80 / 190
#80 ペペロンチーノをじっくりと
しおりを挟む
さて、食堂に到着した。荷車は交通などの邪魔にならない様に裏庭に置く。
ナイルがいの一番に食堂のドアを開けた。
「こんにちはー!」
「いらっしゃーい!」
「いらっしゃあい」
「い、いらっしゃい、ませ」
ホール係の3人が明るい笑顔で迎えてくれた。最後に壱が顔を覗かせた時には、1番近くにいたマユリが小さく駆け寄って来てくれた。
「い、イチさん、お疲れ様です。あ、あの、あの、こ、このままお米農家さんに、な、なられるんですか?」
やや不安げな表情。確かにこの食堂は忙しい。壱も一応戦力に数えて貰っているのだ。壱は笑みを浮かべた。
「ううん。米農家になってくれた人にいろいろと伝えたりしてるだけだよ。今のところ、知ってるの俺だけだからね。落ち着いたらまたここに戻るからさ」
「そ、そうですか。よ、良かった」
マユリは安堵した様な表情を浮かべ、その後我に返った様に眼を軽く開いた。
「ご、ごめんなさい、お邪魔してしまって。ど、どうぞ!」
「ありがとう」
壱は既にテーブルに掛けているサユリやガイたちに合流する。
メニューを見る。普段はここの食堂にいるのだから、あまり多く無いメニューは勿論全て把握している。しかしこうして見る事もあまり無かったので、新鮮だった。
この食堂のメニューは、木版に書かれていた。インクで書かれているからか、あちらこちら滲んでいる。
そしてやはり、何が書かれているのかさっぱり判らない。壱はまだこの世界の文字を判読出来ないのだ。
そうしながら、壱は注文する品を決める。
「イチくん、サユリさん、決まりました?」
「はい」
「うむカピ」
ガイが良いタイミングで訊いてくれたので頷く。ガイが呼んだのは、1番近くにいたメリアンだった。
「あ、イチ! サユリさん! 今日はお客さんなんだね! 何にする? うちは何でも美味しいよ!」
相変わらず元気である。壱は笑いながら応えた。
「知ってるよ。ええと、まず皆さん注文してください」
「じゃーお言葉に甘えてー。僕はねー」
このランチタイムを心待ちにしていたナイルから注文して行く。壱は最後だった。
料理が来るまでの間、米や田んぼの話をしつつ待つ。
やはりみんな、新たな食物に関して興味津々だった。食べた事の無いもの。そもそもこの世界には無いものだ。惹かれるのも当然だろう。
数ヶ月後、無事に穂が成った時には是非みんなに食べて貰いたいと思っている。その時の反応が今から楽しみである。
さて、そうしているうちに料理に運ばれて来た。壱が頼んだものも、眼の前に置かれる。
ペペロンチーノとパンである。今日のペペロンチーノの具材は、ベーコンとカリフラワだった。メリアンに内容を確認せずに頼んでいた。彩りにパセリの微塵切りが振られている。
壱はみんなが注文した品が揃うのを待って、と言ってもすぐなのだが、そのタイミングでフォークをペペロンチーノに入れた。
器用に巻いて、口に運ぶ。うん、これはやはり素晴らしく安定した味。
この村で製造されている新鮮なオリーブオイルをベースに、輪切りのにんにくと唐辛子がアクセント。ベーコンの旨味も滲み出ていて甘い。臭いを気にしながらにんにくも口にするが、香ばしくて美味しい。全体の塩加減も絶妙だ。
カリフラワも旨味の詰まったオイルと絡まって美味しかった。淡白なカリフラワにコクが生まれている。
この村に来て10日足らず、これまでも食べた事があったが、いつも仕事の合間に気持ち慌てながら掻っ込んでいた様なものだ。
勿論味わってはいたつもりなのだが、時間を掛けて、とは行かなかった。なのでこうして落ち着いて頂く事が出来たのは幸運だったかも知れない。
「イチくん、この村に来て、確かもう10日ほどになるんじゃ無いですか? 慣れました?」
ガイが話を振ってくれる。
「そうですね、確かそんなもんかと。皆さんのお陰で大分慣れました。この村の人々は良い人ばかりですね」
「たまーにトラブルはあるっすけどね。異性問題とか」
ああ、そうだった。ジェンの言葉に、壱は来て間も無く起こったシェムスとボニーの修羅場を思い出す。そう言えば結婚したいと言っていたカルとミルはどうしたのだろうか。
「でも大概大事にならずに片付いているみたいだよねー 店長さんとサユリさんが上手く仲裁とかしているのかなー 僕はその現場に居合わせた事無いけどー」
ナイルの台詞に、壱はサユリたちがボニーの好きにさせていた事を思い出す。これは黙って置くべきなのだろうか。つい遠い眼をしてしまう。
リオンは相槌を打ちながら、黙々とバジルソースのパスタを口に運んでいた。今日の具材は鶏肉とじゃがいもだった。
サユリも話は聞いているのだろうが、しれっとした表情でミネストローネを啜っていた。
さて、そろそろ食べ終える。昼からは煉瓦積みだ。また壱がした事の無い作業で、誰かに教えて貰わなければならないが、頑張るとしよう。
ナイルがいの一番に食堂のドアを開けた。
「こんにちはー!」
「いらっしゃーい!」
「いらっしゃあい」
「い、いらっしゃい、ませ」
ホール係の3人が明るい笑顔で迎えてくれた。最後に壱が顔を覗かせた時には、1番近くにいたマユリが小さく駆け寄って来てくれた。
「い、イチさん、お疲れ様です。あ、あの、あの、こ、このままお米農家さんに、な、なられるんですか?」
やや不安げな表情。確かにこの食堂は忙しい。壱も一応戦力に数えて貰っているのだ。壱は笑みを浮かべた。
「ううん。米農家になってくれた人にいろいろと伝えたりしてるだけだよ。今のところ、知ってるの俺だけだからね。落ち着いたらまたここに戻るからさ」
「そ、そうですか。よ、良かった」
マユリは安堵した様な表情を浮かべ、その後我に返った様に眼を軽く開いた。
「ご、ごめんなさい、お邪魔してしまって。ど、どうぞ!」
「ありがとう」
壱は既にテーブルに掛けているサユリやガイたちに合流する。
メニューを見る。普段はここの食堂にいるのだから、あまり多く無いメニューは勿論全て把握している。しかしこうして見る事もあまり無かったので、新鮮だった。
この食堂のメニューは、木版に書かれていた。インクで書かれているからか、あちらこちら滲んでいる。
そしてやはり、何が書かれているのかさっぱり判らない。壱はまだこの世界の文字を判読出来ないのだ。
そうしながら、壱は注文する品を決める。
「イチくん、サユリさん、決まりました?」
「はい」
「うむカピ」
ガイが良いタイミングで訊いてくれたので頷く。ガイが呼んだのは、1番近くにいたメリアンだった。
「あ、イチ! サユリさん! 今日はお客さんなんだね! 何にする? うちは何でも美味しいよ!」
相変わらず元気である。壱は笑いながら応えた。
「知ってるよ。ええと、まず皆さん注文してください」
「じゃーお言葉に甘えてー。僕はねー」
このランチタイムを心待ちにしていたナイルから注文して行く。壱は最後だった。
料理が来るまでの間、米や田んぼの話をしつつ待つ。
やはりみんな、新たな食物に関して興味津々だった。食べた事の無いもの。そもそもこの世界には無いものだ。惹かれるのも当然だろう。
数ヶ月後、無事に穂が成った時には是非みんなに食べて貰いたいと思っている。その時の反応が今から楽しみである。
さて、そうしているうちに料理に運ばれて来た。壱が頼んだものも、眼の前に置かれる。
ペペロンチーノとパンである。今日のペペロンチーノの具材は、ベーコンとカリフラワだった。メリアンに内容を確認せずに頼んでいた。彩りにパセリの微塵切りが振られている。
壱はみんなが注文した品が揃うのを待って、と言ってもすぐなのだが、そのタイミングでフォークをペペロンチーノに入れた。
器用に巻いて、口に運ぶ。うん、これはやはり素晴らしく安定した味。
この村で製造されている新鮮なオリーブオイルをベースに、輪切りのにんにくと唐辛子がアクセント。ベーコンの旨味も滲み出ていて甘い。臭いを気にしながらにんにくも口にするが、香ばしくて美味しい。全体の塩加減も絶妙だ。
カリフラワも旨味の詰まったオイルと絡まって美味しかった。淡白なカリフラワにコクが生まれている。
この村に来て10日足らず、これまでも食べた事があったが、いつも仕事の合間に気持ち慌てながら掻っ込んでいた様なものだ。
勿論味わってはいたつもりなのだが、時間を掛けて、とは行かなかった。なのでこうして落ち着いて頂く事が出来たのは幸運だったかも知れない。
「イチくん、この村に来て、確かもう10日ほどになるんじゃ無いですか? 慣れました?」
ガイが話を振ってくれる。
「そうですね、確かそんなもんかと。皆さんのお陰で大分慣れました。この村の人々は良い人ばかりですね」
「たまーにトラブルはあるっすけどね。異性問題とか」
ああ、そうだった。ジェンの言葉に、壱は来て間も無く起こったシェムスとボニーの修羅場を思い出す。そう言えば結婚したいと言っていたカルとミルはどうしたのだろうか。
「でも大概大事にならずに片付いているみたいだよねー 店長さんとサユリさんが上手く仲裁とかしているのかなー 僕はその現場に居合わせた事無いけどー」
ナイルの台詞に、壱はサユリたちがボニーの好きにさせていた事を思い出す。これは黙って置くべきなのだろうか。つい遠い眼をしてしまう。
リオンは相槌を打ちながら、黙々とバジルソースのパスタを口に運んでいた。今日の具材は鶏肉とじゃがいもだった。
サユリも話は聞いているのだろうが、しれっとした表情でミネストローネを啜っていた。
さて、そろそろ食べ終える。昼からは煉瓦積みだ。また壱がした事の無い作業で、誰かに教えて貰わなければならないが、頑張るとしよう。
10
お気に入りに追加
499
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話
yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。
知らない生物、知らない植物、知らない言語。
何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。
臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。
いや、変わらなければならない。
ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。
彼女は後にこう呼ばれることになる。
「ドラゴンの魔女」と。
※この物語はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係ありません。
異世界チートはお手の物
スライド
ファンタジー
16歳の少年秋月悠斗は、ある日突然トラックにひかれてその人生を終えてしまう。しかし、エレナと名乗る女神にチート能力を与えられ、異世界『レイアード』へと転移するのだった。※この作品は「小説家になろう」でも投稿しています。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。
魔物をお手入れしたら懐かれました -もふプニ大好き異世界スローライフ-
うっちー(羽智 遊紀)
ファンタジー
3巻で完結となっております!
息子から「お父さん。散髪する主人公を書いて」との提案(無茶ぶり)から始まった本作品が書籍化されて嬉しい限りです!
あらすじ:
宝生和也(ほうしょうかずや)はペットショップに居た犬を助けて死んでしまう。そして、創造神であるエイネに特殊能力を与えられ、異世界へと旅立った。
彼に与えられたのは生き物に合わせて性能を変える「万能グルーミング」だった。
異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。
異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆
八神 凪
ファンタジー
日野 玖虎(ひの ひさとら)は長距離トラック運転手で生計を立てる26歳。
そんな彼の学生時代は荒れており、父の居ない家庭でテンプレのように母親に苦労ばかりかけていたことがあった。
しかし母親が心労と働きづめで倒れてからは真面目になり、高校に通いながらバイトをして家計を助けると誓う。
高校を卒業後は母に償いをするため、自分に出来ることと言えば族時代にならした運転くらいだと長距離トラック運転手として仕事に励む。
確実かつ時間通りに荷物を届け、ミスをしない奇跡の配達員として異名を馳せるようになり、かつての荒れていた玖虎はもうどこにも居なかった。
だがある日、彼が夜の町を走っていると若者が飛び出してきたのだ。
まずいと思いブレーキを踏むが間に合わず、トラックは若者を跳ね飛ばす。
――はずだったが、気づけば見知らぬ森に囲まれた場所に、居た。
先ほどまで住宅街を走っていたはずなのにと困惑する中、備え付けのカーナビが光り出して画面にはとてつもない美人が映し出される。
そして女性は信じられないことを口にする。
ここはあなたの居た世界ではない、と――
かくして、異世界への扉を叩く羽目になった玖虎は気を取り直して異世界で生きていくことを決意。
そして今日も彼はトラックのアクセルを踏むのだった。
好き勝手スローライフしていただけなのに伝説の英雄になってしまった件~異世界転移させられた先は世界最凶の魔境だった~
狐火いりす@商業作家
ファンタジー
事故でショボ死した主人公──星宮なぎさは神によって異世界に転移させられる。
そこは、Sランク以上の魔物が当たり前のように闊歩する世界最凶の魔境だった。
「せっかく手に入れた第二の人生、楽しみつくさねぇともったいねぇだろ!」
神様の力によって【創造】スキルと最強フィジカルを手に入れたなぎさは、自由気ままなスローライフを始める。
露天風呂付きの家を建てたり、倒した魔物でおいしい料理を作ったり、美人な悪霊を仲間にしたり、ペットを飼ってみたり。
やりたいことをやって好き勝手に生きていく。
なぜか人類未踏破ダンジョンを攻略しちゃったり、ペットが神獣と幻獣だったり、邪竜から目をつけられたりするけど、細かいことは気にしない。
人類最強の主人公がただひたすら好き放題生きていたら伝説になってしまった、そんなほのぼのギャグコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる