ノープロブレム。サラドラ先生にちゃんと面倒見て貰えたしな」
「そっか。それじゃ、私達、お風呂いただいて来るから」
「えー。それって僕の体と一緒に、皆入るの?」
「そうよ。この家の浴場。すごく大きいんだって」
はぁーー。僕の身体の経験値ばっかり、なんか上がっているよなー。
でも、メイファーちゃん楽しそうでよかったな。
やがて一日の予定行事が終了し、僕の体に入ったメイファーちゃんが、僕の脇にやって来た。朝になれば薬が切れるので、このまま側にいるのだ。部屋には、サラドラ先生だけでなく、ヨリもノアナさんもリーマ姫も、思い思いに床に座ったりして、いっしょに朝までいてくれる様だ。そして夜も更け、皆うたたねをしていた頃、突然、僕の体のメイファーちゃんが泣きじゃくりだした。
「……私、戻りたくないよ。この身体に、もう戻りたくない!!」錯乱したかの様な言葉に皆が目を覚まし、サラドラ先生が慌てて僕の身体のメイファーちゃんを抱きしめた。
「落ち着くんだ、メイファー。そして一旦元の身体に戻ろう。お兄さんの負荷もかなり大きいのだよ。君の具合を見て、また企画するから……」
「やだー。もうやだー!! 知ってるよ。私、このまま死んじゃうんでしょ……こんな身体……もう見たくない!!」そう叫んで、サラドラ先生を振り切ったメイファーちゃんが僕が寝ているベッドのシーツを思い切り引っ張り上げた。そして、中身はメイファーちゃんでも、身体は僕だ。ものすごい力で、メイファーちゃんの身体の僕がシーツごと跳ね上げられ、そのまま床にドガンと激突した。
「メイファー!!」サラドラ先生が僕に駆け寄ってくるのが分かった。
「お兄ちゃん!? やだ、ちょっと、首が曲がっちゃってない?」ヨリの声だ。
「あ……お兄さん。そんな……」リーマ姫とノアナさんも絶句している。
「ああ、あの……お兄さん……私、何て事を……」メイファーちゃんが僕の体で呆然としている。そして僕は……ああ、なんか目の前が暗くなってきたぞ。これってもしかして、アウトかな……そりゃそうだよな。僕の身体は頑丈でも、メイファーちゃんの身体じゃ……。
そして、だんだん僕の目の前の闇が深くなり……視界も意識も完全に閉ざされた。
(続く)
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