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その8:ドラゴン討伐(前編)

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「どうして……こうなった………」

 隣国での出張講習も残りあと三日ばかりとなった時、朝、いきなりリーマ姫が僕らの宿舎を訪れた。先日は国王の前で、二人は恋人の泉で正式に婚約の手続きをした事にして取り繕い、後の事はまた考えようという話だったのだけど……リーマ姫がいつになく真剣な面持ちをしている。それにいで立ちも、お姫様と言うより、これじゃ冒険者だ。黒の可愛いホットパンツで、ヨリみたいに太腿が露わだが、まだ色気というにはちょっと早いのが惜しい。

「あのお兄さん。大変申し上げにくいのですが……父が……国王が、やっぱり私とあなたの婚約は認められん。あなたを八つ裂きにすると騒いでおりまして……」
「ええっ!? それじゃ僕は……どうすれば」
「ははは。このまま逃げちゃう? お兄ちゃん」
 ヨリが馬鹿にした様な笑みを浮かべる。
「いや、それじゃ国際問題になっちゃうよ。それならいっそここで、リーマちゃんと既成事実を……ぎゃっ!?」言い終わらないうちに、ヨリの電撃を食らった。

「あの、お兄さん。それも有りかもなのですが……実は私、冒険者志望でして……その事で昨夜、父と言い争いになって、その行きがかりでお兄さんとの婚約話に引火したといいますか……すいません! 私といっしょにドラゴン討伐に行ってくれませんか?」

「はいっ!? ドラゴン討伐?」僕とヨリの声がハモった。

「ええ。私、昔から冒険者にあこがれていまして、今回、お兄さんと無理やり婚約の手続きをしたのも、お兄さんがいっしょなら先々、色々修行の面で有利かなって……それで、この婚約を機にお兄さんについていって、武者修行したいって父に行ったら……」
「喧嘩になったと……」
「はい。それでさんざん言い争った末、私がドラゴン討伐に成功したなら、私の言い分を認めてくれるという事になりました。ドラゴン討伐というのは、本来、王位継承を望む王子が受ける試練でして、本来第七王女の私など、王位継承のおの字も関係ないのです。ですから私の人生なのだから、やりたい様にやらせてほしいと昔からさんざん申していたのですが、父は全く取り合ってくれず……」
 あー。リーマちゃん可愛いもんなー。父親だったらだれでも手放したくないよなー。でも、リーマちゃんも見かけによらずやんちゃなんだな。

「それで、そのドラゴン討伐って、具体的にはどうするの?」ヨリが尋ねた。
「はい。私をリーダーに四人パーティーを編成し、北の山脈にあるドラゴンの巣に赴き、ブラックドラゴンを一体倒し、その逆鱗げきりんを証拠に持ち帰るというものです」
「はっはー。ブラックドラゴン。SS級だねそれ。お兄ちゃん、どうする?」
「どうするって、王位継承がかかってるって事は、多分国代表クラスのメンバーを編成するんだろ? 心配いらなそうだけど…‥‥」
「それが……父は、パーティーメンバーに必ずお兄さんを加えろと……それが婚約も継続する条件だと申しております」
「はいぃ!? いや、いまから婚約破棄しちゃダメ?」
「私は構いませんが、お兄さんは火あぶりのやり直しかと……」
「あーあ。姫様、可愛い顔してなかなかやるわね。うちのお兄ちゃんじゃ、かないそうにないわ。いいわ、そのクエスト私も参加する! それで、姫様は何が出来るの?」
「はい。掃除、洗濯、針仕事……花嫁修業は一通り。あと、お料理も得意です!」
「……そうじゃなくて、ドラゴン退治で役に立つスキルとかはないの?」
「すいません……まだ練習中で。でも、あの。戦闘でお疲れになったお二人の御身体をマッサージしたりは……」うはー。それはそれでいいかも……ベキベキッ。また電撃を食らった。

「そっか。それじゃ、やっぱりあとの一枠に、サポート入れないとねー。お兄ちゃん。大至急、ノアナをここに呼んで!! まあ、私達二人なら何とか出来るかとは思うけど、姫様が足手まといにならない様、子守は必要よね」

 ◇◇◇

 翌日の夜。僕の魔導通信で呼ばれたノアナさんが、急遽駆け付けてくれた。
「えー、でもお兄さん、ヨリちゃん。ブラックドラゴンなんて大丈夫なの?」
「ええ。それに近い奴は何匹か経験あるけど、ブラック本体は初めてかな。でも、お兄ちゃんも私もチートのTUEEEだから大丈夫よ。あんたには補助魔法もお願いするけど、姫様に被害が出ない様、子守をしてもらうのが第一かな」
 昨日から子守、子守と言われ続けていて、姫様は不服そうだが仕方ない。一応、クエストの期限はひと月以内との事だったのだが、出発するなら残りの講習は省いても良いと言われたので、さっさと片付けようという事になり、翌朝早く、四人で王城を出発した。

 ドラゴンの巣は、馬車で二日ほど行った山裾にあると、王位継承マニュアルに地図も書いてあり、そのコピーを貰ってきているので、道に迷う事はない。
 
 最初の夜、姫様が手料理をふるまってくれたが、言うだけあってかなりの腕前だ。
「いやー、姫様。これならいいお嫁さんになれるわー。お兄ちゃんの幸せ者!」
 ヨリがそんな事を言っていたが、いつもなら、私のお兄ちゃんをー……
 なんて食って掛かりそうなものだが、今回に限って、リーマ姫に何もつっかからないのが、かえって気にはなる。

 途中何事もなく、王城を出て二日目の夕方。無事目的地のドラゴンの巣への入り口となる洞窟の前に到着した。
「どうするお兄ちゃん? このまま突っ込む?」ヨリが僕に問う。
「いやー。姫様もいるし、一旦ここで野営して、明日の朝一で入らないか?」
「そうだねー。馬車の長旅で、姫様も眠たそうだし……」
「いえ、私なら大丈夫です!」
「はは、無理しない。無理しない。こういう時って、焦るとかえって失敗するんだよ」僕のその言葉に姫様も納得した様で、そそのままここで野営する事にした。
 
 僕が、馬車の外で見張り兼火の番になり、他の三人は馬車の中で休んでいる。
 いやー。星が綺麗だなー。元の世界じゃこんな満天の星はまず拝めない。どこに行っても街灯がない所なんてほとんどなかったものな。そんな事を考えていたら、ヨリが近寄ってきて、僕の脇にもたれかかる様に座った。

「どうした。眠れないのか? 姫とノアナさんは?」
「二人ともぐっすりよ。よほど馬車移動で疲れたんじゃない? それで私はと言うと……出張に来てから、お兄ちゃんとはずっとご無沙汰で……こんなチャンスは滅多にないかなーって」そう言いながらヨリが僕の太腿をさすっている。
「もう。仕方ないなー僕の妹は……二人が起きちゃうから、声は出すなよ」

 ◇◇◇

 翌朝。久しぶりにヨリと重なって気力は十分満タンみたいだ。どうやらヨリもツヤツヤしている。それではと、勇んでドラゴンの巣に足を踏み入れた。
 洞窟内部のマップもあるため迷う事はなかったが、すでに長い事、王位継承の試練に使われてきたのだろう。人が歩くところが、すっかり小道になって踏み固めれらていて、これなら地図がなくとも迷わないかも知れないな。

 あと小一時間程で、ブラックドラゴンの寝床と言うところで、お昼になったので、お弁当にしましょうとリーマ姫が言い出した。でもそんな呑気にお昼とか取ってていいのかと思ったのだが、ヨリが地図を見ながら言った。
「ねえ、お兄ちゃん。ここ休憩に良くない?」
 言われて地図を確認すると、目的地の手前で分岐している道があり、その先に、『休憩場所・温泉』とある。ははは。試練とかいっても、所詮ヌルゲーなんだよな。肝心の王位継承者が死んだり怪我したら眼も当てられないものな。
 そう考えた僕は、そのままその休憩場所を目指した。

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