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美月のあ参上!
明日に向かって飛べ!
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「なんか、下が騒がしいね」
のんのが下を覗き込むようにして言うと、かれんもいっしょになって足元に目を落とした。
「やだ、みんなこっち見てるじゃん」
と言いながら、かれんが下をのぞき込む。そのとき、「のあちゃーん」という野太い男たちの声がビルの下から聞こえた。
「のあって言った? だれ?」
「あ、あたしの親衛隊かな」
「親衛隊? あんたファンクラブまであるの?」
「ま、まあ」
少し照れるようにのんのがいう。
「のあって?」
「あたし、『美月のあ』って名前で活動してるから」
「マジか。あんたホントに警察官なの?」
「違うの。美月のあが警察官になっただけなんですっ!」
⌘
「おい、山根」
上へ行ってるのんのからなかなか連絡がこない倉橋課長のイライラは頂点に達しようとしているらしい。
「はい、なんでしょう」
「なんで日暮から何も連絡がないんだ?」
ついに呼び捨てである。
——だから、俺だってさっきから課長といるんだから上のことは知らないって。
山根巡査部長は心の中でそう叫んでも、顔に出せないのが部下の宿命だ。
「おい、山根。無線でそっと連絡してみろ」
「いや、要救を刺激しても……」
要救とは、要救助者、この場合はビルの屋上にいるかのんのことである。だが署長に逆らえないのは倉橋課長も同じであり、
「うるさい! 署長が怒ってるんだ。 飛ばされたいのか!」
と、ついに本音を漏らした。宮仕えのつらさとはこのことである。山根は渋々無線を入れるのであった。
——日暮警部補、山根です。聞こえたらさりげなく手を振ってください。
のんのが耳に装着しているイヤホンに、山根巡査部長の声が突然入った。
「キヤッ!」
のんのは急に耳に音が飛び込んできたので、思わず声をあげてしまった。
「どしたの?」
かれんがいぶかしげに聞くので、のんのは「これ」と言いながら無線を見せた。
「うるさいからイヤホン外しちゃう」
そう言ってのんのは無線機からイヤホンを引っこ抜いた。
「なんか言ってるの?」
「うん、なんか手を振れって」
そう言いながら、とりあえずのんのが屋上から下に向かって手を振った。
ビルの屋上ののんのが上から手を振るのが見えた山根巡査部長は倉橋課長に、
「課長、日暮警部補から反応がありました」
と報告すると、
「よし、そっと伝えろ。屋上の出入り口に署員が待機してる。なんとかそこまで連れて行くように。くれぐれもバレないようにだ。いいな」
と倉橋課長の指示がある。山根は指示通りに小声でのんのに再び連絡を入れた。
——警部補、課長からの指示です。要救に気づかれないように、なんとか言い含めて出入り口まで要救を連れて行ってください。ドアの裏に課員が待機してるので、一気に確保します。
イヤホンを引き抜いた無線機のスピーカーから課長の伝言が流れてくる。もちろん、のんのだけでなくかれんも聞いてしまっていることは、課長も山根巡査部長も知らないのだ。
「えーっ、あそこのドアから出たらあたし捕まるの?」
かれんが屋上出入り口を見ながら不満そうに言う。
「でも、あそこしか出入り口はないよね?」
のんのがそう言うと、かれんは下を見ながらしばらく何か考えていた。
しばらくして、
「実はさあ、あたしちょっとヤバい情報を聞いちゃってさ。たぶん追われてると思うの」
とかれんが口を開いた。
「追われてる? 誰に?」
「あたしが働いてたお店のオーナーと繋がりのある組織の連中」
「危ない人たち?」
「うん。捕まったらマジヤバいかも」
「じゃあ、やっぱりうちで保護するから、あの出入り口から出ようか」
のんのが出入り口に誘おうとする。
「でもさ、絶対あそこから出るって組織の連中もわかってる。だったら警察がいても危ないと思うんだよね」
かれんは不安を口にした。
確かにそれも一理あるとのんのも思う。だが、言わば退路が絶たれた状態で、あの出入り口から下に降りる以外に道はなさそうだ。
——警部補、了解したら、もう一度手を振ってください。
再びかれんにも聞かれているとは知らない山根巡査部長から間抜けな無線が入り、のんのはビルの下をのぞき込んで閃いた。
「かれんちゃん、いいこと思いついた」
「えっ、何」
「中途半端に隠れて出ようとするから危ないんだよね。それなら、大勢が見てるとこへ降りれば、その組織だってなかなか手を出せないよ」
「でも、どうやって……」
「ほら、あそこ」
不安そうなかれんに、にやりと笑いながらのんのが視線を向けた。
「マジか……。でも、うん、そうか。いい方法かも」
「じゃあ、私の方法にのる?」
「女は度胸よ。のった!」
そう言いながら、かれんとのんのが立ち上がった。そして、
「山根巡査部長! 今から行きまーす」
と無線を入れた。
「課長、降りるそうです」
すぐに山根巡査部長から課長に報告がいくと、
「よし、出口を固めて出てきたら日暮を隠すぞ。準備だ」
倉橋課長自らビルの入り口へ走り出そうとしたその瞬間、山根巡査部長が、「課長!」
と叫びながら、屋上を指さした。
「じゃあ行くよ。せーの」
ふたりは手をつなぎ、屋上の縁に立ったかと思うと、なんとそのままビルの屋上から思いっきりジャンプした。
そして「ギャー」というビルの下に集まった群衆の叫び声の中、山根と倉橋は宇宙少女とピンクのドレスが宙に舞いながら落下してくるのを、ただ呆然とみていたのだった。
のんのが下を覗き込むようにして言うと、かれんもいっしょになって足元に目を落とした。
「やだ、みんなこっち見てるじゃん」
と言いながら、かれんが下をのぞき込む。そのとき、「のあちゃーん」という野太い男たちの声がビルの下から聞こえた。
「のあって言った? だれ?」
「あ、あたしの親衛隊かな」
「親衛隊? あんたファンクラブまであるの?」
「ま、まあ」
少し照れるようにのんのがいう。
「のあって?」
「あたし、『美月のあ』って名前で活動してるから」
「マジか。あんたホントに警察官なの?」
「違うの。美月のあが警察官になっただけなんですっ!」
⌘
「おい、山根」
上へ行ってるのんのからなかなか連絡がこない倉橋課長のイライラは頂点に達しようとしているらしい。
「はい、なんでしょう」
「なんで日暮から何も連絡がないんだ?」
ついに呼び捨てである。
——だから、俺だってさっきから課長といるんだから上のことは知らないって。
山根巡査部長は心の中でそう叫んでも、顔に出せないのが部下の宿命だ。
「おい、山根。無線でそっと連絡してみろ」
「いや、要救を刺激しても……」
要救とは、要救助者、この場合はビルの屋上にいるかのんのことである。だが署長に逆らえないのは倉橋課長も同じであり、
「うるさい! 署長が怒ってるんだ。 飛ばされたいのか!」
と、ついに本音を漏らした。宮仕えのつらさとはこのことである。山根は渋々無線を入れるのであった。
——日暮警部補、山根です。聞こえたらさりげなく手を振ってください。
のんのが耳に装着しているイヤホンに、山根巡査部長の声が突然入った。
「キヤッ!」
のんのは急に耳に音が飛び込んできたので、思わず声をあげてしまった。
「どしたの?」
かれんがいぶかしげに聞くので、のんのは「これ」と言いながら無線を見せた。
「うるさいからイヤホン外しちゃう」
そう言ってのんのは無線機からイヤホンを引っこ抜いた。
「なんか言ってるの?」
「うん、なんか手を振れって」
そう言いながら、とりあえずのんのが屋上から下に向かって手を振った。
ビルの屋上ののんのが上から手を振るのが見えた山根巡査部長は倉橋課長に、
「課長、日暮警部補から反応がありました」
と報告すると、
「よし、そっと伝えろ。屋上の出入り口に署員が待機してる。なんとかそこまで連れて行くように。くれぐれもバレないようにだ。いいな」
と倉橋課長の指示がある。山根は指示通りに小声でのんのに再び連絡を入れた。
——警部補、課長からの指示です。要救に気づかれないように、なんとか言い含めて出入り口まで要救を連れて行ってください。ドアの裏に課員が待機してるので、一気に確保します。
イヤホンを引き抜いた無線機のスピーカーから課長の伝言が流れてくる。もちろん、のんのだけでなくかれんも聞いてしまっていることは、課長も山根巡査部長も知らないのだ。
「えーっ、あそこのドアから出たらあたし捕まるの?」
かれんが屋上出入り口を見ながら不満そうに言う。
「でも、あそこしか出入り口はないよね?」
のんのがそう言うと、かれんは下を見ながらしばらく何か考えていた。
しばらくして、
「実はさあ、あたしちょっとヤバい情報を聞いちゃってさ。たぶん追われてると思うの」
とかれんが口を開いた。
「追われてる? 誰に?」
「あたしが働いてたお店のオーナーと繋がりのある組織の連中」
「危ない人たち?」
「うん。捕まったらマジヤバいかも」
「じゃあ、やっぱりうちで保護するから、あの出入り口から出ようか」
のんのが出入り口に誘おうとする。
「でもさ、絶対あそこから出るって組織の連中もわかってる。だったら警察がいても危ないと思うんだよね」
かれんは不安を口にした。
確かにそれも一理あるとのんのも思う。だが、言わば退路が絶たれた状態で、あの出入り口から下に降りる以外に道はなさそうだ。
——警部補、了解したら、もう一度手を振ってください。
再びかれんにも聞かれているとは知らない山根巡査部長から間抜けな無線が入り、のんのはビルの下をのぞき込んで閃いた。
「かれんちゃん、いいこと思いついた」
「えっ、何」
「中途半端に隠れて出ようとするから危ないんだよね。それなら、大勢が見てるとこへ降りれば、その組織だってなかなか手を出せないよ」
「でも、どうやって……」
「ほら、あそこ」
不安そうなかれんに、にやりと笑いながらのんのが視線を向けた。
「マジか……。でも、うん、そうか。いい方法かも」
「じゃあ、私の方法にのる?」
「女は度胸よ。のった!」
そう言いながら、かれんとのんのが立ち上がった。そして、
「山根巡査部長! 今から行きまーす」
と無線を入れた。
「課長、降りるそうです」
すぐに山根巡査部長から課長に報告がいくと、
「よし、出口を固めて出てきたら日暮を隠すぞ。準備だ」
倉橋課長自らビルの入り口へ走り出そうとしたその瞬間、山根巡査部長が、「課長!」
と叫びながら、屋上を指さした。
「じゃあ行くよ。せーの」
ふたりは手をつなぎ、屋上の縁に立ったかと思うと、なんとそのままビルの屋上から思いっきりジャンプした。
そして「ギャー」というビルの下に集まった群衆の叫び声の中、山根と倉橋は宇宙少女とピンクのドレスが宙に舞いながら落下してくるのを、ただ呆然とみていたのだった。
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