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#127 スープパスタで朝ご飯。その1

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 さて、一夜明けて朝になる。壱はまた起きて、朝ご飯を作る為にキッチンに立つ。

 今日はこの世界の客人もいるので、味噌と米のメニューは封印である。口に合うかどうかが判らないからだ。

 壱は厨房に降り、冷蔵庫を開ける。

 卵、鶏肉を取り出し、棚からは玉ねぎ、人参、きゃべつ、小麦粉を。

 上に戻り食材を下ろすと、今度は鍋を持って再び厨房へ。ブイヨンを頂く。

 まずはボウルに小麦粉と塩少々を入れ、真ん中に開けた穴に卵とオリーブオイルを加え、ねて行く。

 そうして出来た生地を寝かせている間に、人参を半月切りに。それをブイヨンの鍋に入れて火に掛ける。

 続けて玉ねぎときゃべつをざく切りに。沸いたブイヨンに加えて煮て行く。

 鶏肉は1口大にカットして、これも鍋に入れて行き、灰汁あくが出たら丁寧ていねいに取る。

 出来ればどの材料もしっかりと柔らかくしておきたい。何せ客人は病人とも言える身だ。少しでも消化の良い、身体に優しいものが良いと思う。

 起きて来てくれれば、の話なのだが。

 さて、野菜が柔らかくなった。壱はレードルで野菜だけを器用にすくうと、り鉢に入れる。擂り鉢は昨夜の内に洗っておいた。

 正直、ここで擂り鉢を使う必要は無いのだ。だが使ってみたかった。好奇心とも言えるかも知れない。

 本来作りたかったメニューだと、確かに使う事が良かったのだが、さて、今回はどうか。

 擂り粉木代わりの麺棒を使い、野菜を荒く砕いて行く。

 要は使い心地である。これは良い感じだ。とても滑らかに擂り粉木すりこぎが動く。野菜は順調に適度に細かくなっていた。

 しかし目的は野菜の粉砕では無い。

 適当な所で止めて、鍋に戻す。ああ、しかしこれで更に良い出汁だしが出るかも知れない。

 擂り鉢の出来は、壱が元の世界で使っていたものと、然程さほど変わらない様に感じた。

 この世界に無いものだから、シルルにお願いする時に出来る限りの細かい説明はした。シルルはそれをんでくれたと言う事だ。やはり職人は凄い。

 さて、寝かせておいた生地を加工する。ショートパスタにする予定だ。その前に湯を沸かしておこう。

 生地を綿棒で伸ばし、一口大の正方形に切って行く。こんな形のパスタは壱たちの世界でも見た事が無いが、壱にはマカロニなどにする技術は無い。

 腹に入ってしまえば何でも同じ! そう開き直る事にする。

 いて言えば、蝶々もしくはリボンの形であるファルファッレに似たものなら壱でも作れそうだが、何せひとつひとつの手作業では時間が掛かってしまうので、止めておこう。

 湯が沸いたので、火を弱火に落とす。パスタはサユリたちが起きて来てからでるつもりだ。でなければ伸びてしまうからだ。

 柔らかくとは言え、パスタなどは伸びてしまうと美味しく無くなってしまう。薄めに作ってあるし、茹でただけで充分だろう。

 洗い物をしていると、茂造が起きて来た。

「おはようのう。おや、この匂い。今日は米と味噌じゃ無いのじゃな」

 茂造が鼻をひくつかせる。

「おはよう。ノルドさんがいるからね。口に合うか判らないし」

「おお、確かにそうじゃの。米は大丈夫じゃと思うんじゃがのう」

「俺も思うし、病み上がりって言えるだろうから、雑炊とかの方が身体には優しそうだけど、念の為にね」

「そうじゃの。うむ、ではサユリさんを起こして、ノルドの様子を見て来るかのう。そうじゃ、着替えも用意してやらんと。わしの服で大丈夫かのう」

 茂造は言うと、まずは洗面所に向かった様だ。

 さて、壱は仕上げに入る。湯の鍋の火を強め、再び沸いたところにパスタを入れる。生パスタなので、ものの数分で茹で上がる。

 ザルに上げてしっかりと湯切りをし、ブイヨンの鍋に。

 スープパスタである。スプーンだけで食べられる様にと、パスタをショートタイプにしたのだ。

 念の為、パスタは1人分を別に分けておいた。ノルドの食事が後になる様なら、このパスタは冷蔵庫に入れておけば、少しはつ筈だ。

 最後に塩と胡椒こしょうで味を整えて。

 その頃にはサユリと茂造、そしてノルドが姿を現した。
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