『元』魔法少女デガラシ

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十七.再集結! マジノ・リベルテ

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 非常階段で四十八階に降りたアルデンヌは井坂秘書さんに案内され、坂出一輝の所に向かった。発表会場ではすでにマスコミに対するプレゼンが始まっており、坂出一輝はその後の登壇に備え、吉崎碧と共に舞台の袖に控えていた。

「あなた! そこにいらしたのですね!!」アルデンヌが大声で駆け寄る。
「おお、月代! もう大丈夫なのか? あの……今回の事は……なんとも」
「そんな事は後でいいんです! とにかく、この発表会を中止して下さい!! そうでなければロックス氏が……魔王ブリッツクリークがTVカメラに写ってしまいます!!」
「月代……お前、何を言っているんだ? いや、確かに昨日は僕が悪かった。お前がロックス氏を悪魔の様に嫌ったとしても仕方ない。だが、それとこれは話が別だ。発表会を中止には出来ん!」そう言って坂出一輝は、アルデンヌの話を一蹴した。

「社長。お言葉ですが、私の眼から見てもロックス氏はどこか変でした。現に、上で田中君と取っ組み合いの格闘を……」井坂秘書さんもアルデンヌをそう言って援護してくれたのだが、坂出一輝はやはり耳を貸さない。

「まったく。井坂君までどうしちまったんだ。まあ女性の立場からしたら、月代に肩入れしたいのだろうとは思うが……田中に至っては、ロックス氏に暴力をふるったのか!? 話にならん! 吉崎! まもなくロックス氏も降りて来られる。この痴れ者達が錯乱して乱入したりしない様、よく見張っておけ!」
 そいう言い捨てて、坂出一輝は壇上に上がって行った。

「はいっ!」とは言ったものの、吉崎碧も状況が分からずオタオタしている。
「あの奥様。社長もああおっしゃっていますので、今しばらくここでご休憩下さい」
「ああ、違うの吉崎さん。本当にロックスをTVに写してはいけないのよ……」
 そう言ってアルデンヌが吉崎の手を握りながら、ボロボロと涙をこぼした。
 そして壇上で、坂上一輝がサプライズのスペシャルゲストの登場を宣言し、逆の袖からロックス氏が壇上に上がった為、会場のカメラが一斉にロックス氏を向いた。
「ああ……神様……」アルデンヌが眼を閉じて神に祈る姿勢を取った。
 
 その時である。アルデンヌの手を握っていた吉崎碧が、何を思ったのか突然壇上に駆け上がり、舞台の端でロックス氏を迎え入れていた坂上一輝の前に仁王立ちしたかと思ったら、思い切り大きな声で叫んだ。

「社長!! 何で早く奥さんと別れてくれないんですか!? 私をだましていたの? お腹の子はもう七か月なのよ!!」

 突然の闖入者に場内が騒然となり、ロックス氏を向いていたカメラ群が一斉に吉崎と坂出一輝の姿を捉えた。
 そして地上波のTV放送は、そのまますぐに「しばらくお待ちください」の画面に切り替わり、ネット配信用のカメラは、吉崎と坂出の姿を全世界に発信し続けていた。

(もうこうなりゃヤケよ。社長。奥さんを大切にしなかった事、後悔しなさい!!)
 吉崎碧は腹の中で、そう考えていた。

 ◇◇◇
 
「デガラシ! おい、しっかりしろ!! どうしたんだよ……」

 ロックス氏こと魔王ブリッツクリークは、そんなデガラシの様子を見て、高笑いしながらエレベータで発表会場に向かってしまった。俺は、デガラシを懸命に揺さぶるが全く精気がなく、視線もおかしい。

 そんな……あれが真実? それを何でデガラシは……覚えていなかったのか? まさかあいつが失って探していたものって、その記憶? そんなの残酷すぎるだろ……
 リンダさんがさかんに心配してくれている様だが、何も耳にはいらないし考えられない。そもそも魔王なんて今のデガラシ達じゃどうにも出来ない……。

 どうしようもない無力感が俺の全身を包みこみ、立っている事が出来ず、ピクリとも動かないデガラシを抱えたまま、そのまま二人で床に這いつくばってしまった。
「ああ………デガラシ……お前……」俺は泣きながらデガラシの頭を優しく抱擁する事しか出来ない……。

 その時、エレベータがチーンとなった。誰かが下から上がってきたのか……?
 そしてその扉が開いた時、俺はその目を疑った。

「待たせたなー田中君……おや? ダンケどないしてん?」
 聞きなれない関西弁と共にエレベータを降りてきたのは……
「足利社長!! いや……マジノ・ノルマンディ!! いやそれにしてもそのしゃべり方は?」
「突っ込むとこそこかい! いや、普段は意識して標準語つことるんやけど、こうした緊急事態ではどうしても素が出てまうんよ! その方が楽やしな。それで何がどうしてこうなった?」

 そういや以前、ノルマンディは西の方出身だってデガラシが言ってたっけ。
 それに、ノルマンディに新幹線の中から連絡したのすっかり忘れてた。
 俺は、ここに来てから今までの経緯をノルマンディに説明した。

「さよか。記憶戻ってもたか……」
「戻ってもたか……って、それじゃノルマンディは覚えていてあの事件って言い方を……」
「そや。アルデも覚えてる。もちろんカズ君もな。でも当時はまだダンケも十代や。余りに事が重大すぎて、抱えさせん方がええやろってハンザキが……でも、どないしよ、これ。記憶を強引に隠蔽してたのが中途半端に崩れて、ダンケの心が壊れかけとる。ダンケ! 聞こえるか? 私よ。ノルマンディ!!」
 その呼びかけに、わずかにデガラシが反応した様に見えた。

「よっしゃ。まだ正気は残っとる様や。田中君! 私の見立てでは、今はあんたが応援するのがダンケには一番の特効薬や。恥も外聞も無くこいつに話掛けて愛を語りいや。そんでこいつの心こっちに引っ張って来て! そしたら後は私がなんとかする!」

「いや、応援って……いったいどうすれば?」
「何言うてん。子供の時さんざんやったやろ。TV見ながら『ガンバレー、ダンケルクー』って……ついでに乳のひとつも揉んだって、愛を囁いたれ! それが魔法少女の最大の栄養源エネルギーになるんだわい!」

「はい! 分かりました!!」
 俺はそう言って思い切りデガラシを抱きしめて大声で語りかける。
「頑張れーダンケルク! くじけるな―ダンケルク!!」
「田中君! まだ足りん!! 時間もないぞぉ。もぉーっと精一杯、愛情込めて……男ならいったれー!!」

「はい!! くっそー。デガラシー、いや五十嵐かえでー!! 俺はお前の事が大好きだー!!! ヤリてぇーーー。エッチしてぇーーーー。そんでもって、一生大切にするよーーー!!! だから……俺んとこに、戻って来―い!!!!!!」すると、デガラシの身体がだんだん光を帯びてきた。

「よっしゃ! うまくいきそうや!! そんじゃ……ああ、田中君はもっと告白続けてな」
 そう言いながらノルマンディは持ってたバックの中を漁り、何かを取り出した。そしてデガラシに愛を告白しまくっている俺の脇に来て、デガラシにその何かを持たせた。

「さあどうや!? 年代モンやし、使えるかは分からんが……久しぶりにマジノ・リベルテ揃い踏みや。奇跡よ……起きたれ!! マジカル・チューン!!」
 ノルマンディがそう言うと、デガラシの手に持たせたものが、ものすごい勢いで輝きだす。

 ああ、これって……ウサミミパクト!! 
 マジノ・リベルテの変身アイテムだ。姉ちゃんも持ってたな……。

 そして次の瞬間。デガラシの身体が俺の手を離れて宙に浮く。

「ノルマンディ。これってまさか本物……」
「ああ、そうや。ウサミミパクトは、魔法少女が体内に持つ魔力を増幅するアイテムや。三十越えの魔法使いを目指しとったダンケなら、まだ魔力結構残っとるんじゃないかと思っとったが……大当たりやわ。さあ、よっく眼をかっぽじっときなよ田中君。魔法少女の生着替え……じゃなくて生変身バンクや!」

 アニメの様にバックミュージックこそ流れないが、デガラシを包む光が最大限に達した所で、着衣が弾ける……あまりにお光様が強くて……クソ。めちゃくちゃ眩しいが、ぜってえ眼は閉じないぞと俺は歯を食いしばる。
 ああ、ほんとに下着もはじけて、見えた!! って、デガラシ……Vゾーンのムダ毛位は処理しとけよな。女子なんだから……

 だが、デガラシが言ってた通り下着はすぐに復元され、その上にマジノ・ダンケルクのピンクのフリフリ衣装が装着された。
 そして、ゆっくりと降りてくる。どうやら意識も戻って眼も開いてる様だ。

「全ての闇は、私が切り裂く!! マジノ・ダンケルク、見参!!」

 おおーーーーー決めゼリフ! やった……変身出来た。
 俺もノルマンディもビックリしたが、当の本人が一番驚いている。

「ああ……田中、あしがる……これって一体? 私……あの時の記憶が……」
「ああ、それは後でちゃんとお話したるから、とにかく今は、魔王の所に行こ! アルデが心配や。その変身がどんだけ持つかも分からんしな」そう言いながらノルマンディがダンケルクのケツをポンっと叩いた。
「って、なんや? この衣装、サイズは当時のままかい? ケツも胸も大きくなってて、はみだしそうやん」

「デガラシ……じゃないマジノ・ダンケルク。大丈夫か?」
 俺の問いに、ダンケルクがほほ笑みながら答える。
「ありがと田中。あなたの応援、心に染みたよ。だから……責任とってね」

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