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#37 美味しいお味噌を作りましょう。その1
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さて、ようやく味噌作りに掛かる。茹でた大豆をザルで掬って水気を切りながら、大豆を水に浸けている時に使った大きなボウルに移す。
大豆を潰して行く。実家の蔵では機械でやるが、ここでは無いので手作業だ。
潰すのは手でも出来るが、今回はレードルを使う。腹を大豆に押し付けて行く。時折返しながら繰り返す。
「なるほどのう、味噌は大豆を潰して発酵させたものなのじゃな。まだまだ知らない事があるのう」
「じいちゃんてさ、こっちに来るまで本当に何もして来なかったのか? 家の事とか子育てとか」
「うむ……全てを家内に任せて来たのう。ろくに話も聞かんかったのう。儂の時代はそれが当たり前じゃったんじゃが……」
それが昨今の熟年離婚の原因になっている事は言うまいが。
「今の時代は、それじゃあしんどいかなぁ。じいちゃんの世代はそれで良かったんだろうけど、今は共働き夫婦も多いから。旦那さんと奥さん、同じぐらいの時間働いていて、家事も育児も奥さんに丸投げ。奥さんの負担は大きいだろ?」
「そうじゃな。それはそうじゃ」
茂造は眼を見開いてうんうんと頷く。
「前に母さんが言ってたんだけど、ほら、うち味噌蔵だろ? 母さんも店舗に出たり事務したり。でも共働きなのに家事やら押し付けられて、ぶち切れて父さんにビンタ張ったってさ。強いよなぁ母さん」
壱はその時の様子を想像し、小さく笑う。
「おお、それは凄い事をしたのう、三枝子よ」
娘の思ってもいなかったであろう一面に、茂造は驚いた表情を浮かべる。
「母さんがそう出来るんだから、あの夫婦は安泰だよ」
「今あっちでは、それが当たり前なのかの?」
「いや、専業主婦で、毎日家事に子育てにって頑張ってる女性もたくさんいるよ。夫婦ふたりが納得してたら良いんだと思う。俺は結婚した事無いから、良くは判らないけど」
彼女がいた事はあるが、それは今は余計な情報である。
さて、大豆が良い感じに潰れた。壱はレードルを木べらに持ち替えて、更に返して混ぜて行く。粒が残っていればまた潰す。
大分滑らかになって来た。そろそろ次の段階に移る。
「ここに塩と麹を入れるんだ」
分量の塩と麹を入れ、今度は満遍無く混ぜる為に、良く洗った手を使う。
やはり実家では機械を使う工程だが、ここでは手でやるしか無い。壱は全体に塩と麹が行き渡る様に、これでもかこれでもかと混ぜて行く。
「じいちゃん、木製の桶みたいなのあるかな。出来たら釘とか接着剤とか使わずに組んだ木桶があれば理想なんだけど」
「あるぞい。この村の木桶は全部そういう造りなんじゃ。ええと」
茂造は立ち上がり、棚に手を伸ばと幾つかの木桶を出して来た。
「どれが良いかの」
様々なサイズの木桶がテーブルに並べられる。
「これが全部入れば良いんだ。出来上がりで量が変わる訳じゃ無いから。ん、その右からふたつめで行こうか」
「よしよし」
茂造は選ばれなかった桶を棚に戻す。
「最近使ってなかったから、洗うかのう。サユリさんよ、乾かすのを手伝ってくれるかの?」
「良いカピよ」
茂造が木桶を洗い、サユリが時間魔法で乾かす速度を速める。
さぁ、大豆も混ぜ終わった。壱はそれを小分けにして、団子を作って行く。
「さーて、桶に入れるよ!」
壱は団子を持った右手を軽く振りかぶると、乾かしてもらったばかりの木桶に投げ付けた。
「おお! 大胆じゃのう」
「空気を抜く為にな。空気が入ったり触れたりしたら、黴の元になるから」
「なるほどのう」
ふたつ、3つと大豆団子を投げ付けて行く。全てが入った後は、上から押し込んで更に空気を抜く。
表面を平らにし、落とし布をする。大豆の表面に隙間無く貼り付け、空気の入る隙など無い様に。
「さて、問題は中蓋なんだけど」
壱は手を洗い、水分を拭きながら言った。
大豆を潰して行く。実家の蔵では機械でやるが、ここでは無いので手作業だ。
潰すのは手でも出来るが、今回はレードルを使う。腹を大豆に押し付けて行く。時折返しながら繰り返す。
「なるほどのう、味噌は大豆を潰して発酵させたものなのじゃな。まだまだ知らない事があるのう」
「じいちゃんてさ、こっちに来るまで本当に何もして来なかったのか? 家の事とか子育てとか」
「うむ……全てを家内に任せて来たのう。ろくに話も聞かんかったのう。儂の時代はそれが当たり前じゃったんじゃが……」
それが昨今の熟年離婚の原因になっている事は言うまいが。
「今の時代は、それじゃあしんどいかなぁ。じいちゃんの世代はそれで良かったんだろうけど、今は共働き夫婦も多いから。旦那さんと奥さん、同じぐらいの時間働いていて、家事も育児も奥さんに丸投げ。奥さんの負担は大きいだろ?」
「そうじゃな。それはそうじゃ」
茂造は眼を見開いてうんうんと頷く。
「前に母さんが言ってたんだけど、ほら、うち味噌蔵だろ? 母さんも店舗に出たり事務したり。でも共働きなのに家事やら押し付けられて、ぶち切れて父さんにビンタ張ったってさ。強いよなぁ母さん」
壱はその時の様子を想像し、小さく笑う。
「おお、それは凄い事をしたのう、三枝子よ」
娘の思ってもいなかったであろう一面に、茂造は驚いた表情を浮かべる。
「母さんがそう出来るんだから、あの夫婦は安泰だよ」
「今あっちでは、それが当たり前なのかの?」
「いや、専業主婦で、毎日家事に子育てにって頑張ってる女性もたくさんいるよ。夫婦ふたりが納得してたら良いんだと思う。俺は結婚した事無いから、良くは判らないけど」
彼女がいた事はあるが、それは今は余計な情報である。
さて、大豆が良い感じに潰れた。壱はレードルを木べらに持ち替えて、更に返して混ぜて行く。粒が残っていればまた潰す。
大分滑らかになって来た。そろそろ次の段階に移る。
「ここに塩と麹を入れるんだ」
分量の塩と麹を入れ、今度は満遍無く混ぜる為に、良く洗った手を使う。
やはり実家では機械を使う工程だが、ここでは手でやるしか無い。壱は全体に塩と麹が行き渡る様に、これでもかこれでもかと混ぜて行く。
「じいちゃん、木製の桶みたいなのあるかな。出来たら釘とか接着剤とか使わずに組んだ木桶があれば理想なんだけど」
「あるぞい。この村の木桶は全部そういう造りなんじゃ。ええと」
茂造は立ち上がり、棚に手を伸ばと幾つかの木桶を出して来た。
「どれが良いかの」
様々なサイズの木桶がテーブルに並べられる。
「これが全部入れば良いんだ。出来上がりで量が変わる訳じゃ無いから。ん、その右からふたつめで行こうか」
「よしよし」
茂造は選ばれなかった桶を棚に戻す。
「最近使ってなかったから、洗うかのう。サユリさんよ、乾かすのを手伝ってくれるかの?」
「良いカピよ」
茂造が木桶を洗い、サユリが時間魔法で乾かす速度を速める。
さぁ、大豆も混ぜ終わった。壱はそれを小分けにして、団子を作って行く。
「さーて、桶に入れるよ!」
壱は団子を持った右手を軽く振りかぶると、乾かしてもらったばかりの木桶に投げ付けた。
「おお! 大胆じゃのう」
「空気を抜く為にな。空気が入ったり触れたりしたら、黴の元になるから」
「なるほどのう」
ふたつ、3つと大豆団子を投げ付けて行く。全てが入った後は、上から押し込んで更に空気を抜く。
表面を平らにし、落とし布をする。大豆の表面に隙間無く貼り付け、空気の入る隙など無い様に。
「さて、問題は中蓋なんだけど」
壱は手を洗い、水分を拭きながら言った。
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