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ショパンと青春と
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思いもかけず懐かしい故郷の話で盛り上がった夜だったが、お互いの高校時代の話になったとき、何かが圭司の頭の隅っこをよぎった。
——最近横浜の高校のことで何かを目にしたよな。なんだったっけ。
そんなことを思いながら、ビジネスマン——大道君——から注がれたビールを口にする。
「それにしてもさ、サーフィンに誘おうとサザンをガンガン流しながらセイカのお姉ちゃんをナンパしようとしたんだけど、もう相手にされなくて」
程よくアルコールが回ったのだろう、常連——野間君という——の彼が豪快に討ち死にした武勇伝を披露しながら笑わせてくれる。
「セイカじゃナンパは難しいでしょ。あそこはサザンじゃなくてショパンじゃないと」と大道君が合いの手を入れる。
あっ——そうか。聖華学園か。
確か領事館に行ったときに、聖華学園のパンフレットが置いてあったはずだ。
「まさかマスターもギター片手に聖華のお姉ちゃんを口説いたんじゃないですよね」と大道君が話を振った。
「はは——、まあ、そんなこともあったな」
「やっぱり」と二人が笑ってる。
「横浜の男子高校生あるある、ですよね。まあ、僕らは鎌倉の高校だったから海岸でカセット流しながらナンパでしたけどね。すっごく青春してたなあ」と野間君が遠い目をした。
——高校時代のナンパは失敗だったけど、大学で聖華出の紗英とは知り合ったんだよ。
圭司はその言葉は飲み込んで二人の馬鹿話を笑って聞いていた。久しぶりに楽しい夜だった。
⌘
——よし、行ってみるか。
昨日、故郷話に花が咲き思い出したのがきっかけで、久しぶりに領事館へ行ってみることにした。圭司が出かける支度をしていると、それを見た圭が不安そうな顔で圭司を見ていた。やはり一人になりたくないのだろう。ついて来いという素振りを見せると、とても嬉しそうに笑った。
領事館へは、圭の両親を探す手掛かりを見つけに行くのが本来の目的だったが、そのことは圭には黙っていた。妙な期待をさせるのも少し気が引ける。
すっかり顔馴染みとなった受付の日本人の中年女性と気さくに挨拶を交わす。圭は物珍しげに建物内をキョロキョロと見回した。そういえば領事館へは養子縁組の時に書類を出しにきて以来だった。
ルーティーンのように掲示板にあるいろいろな張り紙を順番に眺めてゆく。
——15年前の行方不明になった女の子を探しています。
そんなに都合のいい張り紙は、そう簡単にあるわけもないが、逆に明らかに日本人の「高橋圭」という名前までわかっている女の子を探している人がいないことにも強烈な違和感を禁じ得ない。
意図的に置き去りにされた——
そう考える以外に答えはあるのだろうか。
「ねえ、圭司」
圭が右の袖を引っ張った。
「どうした」
「あの子たち、なんでみんな同じ服を着てるの?」
圭から言われてその方向を見ると、どこかの高校と思われる制服を来た、おそらく日本人の女の子が数人いた。どこかで見たことがあるような気が——
「ああ、あれは多分、日本の高校生だと思うよ。日本の高校はほとんど制服なんだよ」と圭司がいう。それにしても、なんでアメリカに制服でいるのかはわからないが。
「わあ、すごくおしゃれ。スカートが短すぎるけど」
そう言いながら、圭が彼女たちをじっと見ていた。
気になったので圭司は受付に行き顔馴染みの受付嬢にあの制服の集団は何かと聞いてみた。
「あの子たちは短期ホームステイに来た子たちでね。ここに一旦集まって、それから全米のあちこちに振り分けるんだけど、同じぐらいの歳の子はたくさんここにもいるから、どの子がそうかわかんないでしょ。だから、ここへ集合する時だけ目印に学校の制服を着てもらってるの」受付嬢が優しく微笑む。
「ホームステイですか。僕らが高校生の頃なんて、そんなこと考えもしなかったですよ。ところで、どこかで見た制服のようなんだけど」
「ああ、あの子たちは横浜の聖華国際学園の子でね。国際的な活動ができる子女を育てる、があの学園の理念ということで。日本でもあの学校を出た方が多方面でご活躍されてるみたいです」
途中からほとんど言葉が頭に入ってこなかった。圭司は昨日、紗英のことを思い出したばかりなのに。——これは何かの偶然だろうか。
そういえば、確かパンフレットをここで見たはずだ。どこだ。そう思いながらあたりを見回し、ブックシェルフに刺さったパンフレットを見つけた。
圭と一緒に長椅子に座って学校案内と書かれたパンフレットを広げる。同じ内容だが日本語と英語のそれぞれのパンフレットがあり、圭司が日本語のパンフレットを取ると、圭は真似をして英語のパンフレットを手に取り、圭司と一緒に読み始めた。
そのパンフレットに掲載されたものと同じ制服を着た少女たちの集団が、引率の教師のような男性の後ろについて、圭司と圭の目の前を通り過ぎて行った。
——最近横浜の高校のことで何かを目にしたよな。なんだったっけ。
そんなことを思いながら、ビジネスマン——大道君——から注がれたビールを口にする。
「それにしてもさ、サーフィンに誘おうとサザンをガンガン流しながらセイカのお姉ちゃんをナンパしようとしたんだけど、もう相手にされなくて」
程よくアルコールが回ったのだろう、常連——野間君という——の彼が豪快に討ち死にした武勇伝を披露しながら笑わせてくれる。
「セイカじゃナンパは難しいでしょ。あそこはサザンじゃなくてショパンじゃないと」と大道君が合いの手を入れる。
あっ——そうか。聖華学園か。
確か領事館に行ったときに、聖華学園のパンフレットが置いてあったはずだ。
「まさかマスターもギター片手に聖華のお姉ちゃんを口説いたんじゃないですよね」と大道君が話を振った。
「はは——、まあ、そんなこともあったな」
「やっぱり」と二人が笑ってる。
「横浜の男子高校生あるある、ですよね。まあ、僕らは鎌倉の高校だったから海岸でカセット流しながらナンパでしたけどね。すっごく青春してたなあ」と野間君が遠い目をした。
——高校時代のナンパは失敗だったけど、大学で聖華出の紗英とは知り合ったんだよ。
圭司はその言葉は飲み込んで二人の馬鹿話を笑って聞いていた。久しぶりに楽しい夜だった。
⌘
——よし、行ってみるか。
昨日、故郷話に花が咲き思い出したのがきっかけで、久しぶりに領事館へ行ってみることにした。圭司が出かける支度をしていると、それを見た圭が不安そうな顔で圭司を見ていた。やはり一人になりたくないのだろう。ついて来いという素振りを見せると、とても嬉しそうに笑った。
領事館へは、圭の両親を探す手掛かりを見つけに行くのが本来の目的だったが、そのことは圭には黙っていた。妙な期待をさせるのも少し気が引ける。
すっかり顔馴染みとなった受付の日本人の中年女性と気さくに挨拶を交わす。圭は物珍しげに建物内をキョロキョロと見回した。そういえば領事館へは養子縁組の時に書類を出しにきて以来だった。
ルーティーンのように掲示板にあるいろいろな張り紙を順番に眺めてゆく。
——15年前の行方不明になった女の子を探しています。
そんなに都合のいい張り紙は、そう簡単にあるわけもないが、逆に明らかに日本人の「高橋圭」という名前までわかっている女の子を探している人がいないことにも強烈な違和感を禁じ得ない。
意図的に置き去りにされた——
そう考える以外に答えはあるのだろうか。
「ねえ、圭司」
圭が右の袖を引っ張った。
「どうした」
「あの子たち、なんでみんな同じ服を着てるの?」
圭から言われてその方向を見ると、どこかの高校と思われる制服を来た、おそらく日本人の女の子が数人いた。どこかで見たことがあるような気が——
「ああ、あれは多分、日本の高校生だと思うよ。日本の高校はほとんど制服なんだよ」と圭司がいう。それにしても、なんでアメリカに制服でいるのかはわからないが。
「わあ、すごくおしゃれ。スカートが短すぎるけど」
そう言いながら、圭が彼女たちをじっと見ていた。
気になったので圭司は受付に行き顔馴染みの受付嬢にあの制服の集団は何かと聞いてみた。
「あの子たちは短期ホームステイに来た子たちでね。ここに一旦集まって、それから全米のあちこちに振り分けるんだけど、同じぐらいの歳の子はたくさんここにもいるから、どの子がそうかわかんないでしょ。だから、ここへ集合する時だけ目印に学校の制服を着てもらってるの」受付嬢が優しく微笑む。
「ホームステイですか。僕らが高校生の頃なんて、そんなこと考えもしなかったですよ。ところで、どこかで見た制服のようなんだけど」
「ああ、あの子たちは横浜の聖華国際学園の子でね。国際的な活動ができる子女を育てる、があの学園の理念ということで。日本でもあの学校を出た方が多方面でご活躍されてるみたいです」
途中からほとんど言葉が頭に入ってこなかった。圭司は昨日、紗英のことを思い出したばかりなのに。——これは何かの偶然だろうか。
そういえば、確かパンフレットをここで見たはずだ。どこだ。そう思いながらあたりを見回し、ブックシェルフに刺さったパンフレットを見つけた。
圭と一緒に長椅子に座って学校案内と書かれたパンフレットを広げる。同じ内容だが日本語と英語のそれぞれのパンフレットがあり、圭司が日本語のパンフレットを取ると、圭は真似をして英語のパンフレットを手に取り、圭司と一緒に読み始めた。
そのパンフレットに掲載されたものと同じ制服を着た少女たちの集団が、引率の教師のような男性の後ろについて、圭司と圭の目の前を通り過ぎて行った。
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