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1章 きっとここからが、始まり
第14話 新たな発展
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豆腐小僧はお豆腐を上手に作るという目標を達した時、いの一番にお父さんに見て欲しい、食べて欲しいと思って、当時のお父さんのマンションを訪ねた。だが既にそこには別人が住んでいた。
お父さんの居場所が分からず困り果てた豆腐小僧は、大国町という手掛かりだけを頼りに、亜沙と出会ったえべっさんを始め、地元の人が行くであろう神社やお寺を巡っていたそうなのだ。
「そんで、ぼくはえべっさまで娘さんを見付けたんです。娘さんからは、雅也さんと同じ匂いがしました。せやので親子やと思ったのです」
それは正しかったわけだが、知らない男の子にいきなり声を掛けられて名前を出されるのは気味の悪いことだった。それを告げると。
「ああ、それはほんまにごめんなさい。ぼく、他に聞き方が分からんで」
豆腐小僧は焦って、本当に申し訳無さそうに謝ってくれた。
「もうええよ。ほんまにお父さんの知り合いやったんやね」
「はい。大恩人さまです。ですのでご恩返しをしに来ました」
「そんなん気にせんでええのになぁ」
お父さんが笑顔のままで言うと、豆腐小僧は「いえ!」と首を振る。
「ぼくがお豆腐を綺麗に作れる様になったんは、雅也さんのお陰です。ですので、何でもしたいです!」
豆腐小僧はやる気満々である。これは、恩返しなど不要と言おうものなら、がっかりさせてしまうだろう。小さな子どものそんな姿は見たく無い。それなら。
「なぁ、お父さん、それやったらさ、うち、っちゅうか「とりかい」で使うお豆腐、この豆腐小僧くんに作ってもろたらどう? ほんでさ、お豆腐料理増やすとかどない?」
亜沙が言うと、お父さんは「あー、なるほどなぁ」と目を丸くする。お母さんには豆腐小僧の声は届いていないが、亜沙とお父さんのせりふでおおよその想像はできるのか、頷きつつ口を挟まずにいてくれる。
「でも、そんなぎょうさん作れるもんなんか?」
「はい! ぼく、材料の大豆と綺麗なお水があれば、たくさんお豆腐作れます!」
豆腐小僧は自信たっぷりに意気込む。本人が言うのであればそうなのだろう。
「どう? お父さん。ええんちゃう? この子のお豆腐美味しかったやん。そうや、確か今までお通しって無かったやんねぇ。お豆腐のお料理頼んでもらうのに、味見で一口分ぐらい、お通しで出さへん? もちろん無料で」
基本はチャージ料をいただいてお通しを出す流れだ。だがここは大阪。多くの人が「何で頼んでも無いもんに金出さなあかんねん」なのである。
特に「とりかい」はこれまでチャージ料はもらっていなかった。そこでいきなり、例え百円であろうと一円であろうと発生するのは嫌がられるだろうし、無料となればむしろ喜ばれる。タダほど怖いものは無い、は大阪人には通用しないのである。もちろんものにもよるが。
「そうやな。とりあえずやってみよか。うちは個人店やから、どうにでも融通効くもんな。豆腐小僧、どこの大豆がええとかあるか?」
「もちろん大阪産です! ぼくは大阪の豆腐小僧ですから!」
国産大豆の生産量一位は、多くの人がご存知の通り北海道で、全体の半分ほどを占める。そして宮城県、秋田県と続く。
そして6位に関西の滋賀県が入るのである。大阪府も確かに大豆を生産しているのだが、その作付け面積はわずかである。その大豆で作られるお豆腐はきっと幻レベルで、原料の大豆であっても「とりかい」にまとまった量を入れることは難しいだろう。
「うーん、他の産地の大豆やったらあかん? 関西やったら滋賀県産とか」
「大阪産ではあかんのですか?」
亜沙が言うと、豆腐小僧が首を傾げる。するとお父さんが「量がなぁ」と困った様に小さく息を吐いた。
「大阪産は希少やねん。せやから豆腐小僧が自分で作る分なら、好きなとこの大豆使こて欲しいんやけど、お店の分は譲歩してくれへんやろか。関西やったら兵庫もあるけど、やっぱり滋賀県産やったら安定して入荷できると思うんや」
「そうですか……」
豆腐小僧は目に見えてがっかりしてしまう。大阪の豆腐小僧だから、大阪産の大豆でお豆腐を作ることが矜持なのだろう。だが大阪産だけだときっと「とりかい」で使う全てをカバーし切れないだろう。希少ということは、出荷先はほぼ決められているだろうし。
「残念やけど、分かってくれへんか。難しい様やったら、まぁ「とりかい」に豆腐メニューを増やすことも難しなると思う。こればっかりは僕らにはどうにもできんのや。済まんなぁ」
お父さんが申し訳無さげに言うと、豆腐小僧ははっとした様な表情で「いえいえ!」と慌てる。
「とんでもないです。ぼくが無茶を言うてしもたばかりに。ごめんなさい。滋賀県産で大丈夫です。大阪のんに負けんぐらい、ええ大豆なんですよね?」
豆腐小僧がこう言ってくれて、亜沙とお父さんは顔を見合わせて頷く。亜沙もだが、お父さんも安心したのだろう。
「それはもちろんや。滋賀県産だけや無く、北海道産かて他のところかて、大豆農家さんが大事に大事に育ててくれてはる。どこの大豆も美味しいで。でもやっぱり育て方とかは農家さんによってちゃうから、できるだけええやつ入荷できる様にしたいわ。ええやんな? お父さん」
「それはな。大豆もピンキリやからな。「とりかい」の価格設定に見合ったもんを入荷できる様にしよ。水もな」
「ありがとうございます!」
豆腐小僧が満面の笑みを浮かべた。これからいくつかの大豆を取り寄せて、豆腐小僧にも見てもらって、納得してもらえる大豆を見付けたい。絶対にあるはずだ。もし滋賀県産で納得してもらえなければ、別の産地のものを試すだけである。
お父さんの居場所が分からず困り果てた豆腐小僧は、大国町という手掛かりだけを頼りに、亜沙と出会ったえべっさんを始め、地元の人が行くであろう神社やお寺を巡っていたそうなのだ。
「そんで、ぼくはえべっさまで娘さんを見付けたんです。娘さんからは、雅也さんと同じ匂いがしました。せやので親子やと思ったのです」
それは正しかったわけだが、知らない男の子にいきなり声を掛けられて名前を出されるのは気味の悪いことだった。それを告げると。
「ああ、それはほんまにごめんなさい。ぼく、他に聞き方が分からんで」
豆腐小僧は焦って、本当に申し訳無さそうに謝ってくれた。
「もうええよ。ほんまにお父さんの知り合いやったんやね」
「はい。大恩人さまです。ですのでご恩返しをしに来ました」
「そんなん気にせんでええのになぁ」
お父さんが笑顔のままで言うと、豆腐小僧は「いえ!」と首を振る。
「ぼくがお豆腐を綺麗に作れる様になったんは、雅也さんのお陰です。ですので、何でもしたいです!」
豆腐小僧はやる気満々である。これは、恩返しなど不要と言おうものなら、がっかりさせてしまうだろう。小さな子どものそんな姿は見たく無い。それなら。
「なぁ、お父さん、それやったらさ、うち、っちゅうか「とりかい」で使うお豆腐、この豆腐小僧くんに作ってもろたらどう? ほんでさ、お豆腐料理増やすとかどない?」
亜沙が言うと、お父さんは「あー、なるほどなぁ」と目を丸くする。お母さんには豆腐小僧の声は届いていないが、亜沙とお父さんのせりふでおおよその想像はできるのか、頷きつつ口を挟まずにいてくれる。
「でも、そんなぎょうさん作れるもんなんか?」
「はい! ぼく、材料の大豆と綺麗なお水があれば、たくさんお豆腐作れます!」
豆腐小僧は自信たっぷりに意気込む。本人が言うのであればそうなのだろう。
「どう? お父さん。ええんちゃう? この子のお豆腐美味しかったやん。そうや、確か今までお通しって無かったやんねぇ。お豆腐のお料理頼んでもらうのに、味見で一口分ぐらい、お通しで出さへん? もちろん無料で」
基本はチャージ料をいただいてお通しを出す流れだ。だがここは大阪。多くの人が「何で頼んでも無いもんに金出さなあかんねん」なのである。
特に「とりかい」はこれまでチャージ料はもらっていなかった。そこでいきなり、例え百円であろうと一円であろうと発生するのは嫌がられるだろうし、無料となればむしろ喜ばれる。タダほど怖いものは無い、は大阪人には通用しないのである。もちろんものにもよるが。
「そうやな。とりあえずやってみよか。うちは個人店やから、どうにでも融通効くもんな。豆腐小僧、どこの大豆がええとかあるか?」
「もちろん大阪産です! ぼくは大阪の豆腐小僧ですから!」
国産大豆の生産量一位は、多くの人がご存知の通り北海道で、全体の半分ほどを占める。そして宮城県、秋田県と続く。
そして6位に関西の滋賀県が入るのである。大阪府も確かに大豆を生産しているのだが、その作付け面積はわずかである。その大豆で作られるお豆腐はきっと幻レベルで、原料の大豆であっても「とりかい」にまとまった量を入れることは難しいだろう。
「うーん、他の産地の大豆やったらあかん? 関西やったら滋賀県産とか」
「大阪産ではあかんのですか?」
亜沙が言うと、豆腐小僧が首を傾げる。するとお父さんが「量がなぁ」と困った様に小さく息を吐いた。
「大阪産は希少やねん。せやから豆腐小僧が自分で作る分なら、好きなとこの大豆使こて欲しいんやけど、お店の分は譲歩してくれへんやろか。関西やったら兵庫もあるけど、やっぱり滋賀県産やったら安定して入荷できると思うんや」
「そうですか……」
豆腐小僧は目に見えてがっかりしてしまう。大阪の豆腐小僧だから、大阪産の大豆でお豆腐を作ることが矜持なのだろう。だが大阪産だけだときっと「とりかい」で使う全てをカバーし切れないだろう。希少ということは、出荷先はほぼ決められているだろうし。
「残念やけど、分かってくれへんか。難しい様やったら、まぁ「とりかい」に豆腐メニューを増やすことも難しなると思う。こればっかりは僕らにはどうにもできんのや。済まんなぁ」
お父さんが申し訳無さげに言うと、豆腐小僧ははっとした様な表情で「いえいえ!」と慌てる。
「とんでもないです。ぼくが無茶を言うてしもたばかりに。ごめんなさい。滋賀県産で大丈夫です。大阪のんに負けんぐらい、ええ大豆なんですよね?」
豆腐小僧がこう言ってくれて、亜沙とお父さんは顔を見合わせて頷く。亜沙もだが、お父さんも安心したのだろう。
「それはもちろんや。滋賀県産だけや無く、北海道産かて他のところかて、大豆農家さんが大事に大事に育ててくれてはる。どこの大豆も美味しいで。でもやっぱり育て方とかは農家さんによってちゃうから、できるだけええやつ入荷できる様にしたいわ。ええやんな? お父さん」
「それはな。大豆もピンキリやからな。「とりかい」の価格設定に見合ったもんを入荷できる様にしよ。水もな」
「ありがとうございます!」
豆腐小僧が満面の笑みを浮かべた。これからいくつかの大豆を取り寄せて、豆腐小僧にも見てもらって、納得してもらえる大豆を見付けたい。絶対にあるはずだ。もし滋賀県産で納得してもらえなければ、別の産地のものを試すだけである。
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