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#162 豚丼の朝ご飯

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 さて、一夜明けて朝である。

 今朝のメニューは決めてある。壱はまず鍋に水を張り、昆布を入れる。

 次に厨房へと降りる。

 冷蔵庫から豚肉、棚から玉ねぎとじゃがいもを出す。

 そしてはさみを片手に裏庭に出ると、昨夜植えた玉ねぎの苗を何本か切る。

 長めに残した根の部分はそのまま置いておく。そうしたらまたネギの様に伸びてくれるだろう。

 他の苗も植木鉢の中で、元気に青々と伸びている。

 後で水をらなければ。

 厨房に戻った壱は、材料を抱えて2階へ。まずは米を炊く為に、給水させた米の鍋を火に掛ける。まずは強火に。

 次にじゃがいもの皮を剥き、太めの短冊に切り、水に晒しておく。

 続けて玉ねぎを薄切りに。

 そうしている内に米の鍋が沸いたので、弱火に落とす。

 昆布の鍋を火に掛け、鰹節かつおぶしを削る。削り終える頃には沸いて来るので、昆布を取り出し、鰹節を入れる。

 沈むまでの間に、昆布を千切りにして。

 鰹節が沈んだので、出来た出汁を別の鍋に移し、火に掛けてじゃがいもを入れる。

 味噌だれを作っておく。ボウルに赤味噌、砂糖、水。とろりと柔らかめのクリーム状にさせて。

 玉ねぎの苗を小口切りに。小さなボウルに入れておく。

 さて、お次は豚肉だ。やや厚めの一口大にスライスして行く。

 時計を見ると、サユリたちが起きて来るまでまだ少し時間があった。先に玉ねぎを炒めてしまおう。

 おっとその前に、米が炊き上がったので、解してふたをしておく。

 洗えるものは洗ってしまって。

 フライパンにオリーブオイルを引き、玉ねぎを入れる。塩を少々して、飴色あめいろになるまで強火で手早く炒めて行く。

 出来たらトレイに移し、フライパンの表面の汚れをさっと水だけで洗って取っておく。

 さて、そろそろ起きて来る頃だろうか。壱は時計を見る。

 じゃがいもの鍋に味噌を溶いておこう。

 すると、サユリたちが起きて来た。

「おはようのう」

「おはようカピ」

「おはよう」

「今朝もありがとうのう。では儂は支度をしてくるでの」

 茂造は洗面所へ。サユリはテーブルの上に。

 壱は仕上げに入る。玉ねぎを炒めたフライパンにあらためてオリーブオイルを引き、温まったら塩胡椒で下味を付けた豚肉を入れる。

 表裏と返しがならしっかりと焼いたら、飴色の玉ねぎを戻し、ざっと混ぜて味噌だれを入れる。

 やや炒め煮にする様に。出汁殻だしがらの鰹節も入れる。

 適度に水分が残る程度に煮詰めて、火を止める。

 じゃがいもの鍋に千切り昆布を放り込んで。

 ボウル状の器に米を盛り、そこに豚肉と玉ねぎの炒め煮を乗せ、玉ねぎの苗の小口切りで彩りを添える。

 じゃがいもの汁物はスープボウルとサラダボウルに注ぎ、こちらにも玉ねぎの苗の小口切りを散らす。

 豚丼とじゃがいもの味噌汁の出来上がりである。

 既に茂造はテーブルに着いていた。その前に朝食をサーブする。

「今朝は豚丼だよ。豚はロースを使ってるから、そんなにしつこく無いと思う」

「それは美味しそうじゃのう。楽しみじゃのう」

 茂造は上がる湯気に鼻をひくつかせ、嬉しそうに言った。

「では、早速いただくとしようかの。いただきます」

「いただくカピ」

「はい、いただきます」

 まずは汁物を。さて、吸い口すいくち入りの味噌汁はどうだろうか。ネギでは無く、玉ねぎの苗なのだが。

 「……あーこれこれ! これが飲みたかった!」

 つい声に出てしまう。

 ネギと玉ねぎの苗は別物である。だが同じネギ属の食物だ。これが加わるだけで、風味が格段に上がる。

 吸い口は三ッ葉や茗荷みょうが貝割かいわれなどでもいける。だがやはり鉄板はネギなのだ。これはネギでは無いが。

 ネギ属独特の爽やかな風味が鼻を抜ける。口に含むと、ほのかな甘みとかすかな辛味。充分に目当ての役割を果たしてくれていた。

「成る程のう、これは儂も気付かんかったのう。10年もこの村にいたのにのう。玉ねぎの苗が、ネギ代わりになったんじゃのう」

 茂造が感心した様に息を吐く。

「俺もうっかりしてた。もっと早くに気付けたら良かったんだけど。でも見付けられて良かったよ。やっぱりあった方が良いよね。美味しいよね」

「うんうん、旨いのう」

 茂造は嬉しそうに頬を緩め、眼を細めた。

 出汁と具材を兼ね備えた昆布も良い塩梅あんばいである。佃煮つくだににする事が多いが、こういう使い方も良い。歯応えの良いそれを、しっかりとみ締めた。

 さて、次は豚丼である。しっとりとたれの染みた米に豚と飴色玉ねぎ、玉ねぎの苗を乗せ、口に運ぶ。

 うん、これは良い。鰹節の風味が出た甘辛いたれに、飴色玉ねぎと豚肉が持つ香ばしさと甘みがとても合っている。

 そして玉ねぎの苗が良いアクセントになっている。

 白米にとても合う。壱はついがっついてしまった。

 米が半分ほど減ったところで我に帰り、サユリと茂造を見ると、ふたりとも夢中で豚丼に向かっていた。

 その様子を見る限り、気に入ってくれた様である。

「豚丼と言うのかの? 旨いのう。これは米が進むのう」

「うむ。良いカピな」

 ふたりともそう言い、口を離さない。

 壱たちの世界での、ぼう北の大地で食べられる豚丼とは違う。あれは豚を醤油ベースの甘辛いたれで焼いてご飯に乗せたもので、玉ねぎは入っていない筈だ。

 しかし調味料が限られているこの場所で、少しでも美味しくしたいと思って飴色玉ねぎを加えてみた。それは成功した様だ。

 壱は安堵あんどして息を吐き、また丼に箸を入れた。
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