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#145 回鍋肉定食の朝ご飯

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 一夜明け、壱は朝食を作る為にキッチンに立つ。さて、今日は何を作ろうか。

 当然味付けに味噌は欠かせない。メインにも汁物にも味噌となると、壱はともかく、サユリや茂造にはくどいだろうか。

 いや、昨日は味噌味の親子丼に赤出汁だしだった。両方味噌だったが、ふたりとも旨いと言って食べてくれたでは無いか。親子丼の味付けは軽めだったが。

 壱は首を捻る。しばし考え、決める。

 今朝はメイン料理に味噌をしっかりと使い、汁物は澄ましにしよう。

 壱は鍋に水を張り、昆布を入れる。そして厨房に降りる。

 冷蔵庫から豚肉と卵と昨日の出汁殻、棚から玉ねぎときゃべつ、生姜しょうがとにんにくを取り出し、2階に戻る。

 まずは米を炊く。最初は強火に。

 さて次は野菜を切る。玉ねぎときゃべつはざく切り、生姜とにんにくは微塵みじん切りに。

 米の鍋が沸騰したので、弱火に落とす。

 昆布の鍋を火に掛ける。沸くまでの間にかつおを引き削りしておいて。

 沸いたら鰹節かつおぶしを入れ、火を止める。沈むまで待ち、出来た出汁を別の鍋に移し、弱火に掛けておく。

 出汁殻だしがらの昆布をカットし、鰹節が残ったままの鍋に戻し、昨日の出汁殻も足し、炒める。味噌と砂糖で味を付け、炒め煮の様にして行く。

 出来上がり。コンロから降ろしておく。

 出汁に玉ねぎを入れておく。やや火力を強め、煮て行く。

 さて、豚肉をカットしよう。一口大の薄切りに。塩で下味を付けておく。

 すみやかに包丁とまな板を洗って。

 米が炊き上がったので、解した後にまたふたをして蒸らす。

 合わせ調味料を作る。赤味噌と砂糖と水を混ぜ合わせておく。

 さて時計を見ると、そろそろサユリたちが起きて来る時間だろうか。

 壱はボウルに卵を割り、ほぐす。

 フライパンを火に掛け、オリーブオイルを引く。豚肉を入れ、しばしそのまま。

 その間に汁物を仕上げる。塩と、醤油しょうゆ代わりに少量の赤味噌で味を整えて、卵を入れる。ふんわりと固まったら、保温出来る程度のとろ火に掛けておく。

 その間に豚肉に火が通って来たので、木べらで解して返しながら全体を炒めて行く。

 そのタイミングで、サユリと茂造が起きて来た。

「おはようのう」

「おはようカピ」

「おはよう、ナイスなタイミングだよ。もう出来るよ」

「うんうん。ありがとうのう。では、わしは支度して来るからの」

 茂造が洗面所に向かうと、フライパンに生姜とにんにくを入れる。良い香りが立って来たらきゃべつを追加。全体に軽く塩をして、更に炒めて行く。

 きゃべつがしんなりして来たら、合わせ調味料を入れ、しっかりと混ぜ合わせながら炒める。

 香ばしい香りがして来た。回鍋肉ホイコーローの出来上がりだ。皿に盛り、テーブルに。

 昆布と鰹節の佃煮は小皿に、玉ねぎと卵の澄まし汁、白米はスープボウルに、サユリの分はサラダボウルに盛り、これらもテーブルへ。

 回鍋肉定食の出来上がりである。

 回鍋肉に佃煮にと、白米に合うものが被ってしまったが、頑張って貰おう。

 ちなみに壱は平気である。何故なぜなら両方大好きな味噌なのだから。

 茂造が戻って来る。笑顔のままテーブルに着いた。

「では、頂くとしようかの」

「どうぞ。いただきます」

「いただきます」

「いただくカピ」

 早速回鍋肉にはしを伸ばす。豚肉ときゃべつを重ねて口に運んだ。

 巧く出来た! 本来なら中華料理である回鍋肉は、甜麺醤テンメンジャンが味付けのメインになるのだが、にんにくと生姜のお陰か、赤味噌でも充分にそれらしく仕上がっていた。

「壱よ、これはあれじゃな、中華料理じゃの。家では食べる事は無かったんじゃが、外の中華の食堂に行った時に食べた事があるぞい。赤味噌でこんな事も出来るんじゃのう」

 茂造が関心した様に口を動かす。

「調味料はあるものにアレンジしてるから正確には違うものだけど、それらしく出来たと思うよ。良かった。口に合ったかな」

「勿論じゃ。旨いのう。和食だけで無く、中華料理まで食べられるなんてのう」

「もどき、だけどね」

 それでも茂造は嬉しそうに回鍋肉を、そして佃煮と白米を口に運んでいた。

「中華料理とは、これまでの和食と言うものとはまた違うのだカピか?」

 サユリが口の周りに赤味噌を付けながら訊いて来る。

「うん。和食は日本の料理って言って良いと思うんだけども、中華料理は、俺たちの世界の中国って国の中国料理を、日本人の口に入りやすい様にアレンジした料理って感じかな? 味も材料も価格帯も。この回鍋肉はどっちにもあると思うけど、これは中華にアレンジしたものだね。でも調味料が無いから、代わりに赤味噌を使ったんだ」

「成る程カピ。うむ、なかなか良い味付けカピ。今までの味噌とは違う味で、これも良いカピな」

 サユリは満足そうにほほを動かしていた。

「良かったよ、気に入ってくれて」

 壱は安堵して笑みを浮かべた。

 そしてまた、回鍋肉を口に入れる。うん、我ながら旨い。壱は眼を細めた。
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