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8章 尊重しあえるからこそ
第5話 オールグリーン
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聡美と畑中さんの悶着があってから約2週間。煮物屋さんはいつもの通り18時に開店し、19時ごろには席も埋まりつつある。
聡美が顔を出したのは、夕飯の時間帯が過ぎつつある21時ごろだった。
「あ、いらっしゃい」
「こんばんは~。今日は渡したいと言うか、返したいものがあってね」
聡美は空いていた真ん中あたりの席に掛けて、佳鳴からおしぼりを受け取りながら「お酒でお願いね。ビールで」と注文をする。
「かしこまりました」
他のお客さま相手と同じように、しかし少しおどけた調子で返事をすると、聡美は「へへ」と目を細める。
今日のメインの煮物は、牛肉と切り干し大根の塩煮。彩りはさっと塩茹でした水菜だ。
小鉢はほうれん草とちくわの白和え、蒸しなすの明太子和えである。
栓を開けた瓶ビールとグラス、続けて料理を受け取った聡美は「いただきます」と手を合わせて、まずは手酌で注いだビールをぐいとあおった。
「あ~、仕事後のビール美味しい! 止められないよねぇ~」
そう言いながら2杯目を注ぐ。そして「あ」と声を上げた。
「忘れないうちに返しとくね」
聡美はカウンタの下の棚に置いたバッグから白い封筒を取り出し、立ち上がって佳鳴に差し出した。
「この度は本当にご迷惑をお掛けしました」
そう言って頭を下げる。佳鳴は訳が分からず「ん?」と首を傾げた。
「なぁに? これ」
「いただいたご祝儀。皆さんにお返ししてるの」
佳鳴は驚いて、とっさに「いやいや」と首を振った。
「挙式と披露宴はしたんだから物入りでしょう? 少しでも足しにしてよ。え、ってことはあれからご破談になったの?」
「その話も聞いて欲しくて来たの。ともあれこれはお願いだから受け取って。ここ最近、こうしてお祝いいただいた人にお詫びして返して回ってるの。ほとんどの人がやっぱりいらないって言ってくれるんだけど、こっちもいただく訳にはいかないからほぼ押し付けちゃってる。だからお願い! 本当にお願い!」
そこまで言われ、佳鳴はためらいながら「じゃ、じゃあとりあえず。ありがとう」と封筒を受け取った。中身は確認せず、そのままエプロンのポケットに入れる。
「良かったぁ。佳鳴で最後だったの」
聡美は心底安心した様に言うと、ほぅと息を吐いて腰を下ろし、2杯目のビールをまた一気に飲み干した。
「他の人たちのところには隆史さんも一緒だったんだけどね、今日は遠慮してもらった。その方が佳鳴と話がしやすいからね~」
「あはは。私で良かったらなんでも話してよ。あれからどうなったのか聞いても?」
「うん、あのね」
聡美は箸を動かしながら、話を始める。
煮物屋さんを出た畑中さんは聡美と別れて家に帰った後、母親の表情などを注意して見てみたのだと言う。そうして母親とほとんど目が合わなかったこと、声をほとんど聞かなかったこと、そして能面の様な無表情に気付いたのだった。
これからのことを話すためにカフェで待ち合わせをした時に、畑中さんはショックを受けた様にそう話したそうだ。
「確かに母さんはちっとも幸せそうに見えなかった。父さんが養ってるからそれで充分なんだと思ってたけど、違ったんだな」
そこでお祝いをしてくれた方々へのお詫びと祝儀の返還を決め、お伺いする日程や遠方の人への手紙の内容なども決めて、その場は終わった。
そして訪問が始まった数日後、畑中さんは明らかに消沈して現れた。
「母さんが離婚届を置いて出て行った」
リビングのテーブルに置かれていた無記名の離婚届と置き手紙。手紙にはこう記されていた。
あなたが平日仕事で家にいなかったから我慢出来ていましたが、定年退職してずっと家にいるのかと思うと耐えられません。私は無料の家政婦ではありません。あなたに卑下されるいわれもありません。あなたの結婚生活は不幸でしかありませんでした。
そうして母親が雇った弁護士と介してしかやりとりが出来なくなったのだ。母親は父親の意思で携帯電話やスマートフォンを持たせてもらえなかったので、居場所が判らなければ連絡の取りようも無いのだった。母方の祖父母はすでに鬼籍で母親はひとりっ子だったので実家も無かった。
自分が正しいと疑わない父親は怒り狂い、弁護士に電話越しに怒号を浴びせたが、聡美とのことがあった畑中さんは「そうか」と静かに受け入れた。父親が激昂すればするほど、冷静になれたのだそうだ。
そして自分も父親の考えに染まったまま聡美と結婚していたら、聡美を不幸にし、遅かれ早かれ自分も三行半を突き付けられたのだろうなとしみじみ感じた。
「俺も家を出るよ。自分のことは自分でやって、家事もやって、その大変さとかを実感したい。子育ては無理だけど。それに父さんと離れた方が良いと思う」
畑中さんはやはり聡美のことを諦められないのだと言う。なら父親に刷り込まれたと言っても良いその意識を変えなければならない。養うだけでは無い、本当の意味で妻と、家族と幸せになれる方法を知らなければならない。
「正直、小さなころから思い込まされてたことだからね、どこまで変えられるか判らないけど、自分がそうなんだって知ってるのと知らないのとじゃ、奥さんとの接し方も変わって来ると思うし。だから少し待ってみようかなって。情は無くなったかなぁって思ったけど、別れたく無いって言われたら絆されちゃって。甘いかなぁ」
「ううん。縁を繋ぐかどうかはやっぱり本人の心次第だもん。聡美がそれを選らんだったら、今の時点では間違いじゃ無いと思うよ。聡美、結婚焦ってるって言ってたけど、昔と違って今は適齢期みたいなのも上がってるし、そんな気にすること無いよ。子どもは若いうちに産んだ方が楽だって言うけど、一緒になった人とちゃんとした家庭を築けないと意味無いと思うしね。って、相手もいない私が言うことじゃ無いか」
「ううん、それ本当にそう思う。ただ結婚して子どもを産むだけじゃ幸せになれないって。そりゃあそうだよね、相手あってのものだもんね。一緒になる人とその辺の価値観が大きく違ったらしんどいよね。私は今のところ、隆史さんが言ってた男尊女卑めいたのに全く賛同出来ないんだけど、これからの隆史さんを見て、私が合わせて行かなきゃならないところもあるだろうし。あ、先々一緒になるんだったら、だけどね」
「そうだね。畑中さんだって、良いところもあるんでしょう?」
「どうだったかなぁ~」
ここで聡美は首を傾げてしまう。
「ほら、プロポーズ前の付き合ってるだけの時の接し方がどこまで素だったのかが今となっては判らないからねぇ。言ったでしょ、プロポーズ受けてから素が出てきたぽいって」
聡美は苦笑交じりに言って、蒸しなすの明太子和えを平らる。「美味しかった!」と一旦箸を置き、2本目に差し掛かったビールを傾ける。
「ん~、もしかしたらなんだけど、結婚が決まって、もう奥さんとして接しても良いって思っちゃったのかも知れないよ。まだお付き合いしてる段階だったらだめだけど、結婚するんだから構わないか、みたいな」
「なるほどねぇ、そう言う見方もあるか。まぁ付き合ってる時も強引なところはあったから、片鱗みたいなのは出てたかも知れないけどね。それも今だから思えることで、その時は男らしいとか思ってだんだよこれが。のぼせちゃってたんだなぁ」
聡美はそう言って、また苦笑い。
「本当に佳鳴には感謝だよ」
「ん? 私なんかしたっけ?」
「ほら、「尊重し合えなきゃ続かない」が無かったら、違和感感じたまま婚姻届出してたかも知れなかったからね。援護射撃してくれたあのお客さんたちにもお礼言いたい。私の話だけじゃ多分聞いてもらえなかったと思うんだよね。あの人たちが言ってくれたから、隆史さん、意識を変えようとしたと思う」
「確かに第三者の意見だもんね。身内の話だとないがしろにしがちでも、別方向からの話だったら聞けたりもするだろうし。あのお客さまたちには私から言っておくよ。聡美、いつ会えるか判らないでしょ」
「そうだね。私はそう頻繁に来れる訳じゃ無いからなぁ。その時にこれお渡ししてくれる? お礼」
聡美はバッグと一緒に置いておいた紙袋から、掌に乗るサイズの小振りな青い箱を3個取り出した。
「サブレなの。これぐらいならお気を使われることも無いと思って。あ、味は美味しいよ。ひとつは佳鳴と千隼くんで食べてね」
「私たちにまで? そんな気を使ってくれなくても」
「大丈夫。他の人にはもっと大きな手土産持ってってるから」
聡美は笑って言って、箱をカウンタの上の台に並べた。
「ん、じゃあありがたく。ふたつは預かるね」
「賞味期限も長いの選んでるから、間に合う様に渡してもらえると思う。よろしくね。さぁて、こうして婚期も無事延びちゃったから、佳鳴もまた遊んで。月曜日が休みだったよね。有給取るから昼飲みしようよ。奈江にも声掛けてみよっと。夕実はまだ難しいかな」
「良いね。楽しみにしてる」
佳鳴が応えると、聡美は晴れ晴れとした顔で笑った。
聡美は友だちなのだから、幸せになって欲しいと思う。聡美自身が早く結婚したくて焦ってしまったと言うが、結婚は幸せになるための手段のひとつなのだから、あながち間違いでは無いのだろう。
しかし結婚しただけでは幸せになれる訳では無い。人と人との関わりなのだから、尊重し合って、労わり合わなければ成立するものでは無いのだ。
畑中さんがこれからどう意識を変えて行くのか、変わって行くのか、それは聡美を幸せにするものなのかは、聡美と畑中さんが決めることだ。
佳鳴は聡美の友だちとして、朗報を心から願う。
聡美が顔を出したのは、夕飯の時間帯が過ぎつつある21時ごろだった。
「あ、いらっしゃい」
「こんばんは~。今日は渡したいと言うか、返したいものがあってね」
聡美は空いていた真ん中あたりの席に掛けて、佳鳴からおしぼりを受け取りながら「お酒でお願いね。ビールで」と注文をする。
「かしこまりました」
他のお客さま相手と同じように、しかし少しおどけた調子で返事をすると、聡美は「へへ」と目を細める。
今日のメインの煮物は、牛肉と切り干し大根の塩煮。彩りはさっと塩茹でした水菜だ。
小鉢はほうれん草とちくわの白和え、蒸しなすの明太子和えである。
栓を開けた瓶ビールとグラス、続けて料理を受け取った聡美は「いただきます」と手を合わせて、まずは手酌で注いだビールをぐいとあおった。
「あ~、仕事後のビール美味しい! 止められないよねぇ~」
そう言いながら2杯目を注ぐ。そして「あ」と声を上げた。
「忘れないうちに返しとくね」
聡美はカウンタの下の棚に置いたバッグから白い封筒を取り出し、立ち上がって佳鳴に差し出した。
「この度は本当にご迷惑をお掛けしました」
そう言って頭を下げる。佳鳴は訳が分からず「ん?」と首を傾げた。
「なぁに? これ」
「いただいたご祝儀。皆さんにお返ししてるの」
佳鳴は驚いて、とっさに「いやいや」と首を振った。
「挙式と披露宴はしたんだから物入りでしょう? 少しでも足しにしてよ。え、ってことはあれからご破談になったの?」
「その話も聞いて欲しくて来たの。ともあれこれはお願いだから受け取って。ここ最近、こうしてお祝いいただいた人にお詫びして返して回ってるの。ほとんどの人がやっぱりいらないって言ってくれるんだけど、こっちもいただく訳にはいかないからほぼ押し付けちゃってる。だからお願い! 本当にお願い!」
そこまで言われ、佳鳴はためらいながら「じゃ、じゃあとりあえず。ありがとう」と封筒を受け取った。中身は確認せず、そのままエプロンのポケットに入れる。
「良かったぁ。佳鳴で最後だったの」
聡美は心底安心した様に言うと、ほぅと息を吐いて腰を下ろし、2杯目のビールをまた一気に飲み干した。
「他の人たちのところには隆史さんも一緒だったんだけどね、今日は遠慮してもらった。その方が佳鳴と話がしやすいからね~」
「あはは。私で良かったらなんでも話してよ。あれからどうなったのか聞いても?」
「うん、あのね」
聡美は箸を動かしながら、話を始める。
煮物屋さんを出た畑中さんは聡美と別れて家に帰った後、母親の表情などを注意して見てみたのだと言う。そうして母親とほとんど目が合わなかったこと、声をほとんど聞かなかったこと、そして能面の様な無表情に気付いたのだった。
これからのことを話すためにカフェで待ち合わせをした時に、畑中さんはショックを受けた様にそう話したそうだ。
「確かに母さんはちっとも幸せそうに見えなかった。父さんが養ってるからそれで充分なんだと思ってたけど、違ったんだな」
そこでお祝いをしてくれた方々へのお詫びと祝儀の返還を決め、お伺いする日程や遠方の人への手紙の内容なども決めて、その場は終わった。
そして訪問が始まった数日後、畑中さんは明らかに消沈して現れた。
「母さんが離婚届を置いて出て行った」
リビングのテーブルに置かれていた無記名の離婚届と置き手紙。手紙にはこう記されていた。
あなたが平日仕事で家にいなかったから我慢出来ていましたが、定年退職してずっと家にいるのかと思うと耐えられません。私は無料の家政婦ではありません。あなたに卑下されるいわれもありません。あなたの結婚生活は不幸でしかありませんでした。
そうして母親が雇った弁護士と介してしかやりとりが出来なくなったのだ。母親は父親の意思で携帯電話やスマートフォンを持たせてもらえなかったので、居場所が判らなければ連絡の取りようも無いのだった。母方の祖父母はすでに鬼籍で母親はひとりっ子だったので実家も無かった。
自分が正しいと疑わない父親は怒り狂い、弁護士に電話越しに怒号を浴びせたが、聡美とのことがあった畑中さんは「そうか」と静かに受け入れた。父親が激昂すればするほど、冷静になれたのだそうだ。
そして自分も父親の考えに染まったまま聡美と結婚していたら、聡美を不幸にし、遅かれ早かれ自分も三行半を突き付けられたのだろうなとしみじみ感じた。
「俺も家を出るよ。自分のことは自分でやって、家事もやって、その大変さとかを実感したい。子育ては無理だけど。それに父さんと離れた方が良いと思う」
畑中さんはやはり聡美のことを諦められないのだと言う。なら父親に刷り込まれたと言っても良いその意識を変えなければならない。養うだけでは無い、本当の意味で妻と、家族と幸せになれる方法を知らなければならない。
「正直、小さなころから思い込まされてたことだからね、どこまで変えられるか判らないけど、自分がそうなんだって知ってるのと知らないのとじゃ、奥さんとの接し方も変わって来ると思うし。だから少し待ってみようかなって。情は無くなったかなぁって思ったけど、別れたく無いって言われたら絆されちゃって。甘いかなぁ」
「ううん。縁を繋ぐかどうかはやっぱり本人の心次第だもん。聡美がそれを選らんだったら、今の時点では間違いじゃ無いと思うよ。聡美、結婚焦ってるって言ってたけど、昔と違って今は適齢期みたいなのも上がってるし、そんな気にすること無いよ。子どもは若いうちに産んだ方が楽だって言うけど、一緒になった人とちゃんとした家庭を築けないと意味無いと思うしね。って、相手もいない私が言うことじゃ無いか」
「ううん、それ本当にそう思う。ただ結婚して子どもを産むだけじゃ幸せになれないって。そりゃあそうだよね、相手あってのものだもんね。一緒になる人とその辺の価値観が大きく違ったらしんどいよね。私は今のところ、隆史さんが言ってた男尊女卑めいたのに全く賛同出来ないんだけど、これからの隆史さんを見て、私が合わせて行かなきゃならないところもあるだろうし。あ、先々一緒になるんだったら、だけどね」
「そうだね。畑中さんだって、良いところもあるんでしょう?」
「どうだったかなぁ~」
ここで聡美は首を傾げてしまう。
「ほら、プロポーズ前の付き合ってるだけの時の接し方がどこまで素だったのかが今となっては判らないからねぇ。言ったでしょ、プロポーズ受けてから素が出てきたぽいって」
聡美は苦笑交じりに言って、蒸しなすの明太子和えを平らる。「美味しかった!」と一旦箸を置き、2本目に差し掛かったビールを傾ける。
「ん~、もしかしたらなんだけど、結婚が決まって、もう奥さんとして接しても良いって思っちゃったのかも知れないよ。まだお付き合いしてる段階だったらだめだけど、結婚するんだから構わないか、みたいな」
「なるほどねぇ、そう言う見方もあるか。まぁ付き合ってる時も強引なところはあったから、片鱗みたいなのは出てたかも知れないけどね。それも今だから思えることで、その時は男らしいとか思ってだんだよこれが。のぼせちゃってたんだなぁ」
聡美はそう言って、また苦笑い。
「本当に佳鳴には感謝だよ」
「ん? 私なんかしたっけ?」
「ほら、「尊重し合えなきゃ続かない」が無かったら、違和感感じたまま婚姻届出してたかも知れなかったからね。援護射撃してくれたあのお客さんたちにもお礼言いたい。私の話だけじゃ多分聞いてもらえなかったと思うんだよね。あの人たちが言ってくれたから、隆史さん、意識を変えようとしたと思う」
「確かに第三者の意見だもんね。身内の話だとないがしろにしがちでも、別方向からの話だったら聞けたりもするだろうし。あのお客さまたちには私から言っておくよ。聡美、いつ会えるか判らないでしょ」
「そうだね。私はそう頻繁に来れる訳じゃ無いからなぁ。その時にこれお渡ししてくれる? お礼」
聡美はバッグと一緒に置いておいた紙袋から、掌に乗るサイズの小振りな青い箱を3個取り出した。
「サブレなの。これぐらいならお気を使われることも無いと思って。あ、味は美味しいよ。ひとつは佳鳴と千隼くんで食べてね」
「私たちにまで? そんな気を使ってくれなくても」
「大丈夫。他の人にはもっと大きな手土産持ってってるから」
聡美は笑って言って、箱をカウンタの上の台に並べた。
「ん、じゃあありがたく。ふたつは預かるね」
「賞味期限も長いの選んでるから、間に合う様に渡してもらえると思う。よろしくね。さぁて、こうして婚期も無事延びちゃったから、佳鳴もまた遊んで。月曜日が休みだったよね。有給取るから昼飲みしようよ。奈江にも声掛けてみよっと。夕実はまだ難しいかな」
「良いね。楽しみにしてる」
佳鳴が応えると、聡美は晴れ晴れとした顔で笑った。
聡美は友だちなのだから、幸せになって欲しいと思う。聡美自身が早く結婚したくて焦ってしまったと言うが、結婚は幸せになるための手段のひとつなのだから、あながち間違いでは無いのだろう。
しかし結婚しただけでは幸せになれる訳では無い。人と人との関わりなのだから、尊重し合って、労わり合わなければ成立するものでは無いのだ。
畑中さんがこれからどう意識を変えて行くのか、変わって行くのか、それは聡美を幸せにするものなのかは、聡美と畑中さんが決めることだ。
佳鳴は聡美の友だちとして、朗報を心から願う。
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