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#32 味噌までの道程は遠いのか
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朝8時。起床、洗顔、朝食。壱は茂造とサユリとともにそれらを済ませ、食堂の昼営業の仕込みに入る。
カリルとサントも時間通りに出勤して来た。
「おはようございまーっす!」
「おはようございます」
「はい、おはようさん。早速下拵えに掛かってくれるかの」
「はーい!」
カリルは元気に返事をし、サントは小さく頷く。
昼営業は、夜とメニューが違う。まずポトフが無い。だが昨日から仕掛けておいて出来たブイヨンを、コンソメにする作業がある。それが今夜のポトフになる。
パスタはあるが、味付けが違う。昼はペペロンチーノとパジルソース、カルボナーラの3種類。カルボナーラ以外にはその日によって様々な食材が入る。今日はペペロンチーノにはベーコンとマッシュルーム、バジルにはじゃがいもとサーモンが。
他には玉ねぎにじゃがいもとにんじん、ブロッコリ、カリフラワ、豆類、ベーコンなどが入った具沢山のミネストローネを出す。
スープはクラムチャウダーと1日ごとの日替わりである。
サントは早速パンを捏ね始め、昼のパスタ作りはカリルが。壱はすでに捌かれている肉や魚類を、茂造は野菜を切る。これはブイヨンからコンソメを作る分の材料も含む。
仕込みの途中でホール係の女の子たちが出勤して来て、ホールの掃除を始める。
「さぁて、そろそろ開店かの」
時計を見ると11時少し前だった。
「壱よ、昼のピークは1時ごろまでじゃ。儂らはそれから交代で昼飯を食べるでの。それまでは腹が減っても我慢してくれの」
「うん。大丈夫」
「よしよし」
茂造は満足げに頷く。茂造の中では、まだ壱は子どものイメージが少し残っている様だ。仕方が無い。過度に過保護などにされなければそれで良い。
そうしている内に、客が訪れた。
「あー腹減った! メリアンちゃん、今日のペペロンチーノの具は何? ベーコンとマッシュルーム? じゃあそれとパン。エールも飲みてぇけど、まだ仕事があるからなぁ!」
元気な客である。メリアンから正式なオーダーが入ると、壱はパスタを大鍋に入れる。フライパンにオリーブオイルとにんにくの薄切り、唐辛子を丸々入れて、火を点ける。
にんにくの良い香りが漂い、程よく色付いて来たら、ベーコンとマッシュルームを入れて、更に炒める。パスタの茹で汁を加え、煮詰めて行く。
塩胡椒で味を整えたら、茹で上がったパスタを入れて和える。
出来上がり。皿に盛り、パンと一緒に調理台に置くと、ホールに向かって声を張り上げた。
「ペペロンチーノ上がったよー!」
「は、はい!」
マユリが取りに来てくれる。手には開かれているオーダー帳。
「あ、あの、バジルのパスタ、ふたつと、カルボナーラ、ひとつ、パン3人分、注文、入りま、した」
「あ、バジル俺がやるよ。イチ、カルボナーラ頼むな!」
「おう」
マユリがオーダー帳をエプロンドレスのポケットに入れ、ペペロンチーノとパンを運んで行く。
壱はコンロに戻ると、大鍋にパスタを入れる。中にはカリルが入れたと思われる2人分が既に入れられていた。引き上げる時に間違えない様にしなくては。
次に調理台からボウルを取ると、卵を割り入れる。良く解し、擦り下ろしたハードタイプのチーズを入れて混ぜる。そこに既に火を通してあるベーコン、胡椒をたっぷり加える。
昼営業の時には、具材にはあらかじめ火を通しておく。昼はスピード勝負だからだ。比較的ゆっくり出来る夜とは違い、みんな急いで掻っ込んで仕事に戻って行く。
バジルのパスタに使うじゃがいとサーモンも、既に火が通っている。カリルはフライパンにバジルソースと具材を入れて、しっかり温まったところに茹でたパスタを入れた。
壱もカルボナーラの仕上げに移る。ソースが仕上がったボウルに茹で上がったパスタを入れ、良く和える。卵がダマにならない様に手早く。
皿に盛り、更に胡椒を降る。横ではパジルのパスタも完成していた。壱は3人分のパンを用意する。
「パスタとパン上がったぜー!」
「はーい!」
カリルが声を上げると、メリアンが元気な返事とともに姿を現した。
「あ、マーガレット手伝ってー ボクひとりじゃ全部は無理だー」
メリアンに続いて厨房に来たマーガレットに声を掛ける。
「はぁい。あ、オーダーよぉ。ミネストローネとぉ、バジルとぉ、パン2人前ねぇ」
「はいよっと!」
カリルがまたコンロに向かう。
「壱、ミネストローネとパン頼むな!」
「おう」
メリアンとマーガレットが料理を運んで行き、カリルが大鍋にパスタを入れる。茂造はボトフに掛かりきりで、サントは洗い物に精を出す。
壱は先にパンの用意をしながら、小さく息を吐いた。
俺、いつになったら味噌の試作が出来るんだろ。
そろそろ禁断症状が出そうだった。
カリルとサントも時間通りに出勤して来た。
「おはようございまーっす!」
「おはようございます」
「はい、おはようさん。早速下拵えに掛かってくれるかの」
「はーい!」
カリルは元気に返事をし、サントは小さく頷く。
昼営業は、夜とメニューが違う。まずポトフが無い。だが昨日から仕掛けておいて出来たブイヨンを、コンソメにする作業がある。それが今夜のポトフになる。
パスタはあるが、味付けが違う。昼はペペロンチーノとパジルソース、カルボナーラの3種類。カルボナーラ以外にはその日によって様々な食材が入る。今日はペペロンチーノにはベーコンとマッシュルーム、バジルにはじゃがいもとサーモンが。
他には玉ねぎにじゃがいもとにんじん、ブロッコリ、カリフラワ、豆類、ベーコンなどが入った具沢山のミネストローネを出す。
スープはクラムチャウダーと1日ごとの日替わりである。
サントは早速パンを捏ね始め、昼のパスタ作りはカリルが。壱はすでに捌かれている肉や魚類を、茂造は野菜を切る。これはブイヨンからコンソメを作る分の材料も含む。
仕込みの途中でホール係の女の子たちが出勤して来て、ホールの掃除を始める。
「さぁて、そろそろ開店かの」
時計を見ると11時少し前だった。
「壱よ、昼のピークは1時ごろまでじゃ。儂らはそれから交代で昼飯を食べるでの。それまでは腹が減っても我慢してくれの」
「うん。大丈夫」
「よしよし」
茂造は満足げに頷く。茂造の中では、まだ壱は子どものイメージが少し残っている様だ。仕方が無い。過度に過保護などにされなければそれで良い。
そうしている内に、客が訪れた。
「あー腹減った! メリアンちゃん、今日のペペロンチーノの具は何? ベーコンとマッシュルーム? じゃあそれとパン。エールも飲みてぇけど、まだ仕事があるからなぁ!」
元気な客である。メリアンから正式なオーダーが入ると、壱はパスタを大鍋に入れる。フライパンにオリーブオイルとにんにくの薄切り、唐辛子を丸々入れて、火を点ける。
にんにくの良い香りが漂い、程よく色付いて来たら、ベーコンとマッシュルームを入れて、更に炒める。パスタの茹で汁を加え、煮詰めて行く。
塩胡椒で味を整えたら、茹で上がったパスタを入れて和える。
出来上がり。皿に盛り、パンと一緒に調理台に置くと、ホールに向かって声を張り上げた。
「ペペロンチーノ上がったよー!」
「は、はい!」
マユリが取りに来てくれる。手には開かれているオーダー帳。
「あ、あの、バジルのパスタ、ふたつと、カルボナーラ、ひとつ、パン3人分、注文、入りま、した」
「あ、バジル俺がやるよ。イチ、カルボナーラ頼むな!」
「おう」
マユリがオーダー帳をエプロンドレスのポケットに入れ、ペペロンチーノとパンを運んで行く。
壱はコンロに戻ると、大鍋にパスタを入れる。中にはカリルが入れたと思われる2人分が既に入れられていた。引き上げる時に間違えない様にしなくては。
次に調理台からボウルを取ると、卵を割り入れる。良く解し、擦り下ろしたハードタイプのチーズを入れて混ぜる。そこに既に火を通してあるベーコン、胡椒をたっぷり加える。
昼営業の時には、具材にはあらかじめ火を通しておく。昼はスピード勝負だからだ。比較的ゆっくり出来る夜とは違い、みんな急いで掻っ込んで仕事に戻って行く。
バジルのパスタに使うじゃがいとサーモンも、既に火が通っている。カリルはフライパンにバジルソースと具材を入れて、しっかり温まったところに茹でたパスタを入れた。
壱もカルボナーラの仕上げに移る。ソースが仕上がったボウルに茹で上がったパスタを入れ、良く和える。卵がダマにならない様に手早く。
皿に盛り、更に胡椒を降る。横ではパジルのパスタも完成していた。壱は3人分のパンを用意する。
「パスタとパン上がったぜー!」
「はーい!」
カリルが声を上げると、メリアンが元気な返事とともに姿を現した。
「あ、マーガレット手伝ってー ボクひとりじゃ全部は無理だー」
メリアンに続いて厨房に来たマーガレットに声を掛ける。
「はぁい。あ、オーダーよぉ。ミネストローネとぉ、バジルとぉ、パン2人前ねぇ」
「はいよっと!」
カリルがまたコンロに向かう。
「壱、ミネストローネとパン頼むな!」
「おう」
メリアンとマーガレットが料理を運んで行き、カリルが大鍋にパスタを入れる。茂造はボトフに掛かりきりで、サントは洗い物に精を出す。
壱は先にパンの用意をしながら、小さく息を吐いた。
俺、いつになったら味噌の試作が出来るんだろ。
そろそろ禁断症状が出そうだった。
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