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序章 迷宮脱出編

迎えに行く

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 続く先頭は、君島、志津、相馬の三人だ。

 外に出た先は人工的な石壁の通路になっていて、五人が並んでちょうどくらいの幅しかない。高さは五メートルほどだろうか。通気孔はあるようだが、四方が石造りで囲まれている上に窓もないので閉塞感がある。
 随所に壁掛けの燭台があって、それが唯一の灯りとなっていた。狭い分、光量はそれなりにあるようで、足元や行く先の見通しに不安感はない。

「ね、ね。急に倒れちゃったときは心配したけど、今は全然大丈夫な感じなの?」

 乃愛は先ほどからずっとこの調子で君島に構われていて困っていた。

「うん…今はそのときよりも、体調は良いくらい、かも」
「へー!それは良かった!なんでだろ?まぁ僕も絶好調なんだけどね!」
「…そう、みたいだね」
「だから任せてよ。バリアも期待してるけどさ!実際どうなるかわかんないし。一人より二人の方が安心でしょ?」
「…うん」

 なぜこんなに乗り気なのかはわからないが、どうやら君島は本当に乃愛のことを守ってくれるつもりでいるようだ。
 皆を守れるほどの防御ができるのかと言えば、乃愛だけだと正直なところ自信があるわけではないが、カバーが難しい部分は“彼”が何とかしてくれそうな気がしていた。あともう既に、頼りになる人もいた。

 チラッと横目ですぐ先の前方を見る。沙奈が先を行くフォルガーとこちらを気にしながら、歩調を合わせて先導してくれていた。どういう仕組みかよくわからないままだが、他の皆には沙奈は見えていないようだ。

 相馬が先頭に立って対応してくれたのを皮切りに、他の皆も徐々にスキルを活かせるようになってきて、うまく全体の連携が取れているように見える。そのためか、沙奈は見守る方にシフトしたようだった。
 フォルガー出現前の初動時に真っ先に反応していたことからみても、何かあっても対応できる用意があると思われた。

 今は乃愛を気にかけてくれているが、傍にいるのが君島だからだろう。君島にはステータスの一部に不明確な点があった。急に接触をしてくるようになったのは、もしかしたらあの時の乃愛の動揺を悟られていたのかもしれない等、どうしても何かを勘繰ってしまう。
 君島自身は他のクラスメイトの鑑定はできていそうにないので、比較対象がないことから、ステータスの中で何がおかしいのかまではまだ気づいていないはず。ただ実感として、気づきや違和感は持っているだろう。この底抜けの明るさはどこからきているのか、意図がわからないので、乃愛は逆に不気味さを感じていた。

「ん?フォルガーさん気になる?」
「気になる」
「相馬まじ?え、そうなの?」
「今は気になるわよ、色んな意味でね。それより、いい加減にその口を閉じなさいよ。志津さんも困っちゃってるじゃない」
「えー?そんなことないよね?僕はもっと話したいなぁ」
「あ、あの…だいじょうぶ、だけど、前、ちゃんと見ないと、危ないよ」
「あれ、心配かけちゃった?優しーなー、もう!絶対守ってあげるからねー!前はきちんと見て歩きます!」
「君島は、どうしちゃったの?どこかで頭でも打った?」

 ハイテンションな君島には相馬も若干引き気味だ。
 君島はシャドーボクシングのジェスチャーをしていたかと思うと、良い笑顔で軽く敬礼ポーズを取ってから前を見た。少しお喋りは控えられたが、その顔はずっとニコニコしている。

 沙奈が君島に近づいて、不思議そうにその顔色を伺っている。
 見えてはいないのだろうが、あまりにも近すぎる距離間に、関係ないところで思わずハラハラしてしまう乃愛。
 相馬は呆れ顔だが、切り替えて念話を始めた。

(あー、そういえば、ここって地上なの?階段は見当たらないみたいだけど)
(ん?まだ地下っぽいよ。やっとこのフロア全体が見えてきたんだけど、一番奥に階段があった)
(はぁ…そう、まだあるんだ。ちなみに、この階の規模感は?)
(んーそうだなぁ。全体が円のようになってて、直径…1kmくらい、かな?あの神殿ぽいところも含めてだけど、馬鹿みたいに広いよね。あちこちに部屋もありそうだし)
(ここのやつら、地底人とかじゃないだろうな…)
(いやいや…まさか…。だってあの場所、陽の光が差し込んでたじゃん?そんな深くはないはず、だよね?)
(さぁ…魔法とかある世界だしな…俺らの常識内だといいよな)
(そんなこと言うなよぉ)
(お、何か引っかかった。複数がこっちに近づいてきてる。これが言ってた仲間か?)
(うん、そうかも?マップの点もちょっとずつ動いてる)
(ただ真っ直ぐ歩いてただけだよな…どこにも分岐なんてなかったし…)
(そうだねぇ。正確に言うと、ちょっと曲がってたよ)
(…バリア、前の方に張ったよ。進行に合わせて動いてる。透明だから、すぐ傍まで来ないと、気づかれないと思う。でも強度は、その…どこまで保つかわからない。ごめんね)
(え、はやっ全然わかんないけどあるだよね?充分だよーありがとー!)
(いつまで効果続きそう?)
(…たぶん、いつまでも)
(すげー!実質無敵じゃんそれ)
(強度はわからんって言ってるだろ。当てにしすぎてないで自分でやれることやれ)
(へーい。つっても俺、攻撃系ばっかなんだよな。威力考えると…殺傷力が高そうで。ここが地球じゃなくても、そこまではちょっとなぁ。最悪はやるしかないけど)
(逆もいたけど、攻撃系中心なのはだいたい他もそうじゃね?)
(あぁ…埴生な。お前加減出来ねぇんなら絶対引っ込んでろよ)

 乃愛が使ったスキルは〈結界けっかい〉だ。
 まだ自分の意思だけで発動させたことがなかったので、対面してしまう前に使ってみたのだ。前方全面に張ったが、傍目からの光景は何も変わらない。発動した乃愛本人だけが分かるようになっている。
 更に都合が良い事に、条件付けで自由に防御型を作れるようだった。進行方向に合わせて追随するのはもちろんのこと、攻撃でなければすり抜けることもできるし、中で対象外が攻撃すると本人諸共結界外へ弾き飛ばせるようにもした。効果は間違いないはずだが、どの程度の威力まで持ち堪えられるかは、実際に受けてみないとわからない。
 持続効果はおそらく半永久。〈吸収きゅうしゅう〉という才能が、辺りに漂う魔素まそというものを自然と取り込んで、それを魔力の代替にしてしまうようだ。自身の魔力は発動時と自分にかける場合のみに使う。

 それまで順調に歩みを進めていたフォルガーが、急に立ち止まった。振り返ったその顔は焦りを滲ませていて、スタスタとこちらに近づいてきた。

「悪い。向こうで何かあったみたいだ。こちらに向かって来ているようだが、まず事情を説明しておかないと、今の状態でいきなり鉢合わせれば危ういかもしれない。君達はここにいてくれ。先に行って様子を見てくる」

 一方的にそう告げると、フォルガーは走り去って行ってしまった。



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