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2章 新しいお家といちょう食堂
第3話 お煮しめの違い
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2日になり、お昼ご飯の支度を始める。まだお正月料理が残っているのでそれと、お祖母ちゃんが豚汁を作ってくれる。
白味噌もまだあるが、昨日の朝晩と食べたので少し飽きが来ていた。濃厚な白味噌のお雑煮は美味しいのだが、そう連続して食べられるものでは無い。
ちなみに豚汁に使っている野菜は、お雑煮と同じものだ。金時人参と祝大根と里芋。それにお揚げさんとごぼうとこんにゃくを追加した。
リリコが冷蔵庫からおせちとお煮しめのお重、食器棚から取り皿やお箸を出してダイニングテーブルに並べる。
数日ぶりの白米も炊いた。ほかほかに炊き上がったそれをお茶碗によそってテーブルに置くと、お祖母ちゃんが豚汁のお椀を持って来てくれた。
「いただきまーす」
「はい、いただきます」
まだ3が日だが、こうして白米と豚汁を前にすると、日常が戻って来たなぁと言う感じがする。
ずずっと豚汁とすすると、豚肉や野菜から旨味が溶け出したふくよかな味わいが広がる。具沢山で食べ応えも充分だ。これと白米だけでも充分な気がしてしまう。
そう思いつつもおせちに手を伸ばす。リリコも手伝った栗きんとんはすっきりとした甘さ。栗の甘露煮は買って来たものだが、さつまいもの餡はお祖母ちゃんのレシピで作った。
お砂糖控えめで、お塩を少々加えることでさつまいもの甘さを際立たせてある。さつまいもは定番の紅あずまである。秋に収穫され冬まで貯蔵されるさつまいもは、糖分をたっぷりと蓄えるのだ。
そしてお煮しめ。お祖母ちゃんが毎年作ってくれ、お重の一段を使って詰める。だが今年は大将さんたちのお煮しめがあったので、ばらんで仕切りを作って半分ずつ詰めた。
お祖母ちゃんのお煮しめは少し甘めだ。ことことと煮込んだ根菜にしっかりと味が沁みて、ご飯も進んでしまう味。
食材の産地などに特にこだわりは無いが、お祖母ちゃんは少しお高くなってしまっても、国産のお肉やお野菜を使うことを心がけている。お正月支度のころには国産の水煮などもたくさん出て来るので、筍などはそれを使い、蓮根などは生を使う。
大将さんたちのお煮しめは、お出汁をふんだんに効かせた優しい味わいだ。
大阪もんの吹田くわい、高山ごぼう、金時人参、えびいも、門真れんこん、大阪たけのこの水煮、大阪ふきの水煮、高槻干し椎茸と具沢山。大将さんたちが使ったお野菜のおしながきを入れてくれていた。
同じ料理でも作る人よってこんなにも違うものなのかと、リリコはあらためて驚いたものだった。
お祖母ちゃんのはリリコが食べやすい味付け。大将さんと若大将さんのはいちょう食堂でも出せる味付け。リリコは両方とも美味しくもりもりと食べた。
「豚汁は置いておいても大丈夫やけど、おせちはそろそろ食べ切ってもらえたら助かるわぁ」
「うん」
昨日の朝と、晩にも食べたので、だいぶ隙間が見えて来ている。お祖母ちゃんとふたりで多分食べ切れるだろう。
今日はお昼から、あちらのお祖父ちゃんとお祖母ちゃんの家に行く。叔父ちゃん家族にはまだ学生のお子さん、リリコにとっては従姉妹の優恵ちゃんと香純ちゃんがいるので、お年玉の準備をしなければ。新札もぽち袋も年末に用意してあった。
優恵ちゃんと香純ちゃんの成長度合いに合わせて金額を変えて来たが、リリコが就職してからはさらに増やしてみた。そしたらふたりともとても喜んで大騒ぎになった。
優恵ちゃんが高校生、香純ちゃんが中学生。いつもお洋服や化粧品を買ったりと、お洒落のために使っているのだそうだ。
お昼ご飯の片付けが終わったころにインターフォンが鳴った。中のドアだ。リリコは通話ボタンを押す。
「はい」
「こんにちは、関目です」
「はい。お待ちくださいね」
一旦通話を切ると、リリコはお祖母ちゃんに声を掛ける。
「お祖母ちゃん、大将さんが来てくれはったわ」
「はいはい。じゃあお煮しめのタッパーお返ししましょうかねぇ」
リリコが洗って綺麗にして、食器棚の空いたところに置いておいたタッパーを取り出し、お祖母ちゃんに続いて玄関に向かう。ドアを明けると大将さんと、後ろに若大将さんがいた。
「あけましておめでとうございます。今年もどうぞよろしゅうお願いします」
「お願いします」
大将さんと若大将さんは深々と挨拶をしてくれる。
「まぁまぁ、ご丁寧にありがとうねぇ。あけましておめでとう。こちらこそどうぞよろしゅうねぇ」
「よろしくお願いします!」
お祖母ちゃんもゆるりと頭を下げ、リリコも深く腰を折った。
「これ、タッパーお返ししますわ。いやぁ、ほんまに美味しかったですわ」
「まぁ、嬉しいわぁ。お口に合うたんやったら良かったわぁ」
「実家に持って行ったら子どもらに特に人気で。わしらのお煮しめは味薄いけど、これやったら美味しゅう食える言うて。少し甘めにしてあるんですね」
「そうなんよ。小さかったリリちゃんが食べてくれる様に少し甘めにしとったら、それが定番になったんよ。でも大将さんたちのお煮しめもほんまに美味しかったわぁ。お出汁がしっかり効いて。でも確かに小さな子たちには物足りんかも知れんねぇ。大人の味やねんねぇ、きっと」
「そうかも知れんですね」
「これ、お預かりしとったタッパーねぇ。ありがとうねぇ」
リリコが渡したタッパーをお祖母ちゃんが差し出すと、大将さんは「ありがとうございます」と受け取った。
「私らこれからあちらの、リリちゃんのお父さんのご実家に行くんよ。今日はお泊まりさしてもろうて明日のお昼に帰って来るんやけどねぇ、大将さん若大将さん、明日のご予定はどうやろか」
「わしも悠太も明日までゆっくりですわ。明後日から店の再開に向けて動こうか思ってます」
「せやったらねぇ、良かったら、明日お昼から住吉っさんに初詣に行って、夜はうちでお鍋で新年会せえへん? どうやろか」
「え、そりゃあ嬉しいですけど、ええんですか?」
若大将さんも目をぱちくりさせる。
「もちろんやよ。住吉っさんも明日には人出もましになっとるやろうし、本宮もやけど、商売繁昌・家内安全コースを巡りたいなぁて思って」
「そらええですね。ぜひご一緒させてもらいますわ」
「はい。せやなぁ、初詣なんて毎年ちょろっと近くの神さんに行くぐらいやもんなぁ」
「なぁ。そんで後はえべっさんやなぁ」
リリコはいちょう食堂のテーブル席に、今宮戎神社の福笹が掛けられていたことを思い出す。やはり毎年福を賜りに行くのだろう。
「時間どうしましょ。ええ時間に迎えに来ますよ。車借りときましょか?」
「駐車場いっぱいになるやろうからタクシーで行こうかねぇ。この人数やったらその方が早いし安いでしょ。時間は2時ごろでどうやろか。お昼は食べておいでね」
「そうですね。ほな2時に迎えに来ますわ」
「よろしくねぇ」
「ほな、また明日。よろしゅう頼んます」
「こちらこそよろしゅうね」
そうして大将さんと若大将さんは階段を降りて行った。
白味噌もまだあるが、昨日の朝晩と食べたので少し飽きが来ていた。濃厚な白味噌のお雑煮は美味しいのだが、そう連続して食べられるものでは無い。
ちなみに豚汁に使っている野菜は、お雑煮と同じものだ。金時人参と祝大根と里芋。それにお揚げさんとごぼうとこんにゃくを追加した。
リリコが冷蔵庫からおせちとお煮しめのお重、食器棚から取り皿やお箸を出してダイニングテーブルに並べる。
数日ぶりの白米も炊いた。ほかほかに炊き上がったそれをお茶碗によそってテーブルに置くと、お祖母ちゃんが豚汁のお椀を持って来てくれた。
「いただきまーす」
「はい、いただきます」
まだ3が日だが、こうして白米と豚汁を前にすると、日常が戻って来たなぁと言う感じがする。
ずずっと豚汁とすすると、豚肉や野菜から旨味が溶け出したふくよかな味わいが広がる。具沢山で食べ応えも充分だ。これと白米だけでも充分な気がしてしまう。
そう思いつつもおせちに手を伸ばす。リリコも手伝った栗きんとんはすっきりとした甘さ。栗の甘露煮は買って来たものだが、さつまいもの餡はお祖母ちゃんのレシピで作った。
お砂糖控えめで、お塩を少々加えることでさつまいもの甘さを際立たせてある。さつまいもは定番の紅あずまである。秋に収穫され冬まで貯蔵されるさつまいもは、糖分をたっぷりと蓄えるのだ。
そしてお煮しめ。お祖母ちゃんが毎年作ってくれ、お重の一段を使って詰める。だが今年は大将さんたちのお煮しめがあったので、ばらんで仕切りを作って半分ずつ詰めた。
お祖母ちゃんのお煮しめは少し甘めだ。ことことと煮込んだ根菜にしっかりと味が沁みて、ご飯も進んでしまう味。
食材の産地などに特にこだわりは無いが、お祖母ちゃんは少しお高くなってしまっても、国産のお肉やお野菜を使うことを心がけている。お正月支度のころには国産の水煮などもたくさん出て来るので、筍などはそれを使い、蓮根などは生を使う。
大将さんたちのお煮しめは、お出汁をふんだんに効かせた優しい味わいだ。
大阪もんの吹田くわい、高山ごぼう、金時人参、えびいも、門真れんこん、大阪たけのこの水煮、大阪ふきの水煮、高槻干し椎茸と具沢山。大将さんたちが使ったお野菜のおしながきを入れてくれていた。
同じ料理でも作る人よってこんなにも違うものなのかと、リリコはあらためて驚いたものだった。
お祖母ちゃんのはリリコが食べやすい味付け。大将さんと若大将さんのはいちょう食堂でも出せる味付け。リリコは両方とも美味しくもりもりと食べた。
「豚汁は置いておいても大丈夫やけど、おせちはそろそろ食べ切ってもらえたら助かるわぁ」
「うん」
昨日の朝と、晩にも食べたので、だいぶ隙間が見えて来ている。お祖母ちゃんとふたりで多分食べ切れるだろう。
今日はお昼から、あちらのお祖父ちゃんとお祖母ちゃんの家に行く。叔父ちゃん家族にはまだ学生のお子さん、リリコにとっては従姉妹の優恵ちゃんと香純ちゃんがいるので、お年玉の準備をしなければ。新札もぽち袋も年末に用意してあった。
優恵ちゃんと香純ちゃんの成長度合いに合わせて金額を変えて来たが、リリコが就職してからはさらに増やしてみた。そしたらふたりともとても喜んで大騒ぎになった。
優恵ちゃんが高校生、香純ちゃんが中学生。いつもお洋服や化粧品を買ったりと、お洒落のために使っているのだそうだ。
お昼ご飯の片付けが終わったころにインターフォンが鳴った。中のドアだ。リリコは通話ボタンを押す。
「はい」
「こんにちは、関目です」
「はい。お待ちくださいね」
一旦通話を切ると、リリコはお祖母ちゃんに声を掛ける。
「お祖母ちゃん、大将さんが来てくれはったわ」
「はいはい。じゃあお煮しめのタッパーお返ししましょうかねぇ」
リリコが洗って綺麗にして、食器棚の空いたところに置いておいたタッパーを取り出し、お祖母ちゃんに続いて玄関に向かう。ドアを明けると大将さんと、後ろに若大将さんがいた。
「あけましておめでとうございます。今年もどうぞよろしゅうお願いします」
「お願いします」
大将さんと若大将さんは深々と挨拶をしてくれる。
「まぁまぁ、ご丁寧にありがとうねぇ。あけましておめでとう。こちらこそどうぞよろしゅうねぇ」
「よろしくお願いします!」
お祖母ちゃんもゆるりと頭を下げ、リリコも深く腰を折った。
「これ、タッパーお返ししますわ。いやぁ、ほんまに美味しかったですわ」
「まぁ、嬉しいわぁ。お口に合うたんやったら良かったわぁ」
「実家に持って行ったら子どもらに特に人気で。わしらのお煮しめは味薄いけど、これやったら美味しゅう食える言うて。少し甘めにしてあるんですね」
「そうなんよ。小さかったリリちゃんが食べてくれる様に少し甘めにしとったら、それが定番になったんよ。でも大将さんたちのお煮しめもほんまに美味しかったわぁ。お出汁がしっかり効いて。でも確かに小さな子たちには物足りんかも知れんねぇ。大人の味やねんねぇ、きっと」
「そうかも知れんですね」
「これ、お預かりしとったタッパーねぇ。ありがとうねぇ」
リリコが渡したタッパーをお祖母ちゃんが差し出すと、大将さんは「ありがとうございます」と受け取った。
「私らこれからあちらの、リリちゃんのお父さんのご実家に行くんよ。今日はお泊まりさしてもろうて明日のお昼に帰って来るんやけどねぇ、大将さん若大将さん、明日のご予定はどうやろか」
「わしも悠太も明日までゆっくりですわ。明後日から店の再開に向けて動こうか思ってます」
「せやったらねぇ、良かったら、明日お昼から住吉っさんに初詣に行って、夜はうちでお鍋で新年会せえへん? どうやろか」
「え、そりゃあ嬉しいですけど、ええんですか?」
若大将さんも目をぱちくりさせる。
「もちろんやよ。住吉っさんも明日には人出もましになっとるやろうし、本宮もやけど、商売繁昌・家内安全コースを巡りたいなぁて思って」
「そらええですね。ぜひご一緒させてもらいますわ」
「はい。せやなぁ、初詣なんて毎年ちょろっと近くの神さんに行くぐらいやもんなぁ」
「なぁ。そんで後はえべっさんやなぁ」
リリコはいちょう食堂のテーブル席に、今宮戎神社の福笹が掛けられていたことを思い出す。やはり毎年福を賜りに行くのだろう。
「時間どうしましょ。ええ時間に迎えに来ますよ。車借りときましょか?」
「駐車場いっぱいになるやろうからタクシーで行こうかねぇ。この人数やったらその方が早いし安いでしょ。時間は2時ごろでどうやろか。お昼は食べておいでね」
「そうですね。ほな2時に迎えに来ますわ」
「よろしくねぇ」
「ほな、また明日。よろしゅう頼んます」
「こちらこそよろしゅうね」
そうして大将さんと若大将さんは階段を降りて行った。
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