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#159 鰹の味噌煮定食の朝ご飯

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 夜が明け、朝日が昇る。今日も良い天気だ。

 壱は早速朝食作りの準備だ。

 まずは出汁を取る為に、鍋に水を張り、昆布を入れておく。

 厨房に降り、冷蔵庫からかつお背身せみと卵、棚から玉ねぎときゃべつ、生姜しょうがを出し、2階に戻る。

 まずは米を炊く。初めは強火に掛けて。

 次は鰹の準備だ。背身2さくを両方とも横にカットする。質量が半分ずつになる様に。

 尾の方の身2柵はまたトレイに乗せ、再び厨房へ。冷蔵庫で保存しておく。

 上に戻り、続きに取り掛かる。

 頭の方の背身2柵を、適当に角切りにしておく。

 次に生姜の皮をき、千切りに。

 きゃべつはざく切り、玉ねぎは薄切りにする。

 米の鍋が沸いたので、弱火に落とす。

 さて、出汁を取ろう。昆布を入れておいた鍋を火に掛ける。沸くまでの間に鰹節かつおぶしを削る。

 沸いたら火を止めて昆布を引き上げ、鰹を入れる。鰹が沈むまでの間に、出汁殻だしがらの昆布を千切りにする。

 鰹が沈んだので、出来た出汁は別の鍋に移し、それを火に掛け、玉ねぎを入れる。ここで塩と少量の赤味噌で調味もしておく。赤味噌は醤油代わりだ。

 出汁殻の鰹節が入ったままの鍋に昆布を戻し、水を加えて火に掛ける。沸いたら生姜と鰹を入れて、煮て行く。灰汁が出たら丁寧に取って。

 鰹に火が通ったら弱火にし、米味噌を溶いて、きゃべつも加え、時折返しながら煮込んで行く。

 米も炊き上がったので、解してふたをして蒸らして。

 洗い物を手早く済ませる。

 さて、そろそろサユリたちが起きて来る頃合いだろうか。時計を見ると、もう少し。

 鰹はことことと煮えている。もういつでも食べられる塩梅あんばいだろう。

「おはようのう」

「おはようカピ」

 サユリと茂造が起きて来た。サユリは鼻をひくつかせ、早速テーブルの上に。

「ではわしは支度をして来るでの」

 茂造が洗面所に向かい、壱は仕上げに入る。

 ボウルに卵を割り、解す。玉ねぎの鍋の火を強め、ぐらぐらと沸いたところに卵液らんえきをそっと入れて行く。すると卵はふわふわになる。

 固まったら火を止める。

 米と汁物をスープボウル、サユリの分はサラダボウルに、鰹の煮物はパスタ皿に盛り、テーブルへ。

 鰹の味噌煮定食の出来上がり。汁物は玉ねぎと卵の吸い物である。

 いつもは佃煮にする出汁殻を、そのまま鰹の味噌煮の出汁に使ってみた。濃く良い出汁が出ていると思う。

 さて、支度を終えた茂造が戻って来る。

「待たせたのう。ではいただこうかのう」

 言いながら椅子に掛けると、早速はしを手にする。

「今朝も良い匂いじゃ。おや、魚の煮付けかの?」

「鰹の味噌煮。魚とも合うよね。さばの味噌煮とか、ばあちゃんも作ってくれたんじゃ無い?」

 言うと、茂造は祖母の味を思い出したのか、懐かしげに眼を細めた。

「おお、そう言えばそうじゃのう。これも美味しそうじゃのう。楽しみじゃのう。ではの、いただくとするかのう」

「いただくカピ」

「はい、いただきます」

 壱も箸を取り、まずは吸い物をすする。ほのかな赤味噌の風味。赤味噌は少量だが塩も加えているので、優しいながらもしっかりとした味が出ていて、美味しく出来ている。

 玉ねぎから出る甘みも、出汁に良い風味を加えている。

 卵もふわふわだ。

 壱は吸い物に満足すると、今度は白米を。これはいつ食べても美味しいものだ。今朝も艶々つやつやふっくらと炊き上がっている。

 さて、とうとうメインの鰹の味噌煮だ。

 一口で頬張ると、口の中でほろりとほどけた。出汁と味噌が鰹にじんわりと染み込んでいる。生姜が臭みを取り、良い具合の刺激にもなっていて、味はしっかりとしているのに、さっぱりといただけた。

 これは米に合う一品である。この世界には無いが、日本酒にも合いそうである。

 これはまた良いものが出来た。壱は満足げに眼を閉じた。

 他の魚との組み合わせも考えて行こう。西京さいきょう味噌では無いが、味噌漬けも良いかも知れない。

「懐かしい味がするのう。やはり鯖の味噌煮を思い出しておるんかのう?」

 茂造が首を傾げながら言うが、訊かれても困ってしまう。しかし。

「そうかも知れないね。魚自体の味は鯖と鰹全然違うけど、雰囲気と言うか、そういうのは似ているかもね。だったらじいちゃんの口には合ってるのかな」

「勿論じゃ。旨いのう。煮魚も食べられるなんてのう。しかもちゃんと和食でのう。作るのは難しいと聞いた事があったんじゃが、壱は凄いのう」

「レシピ調べたり出来るから、そんなに難しいものじゃ無いんだよ。味付けはここにある調味料でアレンジするけどさ。だからある意味博打かなー。サユリはどう?」

 壱がサユリに聞くと、サユリは皿から顔を上げた。

「……とりあえず魚まで食べた事で、味噌が万能なのでは無いかと思い始めているカピ」

 サユリの台詞に、壱は表情を輝かせた。

「だろう!? 味噌凄いよね! 特に合うものって勿論あるけど、基本何にでも合うと思うんだよ!」

「うむ、凄い熱量だカピな」

 サユリは壱にひるむ様子も無く、また鰹の味噌煮にかじり付いた。

 ああしかし、また新たな可能性を見出せた気がする。壱は嬉しくなって口角を上げた。
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